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明け方
土のしっとりと濡れた匂いが香った。いつの間にか、肌に触れる空気の温度が下がっている。
私は二酸化炭素の濃い息を吐いて空を見上げた。
空の淵から仄かな灯りが溶けるように広がっていく。
カラオケボックスから出た私は始発に乗るのがもったいなくて、なんとなく西口をふらふら歩いた。
でも、池袋駅西口の景観は綺麗じゃない。
酔っ払いよりもでかいネズミの方がずっと怖いのは私だけだろうか。
念願の上京をして半年が経った。でも、思っていた日常とは違う。
週5フルタイムでやっても全然上達しないバイト。
遅れがちの1限。
何より一人暮らしになっても私の部屋は未だない。
帰っても自分の部屋らしい安心感や落ち着きはなく、ただただ冷蔵庫と換気扇以外の音がない空間だった。
彼に出会ったのは、そんな頃だった。