1. TS化
「……へ?」
まるで自分とは思えない華奢で小さな身体、長く綺麗な髪、ほんの僅かに膨らむ胸部。
夢でも見ているかのようだった。まるで誰かと身体が入れ替わったように、鏡に映る自分は見たこともない人間で。
「な、なっ…………」
それでいて、可愛かった。
「なんじゃこりゃー!!!!!!!!」
朝起きたら、なぜか女の子になっていた。
ーーー
だからといって、今までの生活が大きく変わる訳ではなかった。
いつも通り朝起きて、学校に行って、帰って寝る。学生である俺が過ごす平凡な日常を過ごしていた。
「でさ、その時あいつがさ――」
「あはは、なんだよそれー!」
学校ではいつものグループの輪に入って談笑していた。俺が女の子になっても、皆変わらず相手をしてくれていて、それがとても嬉しかった。
時間が経ち、すっかり自分も周りもこの変化に慣れていった。
――そう、思っていた。
「なんだよ、こんな所に呼び出して」
ある日、放課後に仲の良い友人を呼び出した。
「えっと……まずは来てくれてありがとう。それで、伝えたいことがあってさ……」
「うん?」
今にでも爆発しそうな鼓動を必死に抑えながらも、言葉を続ける。
「――好き、です」
告白。
この時の自分は、まだ何も知らなかった。
自分が『本当の』女の子になってしまったことを。そして、人間の怖さというものを。
「え? お前が、俺のことを?」
「う、うん……。それで……つ、付き合ったり、とか……しませんか?」
だからきっと、こうして過ちを犯してしまったのだと、今でもつくづく思う。
「……お前、立場分かってるの?」
「――え?」
「お前は男だろ? そんな趣味を持ってたのか、気持ち悪い」
「……そ、そこまで言わなく、たって…………」
「普通に考えてありえない。どういう心理を持って俺にその気持ち悪い気持ちを伝えたのか理解できないし、そもそも偽女なんて無理」
笑われながら、ただひたすら侮辱を浴びさせられる。
それはあまりにも悲しく、虚しく、哀れで、惨めで、そこから先はよく覚えていなかった。
性別転換――TS化に陥ってしまった俺は、良くも悪くも学校中の有名人だった。
歩けば「気持ち悪い」と後ろ指を指され、友達も、先生にも軽蔑の眼差しを送られた。味方と呼べる存在なんていない。ただりたすらに軽蔑され、侮辱され、虐められ続ける。
暴言、軽度の暴力、意味もなく水をかけられたり、教材を失くされたり、仲間外れにされたり……。
あの日を境に全てが変わった。
自分の味方はもういない。
自分は気持ち悪い存在なんだ。
あぁ、もう自分の居場所なんてどこにもないんだ。
そう気付かされるまでに、時間は掛からなかった。