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寿命を食う呪いの指輪を装備する


 不死というだけでも、正に最高峰さいこうほうと呼ぶに相応ふさわしいスキルである事に違いはない。それにくわえて不老ではないかというレイの推察に思考が散漫さんまんする。


「ふ、不老?」


「ああ、老いない体だ。精霊や魔人なら珍しい事ではないが、もしかするとお前もその一端いったんなのかもしれねえ」


「それなら辻褄つじつまが合わない。俺は子供の頃からちゃんと背も伸び、歳をとっているぞ」


 何故そのような嬉しい境遇きょうぐうを否定しているのかはわからないが、人間のゼンタにとって素直に受け入れるにはあまりにも有り得た話ではなかった。


「馬鹿が、老いない体だぞ。成長はし続けるに決まっているだろう。どおりで農民にしては剣士のような体つきをしていると思った……農民のくせに訓練だけはかかしてないのかと思っていたが合点がてんがいったぜ」


 すると精霊はごそごそとふところから何かを取り出した。


「喜べ。さっき私の方から言った交換条件。私をお前のそばにいさせてくれてやるわりの褒美。まさにお前の為の一品だ」


 そう言って精霊はふところからだした、透明にも近いほどき通った白い指輪をテーブルに置いた。


「これは精霊界唯一の秘宝、生命力の指輪。精霊界の中で1、2を争う私だけに持ち出しが許されている幻の装備アイテムだ」


「精霊の秘宝?……」


 ゼンタはそれを手に取り、物珍しそうに眺めた。


「これはこの世に2つとない伝説の代物であり、本来は神聖な物なんだが、人間の間では呪いのアイテムとして認識されている………これは寿命を食う指輪」


 それを聞き、まるで動物の汚物おぶつを払うかのようにゼンタは慌てて指輪から手を離した。


「指にはめなければ問題ない。それにお前がつけても問題はないはずだ。その指輪は我々精霊に似た性質を持っている」


「お前達が食うのは生命力だろ? こいつは寿命を食うじゃねえのか?」


「それは少なからず直結してると考えていい。若い人間ほど生命力が満ちているのは当然だろ? 生命力が少ない事と寿命が短い事はほぼ同じ事だ。この指輪は私達精霊とは少し違った手段で生命力を食う、その食い方が寿命というだけだ」


 まだよく意味がわかっていないゼンタに、ため息をつき精霊はなおも説明を続ける。


「仮に岩を生命力とするなら、こいつは岩は削るように生命力を食い亡き者にする。私たちは粉砕ふんさいする様に人間からダイレクトに食うんだ」


「なんだそのわかりにくい例えは……余計に意味がわからなくなったぞ」


「だから! 私達が生命力を加減なく食えば一撃で死ぬが、この指輪はジリジリと生命力を削り、装備した者を老いさせるって事だよ! アホかお前は!」


「そんな危ない代物を着ける奴がいるのか」


「精霊や魔人は老いで見た目や魔力、肉体的な能力が下がる事はないからな。死なない程度につける者もいたぞ。それに短期決戦なら人間にとってもこれほど役に立つ装備はないからな」


「そんなリスクがある装備に一体どんな効果があるんだ?」


「私達、精霊は一部をのぞき、大体どの種族ももっぱら肉弾戦ができねえんだ。そこで精霊からただ1人、その選ばれた者のみ使う事が許されたこの生命力の指輪。これを装備した者は寿命と引き換えに何十倍、何百倍の身体能力が身に宿る」


 確かにその効果はそのデメリットがあったとしても装備するに値する。人間の身体能力であっても何百倍となればオークやオーガと力比べをしても赤子の手をひねるように圧勝するだろう。


「お前ならそのデメリットを無視し、自家発電で無限にこいつの力を使い続けれる」


「そんな物をもらっていいのか? お前がつければいいじゃないか」


「いくら精霊は死が見えぬほど長寿ちょうじゅと言っても寿命が削られていくのは気分がよくないからな。それにこの能力アップは足し算ではなくけ算なんだ。護身用ごしんように持ってはいるが、元から身体能力が高くない私がつけてもそれほど効果はない上に、はなから肉弾戦など使わずとも事足ことたりるからな」

 

け算ってことは俺が強くなればなるほど、この指輪の効果もより強くなるという事か」


「その通り」


 精霊が不敵ふてきな笑みを浮かべるとつられるようにゼンタの口角こうかくも上がった。

 まだ自分自身で何かを成し得たわけでもないのに、遥か遠くに見えていた勇者という夢が、随分目に入る場所まで来たようなそんな錯覚さっかくすら覚えさせた。


「これで交渉成立だ。お前と俺は一蓮托生いちれんたくしょう。これからよろしく頼むぞ」


「何があっても1日5食! 精霊界の秘宝を渡し、私を駒に使うんだ。これくらいは約束しろよ」


「ああ……わかったよ………それで1番大事な事なんだが、お前の事は何と呼べばいい?」


「精霊に名前などないからな。大精霊様とでも呼んでもらおうか?」


「お前の性格を知ってそんな呼び方できるかよ」


 あまりにも似つかわしくない尊称そんしょうに思わず笑みがこぼれる。


「大精霊……精霊………」


 ゼンタは少し考えた。精霊と言えば、水の精や風の精と言ったはかなくも美しいものだと思っていたが、この性格や俺の後ろを着いて来る様は精と言うよりさながら霊に近い。


「レイ……お前は今日からレイだ」


 自分に始めてついた名前に照れ臭ささと誇らしさが交わった顔色を浮かべる。しかしそんな表情からでも読み取れるほどの喜びをゼンタは感じ取れた。

 2人は今日初めて合ったとは思えないほどの信頼関係を感じさせる眼差しで、見つめ合う。


「よろしくな……大精霊レイ」


「フン、好きに呼べ……のちの勇者ゼンタ」



 この先、勇者になりうるかもしれない男と魔術の大精霊の冒険が始まった。

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