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S級冒険者を仲間にしたい


「公明正大なS級冒険者なら聞く耳を持たないだろう。

それにそもそも、国によって管理されてる方達がほとんどだ。仲間になってもらったとしても勇者試験に行く事自体は国が許さない」


 S級冒険者を仲間にすると言った矢先に、それがいかに無謀であるかをみずから主張したゼンタの支離滅裂しりめつれつな物言いに精霊は呆れた様子を見せる。


「そんな事は知っている。だからこそ、お前の実力を問題にしなくともS級冒険者を仲間にするなど不可能だと言ってるんだ」


「チッチッチ……物知りのお前でも個人の人柄ひとがらまでは知らないようだな」


 やっと自分の方が精霊に持ってる知識を教授きょうじゅできると、このささやかな立場逆転が嬉しかったのか、ゼンタはご機嫌に説明を続けた。


「アルセーヌはS級冒険者にして国に所属していない無法者むほうもの。盗みの限りを尽くし、今は世界一の大監獄………分別の沼(スワンプリズン)に収容されている」


 自分の知らないことを説明されたのが悔しかったのか必死な面持おももちで精霊は食い下がる。


「そ、そもそも仲間はいらんだろ。私がいるんだ。こと戦闘に置いて困る事など皆無かいむに等しい。それに不死のお前が修行を積むなら尚更なおさら……」


「盗賊という職業は俺が今まさに求める人材でもある。勿論戦闘の実力も計りしれないだろうが盗賊の妙義みょうぎは天性のもの……俺たちが努力でどうにかなるもんじゃない」


 いくら精霊といえど、盗賊の技や身のこなしは、確かに自分が持ちうるものでないのは明らかであった。それゆえその言葉に反論する材料を精霊は持っておらず黙りこくる。

 その様子を見てゼンタは唇をほころばせた。


「それに勇者試験は4人までならパーティーの参加が認められている。やっぱり勇者と言えばパーティーを組んでの冒険だろう!」


「私の知ってる勇者は単独だったがな」


 一矢報いっしむくいたい面持おももちでボソリと皮肉を言う。


「仲間の強さも勇者の人徳じんとくだと思ってる。でなきゃお前に力を貸してほしいなんて、はなから頼まないよ」


「仲間にできるかもわからねえのに何が人徳じんとくだ。そのアルセーヌとか言う盗賊がお前を認めたとして監獄に収容されているなら仲間にもできない、仮に刑期を終えたとしてもお前の仲間になるためのえさがないんじゃな」


「奴は刑期を終えない。終身刑で死ぬまで監獄の中だ」


「だったら不可能じゃねえか!」


「それがえさだ………アルセーヌを脱獄させる」


 長年精霊として生きてきたが、ここまで馬鹿な事を言う人間に出会ったのは勇者以来初めてだった。あまりにも突飛とっぴなゼンタの発言にがらにもなく言葉を失う。


分別の沼(スワンプリズン)では死刑より終身刑の方が量刑りょうけいとして重い。あそこで死刑ならまだラッキーな方だと言われている。残虐ざんぎゃくの限りを尽くした罪人は死刑なんて楽な罰では許されない。死ぬまで永遠に拷問を味わう事になるんだ」


 テーブルにひじをつき、手で口元を隠すとゼンタはどこか寂しげに続けた。


「あいつの罪状を全て知ってる訳ではないが、俺の知る限りアルセーヌは理不尽な殺しはしていない。とはいえ世界の財宝や国の秘宝、伝説の代物まで盗んでるんだ。死刑にされるわけがない」


「しかし、私の知ってるところ、あそこから脱獄するのは当然の事ながら、侵入すらも許さない正に世界一と言っていい鉄壁の監獄だ。脱獄なんて夢物語としても侵入し、アルセーヌと接触コンタクトを取る事すらできないだろう」


 精霊の発言に珍しくゼンタが気味の悪い笑い声を出す。クククと笑う様はまるで大悪党が何かを企んでいるかのようにすら見えた。


「俺が死刑相当の罪を背負い、中に入る」


 反応がない。どうやらそれを聞いた精霊は本日2度目となる絶句ぜっくをしたようだ。


「スワンプリズンの中で囚人が自由に動く方法はない。いつなん時も監視され、常に動きを警戒される。だが死刑になった死体を看守する馬鹿はいない。その隙をつき奴をさらう」


「ほう、人間にしては面白い作戦だ。私ですらきょつかれたぜ」


 こればかりは一本取られたとばかりに素直に感心し、精霊なりに賞賛しょうさんの意を多分に含んだ言葉を送る。


「とりあえず監獄内の設計や詳しい事がわからない以上、まだ大まかな作戦を考えるいきをでないけどな」


 ほこらしげにジョッキを手に取り、それを顔と一緒に上げると残った酒を一気に喉に流し込んだ。

 その様子を見て精霊はいだいた疑問をゼンタにぶつける。


「それはそうと、お前酒なんて飲んでいいのか?」


「ん? なんでだ?」


「人間にはアルコールを摂取せっしゅするのに年齢制限があるんだろ?」


「何言ってんだ。俺は33だぞ」


 ゼンタにはここまで何度も驚かされ、もう何を言われても驚くまいと思っていたが、この言葉に本日何度目かもわからない驚きを見せる。


「さ! 33?!! どう見ても10代なかば、いっていても20歳前後だろうが貴様!」


「村の子供たちにも若く見えるとよく言われてたよ」


 言われ慣れているのか、まるで感情が乱れた様子も見せずに、お世辞にしても言い過ぎな年齢予想を受け入れた。


「そんなレベルの話じゃねえ! ……それにお前の生命力! あれは間違いなく17、18の男の味だった!」


「まあ老けにくいのが唯一の取りだよ」


 しばらく精霊は黙り込むと、神妙しんみょう面持おももちで何かを考え出した。次に口を開いた時には、先程のお返しと言わんばかりにゼンタを驚愕きょうがくさせた。


「……お前もしかすると不死なだけでなく、不老なのかもしれねえな」




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