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牢人生の実力


 どこまでも歩いても砂漠は続いた。途方もない移動にゼンタはうんざりした様子を見せていた。


「おい、いつまで続くんだ。こうも何も見えねえと不安になってくるぞ」


「まだ3時間も歩いてないだろうが。弱音を吐くのが早すぎるぞ」


「ずっと浮いた状態で移動をしているお前には足を交互に出す、大変さはわかんねえよ」


「こうやって風魔法を応用して浮遊するのにもそれなりの魔力が必要なんだぞ。魔力のないお前にはこの大変さはわからねえと思うが」


 くだらない言い合いをしてる2人に、アルは大きなため息をつく。


「もう、何回喧嘩するんだよー。暇潰しなら楽しい話でもしてよねー」


 もう、2人の小競り合いにうんざりと言った様子で愚痴をこぼす。何度か仲裁を引き受けたが、事あるごとに言い合いを始める2人に呆れ、アルも穏やかではいられなくなったようだ。


 3人は前の変わらぬ景色を眺め、トボトボと進んでいると、遥か先に米粒ほどの何かが見えた事に歓喜した。


「何かいるぞ!」


「やったー! なんだろ?! 大きさ的に人かな?!」


「何でもいい! やっと視界の色が変わったんだ! 急いでいくぞ!」


 3人は先程までの退屈な雰囲気から一変して、その黒い何かを目指し無邪気に走り出した。


 段々歩みを進めると、それが人である事がわかり、更に近づくとそれが知った人間である事に気づいた。


「よう、俺がここに来て、はじめての獲物になれた事を光栄におもいやがれ」


 その遠くに見えていた、物体の正体はスワンプリズンに収容されていたホゲールだった。


「やっぱり、牢人生になってたんだね。ホゲール」


 アルがそういうと、ホゲールは驚いた様子でアルをジロジロと見た。


「お前! アルセーヌか?! お前が何故ここに?! お前の牢人生の話は無くなったんじゃなかったのか? だから俺が抜擢されたはずだぞ!」


 スワンプリズンにいたアルがまさか勇者試験の受験者にらなっているとは予想だにしなかっただろう。


「ははーん……あの脱獄騒ぎの犯人はお前か……誰が脱獄したのかまでは教えてもらえなかったが、お前なら頷けるってもんだ」


 するとホゲールは、腰にぶら下げている3つのひょうたんの1つを手に取り栓をあけた。


「強さに応じた順位付けらしいが、俺が9841牢なんてどう考えてもおかしいよな? アルセーヌ……てめえを殺して主催者側の間違いを証明してやるぜ」


 ホゲールのその言葉を機に、ゼンタ達も臨戦態勢に入る。


「気をつけて……ホゲールもスキル持ちだから」


「だろうな……武器がひょうたんってんじゃ武術や魔法の類じゃなさそうだ」


「3人まとめて死にやがれ!」


 ホゲールはひょうたんを右から左に大きく振ると、その中から勢いよく水が曲線を絵描き飛び散る。すると次の瞬間その水は鋭い氷に変わり、ゼンタ達めがけ飛んできた。ジリジリと日差しが照りつける砂漠ではありえない光景だ。


 レイは風魔法で払いのけ、アルは華麗にそれを避け、ゼンタは両手でガードし、全て受ける。ゼンタの腕に刺さった氷を確認するとホゲールはニヤリと笑った。


 その時、ゼンタの腕に刺さった氷が一瞬にして溶け信じれない速度で沸騰していく。その液体は水はおろか熱湯と呼ぶにも優しすぎるほどで、差し詰めマグマと言った方が表現として合っているかもしれない。


「あっちい!!」


 ゼンタの腕の皮膚が溶けるようにただれる。

 ホゲールはまた違うひょうたんを取り出すとさっきと同じように勢いよく横に振った。


「つぎはこいつだ!」


 お次は中から銀色を赤く染めたような液体が飛び散り、さっきと同じように固まると、大きな鎌のような鋭利な形になり、アルめがけ飛んでいく。


 それをアルが避けようと、大きく跳ねバク宙した時、鎌のような鉄の塊は、またしても液状に変わり、しぶきをあげる。

 それがバラバラに飛散した時には粒状の塊へと形を変え、宙に浮くアル目がけて一粒ずつ飛んでいく。

 アルは「くっ」と焦りの声を漏らすも空中で体を無理矢理捻り、高速で寝返りを打つようにグルグルと回る。しかし、その粒は何発か当たったようでポタポタと出血が見られる。


「鬱陶しい技だ! 死にやがれ!」


 レイはブクブクと目の前に大きな水の塊を作ると、その表面に人差し指をつけ、それをホゲールに撃つように飛ばした。


 その速度と大きさから、当たれば、かなりの高所から飛び降り、地面に打ち付けられるくらいの衝撃が全身に浴びせられるだろうと推測される。

 しかし、その水魔法はホゲールに当たる直前に全て蒸発したように消えた。


「なんだと?! 魔法の無効化?!」


 レイは信じられないと言ったように焦りを顔に出した。


「スキル持ちのごくわずかな魔力で、私の魔法を相殺するなんてありえない!」


「がはは、魔法は俺には効かねえよ。俺のスキル『ガンビオ』の前ではな」


 ホゲールは自慢げにそういうと、先程水を出したひょうたんを口につけ、ぐいっと中の物を飲んだ。


「俺のスキル、ガンビオはその物質が変えれる姿ならば、そうなる為の時間や必要な環境を取り除く事ができる。形状を変化さす事はできるが創造する事ができないのが難点だがな。しかし、鉄を溶かし、剣を作る事はできなくとも鋭利に固める事はできる。水も蒸発、熱湯、氷、と好きな形状に変えれるって訳だ。砂漠では使えないが木を枯らしたり炭にする事だってできるぜ」


 得意げに自分のスキル説明をすると、ホゲールは最後のひょうたんを手に取り、それを巻き散らす。

 中からはジュラメントマッシュルームにも引けを取らないおどろおどろしい、色の液体が放出され、それがゼンタ達に襲いかかる。


「猿の一つ覚えみたいに同じ事を何度も!」


 ゼンタはアルやレイを庇うように前に出ると、それを全身に受けようとした。

 その時、その歪な色をした液体は消え、ゼンタのまわりにモクモクとしたガスが充満し始める。


「皮膚に浴びてもダメージを負うほどの毒だが、それを吸えばどうなると思う?! 男の方はこれで終わりだ!」


 ホゲールは毒ガスに包まれるゼンタを笑いながら眺め、ゼンタの死亡を確信すると毒ガスに包まれるゼンタの事は、お構いなしにその後ろにいるレイとアルに向かって毒の入ったひょうたんを振る。


 しかし、その毒が2人に届く遥か手前、毒ガスが充満してる地点を越えることもなく、毒の液体はびちゃびちゃと何かに当たり、その進行が妨げられた。


 顔を守るように両手を上げ、毒ガスから飛び出したゼンタが毒液を浴びたのだ。

 とはいえ、毒を浴びても尚、ホゲールめがけ突っ走り、右手を振りかぶるとその拳をホゲールの顔面めがけて突き出した。


「肉弾戦と相性悪すぎ!!!」


 ゼンタの王国仕込みの人並みパンチがホゲールの顔面にお見舞いされる。

 しかし、生命力の指輪とジュラメントマッシュルームにより、爆裂的な威力を得た拳はメキメキと顔面に組いこみ、ホゲールを十数メートルぶっ飛ばした。



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