レイVSアル
スワンプリズンからまた遠く離れた広野。
街も遠ければ人気もない、まさに戦うには最高のロケーションである。
「ぐわっはっはっはっは!」
レイは高く宙に浮いた状態で両手を交互に伸ばしては引き、引いては伸ばしを高速で行っている。
その手が伸ばされる度に、手の平からは火魔法による火炎弾が放たれる。その威力は地面に当たる際の衝撃音だけで十分伝わるが、それがドラムロールのように早く、無数に撃ち続けられているので、見ているだけでも気が気でない。
地面でそれをひたすら避け続けるアルの身のこなしも中々だ。服が汚れる事などお構いなしに右へ左へ跳ねては滑り、転がっては走りを繰り返し、レイの猛攻撃を全て避けている。
「おうおうおう! 逃げてるだけかよ! ゴキブリかてめえ!」
嬉しそうに、そう挑発したレイは未だ宙に浮いた状態である。するとレイは右手に巨大な烈火の火魔法、左手に勢いよく渦巻く風魔法を作るとそれを叩きつけるように、同時に放つ。
「あばよーー! ちゃんと死体は埋めてやるから安心しな! 枝くらいは刺しといてやるよ!」
「本当にすごい魔法……こんなに凄いの見たことないよ」
アルは苦痛の表情を浮かべるも、小さく何かを呟くと、その場からまるで消えたようなスピードで移動した。
炎の渦となったレイの魔法は、地面にぶつかり、辺り一面を焼け野原に変えた。
「なに! 今のを避けただと!」
「うちのスキル『無戦ラン』…… 体の神経を無線にする事によって伝達信号を簡略化させ体への命令なんかを超スピードで行う事ができるんだ。反射神経などは当然の事ながらスプリントや判断能力まで飛躍的に上がっちゃう回避に持ってこいの便利スキル」
アルが地上からレイの背中を見て、今使用したスキルの説明をする。
レイは少し焦ったように、すぐさま後ろを振り返る。
「うちのスキルの真髄……本当のとっておきと自動モードも見せちゃおっかなー」
アルは懐からナイフを取り出した。
「いいぜ……だったら私も使ってやろう」
レイはそう言って目を閉じブツブツ何かを唱えている。
その時、レイの頭上の雲が一面黒く染まり、その中心に大きな穴が空いた。中からドゴンドゴンと、けたたましい雷鳴が鳴ったところでゼンタが大声を上げた。
「もうやめろお前ら! 何回俺に致命傷を与えるつもりだ!」
そのゼンタの声を聞き、レイは目を開くと雲行きも元の晴天に戻った。レイの魔法に何度か当たり、顔も服もボロボロのゼンタが血管を浮かせて怒鳴る。
「こんな派手な戦闘して、騎士や冒険者がここら辺に来たらどうするつもりだ!」
重傷者と言っても問題ない程の身なりをしながら、ゼンタは大声で頭上のレイにキレると、レイは静かに降りてきた。
それを見てアルは疲れから解放されたように、地面に尻もちをつくと「降参」と笑って負けを認めた。
「ほう、素直じゃねえか」
「ただでさえ防戦一方だったのに、あんな魔法を、本当に使われちゃってたら勝てるわけないよ」
「そうか? てめえなら避けれると思うが? 何やらとっておきとか言うのもあったみたいだしな」
「無理無理、あんだけの魔法避けてヘロヘロなうちに比べて、あんだけの魔法撃ったレイちゃんはピンピンしてるじゃん」
「まあ、お前も思ってたよりは闘えるようだな。魔術の大精霊にしてディビンヌスリーの私相手にあそこまで健闘した事は褒めてやろう」
レイはたくましさを含んだ表情で、座り込むアルに手を伸ばす。それをアルは照れたように握り返した。
「はい! 格付け完了! お前ら今日から私のことは我が主レイ様って呼べよ! ぎゃっはっは!」
アルが手を握った瞬間、体がそり返るほど顔を上にあげ、爆笑と言っていいほどの笑い声でレイが煽った。
レイがそう言っても、特にアルは何かを反論する訳ではなかったが何故か広野に戦いを無傷で終えたレイの「いててててて! はなせ! はなしてくれ!」と言う声が響き渡っていた。




