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とうとう脱獄する時が来たようです



 ロイドはアルセーヌの後を必死に着いて走る。


 2人を取り押さえようと、次々とこちらに迫り来る看守達を華麗に倒しながら進むアルセーヌの背中を見失わないように、がむしゃらに両手を前後に振るのがやっとだった。


「その作戦、うちの役目はこれでいいんだよね」


「ああ! あんたは看守を倒しながら1階を目指してくれたらいい!」


 それを聞くと、アルセーヌはこちらに剣を振る看守も、杖を向ける看守も、全て一撃で倒していく。

 その様はまるで舞でも踊ってるかのようになめらかで、それを走りながら行っているのだから、S級冒険者の実力を改めてロイドは痛感した。


 アルセーヌに向けて振られた剣をくるりと回って避けたかと思えば、攻撃をしていた看守が倒れ、飛んできた電撃を壁を蹴って避けたかと思えば、その魔法を放った看守の背後を既に取っている。


 そんな調子で廊下や階段を進んでいくと、やっと2人は地上に出た。


 すると1階には既にゼンタが監獄長のシールを羽交い締めにし、待っていた。

 しかし、その周りを多くの看守が囲んでおり、ゼンタはロイドとアルセーヌが到着した事にまだ気づけていない様子であった。


「連れてきたぞ!」


 ロイドの声がした方に顔を向けると、待ち侘びたとばかりにシールを盾にゼンタは前に進んだ。


「俺達の進行を妨害する者がいれば、その瞬間こいつを殺す!」


ゼンタは看守達に見えるようシールの首にナイフを突き付けた。それを見てゼンタを取り囲む看守達は素直に一歩後ろに下がる。


「私はどうなってもかまわん! こいつらをこの監獄から決して出すな!」


 シールは看守達に命令するも誰もその指示を聞き入れない。


「相当慕われているようだな、あんた」


 ゼンタは皮肉混じりにシールを褒めると、前に進んだ。ゼンタの歩みに合わせて徐々に看守の群れが割れて行き、道ができていく。


「ドリー看守長! このままでは分別の沼(スワンプリズン)初まって以来の脱獄者が出てしまいます! 監獄長の命令通りに!」


「俺が許さん! お前達監獄長に受けた恩を忘れているのか! スワンプリズンにはあの人は必要不可欠だ!」


 苦汁を飲まされたような顔でドリーが看守達を静止する。

 すると、1人の看守が階段から慌てて降りてきた。


隕石メテオが! 直に到着するようです!」


「な! 何!? 隕石メテオが?!」


 看守のドリーもその異名を聞き驚いた表情を見せる。

 そんな話をする看守達を放っておき、ゼンタとロイド達は合流する。


「お前がアルセーヌか。詳しい話は後だ、このままここから逃げるぞ」


「自己紹介もままならないね。でも大丈夫? 隕石メテオが来るみたいだけど?」


「お前より強いか?」


「戦闘だけなら、うちより断然強いと思うよ。だってS級冒険者なだけでなく職業は武闘家。ゴリゴリの戦闘狂だもん」


「まあ、その為の保険にこいつを連れてきたんだ」


 ゼンタは監獄長の方に目を落とした。シールは首を捻り背後に立つゼンタを睨みつける。


「お前達、ここから抜け出せたとしても必ず捕まえて、またここに入れてやるからな!」


 ゼンタ達は監獄の扉を開けた。

 外の空気を吸うのは一月ぶりだった。





「脱出した後?」


 ゼンタがスワンプリズンに収容される、ちょうど5日前、ゼンタはレイと酒場で密談していた。


「情報屋も言っていただろ、脱獄の騒ぎになればすぐさま連絡が行き、聖騎士あるいは、S級冒険者が駆けつけてくると」


「その頃にはアルセーヌも一緒にいる。お前が指輪を煙突に入れといてくれれば、その頃には俺だって戦えるんだ。俺とアルセーヌ、2人もいれば何とかなるだろ」


「楽観的だな。万に一つ聖騎士共なら何とかなったとしてもアルセーヌを拐うんだぞ? S級冒険者が応援に来るのは想像に難くない。そうなりゃ、お前なんて何の戦力にもならねえよ」


「アルセーヌだって同じS級冒険者だぞ? そこまで目劣りしないだろう」


 やれやれとレイは首を振り、呆れた物言いで説明する。


「アルセーヌは盗賊なんだろ。武力のみでS級になった戦士や魔法使いが来てみろ、間違いなく五分の戦いにはならねえぞ」


「なるほど、じゃあ、焼却炉から看守の目を盗んでアルセーヌを拐うだけじゃダメだって事か」


 ゼンタは項垂れると、しばらく考え込む。


「やっぱ協力者は必要だな……」





 外に出るとそこには既に無数の騎士が立っており、その戦闘に人間がつけるにはあまりにも大きい鉤爪をつけた女の武闘家がいた。

 いや、鉤爪と呼ぶには必要な爪、刃の部分がない為、ナックルダスターと言った方がいいだろうか。


 後ろで1つに束ねられた、あまりにも長く綺麗な金髪を風になびかせ、仁王立ちする様は、敵ながら見惚れるほど凛々しかった。


「随分対応が早いな。流石世界最高の大監獄と言ったところか」


 目の前に立ちはだかる軍勢を前に聞き的状況に陥っているにもかかわらず、ゼンタの口ぶりにはどこか余裕があった。


「あいつはケイティ・サンチェス。隕石メテオの異名を持つS級武闘家だよ」


 そう言ってアルセーヌはナイフを構える。


「ナイフはしまってくれ。戦闘はしない」


 そういうとゼンタはシールを抱えたまま、前に出た。


「ここを無事に離れた場で監獄長シールは解放する事を約束する! もしここで俺達と闘うというならその瞬間にこいつを殺す!」


「や、やはり、犯罪者……卑怯な手段を」


 ケイティは苦虫を噛み潰したような表情でゼンタを見る。その表情は先ほどの凛々しい出立いでだちとはまるで真逆であった。


「道を開けろ!」


 そう言ってシールの首の皮1枚分のところまでナイフを刺す。


「貴様! 卑怯な!」


 ケイティは手も足も出せない状況に焦りと怒りの表情を浮かべだけで、こちらへの攻撃をする素振りはない。


 すると後ろから1人の騎士がケイティの横に並ぶと剣を構え、ケイティにだけ聞こえる声で呟いた。


「監獄長が死んでも変わりは作れる。今は何よりあいつらの確保が最優先だ」


 そう言って地面を蹴ると、剣を構えた体制のままこちらに突進してきた。


「よせ!」


 ケイティの叫びも無視し、聖騎士は突風のような速度でゼンタ達に迫り来る。後、1秒もあればその剣の刃がゼンタに届くと言うところで、その騎士目掛け、泥の水流が勢いよく飛んできた。


 ゼンタの後ろから放たれた、その泥の魔法にゼンタ達も面食らった。

 後ろを振り返るとドリーが杖を騎士に向け息を切らしていた。


「そいつらの言う事を聞け! 監獄長の身の安全が何より先決だ!」


 ドリーはその騎士に命令するも、騎士はそんな言葉に耳もかさず、体制を立て直すと、泥に濡れたまま、再度凄まじい速度で突進する。剣の先がゼンタの眼球直前まで迫った時だった。


「もう、やんちゃ坊主ー。話し合いの途中だぞー」


 腕を伸ばした状態の騎士の手に剣は握られていなかった。

 代わりに騎士が持っていたはずの剣を何故かアルセーヌが肩に担いでいる。


「貴様、何をした」


「泥棒」


 アルセーヌはぺろりと舌を出し、その剣を沼に捨てた。

 膝から崩れ落ちたところを見ると、その騎士に戦意はもうないようだ。


「わかった……君達の言う通りにしよう」


 ケイティは焦った様子でそういうと、後ろの騎士達に道を開けるように命令した。


 ケイティや騎士達の間を歩きながらアルセーヌはゼンタに聞いた。


「ここから出てもきっと追っ手はついてくるよ。大丈夫なの?」


「ああ、大丈夫だ。もう1人仲間がいる」


 4人は難なく、騎士の群れを抜け近くの山を目指して歩いた。

 その背中を騎士達は黙って見届けていた………がゼンタ達が山の入口の木々の中に入った瞬間、ケイティの目はキッと変わり、とんでもないスピードで猛ダッシュした。


 頭から地面にこけてしまう程の前傾姿勢ではあるものの、あまりにも綺麗な姿勢で駆ける様を殆どの騎士達は目で追えていないだろう。


 ゼンタ達が山の中に入って、ほんの数秒でケイティもそこにたどり着いたが、木の幹に飛び乗り呆然とする。


 今しがた入ったばかり。監獄長を抱えての移動。間違いなくそう遠くにはいってない。

 そのはずなのに、辺りのどこを見てもゼンタ達の姿はおろか、気配すらも全くなかったのである。


 ゼンタ達一行はスワンプリズンからの脱獄に成功した。




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