大怪盗・アルセーヌ参上!
ロイドはすぐさま我に変えると慌てて棺桶のように横たわる透明の箱を開け、女の目隠しと口に縛ってあった布を取った。
驚く女と目が合うも、女が声を出すより早く人差し指を自分の口元に持っていき、喋るなとジェスチャーした。
女は何が何だかわからない様子だったが言われた通り、口をヘの字に曲げ声を出す事はしなかった。
鎖には3つほどの錠がついていたが、それに引き換え看守から受け取ったキーリングには大量の鍵がついている。その為どれでその鍵が開くのかわからず、まごついていると拘束された女が初めて口を開いた。
「その右から4番目と7番目、あと1番左の鍵」
ロイドはそれを聞き素直に4番目の鍵を1番上の鍵穴に刺した。それを右に回すとガチャリ錠は外れた。
「何故わかった」
「鍵の形を見たらそれくらいわかるよ」
「時間が惜しかったところだ、助かるよ」
そう言って上から順に次々と錠を外すと、次はグルグルに巻かれた鎖を解いていく。
「おじさん、なんでうちを助けてるの?」
「ある男の頼みでな……いやそれはカッコつけたか……ここから脱獄するのにお前さんの力が必要なんだ」
それを聞き彼女は舌なめずりをした。
「分別の沼から脱獄しようなんて凄い事考えるじゃん。おじさん」
「いや、俺の提案じゃねえ。最近入って来た新入りにそそのかされたんだ」
「へえー、でその新入りは?」
「奴は最後の難所を抜けるために別のところで動いてる! そいつは罪人でもないのにここに来たかわりもんだ!」
「え? 何言ってんの? 犯罪者でもないのになんでここに入って、しかも、すぐ脱獄なんてしようすんのさ」
「お前を仲間にする為だとよ!」
ロイドがそう言った時、独房の外からドタドタと足音が鳴り響いた。
「ちっ、もうバレちまったか!」
残るは腕の拘束。両手は胸の前で組まされ、それを頑丈な縄でぐるぐる巻きに固定されていた。
「ロイド!! 貴様だろう!!」
とうとう看守の声が扉の目の前まで迫っていた。
S級冒険者といえど動けなければ、なんの役にも立たない。かと言って足音から推測される量の看守を自分1人で相手にできる訳がないと、目の前まで見えていた脱獄の夢を諦めかけた時、その女はむくりと体を起こし、ぴょんと軽い身のこなしで箱から飛び出した。
セミロングの青髪をなびかせながら隅の方に着地すると拷問部屋に捨ててあるように置かれているナイフを足の指で抓む。
次の瞬間、何が起きたか目では追えないほど刹那的な時間で腕を縛っていた縄を切り裂いた。
ロイドには全く見えなかったので、一体何をしたのか、訳がわからなかったが、パラパラと舞い散る縄の残骸を見て女の拘束が解けた事だけは分かった。
看守達が独房の中に一人一人と押しかけてくるも、自由となった女の姿を目にしては、また一人一人と歩みを止め、後退りする。
「やっほー看守の人達ー! 今まで随分いーーっぱい可愛がってくれたよね!」
愛嬌たっぷりの可愛らしい声と無邪気な表情は本当にスワンプリズンに収容される大犯罪者なのか疑うほどであったが、次の瞬間、その場にいる全員の背筋が凍った。
「お礼しなきゃ」
つんざく瞳で看守達を見つめると女はナイフの刃をゆっくり舌で舐めた。




