無能の主人公は無能につき迫害される
最後までの構想がある作品ですので、少し長くなるかもしれません。手前味噌ではありますが後半からかなり盛り上がると思います。
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辺りは山に囲まれた村の外れ。新鮮な空気と緑豊かな風景が何事も起きるはずのないのどかな雰囲気を漂わせる。
畑近くの木陰で読み聞かせでもしているような青年の話を、数人の子供達が囲って聞いていた。
ひとしきりその話を聞き終えると1人の少年が素朴な疑問を青年に尋ねる。
「じゃあ300年前に唯一、勇者試験を突破した初代勇者様から、この世に勇者は生まれてないってこと?」
「ああ、そうだよ何千、何万という人間が勇者試験を受けに行ったが、その後勇者になった者は誰1人としていないんだ」
農作業を一段落させ、休憩するはずだった青年は、顔の泥を拭う間もなく子供達に捕まり一服どころではなくなっていた。
「じゃあ俺は大きくなったら勇者試験を受けて、二代目勇者になってやる!」
少年の溌剌とした宣言を耳に入れながら、先程収穫した野菜の茎や葉の長さを一定に切り揃える。無邪気な夢を語る姿に、かつての自分を重ねたのか青年は微笑を浮かべると彼らのやり取りに引き続き耳を立てた。
「あんた、まだ初級の火魔法も使えないくせに、何言ってんのよ」
1人の少女が少年を小馬鹿にしたように諭すと、少年もムキになって、言葉で反撃する。
「お、俺は魔法だけじゃなくて父さんに剣術も教えてもらってるからいいんだよ!」
枝を剣に見立てプリプリしながら構えると「握りが逆じゃないかしら」と少女が鼻で笑った。堰を切ったように子供達は笑い合い、天気も手伝ってまるで平凡を絵に描いたような和気あいあいとした時を過ごしていた。
「こら! お前達! また時間を無駄にしやがって! ここに遊びに来るなと何度も言ってるだろ! 無能がうつるぞ!」
そんな浮かれ騒ぎを終わらせるように1人の大人が村の集落の方から怒鳴りながら歩いてきた。その足取りは、地面を蹴り、威嚇する猛牛によく似ている。
「ごめんね、兄ちゃん……俺たち兄ちゃんと話すなって言われてて……また色々話聞かせてよ」
「ああ……またいつでもおいで。勿論父さんの目を盗んでな」
青年は帰っていく子供達の背中を眺め見送った。
子供達を呼びに来た親父が後ろを振り返りギロリとこちらを睨むと、青年からため息が溢れる。
「はあ……別にとって食うわけでもないのに」
この青年はゼンタ。
村の集落から離れた所に家を構え、日夜農作業に明け暮れるただの村人だ。
村から離れて暮らすには理由はあるが、それもこれもゼンタが本当の意味での能無しだったからである。
村全体にかけた迷惑を考えれば村人達の態度も無理からぬ事ではあるが、子供達と話す事さえ許されない、この孤独な日々に常々頭を抱えていた。
◇
同じ日の夜、村の外れに住むゼンタが誰よりも早く、その異変に気づいたのは当然と言えるだろう。
陽が沈んでから充分すぎる時間が経過し、家の灯りも、人々の音も村から消えかかる頃だろうと、ゼンタも床に着くため寝る支度をしている際中だった。地震とはまた違う異様な地響きが家屋を僅かに揺らし続けているのだ。
「なんだ………」
ゼンタは足裏から伝わる奇妙な振動に不安を感じると、すぐさま外に出て遠くを見回した。
辺り一面暗闇であるが、月明かりだけでも山の形が歪に変わっているのが一目でわかる。
「そんな大きな揺れでもないのに……山がえぐれている」
地響きがするタイミングと同時にそのえぐれた山がおもむろに動く………
山が動くと言うよりは山の中にいる何者かが動いているのだ。その正体に気づいた時、ゼンタは地面が痛がるほど勢いよく尻もちをついた。
「なんだ……あの化け物……」
遠くから見てもその大きさに愕然とする。
山の木々より大きな怪物がこちらに、のそりのそりと迫ってきているではないか。
「このままあの化け物が進めばヤバいぞ……」
ゼンタは、このまま放っておけば、起きるであろう大惨事を危惧し、村の集落の方へまるで疾風のように駆け出した。
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