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鉄壁の牢に脱出口を作ろう



 2人の脱獄計画は刻一刻と進んでいた。


 ロイドが2年収監されていた事により、少しばかり5階の情報を持っていたのは正に棚からぼた餅であった。

 当初立てた作戦からは少し変更してしまった部分はあるが現在決行中の作戦の方が確実性があると踏んだ。


 ロイド曰く、この雑居房の下は5階の廊下に面しているらしい。バジルと揉めた際と自暴自棄になり看守に反抗的な態度を取った際の2回拷問部屋に行っているのでほぼ間違いないらしい。

 つまりここの床を抜ければ外で見回りしている看守と4階と5階の間にある看守室もスルーする事ができるのだが、掘った先が独房の中ではあまりにも情けない。


 それを知ったゼンタは脱獄では聞き飽きた方法で5階へ侵入する事にした。


 その方法とは脱獄の定番、掘鑿くっさく……穴掘りだ。

 ゼンタの寝床の下を掘り、それ以外の時は布団で隠す。

 ロイドと交代で、食事に使うスプーンで少しずつ掘った。


 他の囚人達にバレないように少しずつ少しずつ。


 ある日は寝たふりをしながら布団の下に腕を突っ込み掘り進め、ある時は皆が寝静まった後、2人がかりで一気に掘り進め、またある日は2人で談笑するふりをして掘り続けた。

 

 掘って出たセメントはゼンタが胃の中に流し込んだ。


 毎日同じことを繰り返し、今日も今日とて2人で床を掘っていた時のこと、ロイドが口を開いた。


「俺とお前はもう運命共同体だ。お前が信用を勝ちとるために打ち明けた事、取った行動。そこまでしてくれたからには、俺にもお前に言わないといけない事がある」


 改まったロイドがそんな事を言うのは初めての事だったのでゼンタがドギマギしているとロイドは返事も待たずに続けた。


「俺には弟がいた。ごろつきだった俺と違って優秀な弟でな。魔力があまりねえくせにガキの頃から魔法への憧れが強い奴だった」


 ゼンタは相槌もうたずにスプーンを床に引っかかけそれを前後に擦りつける。


「それが転じて奴は禁忌の研究を始めやがった。禁忌の研究はどこの国でも極刑物だ。当然のように弟の研究はバレ死刑になるところだった」


 ゼンタは以前目を合わせることもなく穴を掘る手を止めない。


「優秀な弟が死刑になって良いわけねえよな?じゃあどうする…ろくでなしの俺が罪を被ってその罪を償うしかねえ。運良く研究は誰がやったかわからない状況だった……」


「それで、弟の代わりにお前がここに入ったのか」


「そうだ……兄弟揃って大馬鹿野郎だろ」


 ロイドはポロポロと涙を流した。


「そんなことはない…俺なんかよりずっと立派だ」


「ありがとよ………それでここから本題なんだがよ…実は俺はあまり魔法を使えないんだ」


「は?」


 さっきまでの感動的な空気から一変、ゼンタは右の口角を吊り上げロイドを見つめた。


「初級魔法くらいなら使えるがここに入れられるほどの腕じゃねえ……弟も魔法は使えなかったが、魔法の研究をしていた事で魔法使いだと思われてな」


「おい…ちょっと待てよロイド…てことはお前まさか…スキル持ちじゃねえよな?」


「ああ、持ってるよ」


 ゼンタは腕でロイドの首を絞めた。


「てめーやっぱり大馬鹿野郎だ! そんな大事な事なんで今まで黙ってた?! もっと安全な作戦があったかもしれねえのによ!!」


 あまりにも遅い告白に先程の言葉を前言撤回し大馬鹿野郎と罵しる。ロイドはギブアップとばかりにゼンタの腕をタップする。


「いや、別に脱獄に使えるようなスキルじゃねえんだ! くだらねえ1発芸みたいなもんだからよ!」


「一体どんなスキルだ?」


 ゼンタはロイドのスキルを黙って聞き頷いた。


「なんだよ…十分使えるじゃねえか…今日からドリーの奴に沢山話しかけるぞ」





 穴を掘り続ける事1ヶ月、ようやくあと少しで床が5階に貫通する直前までの穴が完成していた。広さは人1人がギリギリ入っていける広さ、深さも大人1人分と言ったところだろうか。さすがは人間界1の監獄。階層ごとの厚みも尋常ではない。


 やっと空けた穴だが、こんなものが完成してもまだまだ問題は山積みであった。

 どうやってここにいる他の囚人達にバレないように抜け出すか、5階に行ってどうやってアルセーヌを拐うか。ロイドは不安を口にした。


「ここまで来たんだ。別にビビってるわけじゃねえがアルセーヌの奴をわざわざ拐う必要あるのか?」


「当たり前だ、俺たちの脱獄にアルセーヌの力は必要不可欠。この牢から出ても俺たちじゃ外に出る事はできない。アルセーヌはS級冒険者、この監獄内での実力は看守を含めても間違いなく1番だ。奴の拘束を解き行動を共にすれば俺たちじゃ突破できない局面も易々とクリアできる」


「それはそうなんだが……前も言ったようにアルセーヌの近くには常にドリーの奴がいやがるぜ。あいつは相当アルセーヌを気に入っている。自分の当番じゃない日ですら、あいつの拷問を進んでやるような奴だ」 


 大きな体格からは想像もつかないほどロイドは怯えてるように見えた。


「ああ、それを聞いてこの作戦が思いついた。それにちょうどドリーはこの階の見回りをしているぞ」


 牢の前を横切ったドリーを目で追いながらゼンタは立ち上がり尻の埃を払った。


「よし、ロイドや俺の死刑も近いづいている。早速第二段階……下がどうなっているのか俺も見てくるよ」


 そう言ってゼンタは牢の鉄格子を両手で持ち叫んだ。


「おい、ドリー! てめえいつまで俺の死刑を遅らせたんだ! クソ野郎! 俺を殺せねえってのか?! ああ?!」


 そのゼンタの絶叫は4階中に響き渡る。


「馬鹿! よせ!」


 バジルが檻にしがみつくゼンタを引っ剥がそうとするが鉄格子を強く握るゼンタの挑発はまだまだ続く。


「もう一度戦ってやろうか?! 最もまた戦ったところでお前じゃ俺にとどめはさせれねえみたいだったけどな!!」


 他の檻の囚人達はそれを聞くと、4階中に下品な笑い声轟いた。ただゼンタと同部屋の面々は冷や汗を流し、もう手遅れだとゼンタからゆっくりと離れた。

 ドリーはゼンタがいる檻の前に立つとゼンタを冷たい眼差しで睨みつけた。


「覚悟はできてるんだろうな。ベンゼン・レイン」


 ゼンタは檻の外に出されると拷問部屋がある5階に降りて行った。



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