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初戦闘は指輪の力で圧勝でした



「かーーーー!!! 止まって見えるぜ! 何だその剣筋!!」

 

 到底、大精霊の口から出るとも思えないレイの横柄な言葉を受けるもそれに異を唱える余裕はゼンタにはなかった。と言うのも道中、たまたま遭遇したコボルトと戦ってる最中だったからに他ならない。


「うがっ!」


 コボルトと言う存在を知らずとも動きや攻撃の威力だけ見てもE級相当である事がわかる。しかしそれでも今のゼンタにとってはまごうことなき強敵であった。

 コボルトが振った棍棒を腕で受け、骨が折れたんじゃなかろうかというほどの痛みに襲われる。


「ったくガキのチャンバラごっこじゃねえんだぞ! こんなのといちいち持久戦してたら寿命で死ぬぞ!」


「死なねえけどな」


 眉を上げそう言うと、そのついでと言わんばかりに剣も高く振り上げ、コボルトの頭目掛けて全力で振り下ろした。


「キャイン!」


 やっとの思いで入れた渾身の一撃はコボルトにダメージを与える事ができた。

 しかし鳴き声や仕草から察するに大ダメージとは言い難い。


「よし、じゃあ、指輪をつけて戦ってみろ」


 レイが指示を出すと指輪を取り出し、ゼンタはそれを右の人差し指に通した。

 特に自分の中で何かが変わった感覚はなかったが木の棍棒を構えて、こちらに迫りくるコボルトに対抗しようと足を踏み込んだ時だった……何が起きたかゼンタ自身もわからなかった。驚いた事に自分がいるはずの場所に自分がいなかったのだ。

 背後を振り返るとコボルトの背中が目に入る。自分が踏み込んだ地面はエグれ、そこからコボルトを挟んで更に数歩進んだ位置にゼンタは立っていた。


 コボルトの少し前目掛け踏み込み剣を振る。それだけの事をしようとしただけだ。それが思いもよらぬ位置まで進んでいる。


「それが生命力の指輪の力だ。身体能力が向上すると言う事はお前の跳躍力が上がることも例外じゃない」


 腕を組み、相も変わらず頭勝ちなレイの態度が鼻につくが、そんなことより、自分の力の向上があまりにも飛躍している事への喜びを受け止める方が大きかった。


「そのコボルトを倒してみろ」


「言われなくても!」


 ゼンタは剣を構え、そのままコボルトに斬りかかった。今度は全力で振り下ろした訳でも頭を狙おうとした訳でもなかったが、そのあまりにも早い剣筋がコボルトを豆腐のように真っ二つにしたかと思えば、勢い余って振り下ろされた剣先が地面を叩いた。


 その瞬間、ドカンと大きな衝撃音が耳をつんざき、土煙が宙を舞う。


 ゴホゴホとゼンタがむせ返ると、次は覚えのない突風がその土煙を一瞬ではらった。

 視界が元に戻ると、指で風を操る仕草をしたレイが立っていた。しかし、レイは浮遊してないにもかかわらずゼンタを見下みおろしている。いや、自分が下にいる。


「足元を見ろ」


 目線を地面に落とすとコボルトだったであろう肉塊と自分を中心に大きなクレーターができていた。


「これを俺が?……」


「自分でやった事をたった今、目の当たりにして信じれないのか?」


「いや、思っていた以上だこの指輪……これなら本当に勇者試験も簡単に……」


「舐めるなよ弱人よわびとが。そのくらいの事なら星の数ほどの奴がやってのけるわ」


 喜んだのも束の間、レイの一言でそれがぬか喜びに変わる。


「初代勇者がその気になれば今のような攻撃を一度するだけで街1つを滅ぼせる」


「この状況を素直に喜ばせてくれよ」


「今のお前相手なら私が遊び感覚でも瞬殺できるぞ」


「死なねえけどな」


 ゼンタは軽く足を曲げ地面を蹴ると、クレーターの底から一飛びでレイの横まで飛び上がった。


「試してみるか?」


 クレーターの方を向き立つレイの横に座り込んだゼンタを、立ったまま横目で見下ろし挑発した。


「やめておくよ」


 呆れたように笑い、腰を上げるとゼンタは尻についた土をはらった。まだ、レイの実力を目の当たりにした事はないが、仮に戦ったとして自分じゃ手も足も出ない事くらい容易に想像できた。

 


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