最強魔法使いは精なる賢者!?~高まる魔力と性欲は比例関係にあるらしい~
とある農村の生まれであった私はある日突然特別な才能に恵まれ遠く離れた王都へと招集された。
通常では貴族以上の血筋でなおかつ限られた者にしか発現しない『魔法の才』だ。
私がこの魔法の才能に目覚めたのは少し変わった出来事からだった。
***
私は村で唯一の独身男だった。
外で忙しそうにしながらも幸せそうな家族を見るたびに、私は一人寂しい気持ちになる日々を送っていた。
私は自分で言うのもなんだが容姿は悪くなく、性格にも特筆すべき難点はないはずだが、今まで女性とお付き合いした経験もなければそういった関係になったこともない。
もはやそういう星の下に生まれてきたのだと諦めかけていた時のことだ。
日課の畑仕事をしているといきなり激しい頭痛とともに気を失ったかと思えば私ではない別の人間の知識が頭に流れ込んできたのだ。
そして意識を取り戻した時にはもう空は茜色に染まっており、謎の体験に対する恐怖とともにこんな時間になるまで見つけてもらえる相手のいない現状に咽び泣いた。
家に戻って一通りの家事をこなしてから、私の相棒……もとい愛棒を握るとその知識が自然と浮かび上がってきたのだった。
最適な握り、速度、緩急やそれに伴う快楽の享受の仕方。
私は本能の赴くまま愛棒を擦り上げ、一分と持たずに果てた。
その瞬間、昼間の別人の男のつぶやきが脳裏によぎる。
「――三十過ぎれば俺も魔法使いの仲間入りか」
ほとばしる電流。
駆け抜ける快感。
手足は痙攣し、耐え難い幸福感に脳を支配され、気づけば愛棒を握ったまま朝まで気絶していたようだった。
その日は一日畑仕事も放り出してあの男のことを整理することにした。
といっても詳しいことはわからない。
ただ唯一わかっていたのはあの男が六十代で死んだ事と世間では賢者と呼ばれていたこと。
三十代では魔法使い、四十代では大魔法使い、そして五十以上では一律賢者と呼ばれ一部の人間たちに崇拝される存在であったと。
私は今年で二十三。
あの男の半分すら生きていない若造ではあるが、どこかあの男に親近感のようなものを感じずにはいられなかった。
そこでふと、こんな私でもあの男のように立派な賢者になれないだろうか……そう思った。
手始めに魔法が使えないか試してみると、なんと手から水が出るではないか。
普段の水より粘度が高くヌルヌルしていたのが気になったが味もにおいもしなかったことを見るにあれは水で間違いないだろう。
本来魔法とは貴族以上の血筋にのみ使用することができる貴き者の力の象徴であった。
それをこんな農村生まれ、農村育ち、家畜たちは大体友達な私が扱えることがばれたら不味いことになる。
足りない脳をフル回転させそう導き出した結果、私はこの事実を隠蔽することに決めた。
そのまま表面は普通の農民を演じつつ、誰にもばれないように魔法について研究を進めていくことで私はさらなる禁忌に触れてしまう。
魔法を使用するうえで必要になってくる魔力は個人差はあれど一人の人間が持てる量には限界があることは知っていた。
効果の大きな魔法を行使する場合一人の人間の魔力だけでは足りずほかの人間から譲渡されて使うこともできた。
人間は誰もが必ず魔力を持っていて、それを具現化することのできる人間だけが魔法を使うことができる。
その具現化する能力が貴族の血筋に多いというのが魔法使いが貴族の象徴たる所以だった。
そこであの男の知識が僕にささやく。
魔力を持ち始めるのは、もっと言えば人間とはどこからを人間とするのか。
ついこの間話題になっていたのは妊婦には二人分の魔力が宿っており、おなかの子も魔力を持っているということだった。
そこで私は思ったわけだ、おなかの子に魔力があって私の玉の子に魔力がない道理はないだろう、と。
私も男の知識がなければこの結果に行きつくことは無かった。
そもそも精があんなにも小さな命であることも明らかになっていないのだ。
理由などわからずとも刺して出せば子を成せるとそう教わっているため子を授かるとはそういうものなのだと決めつけていたからだ。
私の予想は当たり、コツはいるものの何億人という人間の持つ魔力を私は操れるようになった。
私の精が枯れぬ限り私は無限に魔力を生み出し続けることのできるようになったのだ。
それからというもの以前にもまして私は魔法に対する研究を意欲的に進めていった。
以前は私の持つ魔力が尽きれば回復するまで魔法を使うことができず、中断せざるを得なかったものが、今ではいくら使っても魔力は尽きることがなく、魔法に対する知識欲は膨れる一方だった。
デメリットとするならばそれに比例するように我が愛棒も膨れるので毎晩の処理が面倒になったことくらいか。
それから時が経ち、魔法の研究も一区切りがついたある日、実戦で試してみようと近くの森に入ったのがいけなかった。
あふれる魔力をもとに身体能力を強化し、木々の間を縫うように駆け抜けていく。
そのままいつもなら絶対に行かないような森の奥まったほうに行くと、何やら水の流れ落ちる音が聞こえてきた。
導かれるように音のするほうに向かうと、そこには絶景が広がっていた。
透き通るような青の水と汚れ一つない湖。
そして何もない宙から湧き出る水とそれを浴びる虹色の大岩。
前に王都で有名な画家が描いたとか言って見せられた絵の何倍も、何百倍も美しい景色がそこには存在した。
私は半ば無意識に服が濡れることすら厭わずにその大岩に近づいて行った。
幸い湖の深さは膝より浅く、動きが多少阻害される程度の深さだったので少し時間はかかったものの大岩には問題なくたどり着いた。
そして私がその大岩に触れると大岩は上から溶け出し、中からこの世のものとは思えないほどの絶世の美女が現れた。
恐ろしいほどの整った顔立ち、すれ違う人全員が振り向くであろう完ぺきなプロポーション。
もはや一種の芸術といっても過言ではないだろう。
そのまま大岩が溶け切ると、美女はゆっくりと目を開き……。
美女と私の愛棒が臨戦態勢になるのはほぼ同時だった。
「本日はお日柄もよく」
「――『フリーズ』ッ!」
警戒させないように笑顔で声をかけた瞬間いきなり美女が氷の波動をこちらに放ってきた。
おかしいな、あの男の知識だと美女でも挨拶までなら問題ないはずなんだが……。
「水よ、流動し我が敵を阻め『ウォーターフォール』」
ひとまず氷の波動を止めようとこちらも魔法で水の壁を作りだす。
氷の波動は水の壁にぶつかると、凍らせることなく霧散していった。
「くッ、ならこれはどう!? 『アイシクル』!」
なぜ攻撃してくるのか分からない美女は続けざまに巨大な氷の槍を打ち出してくる。
本当はこんな手荒な真似はしたくなかったが一度無力化してからでなければ落ち着いて話もできないだろう。
「水よ、意思を持ちて我が敵を拘束せよ『アクア・アヴィアリウス』」
私の足元から無数の水でできた鳥が飛び立ち、氷の槍を砕きながら美女を拘束する檻になった。
美女はさすがにここまでされると勝てないと悟ったのか涙目になりながら「心までは好きにさせないから!」と叫んでいた。
「初めまして、私はヒトリ・シコルスキーと申します。お嬢さんは?」
「ヤるなら一思いにヤリなさいよ! 私は絶対にあんたなんかに屈しないから!」
「何か勘違いされているようですが、私はお嬢さんに危害を加えるつもりはありませんよ」
「嘘つくんじゃないわよ! 私の裸を見てそんなに大きくして説得力ないのよ!」
美女は私の愛棒を指さしながらそう叫ぶ。
なるほど確かに。
目が覚めたら股間の大きなお友達が目の前に立ってた……なかなかの事案ではないだろうか。
ましてや私とこの美女には何の接点もない今日初めて会った相手だ。
これは攻撃されても仕方ないのでは?
「これは失礼した。私の体質上どうしてもこうなってしまうので失念していた」
「どんな体質よ!?」
ごもっともで。
私自身ですらどんな体質だと意味わからないのに初対面の相手ならなおさらだろう。
自分で言っていてわかってないのは致命的すぎる。
とはいえ、いつまでもこの美女を裸のまま放置しておくわけにもいかない。
私は着ていたローブを脱ぐと美女に差し出した。
「これでもよければ体を隠してください」
美女は私のローブを汚いものでも触れるかのように持つと、足元の水でじゃぶじゃぶと洗ってから身に着けた。
「フン、感謝なんてしないわよ。この変態!」
「ありがとうございます」
なぜかはわからないがこの美女に変態と罵られた瞬間魔力が高まった。
それに、濡れたローブが体に張り付いて……なんというか眼福です。
気持ち悪いものを見る目で見られたがもうこの際気にしないことにした。
「それで、お嬢さんはどうしてこんなところに?」
「あんたに教える義理はないわ。さっさと目の前から消えて頂戴!」
「なかなか気の強いお嬢さんだ。大岩に閉じ込められていたお嬢さんを解放したのは私ですから、何者なのか聞く権利はあると思いますが……」
「いまだに大きいままだし目つきがいやらしいのよ」
丁寧に質問を投げかければ罵倒され、親切にしても仇で返される。
何者か知らないがこれでは話にならない。
少しお仕置きする必要がありそうだ。
「水よ」
私は手に粘液状の水を作り出すとそれを犬の形状に変化させた。
「舐め回せ」
檻の一部を開け、その粘液犬をけしかける。
この犬は私が作り出した生物の一体で名前を「てつ」といい命令すれば話し相手にも何にでもなる。
これには近所のおばあちゃんもにっこりだった。
今回はこの「てつ」に目の前の美女のいたるところを舐め回してもらい、泣きわめいても辞めず反省するまでくすぐり続けてもらう。
クックック、どこまで我慢できるかな?
檻の一部が変形し、美女の手足を拘束すると「てつ」がまずは足から舐めていく。
私も経験したことがあるが「てつ」は体全体がヌルヌルしているのでまず触られるだけでくすぐったい。
それにプラスして舌がうねうねと形を変えることもできるのでくすぐったさは倍増どころの話ではない。
美女はすでにかなり限界が来ているのか悶えながら謝っている。
「ひどいこと言ってごめんなさい! ちゃんとッ、は、話すから! だから止めてェ!」
「口先だけの謝罪に意味などないさ。真に反省したと感じるまでは我慢するんだ」
「ヒ、ヒィィィ!」
泣きわめけ!
そして許しを請うのだ!
生意気言ってすいませんと、顔面を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら懇願しろォ!
はッ!? あの男の記憶に自我を乗っ取られていた。
正気に戻ってみれば全身を震わせながら必死に泣いて謝る美女の姿があった。
いいぞ「てつ」! もっとやれ!
そのまましばらくして我慢できなくなったのか失禁したのを確認してから「てつ」を下がらせる。
ここまですればさすがに反省しただろう。
「さて、もう一度聞こうか。お嬢さんは何者?」
「……わ、私はヴァレリア。魔王よ」
「ふむ……? 魔王とな?」
確か魔王って人間と敵対してる魔族たちの王様だったよね?
なんでこんなところで大岩に閉じ込められてたのか。
「そんな敵の大将がどうしてこんなところに?」
「……先代魔王が勇者に討たれてからすぐに、魔族は二つの派閥に分かれたのよ。現状を受け入れて魔族はつつましく生きていく保守派と、再起を図って人間たちを駆逐し魔族こそが至高という過激派の二つに」
「君はどっちだったの?」
「先代魔王の最後の願いは平和な世の中を目指してほしいというものだったの。私はそんな先代の一人娘だもの……好き好んで争おうとは思わなかったわ」
「しかし保守派の君がこんなところに閉じ込められていたのを鑑みるに派閥争いに勝利したのは過激派だったということかな?」
「今も人間と魔族が争っているならそういうことになるわね」
うーん。
人間の国と魔族の国の国境ではいまだに争いは続いていると聞くし、どうやら過激派が幅を利かせているのは確定っぽいか。
ヴァレリアの話を聞いていた限りだと保守派が実権を握ることに成功すれば無駄な争いをする必要はなくなりそうだけどどうなんだろう。
「君が次の魔王のなれば戦争は止められる?」
「私が封印されてどのくらいの時間が経ってるのかもわからないし、あの時の仲間がどのくらい生きているのかもわからないわ。でも極力争いのない世界は目指せると思う」
「なら戦争止めに行こっか」
私があまりに軽くそう言ったものだから、ヴァレリアは呆けた顔でこちらを見上げてくるのだった。
***
そうして私はまず農村を治める領主に自身が魔法を使うことができることをそれとなく伝えた。
怪しむ領主も実際に魔法を使って見せれば信じたのか、稀代の魔法使いともてはやし王への謁見の機会を作ってくれたのだった。
膨大な魔力を使うことができるというのはそれだけでとてつもない価値になる。
私は今まで隠匿してきたそのカードを切ってでも魔族との戦争を止める価値があると思っている。
そして冒頭に戻り、王が使いによこした馬車に乗り私とヴァレリアは王都に来ることとなったのだった。
王との謁見はとんとん拍子に進み、最終的には私がこの国で魔法使いとして仕事をすることを条件にヴァレリアが魔王になることと、いざ魔王になった暁にはこちらから戦争を仕掛けることはしないという約束を取り付けることに成功した。
聞いた話によると一人で私ほどの魔力を使える人間は存在しないらしく、私の持つ技術はこの世界初のものであり魔族との戦争よりもよっぽど有益なものらしかった。
それからヴァレリアが魔族の国に戻るのも早いほうがいいということで謁見が終わり次第すぐに馬車で国境に向かい戦争を止めるために動き出した。
ファーストコンタクトはひどいものだったが、私がヴァレリアが魔王になるのにちゃんと協力するという姿勢を見せることでヴァレリアも少しは私のことを信用してくれたのか馬車の中では軽くじゃれあうこともできた。
数日かけて国境にたどり着くと、ちょうど魔族と人間が戦いあっているところだった。
「早く止めないと……!」
「待て、私がやろう」
切って切られてを繰り返す両軍を見てすぐにでも飛び出そうとするヴァレリアを何とか押しとどめ、私は普段使わない大規模な魔法を発動させる。
「融解せよ」
私が天に手をかざすとそこに巨大な魔方陣が浮かび上がる。
「光輝煌めきし時、闇の底に対峙せん」
見えていた太陽が黒く染まり、辺り一帯の視界を奪う。
「天空の星よ、力を宿し絶望を照らし出さん」
もともと太陽のあった場所から一滴の涙が零れ落ちる。
「『アルカナ・ソラリス』」
涙が地面に触れた瞬間視界を白に塗りつぶす。
暗転からの発光に脳の処理が追い付かず戦闘を繰り広げていた両軍の兵士たちは一様に地に倒れ伏していた。
ヴァレリアは私が発光の直前に目をふさいでおいたので問題ない。
その際に体に触れてしまったのは事故ということで納得してもらおう。
「……わかってはいたけどおかしなことするわね」
「直接的なダメージのないものにしたんだけどそれでもこんな威力になるなんて思わなかった」
「世界に干渉する魔法なんて一体どれだけの魔力があれば行使できるのよ」
「体感三万人分くらいかな」
私がそう答えるとヴァレリアは頬をひくつかせながら戦場を歩き出す。
そのまま魔族軍の後方に控えていたであろう一人の男の前まで行くと、気絶している男の首を氷で作った剣で容赦なく撥ねた。
「そいつが過激派のボス?」
「そうよ。私の叔父で先代の弟にあたるわ」
「容赦ないな」
「前から気持ち悪い視線を向けてきて嫌いだったの。どっちにしろ私が魔王になるうえで絶対に邪魔になる人だったから早めに処理できてよかったわ」
うーん非情。
息絶えた叔父に凍える視線を向けながらそう吐き捨てるヴァレリアは本当に叔父のことを嫌っていたのが分かって少しゾクゾクした。
私にもそんな視線向けてほしい。
「過激派のトップが死んだ今、私ができるのはここまでかな。あとはヴァレリアがどうにかすべきことだろうし」
「そうね。ヒトリには短い間だったけどお世話になったわ、その……あ、ありがと」
「最高かな?」
顔を赤くしながらもじもじとお礼を言ってくるヴァレリアに私の愛棒も歓喜した。
ぶっちゃけこれだけでもヴァレリアを手助けした価値があるってものだ。
願わくば私の初めての相手にも待ってくれると嬉しいんだが……。
「あっ! マキシム!」
私がヴァレリアとの今後に思いを馳せていると、その当の本人は誰か知り合いを見つけたのか走って行ってしまった。
気になってその様子を眺めていると、赤髪の筋骨隆々の男の前でひざまずくといまだに目を覚まさないその男に熱烈なキスをしたのだった。
「ふっ……私の仕事は終わった。英雄はただ去り行くのみよ……」
いずれ私は賢者になる男だ。
そんなことに現を抜かしているようでは立派な賢者にはなることはできないだろう。
さらばだ魔族たちよ。
貴様らに絶望を味合わせたものの名をとくと心に刻み付けておけ。
私の名はヒトリ・シコルスキー。
それから国に帰ると私は国の魔法省に配属された。
魔族との戦争を終わらせ、和平にまでこぎつけた英雄として国王から称号を賜ることとなった。
その称号は【童帝】。
この国、いや、世界で童帝ヒトリ・シコルスキーを知らない者はいないとされる。
無性にネタに走った作品を書きたいと思って書き始めたはいいものの連載にしても長続きしないだろうと短編に挑戦してみました。
衝動のままに動く主人公と同じで私も衝動のまま書き上げたので違和感のある部分や気になるところもあるかと思いますが頭を空っぽにして読んでいただけると幸いです。
ラブコメの息抜きに書いたものなので若干はっちゃけ気味ではありましたが最後までお付き合いいただきありがとうございました。
ラブコメの更新は完全に不定期なので書き終わり次第随時投稿していきますので気長にお待ちください。
行き詰ったりしたときはこうして短編などでお茶を濁すこともあるかと思いますが今後ともよろしくお願いいたします。