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34.転生エルフ(106)、ヴリトラに約束を取り付ける。

「ぬはははは、こないだぶりなのだ。我が友リースよ」


「ずいぶん早いご帰還だね、魔力切れには早いんじゃないかい?」


 ヴリトラが自由を手に入れてから、まだ半年しか経っていないはずだ。

 魔力切れの心配もしたがヴリトラは首を振っていた。


「無論、お主からもろうた魔力はまだまだ尽きる気配はない。それどころかこんなことも出来るようになったのだ」


 ユグドラシル分枝下での威圧感が凄まじいヴリトラだったが、ポンと音を立てるとヴリトラの身体が一気に縮んだ。

 パタパタと可愛らしい翼音を慣らして俺の肩にちょこんと座るヴリトラからは、圧の欠片も感じられない。


「ど、ドラゴンさんが小さくなっちゃいました……? さすがリース様の魔力です。ぷにぷにしてて可愛いですっ」


 それどころか、ミノリが人差し指でぷにぷにとヴリトラの身体を突っつくほどだ。


「元々が魔力の塊から出来た身体だからかな。割と自由が利くんだろう。で、そこまでの自由すら手に入れたドラゴンさんが、またなんでこんな所に?」


 肩に乗ったヴリトラに問えば、「外界は魔族が邪魔で居心地も悪い。しばらく世話になろうと思うてな」とあっけらかんと答えた。


「魔王復活を数年後に控えた今、魔獣・魔族も徐々に瘴気を増して集結しようとしておる動きがある。そのことはお主も知っておろう?」


「……そうなんですか?」


 ミノリやジン君たち人間にはまだ気付かない程度の違和感ではあるからミノリが気付かないのも当然だ。

 最初に違和感に気付いたのは、ミノリと初めて会ってトゥラの実を渡された時だった。

 魔族や魔獣の活性化に繋がる「瘴気」が1%混じっていたあの頃と違い、今はそこらの実を拾ってくれば5%ほどと含量が増えてきている。

 ミノリが採取してくれている肉や魚も、一度は俺の魔法で瘴気抜きをしているほどだ。


 魔族領域に近いこの場ならまだしも、世界を飛び回ったヴリトラも感じるほどには魔王復活の予兆は世界を徐々に蝕み始めていたのだろう。


「それに夜は魔獣や魔蟲が以前より活発になっておる。いかに我とて眠る間に()が蠢いておるのはそれなりに不快なのだ。我は安眠のために魔族を倒すと決めたのだ。お主についておれば、魔王も倒せるのだろう?」


「相変わらず気ままな龍だねぇ。言っておくけど、魔王を倒すのは俺じゃないからね」


「なぬ!? お主ほどの力があれば、魔王であれども倒せように。てっきり、勇者候補の小童が《因子》を開花させ次第、魔法も因子も総取るものと思うておったのだ。お主なら出来なくもあるまい?」


 何という外道なことを思いつくんだろうか、このドラゴンは。

 ……とはいえ、それも不可能ではない。

 この世にはかつて魔族が使用した闇属性魔法の一種として、その者に宿る属性魔法を奪う属性吸収(トリビュートドレイン)、身につけた技能を奪う技能吸収(スキルドレイン)が存在したほどだ。

 数少ないが《因子》に関する書物もいくつかはある。読み込んで練り直せば、因子吸収(・・・・)なんて新しい魔法も出来ないこともないとは思うけど……。


「まぁ見てなよ。今はこうだけど半年経てば別人になるよ。もしかしたら、ミノリさえも越える逸材かもしれない。俺がわざわざ才能開花した彼から奪い取る必要がないことくらい、すぐに分かるからさ」


「ふーぬ」


「しかもちょうど良いところに来てくれた。ついでにキミには頼みたいこともあったんだ」


 ポリポリと脚で毛繕いをするヴリトラにある提案(・・・・)を耳打ちすると、彼女は動きをピタリと止めた。


「ぬはははは、面白い。良かろうなのだ。もしも残り半年で小童に相応の成長が認められたならば、の話ではあろうがな」


 そんなヴリトラの目線を受けるジン君は、変わらず一心不乱に剣を振り続け――。



●●●


 ――あっと言う間に、ヴリトラとの約束から半年後がやってきた。


「炎属性上級魔法魔力付与(エンチャント)焔ノ帯剣(ファイヤソード)ッ!!」


 目にも止まらぬ速さで魔力付与エンチャントを繰り出すミノリ。

 その対面で魔力を練るジン君の魔力妨害ジャマーには、今や突っかかりや淀みはほとんどない。


 ガァンッ!!


 木剣同士が激しくぶつかり合った瞬間、ミノリの魔力は霧散する。


「――ぐっ! 魔力付与(エンチャン)……」


「させません!」


 再びガンッ――、と。ミノリに魔力を溜めさせまいと、ジン君は木剣を間髪入れずに打ち付けた。

 ミノリが魔力を充填させる前にジン君が先に魔力を練り直す。

 半年前であれば、ジン君は魔力を充填し直すどころか練ることすら出来なかった。

 

 相手に体勢を整える隙を与えずに攻撃を続ける。ミノリも魔力を練る時間は早くなったが、こうも充填する寸前に魔力妨害(ジャマー)で防がれては溜めようもない。

 こればかりは、剣の技量で勝るジン君に分があるようだ。


「ほぅ。最初の頃と比べると見違えるようなのだ」


 それは思わず俺の肩で戦いの行方を見守るヴリトラも舌を巻くほどだった。


「人間というものは不思議なのだ。才能がないなら別の道を探せば良い。50年しか生きられぬ生命体にも関わらず、彼奴あやつのように平気で10年を費やしてしまう輩がいる。長命種(われわれ)にとっての10年と、人間(やつら)にとっての10年など同列にしようもないではないか」


「良くも悪くも彼は愚直だったんだよ。魔法がないことを言い訳にせずに、ずっと自分を磨き続けた。まさかここまで本当に1年休まず1日で魔力を使い切るとは思わなかったけどね」


 ここに来て、1回の立ち会いでも10分を越える激闘を見せることが多くなってきた。

 だがミノリも先輩弟子として負けてはいられない。

 額から滴る汗を拭うこともせずにジン君を見据え、剣を振るう。

 魔力妨害ジャマーを受けて魔力がいくら霧散しようと、あの手この手で炎の魔力を練り直し、突撃していく。


「何が奴等をそこまで奮い立たせるのやら。我々には分からぬな」


 「くぁぁぁ」と小さな欠伸をするヴリトラ。


「……執念だよ、2人ともね」


 最初の頃と比べると、今のジン君が1日で魔力容量分の魔力を消費しきるには膨大な時間と魔力錬成が必要になっていた。

 だが、それでもジン君は俺の言いつけ通り1日1回魔力を全て空にしてみせた。

 《勇者》因子が開花するか分からないのに、文句一つ言わずに俺の言葉を信じ続けてくれた。

 ミノリもそうだ。出会ってから10年もの長い間、文句一つ言わずに俺と行動を共にし続けてくれた。

 

「ふーぬ。お主、齢100を越えておる割には人間のような考えをするのだな」」


「とんでもない。彼らの方がずっと人間らしいよ」


 30年の人間生活を一度不意にしている俺なんかより、あの2人の方がよっぽど人間として輝いている。

 弾け飛ぶ魔法に迸る汗。

 両雄一歩も引くことなく、模擬戦は続く。


 ミノリVSジン君の立ち会いは今日で365戦目。

 この日の立ち会いにて、ついにジン君はミノリを前に一度も膝をつくことなく戦いを終えてみせたのだった。

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