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18.転生エルフ(100)、正体を暴く。

「ほわぁぁぁぁ……!」


「グリレット様にお願いされたから、今日は貸し切りにしといたんでねェ。たくさんお食べんさい」


 目の前に並べられた料理の数々を見て、俺よりもミノリのテンションの方が大きく上がっていた。


「り、リース様、わたしも食べてよろしいのでしょうか!?」


「ミノリの分もあるからたくさん食べるといいよ」


 俺の言葉に、グリレットさんも続く。


「聞くところによるとこの子も有名な冒険者らしいじゃないっスか。美味そうな魔獣があれば、ウチの食堂と素材取引も考えてみてほしいっスね。旦那たちの獲って来たモンなら高く買い取るぜ。言ってくれれば金ならこっちが全部支援しても足りないほどの恩はあるっスけどね」


「別に支援が欲しいから助けたわけでもないんだけどね。そうだな、どうしても困った時にお願いすることにするよ」


「そっスか。じゃ何かあればいつでも言ってくれ。旦那のために出来ることなら何だってするからよ」


 ――と、俺たちが話している横では「もっきゅ、もっきゅ」とこの世の物とは思えないほどのだらしない表情でご飯を食べ続けるミノリの姿がある。


 最近は野宿と魔獣の丸焼き、木の実が食卓のほとんどだった俺たちにとってマトモな食事というものもずいぶん久しぶりだったからな。


「そこまで美味しく食べてくれると、わたしも腕が鳴るねぇ。若い頃のグリレット様を見てるようだよ」


「シルファの飯がこの世で一番美味い。それは昔から変わんねェよ」


「あらあら、お上手ですこと。お元気になってなによりですねェ」


 おっと、グリレットさんの寿命の炎がほんの少しだけ煌きを増した。

 分かりやすいヒトだ。


 にっこりと優しい笑みを浮かべるシルファさんはミノリに告げる。


「後でこっちに来てみんさい、ミノリちゃん。良かったら、ミノリちゃんも作ってみるかい?」


「で、でもわたし、戦ってばかりでお料理をやったことがなくて――」


「いいんだよ、男の心を掴みたいなら胃袋掴んでおけば良いってのは昔から言われてるんだしねェ」


「り、リース様が喜んでくれるならやってみたいです……頑張りますっ」


「よぉし、決まりだね。リース様もあなたみたいな人が近くにいると心強いだろうて。シルファ食堂秘伝のレシピも教えてあげようかねェ」


 カラカラと笑いながら、シルファさんは厨房へと戻っていく。

 ご飯を食べ終わったミノリがそれにトテトテと着いて行く姿は、親鳥の後を追う雛のようだった。


「旦那、エルフとヒトとの間にゃ子供は出来にくいらしいっスよ。旦那んとこの族長が言うにはな」


「残念ながら今のところミノリにそういう感情は湧かないね」


「……それはなんとももったいないっスね。旦那が『うん』と一言頷きさえすりゃいいものを」


 事実、ミノリは俺より遙かに早く死ぬ。

 そんな中で好意を抱いたところで、後の800年をどう過ごしていいのか分からなくなるというのが本音だ。

 そう考えると、端からなかなか気持ちが湧いてこないのが現状だ。

 前世で妻も彼女もいなかったからと今世で奮起してみたものの、まさかここでつまずくなんて思わなかったが――。



 二人が完全に厨房の方へと入っていったのを見計らって、グリレットさんはテーブルの上の水を一気に煽った。


「ま、そっちはおいおい何とかなるんスかね。で、本題ってのはなんスか旦那」


 そう、グリレットさんを呼んだのには観光以外にもう一つ理由がある。

 

「グリレットさんは、魔族の存在を信じるかい?」


 門番くんにしたのと同じ質問をグリレットさんに投げかける。


「お伽噺の中の存在――って言いたいのは山々だが、そうも言ってらんねぇってのが正直なところっスね」


 意外にもグリレットさんは頭ごなしから否定しなかった。


「オレがくたばるまでの20年。親父から領地受け継いだ時とは比べものにならないくらいに魔獣掃討数が増えたんスよね。近年じゃ黒いオーラ纏った強個体も出てきてたくらいで。オレがやられたのもそいつっス」


「黒いオーラっていうのは例えばこんな、グリレットさんの身体を蝕んでいたものだったり?」


 そう言って、俺はグリレットさんの身体から除去した瘴気塊を見せる。


「っス。しかもそいつ、俺が気を失う前に言語を喋ってた気もするんスよ。魔獣が言語を話すなんざ聞いたことないんスけど……。でもあれだけは記憶にもや(・・)がかかったみたいに思い出せねぇ。なぁ、リース様。リース様は確か、めちゃくちゃ魔道書読んで魔法の勉強したって言ってたっスよね。ちょいとオレの頭ん中いじくって、見れるモン見たり出来ないもんスかね?」


「ん、出来るね」


「――っははは、まぁ流石にそりゃ無理って出来るんスか!? ……エルフってのは何でもありなんスかね……?」


「たぶん、グリレットさんのもや(・・)は向こう側から仕掛けてきた記憶操作の魔法だよ。それならこっちも同じ魔法で相殺してやればいい。魔族記憶操作魔法、追憶の引き出し(メモリーズ・ラスト)


「……リース様が一番魔族みたいっス」


 再びくしゃっと笑みを浮かべたグリレットさんは、全幅の信頼を置いて俺に頭を差し出してくれた。

 魔力をグリレットさんの頭の中に流し込み、所定の時間軸の記憶を今に掘り起こすための魔法だ。

 記憶操作魔法を生み出した魔族が、記憶操作魔法を逆手に取られるとは思わなかったことだろう。



○○○



 ――こんな人間が1人で刺客を食い止め続けてきたのか。前線から被害が大きいからと出張ってみたが、《勇者》因子もないながらよく戦うものだ。だがまぁ今回はハズレだな。


 目のかすんだグリレットさんの視線の先には、一つの人影があった。

 側頭部には、明らかに人間のそれとは違う角が生えている。


 ――ドウスルツモリナノダ? 


 もう一頭。グリレットさんを見下ろすそれは、黒いオーラを纏った狼のような体躯を持つ魔獣だった。


 ――適当に嬲っておけ。今まで通り適当に均衡を保たせておけば、自然と《勇者》因子持ちも向こうからやってくるだろう。見つけ次第、その芽が育つ前に狩り取れば良い。


 ――ムゥ。ワカッタノダ。


 ――魔王様の復活を前に不穏因子は全て刈り取る。それが我等が魔族復権のための第一歩なのだよ。



○○○



「……しっかり自己紹介してたね」


「何を呑気なことを言ってるんスか」


 グリレットさんは額に汗を浮かべる。


「お伽噺の中の存在であるはずの魔族が蘇ったなんてことが触れ回ることになれば、世界中が大混乱スよ!」


「そんなこともない。彼らの目的が分かった以上、やることは簡単だ」


 大事なのは、待つ(・・)ことだ。


「ククレ城塞の最前線で《勇者》因子持ちの人間が出るまで待ち続けて、魔族よりも先に見つけてこちら側で保護するんだよ」


 待つことは簡単だ。

 何せ、俺は森の外に出るまで100年間を待ち続けたエルフなのだから。

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