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青薔薇流儀

「な――なんで出撃命令出ないんですか! おかしいでしょう!」


 カミナの憤りは当然だ。が、パトリックは命令が出ないことも自然とだ考えている。

 上はパッケージに執着している。大きな平和の前では、小さな平和など容易く切り捨てられる。

 市民の虐殺も、平和のための尊き犠牲の一言で片づけられるわけだ。

 モニターの中で繰り広げられる惨劇を、しかし仲間たちは直視している。


「くそったれ管理局の考えることっちゃあこんなもんだ。これだとレジスタンスに鞍替えしたくもなるねぇ」


 とノマドが茶化すように呟き、


「なんてそれはねえよな。あいつらも十分くそったれだ」


 直後に手に持っていたコーヒー缶を握り潰す。


「でも、いいんでしょうか? 勝手に出撃待機なんてして……」


 ミリノラが緊張の面持ちで訊ねる。


「いいんじゃないです? それくらいさ」


 カイルがぶっきらぼうに言う。サーシャも頷いた。


「そろそろですかい? 隊長」


 ファルコンが質問を投げた瞬間。


「来たな」


 ピースメーカーが、戦場に現れる。



 ※※※



「数が多いな」


 とりあえず、風使いの男を始末し、女をいたぶって遊んでいた子どもは無力化した。

 ピースメーカーの性能と暮人の実力があれば、単独での制圧は容易だった。

 しかし、その間に救えない命が出てくる。

 だからこその。


『大したことじゃない。こいつらは全員能力頼りだ』


 銃声が響く。後方からの狙撃だ。

 加藤も出撃している。予備機の試運転も兼ねた戦闘だ。


「新兵器を試すにはもってこいか。カタ、転送システムの調子は?」

『試してみないと何とも』

「装備の完成はまだか?」

『まだかかる』

「わかった」


 ピースメーカーが、無意味に破壊された町を疾走する。

 町には五十人規模の敵が入り込んでいたようだ。

 数さえいればどうにかなる。単純思考の超能力者。

 この破壊活動も、気を晴らすための行為。


「そんな奴らに負ける気しないぜ」


 暮人は誰もいない空間へ拳を放つ。

 高速移動してきた超能力者が地面に転がる。銃で追い打ちした。



 ※※※



 ボルトを動かし、排莢と装填。スコープを覗く。

 ゆっくりと息を吐きだし、引き金を引く。


『調子はどうだ?』

「問題ないな。心配してなかったが」


 加藤は建物二階に身を潜めながら狙撃を行っている。

 風貌はシビリアンカスタム。

 民間用強化鎧をカタが改造し、戦闘型に仕上げた。見た目はセンチネルシリーズと変わりないが、全体的に装甲が薄いモデルだ。剥き出しだった頭部と、肩部と脚部に装甲が追加されている。

 カラーリングはベージュ。前の持ち主の趣味らしい。

 それなりに目立ってしまうが。


「好都合だ」


 加藤を見つけた――正確には見つけさせた敵がこちらへ様々な能力を飛ばしてくる。

 加藤の予想通り。廊下を走り、等間隔で設置されている窓に到達した瞬間発砲。

 コッキングし、別の窓から撃つ。それの繰り返し。

 敵の能力は、この戦いぶりを見れば一目瞭然だ。

 加藤は前方で闇雲に攻撃する超能力者たちを全滅させ、


「ふッ!」「ぐべッ」


 背部に転移してきた転移能力者の頭に銃床をめり込ませた。


「他にも使い道はあっただろうに」


 一目見ただけで、加藤はよりよい能力の使い方をいくつも思いつく。

 しかし彼らは有効利用できなかった。或いは、状況が許さなかった。

 管理局は横暴だ。それはわかる。

 人間社会に居場所がなかったことも、身に染みている。

 加藤がかつて提案した超能力者社会貢献計画は全て却下された。

 平和的超能力発現案も、その全てが。


「しかし、これはない」


 加藤は引き金を引く。男児を強姦しようとしていた女の頭が吹き飛んだ。



 ※※※



 触れた物を槍状に変化させ、突撃してくる超能力者。意味のない突撃は愚策であるとその身で知ることとなる。

 暮人は左腕で槍の柄部分を弾き、その眉間に銃口を突き付けた。

 発砲音。同時に通信。


「このペースだと、試験できないかもな」

『ふん。終わったぞ童貞』


 転送中の表示がフェイス内に現れる。目の前の空間から、徐々にパーツが構築されていく。一部の大型軍事施設でしか運用されていない転送システム。その小型版がトレーラーに搭載されていた。

 あいつがもらったプレゼントは豪華絢爛だ。


「加藤もたまには役に立つ」


 ちょうど背後から足音が聞こえる。ステルスをしているつもりだろう。

 ならばこちらも気づかないふりをして、精製された銃把を握り背後へ勢いよく振り向いた。

 カチッ。


「ん?」


 暮人は固まる。レジスタンスの暴徒も。

 時が、一瞬止まる。

 暮人が提案し、カタが設計・開発を行ったソレは、ピースメーカーの手中に存在した。

 銃把パーツだけが。


「なんでだ」


 暮人は横っ飛び。氷の弾丸が立っていた場所を通っていく。


『なるほど。転送量に限度があるのか』

「早く言えよ」

『加えて、ん。そっち』


 地図にマークが施された位置を見る。と、分割された別パーツが精製されているところだった。


『位置も不安定』

「くそッ」


 敵の攻撃を避けることは容易だが、こんな話は聞いていない。

 暮人は鬼ごっこよろしく逃げ始める。敵は嬉々として追いかけ始めた。

 出現したパーツを取る――胴体部分。銃把を取り付け前転回避。


「銃身は!」


 持ちやすくなっただけで状況は変わっていない。頭上を飛んで行った炎を見送った後、曲がり角を曲がる。バレバレな待ち伏せをしていた女を殴り飛ばし、建物の壁へ跳躍。反対側の屋上へ飛び乗り、浮遊してきた超能力者を拳銃で墜落させた。

 ようやく転移が完了する。手に入れたのはストックパーツ。


「これじゃないんだが」

『うるさいとモテないぞ』

「モテなくていいから銃をよこせ」


 指定された座標めがけて飛び降りる。位置は空中。着地直前にキャッチし、胴体部分に差し込む。

 ようやく銃身ができた。ある程度組み立て状態で転送されたので、これで使用可能になった。

 問題はマガジンだが。


「マガジンはどこだよ」

「そっちへ走れ」


 手狭な通路を走り抜ける。途中で生成された部品を落下寸前でキャッチ。

 スコープを悪態つけながら取り付ける。


「だから」

『その先』


 暮人は先に転送ポイントが出現したのを確認。同時に、大量の敵が背後から迫ってくるのを把握した。


「仕方ないな」


 疾走する。超能力者たちも束になって追いかける。最後のパーツを入手し、突き当りを右へ移動。

 振り返り、チャージングハンドルを引いた。


「鬼ごっこは終わりだ」


 一番早く突っ込んできた敵の頭に穴が開く。パワードメイル用に調整されたアサルトライフルは通常のライフルより反動が強い。

 強力な弾薬を使っているからだ。引き金を引くと、敵の命が消える。

 追う者は追われる者に様変わりした。しかし、先ほどの弱弱しい鬼よりもピースメーカーは追跡者として優秀だ。

 反動を完璧に制御して、トリガーを軽く引く。銃口から三発の弾丸が、敵の急所を的確に射抜いていく。


「いい具合だ」

『流石あたしだな』

「俺の腕を褒めるところだ」


 確かにカタはメカニックとして優秀すぎるが。


「あいつの戯言も役に立つな」

『何のことだ。関係性が皆無だが?』

「そうだな」


 そういうことにしておこう。カタの技能に加藤は関係ない、ということに。


「さてこのまま殲滅と――」

『……妙だな』

「管理局でも来たか?」


 さしもの冷酷非道な組織でも、標的が現れれば出張ってくる理由になる。

 しかしだとすれば早すぎる。事前計画では管理局遭遇前に殲滅できるはずで、設定された目標達成限界時間にはまだ余裕がある。


『動きが速い。……あたしの判断正しかっただろ』

「そう言うな。結論には早い」


 暮人の勘が正しかったと証明するチャンスはまだある。

 オレンジ色の装甲が目に入った瞬間、銃撃が飛んでくる。暮人は避け、あえて広い道路へと向かった。

 町の主要道路では放置された車といくつかの死体が転がっている。


「さてと……」


 暮人は周囲を見渡す。目に入ったのは見覚えのある鎧。

 虜囚部隊用のパワードメイルセンチネルS。その、隊長。


「未来予知、便利すぎるぜ」


 と言いながらも、実際に有能なのはこの隊長だ。

 だからこそカタはとどめを刺せと言った。

 果たして、その判断は吉と出るか凶と出るか。

 隊長が動く。

 ハンドガンの抜き撃ち。暮人は右に軽くしゃがんで回避し、


「ぐぼ……」


 背後でレジスタンスの暴徒が絶命した。


「ほお」


 暮人はアサルトライフルの狙いを定める。

 隊長は一歩左に動いた。レジスタンス少女兵の足が撃ち抜かれる。


「どうだ? カタ」

『結論が速いと言ったのはお前だぞ』

「わかったって」


 暮人は走り出す。隊長もこちらに向かって駆け出した。

 肉薄し、オレンジ色の胸部を軽く殴る。隊長は後ろに倒れ、その衝撃で右へ放たれた銃弾が、エネルギー球体を構築していた女の心臓を貫く。

 隊長はピースメーカーの脚部を足払い。一瞬宙に浮かんだ暮人は、ライフルの照準を雑居ビル二階から急襲しようとしていた男たちに合わせた。

 薬莢を地面に落下させ、態勢を整える。隊長も起き上がった。


「今からお前をぼこぼこにするぜ、名前もわからない隊長さん」

「望むところだ。正体不明のテロリスト」


 拳が交差する。頭部側面を通過した殴打が、互いの本命に命中した。



 ※※※



「計算外だが、これはいいな……うおっと!」


 加藤は慌ててレーザーを避ける。狙撃場所としていた民家の二階に穴が開いた。中を見ると暴徒が溶解していた。


「いや、よくないぞ。隊長はともかく、部下たちからは敵意を感じる」

『頑張れ』

「他人事だと思ってなぁ……。わかっていると思うが」

『こっちの位置を特定しようとした奴は封殺中……封殺で済ませてあげてる』

「うっかり攻撃しすぎるな。連中の本気度が上がる」

『あたしは上げても一向に構わんが?』

「お前は安全圏だからな! くそっ!」


 特に狙撃手の殺意がまずい。何か悪いことをしたか? とさえ思いたくなるほどに。


「隊長を傷つけたのは私じゃないんだが!」


 あわよくばこちらを倒してしまおうとする銃撃を避け、反撃。放たれた弾丸は敵狙撃手ではなく、その下から迫っていたレジスタンスの暴徒だ。こんな回りくどいやり方は面倒なことこの上ないが。


「だが、市民を助けようとする意志は尊重する……うおッ!」


 爆発が起きる。悲鳴を上げながら加藤は民家から飛び降りた。


 

 ※※※



『残敵、すごいスピードで減っています。これなら、増援部隊が到着する前に片が付きます……けれど』

「君が言いたいことはわかる」


 パトリックはカミナと、そして仲間たちのほとんどが抱く想いに気づいている。このまま敵を捕縛すればいい。増援もくる。今度こそ勝てるのではないか。

 その判断は正しい。管理局の兵士として。


『一兵士としてこのまま見逃すのは惜しいって提言しておきますよっと』


 別地点で交戦中のノマド。カイルも同調する。


『叩ける時に叩かないと後々こちらが叩かれるのでは?』

「兵士として、君たちの意見には賛成だ」

『でしたら……!』

「だが、俺個人として賛同できない」


 オレンジ色のフェイスマスクから灰色の鎧を見つめる。彼が殴り掛かってくる。

 パトリックは背後から奇襲してきた敵を正面に投げ飛ばした。その敵の眉間を銃弾が貫通。拳銃を握りしめた手で灰色鎧に殴り掛かるといとも容易くいなされたが、躊躇いなく発砲。

 いなされた先にいた暴徒は驚愕の表情で死んだ。


「彼らは市民を助けた。戦術的に間違いであるにも関わらずな」

『まぁ敵だからと簡単に倒していい敵じゃないのは確かですね。この狙撃手もなかなかやり手です。さっきから殺そうとしてるんですが』

『サーシャさん、こほん、矛盾してます……』


 呆れながらサーシャを指摘するミリノラもまた、パトリック側のようだ。となれば、判断は最後の一票に委ねられる。年長者のファルコンから通信。


『敵の性能が未知数な以上、深入りせずデータ収集に充てるのは戦場の基本ですぜ』

「わかった」


 残敵数四。敵鎧はこちらを見ている。


「君は強そうだな」

「あんたもな」


 一度戦えば、相手の力量が正確にわかる。

 心情的な理由で交戦を忌避しているのは確かだが、性能面での不安もある。

 既存のセンチネルシリーズではこの正体不明鎧には勝てない。

 相手が弱ければ勝てる。しかし彼は強い。

 前回とは違い、支援機の出撃も確認している。


「残敵を殲滅後、撤退する」

「犯罪者らしく逃亡させて頂くぜ」


 敵鎧は腰からスモークグレネードを取り出し、使用。煙が充満する中、鋼鉄の足音とトレーラーが走り去る音が響いた。

 しばらくして、轟音が響く。輸送ヘリが十機ほど飛行している。


「近所迷惑だ」


 パトリックは呟くと、集合地点へと走り出した。





「進捗は?」


 帰還した虜囚部隊ナンバー7は早速仕事にとりかかっている。


「これです。前回、装甲値が変動している、と言いましたが……」


 ミリノラがキーボードを叩く。画像データで、腕部と脚部のパラメータの数値が表示される。戦闘中、敵鎧が別の敵を攻撃した瞬間数値が低下していた。


「敵に合わせて出力も変えてるということですか……?」


 カミナが目を見開く。カイルも信じられなさそうだ。


「すごいんですけど、損してませんか? これ、性能が下がるってことですよね」

「逆に言えば、オーバーキルしなくて済むってことだ。デメリットにも、メリットにもなるぜ。省エネだしな」


 ファルコンが補足する。


「まぁ、普段苦戦しない敵にも苦戦しがちになるってことでもあるんですがね」

「といいますが、完全に弱くなる、というわけではありません。最低値でも我々のメイルより性能は上のようです」


 サーシャの説明にノマドは鼻を鳴らす。気に入らないようだ。

 そして、それは隊員たち共通の想いだ。


「明らかに……管理局製のメイルですよ」


 分析を終えたミリノラが断言する。

 レジスタンスの設備では、これほどの性能の鎧を生産することは不可能だ。極秘裏に開発されている鎧があるとしても、レジスタンスに奪取されたのだとしたらこちらにも情報が回される。

 情報が入ってこないのは、こちら側の失策であるからだ。

 そして、隠したいこともあるのだろう。


「結局……パッケージって何なんです? あのメイルは何なんですか? なんでみんなあの少女に固執するんです? 本当に、噂通り……平和に――」


 カミナが続けようとしたその時、自動扉が仰々しく開く。そこから現れた男は憤怒の形相で声を荒げた。


「貴様ら私を出し抜けると本当に思ったのか!?」


 パトリックは無言で男を……オドヴィール上級管理官を見据える。彼の怒りの理由は容易に推察できた。


「この茶番を見せられて、私がお前たちを褒め称えるとでも!? 奴らを……平和をむざむざ逃したな! なぜだ?」


 オドヴィールがパトリックに詰め寄ってくる。その胸倉を掴んだ。


「なぜピースメーカーを逃した……!?」

「初耳ですね」

「なっ……」


 オドヴィールが動揺して手を放す。パトリックは彼に見えない角度で部下たちにハンドサインを出す。

 待機維持、と。


「……こちらで、名称を付けたのだ。呼び名がないと不都合であるからな」

「誤魔化しですか」


 カミナが年相応の若さを見せた。オドヴィールの目が血走り、彼女へと手を伸ばす。


「きゃっ!?」

「……」


 しかしパトリックは動かない。オドヴィールは彼女の腕を掴んで引き寄せた。


「離して!」

「勘違いするな。私はお前たちに罰を与えに来たのだ。お前らは全員懲罰房へ収容だ。囚人らしくな。……お前は私の部屋に来い。教育してやる」

「離してこの変態親父! 隊長……!」


 助けを求めるカミナ。オドヴィールを無力化することは可能だ。全員でならもちろん、一人でも十二分に。

 だが、権力がそれを許さない。パトリックは管理局に所属する兵士だ。

 ゆえに黙す。

 従わざるを得ないから。

 従っていても、問題ないから。


「大人を侮るとどうなるか、じっくりとその身体に――」

「こちら第七部隊の臨時待機室ですね」


 オドヴィールの背後から静かな、しかし響く声が聞こえる。

 驚いたオドヴィールがカミナを離し振り向いた。

 立っていたのは白の軍服に身を包み、ベレー帽を被る女。

 年齢は二十歳程度。銀髪で黒の手袋を両手に嵌めている。


「特務実行管理官エスト・オーロラ、本日より着任します」


 エストと名乗った女性は室内を見回す。そして、気にせずに話し始めた。


「当方がなぜ着任したのか、これより説明します。まずこちらのデータを……」

「待て、待て待てなんだ貴様!」

「該当記録はログを参照してください。まずあなた方が疑念に思っている計画についてですが」

「ふざけるな! 私を無視するな! 私は上級管理官だぞ。貴様より――」

「あなたより管理権限は上です。これ以上の時間超過は――」

「バカを言え!」


 カミナに掴みかかった要領でオドヴィールはエストを掴もうとする。

 が、逆に右腕を掴まれ関節をキメられた。そのまま窓際へと近づいてく。


「強制排除の対象となります」

「止せッ――うわああああああああ!」


 パリンという音の後に、物体が落ちる音が響いた。


「……良かったんですか?」

「はて? 二階です。加減もしました。問題ありません」

「そういうものですか……?」


 カミナの当惑にエスト・オーロラは付き合わない。だが、彼女の戸惑いは膨れるばかりだ。


「でも訴えられたりとか」

「……」


 エストは何も言わなくなった。


「もしかして、私も、強制排除とか……?」

「まさか。定型的に行うわけではありません」

「ならよかっ――」

「必要に応じてですね」

「カミナ、静まりまーす」

「ではこれを」


 エストは腕時計型端末を軽く操作する。


「えっ、えっ?」


 戸惑うミリノラ。彼女が使用していたデバイスが勝手に動いている。


「少しハックさせて頂きました」

「え? あれ? 私一応ウィザード級ハッカー……」

「見てください」


 表示されたのは幾度もブリーフィングで叩き込まれた顔。

 パッケージと呼称される青髪の少女。


「ナンバー0567489。通称パッケージ。平和のためのピース……呼称は複数存在しますが」


 画像の下に名前が追加される。


「コスモ。そう自ら名付けたようです」

「けれど名前なんて――」

「どうでもいい。確かにその通りです、ノマド隊員。ですので」


 次に表示されたのは、二度対峙した鋼鉄。

 技能と判断力、優れた仲間を持つ男が使う鎧。

 V字のブレードバイザーを見間違うことはない。


「ピースメーカー……」

「そうです。ピースメーカー。管理局のとある計画のために開発された、超能力及びあらゆる敵性存在に対する適正対応を可能とした万能型特殊機動強化鎧――」

「説明書のまま読むのやめてもらっていいですかね……」


 おずおずと手を挙げたカミナにエストは頷く。


「新型メイルです。一年前に奪取された」

「厳重な警備をどうやって……? そもそも安全装置は?」


 サーシャが疑問点を呟く。通常強化鎧にはセーフティが搭載されている。盗んだとしてもロックを解除できなければどうしようもない。

 虜囚部隊に配備の強化鎧にはリミッターもある。

 それに、ワンオフ仕様なら生体認証も当然あるはずだ。


「当方も全てを承知しているわけではありませんが」


 画面が切り替わる。計画立案書だった。


「話を始めましょう。ピースメーカー計画について」

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