狙撃的教授(分野:超能力)
「啓介。これは必須技能ではない。だが、この時代、この世界では、持っていて損のない技術だ。お前が何になりたいかは知らない。これを面白く思っていないことも知っている。だが、俺は保護者として、与えられるものを与えておく」
髭を生やした男が、啓介少年に長物の銃を手渡した。
狙撃銃。人を殺すための武器だが、男曰く。
「人の殺し方を知ることは、人を殺さない術を得るのと同じだ。世の中にはもう手遅れの奴もいる。また、そうじゃない人間もいる。後者を殺してしまうのは、ただの未熟に他ならない」
啓介少年は頷き、コッキングレバーを引く。スコープを覗いて空き缶へと狙いを澄ませ、引き金を引き絞る。
「やはりこれは時代遅れだ。違うか? 暮人」
「暇つぶしには最適だと思うがね」
夕暮れ時、帰路の最中。高校生の啓介と暮人は缶ジュースを飲みながら話している。
公園の中では数人の子供が遊んでいた。
「誘った俺が言うのもなんだが、よくあんなのに付き合えるな」
「どうせやることもないしな」
暮人は男の訓練に積極的……とは言えないが、消極的だというわけではなかった。
こいつが何を考えているのかは啓介にはわからない。
ただ、見ていて面白い奴だった。
自分の名前が平凡でなければ出会わなかった男。
「やはりこの名前は気に入らないが……」
「またその話か。懲りないな」
「お前はクールな名前だからそれでいいんだ」
啓介は空き缶をゴミ箱に向けて放り投げる。距離があったが、外すことはない。
「……またいた」
声を掛けられて振り返る。紫髪の小学生が不思議そうにこちらを見ている。
「また会ったな、少女」
「この子は? 知り合いか?」
暮人が訊ねる。啓介は頷いた。
「すごい子だ。立花家を知ってるだろう?」
「親父さんが言っていたな。すごい剣使いだと」
「親父のことはいい。とにかく、そこの子でな。名前も実にクールだ」
「また名前絡みか?」
立花は氷のような表情のままだ。しかし啓介は気にしない。
「片菜だ」
「刀?」
「片方に山菜の菜だ。名前で苦労しているタイプのようでな。俺はカタと呼んでいる。カタ、こいつは暮人だ。日影暮人」
「なるほど、よろしく」
「……よろしく」
暮人はカタと握手を交わす。
夕日が綺麗に輝いていた。
※※※
画面の中では、黒い恰好をした男が通路を進んでいる。施設の警備はそれなりに充実していたが、彼の前では何もないことに等しい。
自分たち――青薔薇の会とかいう妙な名前の組織相手では。
「ここのセキュリティはザルザルだな」
片菜からしてみれば、朝飯前の仕事だ。
今は加藤が作ったくそまずい夕食を食べながらだが。
潜入中の暮人が、難なく警備員を無力化した。
『奴らはなぜ使えない物を保管しておくんだろうな』
「沖田博士は天才だからな。もったいない精神だ。豚に真珠、猫に小判、馬子にも衣裳だがな」
彼が死んだせいで、管理局の開発計画は大幅に遅延した。
凍結になったプロジェクトも多い。
「カタ、扉だ」
「ん」
キーボードに軽く触れるだけでドアが開く。
この前の奴に比べれば簡単すぎる仕事だ。
(あいつはなんだった)
片菜はあのハッカーに想いを馳せる。
ハッキング技能の練習ついでにハックした管理局ネットワークは風通しの良い吹き抜けだった。この程度のセキュリティでよく社会を支配しているなと感心していたら、突然、攻撃を受けた。
初めて敵と思えるハッカーだった。その後何度か管理局を狙ったが、相対することはなく。
ただの偶然だと思っていたが、まさかここで出くわすとは。
『カタ、迂回ルートは?』
暮人が二人の警備員の前で立ち往生している。発覚せずに進むなら迂回か気を逸らすかして通り過ぎるべきだが、
「時短にしろ。どうせ気取られるんだから」
「それもそうか」
暮人がお眠な警備員たちの前に姿を晒す。警棒を取り出し、反応が遅れた男を殴り倒し、銃を構えようとした警備員の腹に突き刺した。
素性を隠すためのステルスは有用だが、気づかれても問題ないならもたもたしてもしょうがない。
目的の品は情報通り棚のケースに入っていた。クズもたまには役に立つ。
『腕時計か?』
「時計は大事だぞ」
『加藤の奴は好きそうだが』
暮人がケースごと回収する。後はナビゲートも不要だ。
『離脱する』
「何かあったら呼べ」
片菜は別のモニターに目を向ける。開発中のシステムがいくつかある。
既存のシステムをアップグレードする作業は、ゼロから何かを作り出すよりは遥かに楽だ。
それでもなお、困難を極めるのが、ピースメーカーの開発だった。
(タダより高い物はないか。童貞じいさんどもめ)
悲しいかな、沖田博士は天才だった。
ゼネラル教授も、超能力研究のスペシャリスト。
その二人が開拓した道は険しいという言葉では足りないくらいだ。
(だとしてもな……後は時間さえあれば。それに、好みの機能を付加させてもらった)
限定解除。開発計画には含まれていない機能。
これがあれば、過程をいくつかショートカットできる。
「さてと……」
片菜は背伸びをする。技術者の敵は自分自身の身体だ。いくら若いとは言っても、長時間椅子に座りっぱなしは辛い。
「起こすには早いな」
まだ六時だ。加藤は休憩スペースで寝息を立てている。コスモは言わずもがな。
そうだ。すやすや寝ているのだ。
可愛い幼馴染がいても、そういう気を起こすことなく寝ている。
「どうなってるんだ」
年頃の男女がいっしょにいるのに、ここの男どもは行動を起こさない。
いや、暮人は仕方ない。なんかあいつはそういう奴だから。
しかし加藤はどうなっているのか。理性が強すぎないか。
「まぁコスモを襲いだしたら殺すが」
杞憂に過ぎない言の葉を吐いて、リフレッシュのため外に出る。
木々の間から漏れる朝日が眩しい。
トレーラーは林の中に停車していた。携帯端末を取り出し、何気なくニュースサイトを巡る。
諦めることになった品々が画面に表示される。
「はぁ……」
割り切ってはいるが、やはり惜しくないと言ったら噓になる。
ゲームや映画、アニメなどのサブカルチャー。
直接現地に向かわなければ食べられない料理の数々。
お出かけや買い物などもってのほかだ。片菜が子供の時に夢見た数多のデートプランは海の藻屑となり果てた。
「仕方ないな」
仕方ないのだ。
だって加藤がいるのだから。
あいつがやりたいと言ったから、その瞬間に諦められた。
「さっさと戻って――む?」
ふとニュースの一文に目が留まる。
あの伝説の映画が、マニア垂涎のコレクターエイディ――。
「ふおおおおおお!!」
年甲斐もなく叫ぶ。何十何百と見たあの映画。
あれのコレクターエイディションが復刻する。
その情報が片菜の欲望を刺激した。強めに。
(欲しいこれは欲しい絶対に欲しい今を逃せば手に入らないけれどこういうタイプは足がつく恐れがあるからママに頼むかいや難しいパパなら或いはいやダメか)
ちらりとインビシブルトレーラーを見る。逡巡の後、ため息を吐いた。
優先順位は加藤。
それに、暮人やコスモを裏切るのは忍びない。
片菜はトレーラーの入り口に手をかけ、
「やっぱダメだ耐えられない買うぞお!」
普段とはかけ離れたテンションで、購入とタップした。
※※※
「戻ったか」
「ああ」
加藤は部下に労いの言葉を投げかける。暮人は素っ気なく返事をして、ソファーに腰を掛けた。
「取ってきたぞ」
「例の小型デバイスか」
加藤が中身を検める。腕時計が四本。
「時計は大切だからな」
「カタも似たようなことを言っていたな。現代じゃコレクターアイテムだろ」
それこそ、時計が重要だったのはかなり昔の話だ。今は、携帯端末さえあれば、大概のことはどうにかなってしまう。
「カッコいいだろ」
「相変わらずだな」
大事なところだ。世の中はかっこいいかどうかだ。
「急いで渡す必要もない」
加藤はテーブルにケースを置き、カタが収集した情報を閲覧。
「よくやってくれてる」
「そうだな」
情報収集に機械工作。ピースメーカーの開発。
戦闘要員でもある。
カタがいなければ、青薔薇の会は成立していない。
「感謝するんだぞ。ちゃんとな」
「言われなくとも」
言語で言い表せる限界を超えていそうだが。
「そろそろコスモを起こして――」
朝食にしようと加藤が立ち上がった時、トレーラーの外に生体反応が示された。
暮人が拳銃に手を伸ばす。加藤は頷いて外に出る。
意外な相手がいた。
犬のマークがついた帽子を被り、制服に身を包んでいる男。
「ドッグマークです。荷物のお届けに参りました」
犬印の宅配サービス。大手通販サイトの配達員だ。
宛先を見る。カタ宛て。観察したが、不審な点は見られない。
挙動も素人。配達員としてはプロだが、戦闘員ではない。
「サインお願いします」
「どうも」
逃亡生活以前に慣れ親しんだやり取りをして荷物を受け取る。
中に入る前にスキャンする。不審物ではない。
「何だったんだ?」
「荷物の宅配だ」
「……まずいんじゃないのか」
暮人の指摘は正しい。目をこすりながらコスモが起きてきた。
そして、不安そうな顔を作る。
加藤はカタを起こした。
カタはいつも通り悪態をつきながら起床した。
「まだ交代には早い……これは?」
カタは荷物を怪訝な表情で見つめ、
「……っ、ごめん」
何かを思い出して謝罪を口にする。
「ごめん、加藤、ごめん……ごめん……!」
「もういい。休んでいろ」
加藤はそれ以上何も言わせない。ショックを受けたカタが自分用の休憩室へ戻っていく。
「加藤、あの……」
「コスモ、朝食がそこある。暮人、頼むぞ」
「わかってる」
暮人は全て理解していると言わんばかりに軽く手を振る。
「私は少し調べ物をする」
加藤は運転席へと移動した。
静かなる怒りが全身を駆け巡っている。
※※※
「オプティス殿より連絡があり、標的を見つけたとのことです」
「ふむ」
フードを被るマルセフはあまり関心がなかった。
「これで探しやすくなりました。ですが……」
「もちろん、俺は出撃しない」
副官のオズワルドは驚く様子を見せない。
「既にオプティス殿には彼らの仲間と共に攻撃命令を出しておきました」
「すまないな」
マルセフは本の続きを読み始める。
「我らは優れた力を持っている。ゆえに……高潔であらねば」
心構えこそ、持つ者には必要だ。
※※※
分析を終えた加藤は銃の手入れをしていた。
時代錯誤。遅れた技術。
今は超能力の時代だ。
だがふとした時に。
昔ながらのものが必要になることがある。
無駄な学びはない。必要なものも不要なものも。
コッキングレバーを引き、弾を薬室へと装填する。
「終わったか?」
ジャストタイミングで暮人が声をかける。
「ああ」
全ての準備は終わっている。加藤は奥に佇んでいる鎧を見つめた。
「やるぞ」
「了解」
二人は語らずに動き出す。
※※※
オプティスという超能力者は歴史に名を遺す者である。
超能力者たちの救世主として。また、神として。
「いとも簡単に釣れました。流石ですね」
「無論であろう? この私だ」
高貴な者にふさわしい態度で返答したオプティスと、その仲間はあっさりとたどり着いた。目的のトレーラーは目には見えないが、確かにそこに存在する。
「我が盟友ストリフ殿の敵討ち、早速始めさせてもらおう」
例えまぐれ勝ちだったとしても、あのように下等な存在は許されない。
部下の超能力者を侍らせて、歩む。
対象は外に出ていた。緑のコートを着る男だ。
「貴様が、なんだったか……」
「青薔薇の会だ」
男はうんざりした口調で応じた。不遜な人間だ。
「そうだ、そのように、ふざけた名前だ」
にんまりとオプティスは笑う。
「そして貴様がそのリーダー……プロフェッサーとか言っていたか? 研究室に引きこもってばかりの、根暗な研究者がそうやって外に出ている……評価してやろう。しかし貴様も大変だな――」
「いろいろ調べさせてもらった。すぐに見つかったよ。お前のデータは」
「ほう?」
いきり立つ部下を抑えて、オプティスは促す。
「数年前、突如として一つの街が暴力、強盗、強姦、果ては殺人まで……様々な犯罪行為に呑まれたことがあった。その事件の加害者は口を揃えて自分を抑えきれなくなったと話したという」
「人は所詮醜い獣……という話か?」
「確かに、人の中には自分の思い通りにしたいという欲求がある。対象が何かは人それぞれだがな」
「であれば」
「そして、その事件と同じ兆候が付近の街にも見られた」
「獣は人の数だけ存在する、ということだな」
「精神系サイキッカーの厄介さは、超能力学を語る上で外せない。ましてや、世界に喧嘩を売るとすればな。幸い私はクソ親父……失礼、師のおかげでそういうものに耐性が付いている。例えばお前の後ろに控えているメンタルコントローラーに攻撃を受けても、私には、そして仲間には効かん」
オプティスは訝しんだ。どうしてこいつは部下の能力に気付いている?
「そう難しいことじゃない。お前の両隣の男たちについては断定できないが、一人は攻撃特化。もう一人は防御系か。まぁ、戦術の基本だな」
脳裏をよぎるのはあの忌々しい持たざる者。ヘクトール、などと呼ばれた人間だ。
「研究者にしては、戦いを知っているじゃないか」
「こんなもの、自慢にはならないが」
「それは確かに。どれだけ訓練を積んだところで、我らには」
「話を戻すが」
さっきからこの男のペースで話が進んでいる。苛立ちが心を巡るが、風前の灯による断末語りだ。持つ者としての度量の深さをオプティスは披露する。
「精神抵抗力が高い私たちだが、あくまでも外からの攻撃に対する耐性だ。理性という枷を外され、元々持っていた欲望を増幅させられてはな。流石に難しい」
「まぁそう落胆するな、プロフェッサー何某」
オプティスは再び笑みを浮かべた。とても楽しい時間だ。
「お前の部下も、所詮その程度だった、というだけだ」
心赴くままに放った言葉で。
プロフェッサーの雰囲気が変わる。
「私の……俺の仲間を侮辱するな」
「ふむ。そろそろ飽きてきたな。やれ」
部下が手を翳す。男に向かって炎が奔る。哀れな男だ。威勢はいいが、何の備えもなく我らの前に立つとは……。
迸った炎は男を燃やし尽くして消し炭に変える。
はずだったが。
男はあろうことか素手で炎を弾いた。
否――。
「ホログラムか」
男が歪む。現れたのは灰と銀の鋼鉄だった。
「お前のことはわかっている」
機械鎧へと変化した……偽装が剥がれた男は狙撃銃を構えている。
「例のパワードメイルです。ピースメーカー……」
「情報では装着者は一人だったはずだが」
ライフルが唸る。左隣の部下が光の障壁で弾丸を焼き尽くした。
「人の本性を暴くなどと嘯いて、東京で大虐殺を引き起こした張本人だ」
「よく知っているじゃないか」
「まさかレジスタンスに参加していたとは。奴らもなりふり構えないのか」
「ふん。高貴な者の下に愚民は集う……それだけだ。私は人々の真実の姿を晒しているに過ぎん。ぬっ」
再びの銃撃を部下が防ぐ。所詮は人間。超能力者に勝ち目などない。
「相手が俺でよかったな。人は理性と感情という相反する二つの機構を持っている。それを意図的にいじって真実の姿だと? 他人には言うんじゃないぞ。恥をかく」
「貴様」
攻撃役が全身に炎を包んだ。オプティスの怒りを代弁するかのように。
その間に、ピースメーカーが何かをしていた。
「音声入力。U-32を要請」
ベルトに丸い物体が出現する。だが、人の武具など、超能力者には通じない……。
部下が炎と共に突撃する。
接近する前にピースメーカーが球体を投げ、銃で撃ち壊す。
白い粉が部下に降りかかる。
「な、なんだ!?」
「ただの消火剤だ」
火が消えた部下が困惑する。例え消化されたとはいえ、それは一時的。すぐに復活する。
が、その一瞬で部下は頭を撃ち抜かれていた。
「ただの間に合わせだが、お前たちには十分だ」
「おい!」
後方待機していた部下の一人が滑ってくる。氷でスケートのように滑りながら、氷結させたナイフを持つ少女。偉大なる使命のためと言ったらほいほいついてきた頭の弱い奴だが、利用価値はある。
プロフェッサーは銃を撃たず、少女は好機到来とばかりにナイフを振りかざす。
それをピースメーカーが避ける。身体を逸らして。
少女はめげず滑走。斬撃。回避。もう一度。避けられる。
そこで少女はようやく気付く。ライフルの銃口は完璧に少女を捉えていた。
焦った少女がナイフを刺突する。
それをピースメーカーは叩き落として、眉間に銃を突きつけた。
恐怖で固まる少女と、ただ黙って見つめるピースメーカー。
少女は情けない悲鳴をあげて逃げた。
「愚か者め」
「如何しますか?」
防御に徹している部下へ向けて、オプティスは指示を飛ばす。
「私は常に先を見ている。コーフ!」
青薔薇の会とやらの甘さ。それが奴らの弱点になる。
このような展開も予想して、保険を用意している。奴らにはない。
選ばれし者による優れた戦術。
「はっすぐにでも……! イデン! すぐに人質を……」
「もう解放されてるぞ」
こちらの様子を伺っていた敵からの言葉。
それが真実であると味方が証明する。
「知らない奴から返事が来てうッ」
部下が撃たれる。防御担当が障壁を張ったが、一撃目で穴が開き、そこから一ミリもずれることなく精確に通過した弾丸が脳症を掻き回す。
残されたのはオプティスだけとなった。
「有り得ない……!」
「言っただろう? お前のことはよくわかっていると」
「バカな」
信じられない。このような男に自分が敗北するとは。
あってはならない。こうなれば助けを求めるか?
屈辱の極みだ。
いや、まだ活路はある。
オプティスは邪悪に顔を歪めた。
「まだ終わってない!」
手を翳し、神の力を放つ。直撃だった。
回避できるはずもない。
ピースメーカーに表面上の変化は起きない。
しかし内面では変化が起きていた。
オプティスは勝ち誇る。高笑いを上げて。
「どれだけ虚勢を張ろうとも、貴様の中には恐怖がある。私に対する恐怖だ。もはや貴様は怯えて震えるだけの哀れなぎッ」
ボルトが引かれて薬莢が落ちる。間抜けな表情の死体が一つ作られた。
『お前にしては、随分時間をかけたな』
「また街一つを地獄にされても困る。ギリギリまで堪えていたんだが、奴のせいで制御が効かなくなった。全員無事か?」
加藤の質問に暮人は答える。
『聞く必要があるか?』
「確かに」
納得して、ピースメーカーのヘルムを外す。
「やはり実戦はお前に任せるべきだな。指揮官が出る場所じゃない」
トレーラーの後部ハッチへ歩き始めた。怒りはもう鎮まっている。
※※※
加藤はカタのせいだとは一瞬も思っていなかった。
即座に異常を見抜き、敵の正体を炙り出した。
全部私は聞こえていた。
カタが本当に反省していたことも。
加藤と暮人が、カタが原因だとは一ミリも考えていなかったことも。
しかしそれを言葉にできなかった。
これで良かったのだろうか。
「君にも気を使わせてしまったかな」
加藤が私に話しかけてくる。トレーラーの運転は暮人が行っていた。
カタはまだ部屋から出てこない。
「そんな……何もできなくて」
「気にするな、と言っても難しいだろうが。何せ、私たちだからな」
「私たち、だから」
いい言葉だと思う。
私たちに心配は無用。
大丈夫、なのだ。
「加藤……」
休憩ルームの扉が開いて、カタが出てくる。
「食事はできてるぞ、そこに」
「ああ……」
カタの情報が脳内に流れ込んでくる……。
その前に、私は強く思う。
この気持ちはカタだけのもの。
カタだけの想い。
なんとか、私は能力の耳を塞ぐことに成功した。
「加藤」
「なんだ?」
カタは少し迷ったように目を泳がせる。
そして、加藤のことを直視した。
「ありがとう」
「私の方がミスは多いからな。気にすることじゃない」
「それは確かに」
「フォローするところだぞ」
カタの顔に笑みが戻る。いつもの不敵な笑みだ。
これが、私たち。
いつかその中に、入れてもらえるだろうか。
「久しぶりに使ったが、やはり私は指揮官だからな。それに、直接装着は不便だ。デバイスの調整を頼む」
「全く、世話の焼ける奴らだ」
カタはすっきりとした表情で作業に戻る。
「私も、あんなふうに……」
「ん?」
「なんでもないよ、加藤」
そういうものは、口で言わずに。
自然となるものだと思うから。
私は考える。学んでいく。
今はそれが、やるべきことだから。
※※※
「マルセフ殿、聞かれますか?」
「必要ない。そして、奴に対しての報告もな」
「そう言われると思っていましたよ」
昔馴染みのオズワルドはマルセフの考えを見透かしている。
それを不快に思うことはない。彼ほど忠実で頼れる仲間もいない。
探査装置替わりに連れてきたオプティスは見事に役目を果たした。
いくらインビシブルトレーラーを所持しているとしても、奴らの移動範囲には限度がある。
追撃の機会はいくらでもあるだろう。
「一石二鳥……とはこのことか。ヘクトールも喜んでいるだろう」
「死なねば学ばないという者もおりますからな。悲しいことに」
そして死んでしまえば、世界に悪影響を及ぼすこともなくなる。
「我らは力を持つからこそ……高潔であらねばならない」
その規範から外れた者は……例え同胞だとしても容赦はしない。
「彼に連絡を」
「既に手配しております」
「流石だよ、オズワルド」
自分の手が届くところは、思うように動かせている。
後は相手がどう動くか。それ次第だ。




