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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

乗れる電車を待つ間、

作者: ぺんぎん
掲載日:2020/07/07

 駅で電車を待っていた。

 ガタンガタンと路面電車が近付いてくる。


「乗らないの?」


 振り返れば、誰かが隣に座っていた。


「乗らない」


 素通りしていく電車を見送りながら、ポツリと呟いた。


「あれは乗る電車じゃないから」

「そう、次乗るの?」

「乗らない」

「次の次は?」

「乗らない」

「次の次の、次は」

「それも乗らない」


「じゃあ、その次は」

「それも乗らない」

「なら、どの電車に乗るの?」


「乗れる電車じゃないから」


 電車が次々と通っていくのに、

 足は止まったままだった。


「だから、乗らない」

「なら、乗れる電車はいつ来るの?」


「分からない」


 だけど、乗れる電車がやってくる。

 そんな気がしていた。


「――そういえば」


 ポツリと、隣の誰かが呟いた。


「ここで、人が死んだそうですね」


 ぴくりと、肩が動いた。


「人身事故だったそうで」

「そうですね」


「だけど」


 誰かが、こちらの顔をじっと見た。


「殺人だったそうで」

「ああ、聞きました」

「どうも、相手は衝動的に()()()()()()()そうで」


「ああ、それも聞きました」

「亡くなった人が気の毒ですね」

「そうですね。ですけど」


 誰かの顔を見返した。


「そこまで気の毒ではないと思います」

「何故?」

「相手も仕返ししたそうですよ」

「相手?」

「死んだ相手です」


 言われた誰かは顔を引き攣りながら、


「冗談?」

「いいえ、冗談ではありません」


 そんな誰かの顔を見返して、


「あちらで」


 階段を指差した。


「殺した相手を殺したそうで」

「そんな、」

「突き落としたそうで」


「そんな、荒唐無稽な」

「事実です」


 断言して、その誰かの顔を見つめながら、


「だって、あなた――」


 ガタンガタンと電車の音が掻き消される。


「死んでるでしょう?」

「あ……」


 一瞬、階段の向こうに、首が折れた死体が転がっている。

 幻覚だ。だけど、現実だ。


「あ……」


 その誰かは思い出した。

 隣に座るその人は、かつて自分が衝動的に殺してしまった

 被害者だった。


「わざとじゃない……」


 許しを請うように、言い訳を募った。


「わざとじゃないんだ」


 理由は、つまらない理由だった気がする。

 覚えてもいない、そんな理由。


 誰だってよかった癖に。

 殺した相手が目の前にいると、自然とそう言い募った。


「はい、分かってますよ」


 不思議と、誰かの言葉を肯定できる気がした。

 

「わざとじゃないんですよね?」

「ああ……」

「ですから」


 震える誰かに、こう言った。


「わざとじゃないんです」

「え?」

「わざと落とした訳じゃないんです」


 ポカンとする誰かに向かって、続けて言った。


「ただ落としたかったんです」


 息を呑む誰かの声が、不意に掻き消された。


 電車が来たのだ。


 ――これだと思った。

 電車の扉が開いた。


 思わずそれに飛び乗った。

 そして、くるりと振り返って、隣にいた誰かに、手を差し伸べる。


「行きましょう」

「え?」

「これです。これに乗るんです」

「……自分も?」

「そちらも、自分も」


 差し伸べる手に戸惑う中、乗務員が誰かに向かって、


「乗るんですか? 乗らないんですか?」


 と急かしてきた。


「乗ります」


 誰かが肯定した。

 飛び乗るように、電車の中に入っていった。


 あっと思ったが、もう遅い。

 電車の扉が閉まってしまった。


 ガタンガタンと電車が駅から離れて行く。


 ――駅にはもう、誰もいない。

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