HDBの創設
もうあれから1年が経ったのか。時間が経つのが早いのか、こんなにも忘れられないものなのか。
俺はまだ犯人の顔も名前も知らない。俺の強い希望によって、顔も実名も一般には報道されなかった。仮名として、絶対にありえないような名前を俺が勝手に決めて、それを使って報道してもらった。それでも現代の情報網は止めようがなく、調べようと思えばいくらでも出てくるらしい。つまり、わざわざ俺が調べなければ、このまま知らずにいられるだろう。あんな名前じゃ、似ている人もいないだろうから、似た名前に出会って、ふと思い出す心配もないだろう。
今も事件のあった家に住んでいる。事件後、俺を心配する妹が転がり込んできて、最近まで住んでいた。結婚して出ていくまで、ただただ彼氏が可哀そうだったなぁ。
俺は、事件後数か月で、報道も落ち着き、仕事へと復帰。ちょうどIT系企業だったこともあり、この特定掲示板「準ハンムラビ・データベース」(通称HDB)を立ち上げる企画を発案、チームリーダーとして立ち上げた。ここを見ている以上ご存じのはずだが、この板は一般には閲覧できず、法律関係者の会員の会費で運営され、法律関係者しか閲覧できない。成立したばかりの準ハンムラビ法の当事者となってしまった者の「正直な体験談」を知ることで、より的確な法律相談に生かそうという試みだ。また、被害者・加害者双方が希望により体験談を投稿できる。書いていい事、悪い事の判断もできないほど冷静さを失った状態で書いたりすることもあるが、「生の声、その時の感情」を最優先するが故に、検閲・更正はしない。だからこそ閲覧を法律関係者に限定している。つまり読んだ法律関係者が自身の法律の知識から考えて情報を利用する。そこに違法性があれば、書いた者ではなく、その利用者に罰則がくるのだ。
最初の報告者が俺になってしまったことは言うまでもない。