弁護士より01
代理弁護士 坂本
いつか依頼人が犯人や犯人への報復内容について知りたいと思った時のため、ここに記録を残します。
最初にあなたとお会いした時、犯人にすべてを壊され、
「妹や両親が悲しむから生きている。同じ思いはさせられない。」
無気力に、そうおっしゃっていました。
でも数日後には、驚くべき相談をされました。あまりに異例なことが多く、法律の専門家である私が、司法試験を受けた時以上に勉強したかもしれません。検事、裁判官をしている友人、心理学の教授、必要な知識を得るために、色々な人に話を伺いました。
そして、実行しました。あなたの願いを叶えるために。
私は証拠映像と供述を確認し「その時、何が行われたのか」を確認しました。そして可能な限り「報復を再現可能な個所」を探し出し、計画を立て、実行していきました。
あなたの「できる限り知りたくない」という願いに対し、不用意に発言できない私は、あなたに「どうか信用してください。」とだけ伝え、代理弁護士である私を解任して頂き、後輩弁護士に引き継ぎました。
そして、あなたの希望をできる限り実行すべく、容疑者の両親へ連絡を取りました。
証拠映像で、犯人は
「旦那さんの同僚ですが、至急確認したいことがあります」
そう言って家に上がりました。
私は
「ご両親からの依頼で参りました。実はご遺族の弁護士は私の友人です。非常に有利かと思いますが、いかがでしょうか?」
そう言って彼に弁護士が付く前に、自ら彼に近付きました。
犯人は美香さんに取り出したナイフを見せ、
「大人しくしていれば何もしない」
と発言。美香さんに希望を持たせました。
私は
「取り調べで警察は証拠を出してきましたか?証拠があるなら、取り調べも強気なものになるはずなのですが、いかがですか?準ハンムラビ法の適用はあくまで決定的な証拠がある場合のみで、それさえなければ、無罪にせざるを得ません。」
警察が犯人に何一つ証拠を明かしていないことを知った上で、そう伝えました。希望を持たせるために。
犯人は美香さんに
「助かりたいか?子供も心配だろ?レコーダーはその首にかかっている物だけか?」
など聞きつつ、殺害の機会をうかがっていました。
私は犯人の信頼を得るために毎日通い、
「食欲はあるか」「眠れているか」「どんな刑なら助かったと思えるか」
など心配するふりをして、こと細かに恐れていることや、心理状態を探りました。
証拠映像で、震えながらも犯人と会話を続ける美香さんでしたが、しばらくすると、子供が泣き始めました。犯人に許可を取り、美香さんは子供をあやしに行きました。その後をつけるように、犯人は寝室へ入りました。
「早く黙らせろ。」
そう脅された美香さんは、自らの恐怖も必死で抑えるように、我が子を強く抱きしめて、泣きやませようとしました。静かにすれば、息子とともに助かると信じて、愛する息子にムリヤリおしゃぶりを咥えさせようともしていました。しかし犯人は、美香さんの首に手をかけました。首を絞められても我が子を落とさないように両手でしっかり抱きしめ続ける美香さんを殺害し、泣き続ける子供も殺害しました。だから彼女には一切の抵抗のあとがありませんでした。
最初は怯えていた犯人も、慣れのせいか、私の与える希望のせいなのか、
「いつ出られるんだ?暇すぎる。」
と、時折笑みを浮かべることさえありました。
また、証拠を一向に示さず、延々と自供を促す警察には
「証拠出してみろよ。」
と、挑発し、犯人の態度は段々と横柄なものになっていきました。
これで次の段階へ進む準備ができました。