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メッセンジャー

 彼の姿を見て、深優の胸に湧いたのは安堵だった。

 宝と並ぶくらいに長身の男は、つまらないとばかりに槍をくるりと回転させる。

 赤銅色の髪、紫の瞳の美丈夫は、皓歯を見せた。皓歯の間に犬歯が覗く。


「仁に頼まれてな。お前たちだけでは手に負えない場合もあるからと」

「相変わらず、総帥は過保護なんだか何なんだか」


 宝は苦笑して大刀を鞘に納め、男と拳を軽く打ち合った。


(りょう)。息災だったか」

「俺がそこらの異形に遅れを取るとでも?」

「そうだな、愚問だった」

「深優はまた綺麗になったな」


 臆面もなく言ってのける遼だが、そこに下心は微塵もなく、寧ろ妹に対するような親しみがあった。


「遼、元気そうで良かった。わざわざ来てくれてありがとう」

「造作もない。お前らの為ならな」


 三人は廃墟をあとにして、深優と宝の住居に移動した。

 玄関には、米俵と新鮮な旬の野菜が積まれていた。


「先日、東北で異形を狩ってな。礼に貰った。お前らにお裾分けだ」


 遼は家の合鍵を持っている。つまりはそれだけ深優たちと親しい間柄であり、家族同様と言っても過言ではなかった。先にこちらに土産を置き、廃墟に馳せ参じてくれたのだろう。昼食はご馳走になりそうだと、深優は久し振りに料理の腕を存分、奮う機会を得たことを喜んだ。歓喜の前に、疲労まで吹き飛ぶ。もちろん一過性のものだろうが、今夜は早めに就寝すれば良いだろう。

 南瓜(かぼちゃ)のポタージュスープ、風呂吹き大根、茸の具沢山炒めに小松菜と挽肉(ひきにく)の煮物。肉はこのご時世、入手困難であり、深優は料理しながら、久々の肉の香ばしい匂いに酔い痴れた。それから、じゃがいもご飯を炊く。調味料は幸い、豆板醤(とうばんじゃん)があった。

 居間の座卓に並べた料理を、殊の外喜んだのは、食欲旺盛な男性二人だ。深優は、作るほうが楽しく、また、嬉しそうに食べてくれる人がいることを、幸いと思った。得難い好日である。

 遼は酒も持参していて、宝がそのご相伴にあずかった。深優は遠慮した。

 傍らには双剣を置いている。二人が泥酔したら、自分がこの家を守らねばならない。尤も、彼らに限って、そんな隙を作るとは深優も考えていない。あくまでも念の為だ。


「遼と呑むと、赤玻璃の夜を思い出すな」

「ああ……。あれは、大掛かりだった。異形が片付いたあとは、深優も京香も倒れるみたいに寝て、結局、俺と宝と仁で呑んだんだったな」


 それは一種の祝杯であり、献杯だった。

 喜びの酒と言うよりは、戦闘により冴えた頭を宥める儀式に似ていた。深優が目覚めた時、仁も遼も既に去っていた。京香と、近くにある温泉に行き、戦闘による疲れを癒したことを、今でも思い出す。無論、花泊にも犠牲者は少なからず出た。個々人に葬式を営む余裕はなく、亡骸は土に埋め、道に咲いていた野花を供えた。彼らの顔を、深優は一生、胸に刻んだ。


「九州で、被害が酷いらしい。また、掃討作戦が行われるかもしれん」


 盃を手に遼がぽつりと呟く。

 彼は仁によって遣わされた助っ人であると同時に、メッセンジャーでもあったのだ。





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