散り果てる花
感傷の暇を、許さない状況になった。
新たな異形が深優たちの前に現れたのだ。索敵で一体を釣ったので、油断がなかったとは言えない。先に気づいたのは宝だった。大刀を横薙ぎにする。異形の飛沫はそれ自体が意思を持つように、地に落ちてもまだうぞうぞと蠢く。深優もまた応戦の構えを取り、双剣の片方で相手に斬りつける。赤い明滅は死神のように、無数で驚くほどの多さだ。つまりは、この異形は、先に倒したものより強力だということになる。
深優の中の生存欲求が強く叫ぶ。
生きたい。生きたい。
死にたくない。
醜いと称されようと、深優の戦う理由はそれに尽きるのだ。守りたい、だけでは綺麗ごとだ。地を這ってでも生きる。数多の血を流してでも。
左の剣を異形の、とりわけ強く光る赤に投げつけ、回し蹴りを放つ。
その蹴りの直後に、宝が大刀を刺突する。
「散り果てる花」
深優の呟きに、異形の身体の一部が爆ぜる。
続ける。
「散り果てる花」
また、異形が爆ぜる。
宝が大刀でとどめを刺す。砂礫が舞った。
深優は肩で息をしていた。
「大丈夫か」
「……うん」
特殊能力も万能ではない。行使すればそれだけ、体力を持って行かれる。強力な能力であればあるほど、その傾向は強い。散り果てる花、もその例に洩れず、使えば明くる日は寝込むことも多い。最近では深優にもだいぶ耐性がつき、そこまでではなくなったものの、やはり消耗は激しいのだ。
「何だ、終わったのか?」
第三者の声に宝と深優が振り向く。
槍を手にした赤銅色の髪の男が立っていた。