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赤く染まった

 今日は久し振りに白米を食べることが出来た。

 炊き立ての米を塩だけで握った塩むすびだ。単純だが、普段、非常食を食べ慣れている身にはこれ以上なく美味に感じる。

 深優は花泊の拠点の一つである民家に身を寄せていた。両親は既に亡い。

 言うなれば仁に拾われて以来、彼が育ての親のようなものだった。

 塩むすびを、浄水器から出した水を飲みながら三個、平らげると人心地つく。

 双剣は、いつ何時でも手に取れるよう、傍らに置いてある。

 深優がいるのは民家の居間で、錦鯉が描かれた黄ばんだ掛け軸が床の間に飾ってある。

 夏から秋に完全に移行した現在、庭の樹木は紅葉して血潮のようだ。


「深優」


 声を掛けられる前から、彼の存在を感じ取っていた深優は、顔をゆるゆる、声の主に向けた。


(たから)。お帰り」

「ただいま」


 長身の青年は、身体に相応しく大刀を腰に帯びている。纏うのは黒い衣服で、深優が着る物と同様、銀の刺繍が施されている。仁と同じ白銀の髪に、端整な顔にある双眸は赤い。仁とは遠い縁戚だと聴いた。深優はこの同胞と共に同じ家で起居していた。相応の実力を持つ宝を、深優は頼もしいパートナーのように感じていた。パートナーであり、家族のようであり、掛け替えのない存在が、この宝という青年だった。年は十九で、深優より三歳、年長だが、それを理由に居丈高に振る舞うこともない。深優を対等な存在として扱い、そして時に庇護してくれる。


「待っていて。塩むすびを作るから」

「米が手に入ったのか?」

「総帥から貰った。他にも支給されている筈だ」

「ありがたいな」


 宝が顔を綻ばせる。

 深優は立ち上がると台所に行き、炊飯器から皿に白米をよそう。

 手を濡らして塩をまぶし、熱い内に米を握る。宝の食欲を考え、大きめの塩むすびを五個、作った。


「赤いな」

「うん?」


 塩むすびを頬張りながら、庭を見て言う宝の言葉を訊き返す。


「庭だよ。この間まで暑いと思ってたけど、もうすっかり秋だ」

「ああ、そうだな」


 今の日本に政府はなく、国は無秩序な状態で、国連も全うに機能していない。

 世界規模の戦争が勃発した挙句が、この現状である。

 赤いと言うなら、この世界全てが、今や血の赤に染まりつつあるように深優には思える。

 深優や宝などはまだ良い。

 所属する組織があり、戦う力を持つ。

 しかしそれらのない人々は、異形の脅威に震えるしかない。ゆえに深優は双剣を手にするのだ。少しでも異形を減らし、治安を守る為に。恐怖や怯えもまた、異形を生み出す温床となる。深優たちの行為は惨劇を二重に防ぐものだった。




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