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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第一章 揺るがぬ独善
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二人目ー第一章 1話 強引な引き留め

大変お待たせしました

 時は流れ、高校二年生の夏。俺は――いや、俺たちは不可思議な現象に巻き込まれた。教室にいたはずなのに、突然別の場所に移動させられたのだ。その場に現れたキサラと名乗る謎の女性の発言によると俺たちは魔王と呼ばれるものを打倒するために勇者として異世界に召喚させられたらしい。



 まるで状況が飲み込めなかった。それでも、これまでに培ってきたコミュニケーション能力で会話した結果、俺たちは魔王を倒さなければ元の世界に戻れないこと。そして、俺たちにはこの世界に来た時点で特典と呼ばれる強大な力を与えられているということが分かった。



 そして、それらを説明した上でキサラさんは俺たちに魔王を討伐してほしいと言ってきたんだ。

 当然ながら反発は出た。そんなことをはい、そうですかなどと認められるわけがない。俺だって認める気はない。一刻も早く元の世界に戻りたい。その気持ちは俺も持っている。



 けど、元の世界に戻る方法が分かってないのも事実だ。キサラさんに無理矢理元の世界に戻してもらうという手もなくはないが女性に物事を強要するなんて真似はできない。というより、雰囲気的にそれは無理そうだ。こうなれば、クラス総動員で魔王とやらを倒すより他にない。これは善行だ。俺が団結を呼びかければ魔王討伐にすぐにでも向かえる。特典とやらの力がどの程度かは分からないが上手くいけば今日中にでも元の世界に戻ることは不可能ではないかもしれない。



 そこで俺はあることを思い出す。だが、そんなことは些細なことだ。魔王を討伐するために俺たちが最初にやるべきなのは結束と情報の共有だ。



 とくれば……。


「皆! 突然のことで混乱していると思う。俺もそうだ。だけど、いつまでも嘆いていても仕方がない。ここは全員で協力して元の世界に戻ろうじゃないか!」


 ここは声を張り上げて場の掌握を試みる。皆、混乱している。この機に主導権を握れば決して団結力が高いとは言えないこのクラスをまとめ上げることも不可能ではない。



 だが、それは甘い見通しだった。ある程度予想はできていたとはいえ、この程度ではやはり無理だったようだ。



 端的に言っていくつかの障害が生じた。第一に俺たちと行動を共にすることの多い竜王と時山が自身の情報を提示することを渋ったことが挙げられる。俺たちと一緒にいるわりに俺に対して心中に強い対抗心を持っている竜王とそれに従うだけの時山。この二人が第一の障害となった。そして、第二の障害が……。


「何勝手に話進めてんだよ。オレらはお前らに情報見せびらかす気なんざねえぞ」


 この男の存在だ。戸北真人。いわゆる不良とされる男でかなり喧嘩が強いと聞く。暴力的かつ傲慢な救いようのないクズみたいな男だ。



 戸北は俺の制止も無視して、手下二人を引き連れて、さっさと部屋から出て行こうとする。日下部たちが彼ら三人の前に立ちはだかるが、危うく暴力沙汰になりかけたので慌てて止めた。あんなゴミ共と喧嘩などをして、ひどい怪我を負ったら目も当てられない。



 本当に前途多難だ。クラス全員が一致団結すれば、今日中に終わるかもしれないというのに……先も読めないバカ共しかいないというのはかなり深刻な問題だ。



 いや、それだけならばまだいい。本当に問題なのは身勝手な感情を緊急時に持ち込んで、足を引っ張ろうとする輩だ。たとえば……。


「ご親切に情報を明かしてくれたところ申し訳ないが、俺たちも戸北たち同様情報を晒すつもりなどない」


 こいつみたいな奴だ。こいつは陰見善継。友人も多く、成績も優秀だが、やたらと俺に突っかかってくる。その理由に心当たりがないとは言わないが、はっきり言って迷惑以外の何物でもない。



 今も竜王と時山を除いた俺たち全員の情報を公開した後でこんなことを言っている。俺たちの情報を盗み見て、自分たちは情報を明かさないことで情報戦で優位に立とうという魂胆が透けて見えている。


「お前が俺に身勝手な対抗心を抱いているのは知っている。だが、状況が状況だ。こういうときは足並みを揃えて一致団結――」


「大層な弁舌をぶった切るような真似をして重ね重ね申し訳ないが、足並みを揃えられると本気で思っているのか? このクラスで」


 その言葉に思わず押し黙ってしまう。認めるのは(しゃく)だが、こいつの言っていることは紛れもない事実だ。



 ……ああ、分かっているとも。このクラスは個性が強い。そして、何より、他者を嫌い、憎しみ合う者が多すぎる。一枚岩に到底なれない欠点を抱えたクラス。それをひとまとめにすることは容易ではないことくらい俺とて理解しているさ。



 だが、その程度乗り越えてみせなくてなぜ正しさを語れる? 俺は誰よりも正しく、誰よりも正善(せいぜん)だ。だからこそ、この程度の苦難でくじけるわけにはいかないんだ。



 しかし、問題は他にもある。そう例えば、あいつ(・・・)のような男だ。


「待て、お前までどこに行こうとしている? 櫛山」


「いや、何。戸北たちじゃないが、ちょっと、外を見てこようと思ってな」


 櫛山修太郎。俺にとっては好ましくない男の一人だ。なぜなら、この男は俺に梼昧(とうまい)な対抗心を抱いているからだ。陰見と同じだ。こいつも俺に対抗心を持ってる。いずれも救いようのないものだ。陰見は俺に対して逆恨みに近い感情を抱いているし、こいつに至っては俺に見当違いな憎悪を抱いている節がある。全くどいつもこいつも……。


「今は情報交換の最中だ。外を見るのは構わないが、それが終わってからにしろ」


「情報交換ねぇ。すでにそんなものができる状況だとも思えないが……。いずれにしても、お前に従うつもりなどない」


 そう言って櫛山はさっさと部屋から出て行こうとする。ご丁寧に戸北たちが出た方向とは真逆、日下部たちがいない方角だ。どうやら、本気で出ていくつもりらしい。



 ……どうして、こうも好き勝手動く馬鹿が多いんだ。どいつもこいつも救いようがなさすぎる。先が読めないとか、感情任せ、とかそういう次元の話ではない。



 百歩譲って、この急展開に頭が混乱し、パニックになって癇癪(かんしゃく)を起こすのは分かる。実際、クラスの中にもそういう奴がいるのは間違いない。だが、何一つ情報もないこの未知の土地で集団行動をしようとしない馬鹿は一体何なんだ? 頭が湧いているのか、それとも、脳みそ自体がないのか。どちらにせよ、救えないのは確かだ。




 どちらにせよ、このまま放置するわけにはいかない。これ以上人員が抜ければ突破できる試練も突破できなくなる。とくにこいつの価値は戸北とは比べものにならないほどに高い。



 櫛山修太郎。村でも特別視されている男。闇天であり、天音様のお気に入りでもある彼のことを密かに恐れる者は多い。だが、それがどうした? その程度で怯えていてはどうすることもできない。こういう男を統率してこそ、希望を掴めるんだ。


「ダメだ。お前の離反は認められない。戻れ、櫛山」


「別にいいだろ? あんな奴、ほっとこうぜ?」


「よくない。お前は下がっていろ、竜王」


 俺は竜王(愚か者)の制止する腕を振り払うと櫛山との距離を詰めていく。それに対し、櫛山は一歩ずつ下がりながら、こちらを嘲笑するように見てくる。


「何でお前に従わないといけないんだよ。悪いが、俺にお前に従ってやる義理なんかないぜ?」


「そうか。……ならば、力づくででもお前を止めてやる」


 俺は友人たちに目配せし、櫛山を取り囲む形でジリジリと近付いていく。さすがの櫛山も観念したのか、小さくため息をついて俺たちの方に戻ってきた。最初から素直にそうしていればいいものを。






 戸北たちが抜けたのは痛いが櫛山を引き留められたのは僥倖だった。あいつはジョーカーになり得る存在だからな。



 これ以上離脱しようとする者も見当たらない。ならば、あとはこいつらをまとめ上げるだけだ。


「よし、今から俺がお前たちを引っ張り、なるべく早く元の世界へと戻る! 異論はないな?」


 その言葉にどれほどの人間が納得したか、など重要ではない。重要なのは宣言したことで俺にはこれから皆を引っ張っていく責任と義務が生じたということだ。



 当然腹の内で文句がある者はいるだろう。だが、連中もすぐに俺がリーダーでよかったと納得するはずだ。俺の考えに間違いなどない。





















 ○○○○○


 光一をリーダーとしてこれから集団行動を行うことが無理矢理決まった頃。光一たちから少し離れた位置で『とある人物』が佇んでいた。



『とある人物』は光一たちの方を睨みつけて小声で物騒なことを呟いていた。


「相変わらず舐めやがって。……はっ。せいぜい図に乗ってろよ。てめえは簡単には殺さねえ。この俺がてめえにたっぷりと絶望を味わわせてから地獄に送ってやるよ」


 声の主は誰にも聞こえないような小さな声でそれだけ言うと、再び彼らの仲間のという顔を作って光一たちの方に近付いていった。


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