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一人目ー第五章 11話 魔王討伐へ

 コンフリクト地区南部。二車線分ほどの道幅を持つ街道を修太郎たちは歩いていた。カスミ、シャイナ、マヤ、サヤ、満月、セレナの全員が修太郎に同伴している。

 当初はこんな大人数で向かう予定ではなかったのだが、カスミに事の経緯を話したところ、偶然かそれともタイミングを見計らっていたのか他の少女たちも姿を見せ、自分たちも行くと言いだしたのだ。彼女たちはたまたま話を聞いたと言っていたが、修太郎は信じていない。だから何だということもないが。



 時間をかけるわけにいかなかった修太郎は彼女たちの同伴を二つ返事で承知し、魔王の根城へと歩きはじめた。


「それにしても急ですね。力を手にして間もないというのにいきなり魔王を討伐するとは」


「当然だ。あれだけのことが起きている以上、のんびりとはしていられねえ。さっさと決着(ケリ)をつけねえと取り返しがつかなくなる」


 修太郎は努めて冷静に言うが、焦燥は隠しきれていなかった。無理もない。何せ、現状をまるで把握できていない。一気に大量の人間が死んだ。それくらいしか分かっていないのだ。焦燥を抑えろという方が無茶だ。



 ちなみに魔王のアジトの場所に関する情報はなぜか頭の中に入っていた。滝で修行を受ける前は覚えがなかったので、おそらく修練の成果だろう。いささか都合がよすぎるように思えるが今は迷っている暇などない。修太郎はその知識に従い、魔王の下へと向かう。



 きっと、これもまた裏切り者の思惑の内なのだろう、という容易に想像がつく推測から目を背けながら……。



 しばらく歩いたところで修太郎たちは立ち止まる。彼らの視線の先にあるのはこの国で唯一存在する湖、イマギナーティア湖。この対岸に魔王の根城がある。その根城として建てられているのが和風の屋敷なのか、西洋風の城なのか、複数の建物があるのか、あるいは建物など一切ないのか、そこまでは知らなかったが。



 魔王の住む城の周辺には強力な結界が張られており、魔物や魔王に仕える者たち以外が入るのは容易ではない。抜けるには湖畔に沿って歩いていくか、いっそのこと泳ぐか。その二つの方法でしか侵入できない。それ以外の方法で結界を突き破るのは不可能なようだ。もっとも、今の修太郎ならばその手段も可能な気がしてはいるが。



 しかし、修太郎はあえて湖畔を進むことにした。あえて裏切り者のレールに乗ってやることにしたのだ。裏切り者――黒幕と魔王は繋がっていない。それは四大名家の当主たちを皆殺しにしたことからも明らかだ。ならば、黒幕の思惑通り進めば魔王を討てる。まずは魔王からだ。黒幕のことはその後に考えればいい。



 無言で歩き続ける七人だったが、その足が不意に止まる。魔王の根城が近付いてきたというわけではない。道のど真ん中に一人の人物が立ちはだかっていたのだ。

 黒いコートにフードを被り、不気味な仮面をつけた人物。修太郎はこの人物こそが魔王の側近であるハカリであり、同時にここ最近の不可思議な事件の首謀者でもあると確信した。


「何だぁ? てめえは……」


「私はハカリ。まぁ、魔王の側近のようなものをやらせてもらっている。だが、君たちの邪魔をするつもりはない。通りたければ好きにするといい」


 その言葉に修太郎は眉一つ動かすことなく、ハカリを見据え、すぐに訝しげな顔を作って言う。


「どういうつもりだ? てめえは魔王の側近なんだろ? なら、俺を通すわけにゃいかねえはずだ」


 黒幕(ハカリ)と魔王がほぼ確実に敵対していることを承知で修太郎はそんなことを言う。


「そんなことはないさ。現在私に課せられている役目はあくまで君たちへの顔見せだ。それ以上のことは仰せつかっていない」


 あくまで白々しいセリフを返すハカリに修太郎は内心苛立ちを覚えながらも、努めて冷静に言葉を紡ぐ。


「そんなんじゃ納得できねえな。俺たちが魔王を倒しにいくと分かってんなら、それを止めるのが側近ってもんだろうが」


 これ以上続けることが不毛だということは分かっている。何の意味もないと知りながら修太郎はあえて話を続ける。それに何の意図があったのか。修太郎自身にもよく分かっていない。ただひたすらハカリに詰め寄っていく。


「何度も言わせるな。私に君たちの邪魔をする気はない。通りたければ好きにすればいい。魔王を倒すことが君の……」


「そんなことはどうでもいいんだよ」


「ん?」


 ハカリが首をかしげる。修太郎は鋭い眼光でそんな彼を睨みつける。ここまではただの茶番だ。修太郎の真意はそんなところにはない。意図など関係ないのだ。彼が聞きたいことは最初から一つだけだったのだから。


「クラスメイトが全滅して、やっぱりあいつらん中に裏切り者がいなかったなんて呑気に考えはしねえよ。どう考えても死を装ってんだろ? てめえは誰だ?」


 この問いこそが修太郎が一番聞きたかったものだ。同時にこの問いに何の価値もないことも理解していた。

 修太郎は確信していた。目の前の人物(ハカリ)が件の『袴の男』であるということを。そして、同時にその正体が自分がよく知る人物であるということも。

 そう。最初から真も善継も関係なかったのだ。目の前の人物の正体など最初から分かりきっていた。もはや、何があろうと揺らぐことのない確信を持つ修太郎の問いにハカリは仮面の奥で笑う。


「私のことなどどうでもいいだろう。それよりも早く向かったらどうだい? その虹のオーラは彼女に通用するぞ」


 明らかに話を逸らす目的で断言してみせるハカリに修太郎は怪訝そうに目を細める。その仕草に焦りは見られない。かといって、余裕があるようにも見られない。読めない態度を取るハカリに修太郎は一つ鎌をかけてみることにした。


「なら、てめえにも効くのか?」


「さてね。試してみればいい」


 その返答で確信した。この男にこの謎のオーラは通用しない。だが、他の手段ならば通用する可能性もある。

 ならば、これ以上この男を相手にしていても仕方がない。まずは魔王だ。それから、この男を潰すのに専念した方がいい。じっくりと攻略法を見出すためにも、目先のことに囚われるわけにはいかない。


「そうかよ。なら、遠慮なく行かせてもらうぜ」


 修太郎はそう吐き捨てて、ハカリの横を素通りする。そのまま、修太郎は結界を突き破り、魔王の領域へと立ち入る。



 彼らの眼前にそびえ立つは巨大な西洋風の城だった。一見観光地ならばどこにでもありそうな平凡な城に見えるが、細々としたところに異常さが窺える。


「さぁ、ここからだな」


 しかし、修太郎が怯えることなどない。不敵な笑みを貼りつけ、颯爽と城へ歩いていった。


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