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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第一章 僥倖の連続殺人
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一人目ー第一章 6話 現場調査

 修太郎はカスミに案内され、事件現場に来ていた。今回訪れた場所はつい二日ほど前に不審な死体が発見された現場だ。つまり、連続不審死事件の中では一番新しい現場ということになる。二日前に起きたばかりということもあってか、まだ生々しさが残っていた――などということもなく、一見するとありふれたごく普通の光景にしか見えなかった。言われなければ、ここで人が死んだなどと思いもしないだろう。



 修太郎は思わず頭を抱えそうになるが堪えてカスミの方を向く。


「とりあえず、現段階では何も分かっていないんだな?」


「はい。残念ながら」


(まぁ、そうだろうな)


 修太郎は内心ため息をつく。無理もない話だ。この街は比較的大きいが、どれほど大きな街だろうともこういう人目につかない路地裏というものは必ず存在する。ましてや、この街は相当広い。その分だけこういう場所も多くなってしまう。

 頭を掻きながら、修太郎は改めて現場を見る。そこはカスミと初めて会った場所のようないかにもな路地裏で普段から人通りも少ないことから目撃証言も期待できそうにない。当然のことながら死体も撤去されており、そこから情報を得ることも不可能だ。



 最初から期待はしていなかったが、想像以上に何も得られそうにない。だが、安易に諦めて撤退するのも早計だ。ひょっとすれば、捜査から漏れた小さな痕跡が残されているかもしれない。



 せっかく、まず間違いなく立場が悪くなるのを承知でここに来る許可を得るだけでなく、修太郎とカスミ以外の人払いをしてくれたのだ。その好意を無駄にするわけにはいかない。



 修太郎は死体のあった場所へと足を運ぶ。何の痕跡も見当たらない壁を見て修太郎はカスミに問いかける。


「ここで死体が発見されたのか?」


「はい。そちらにもたれかかる形で四十代の女性が亡くなっておられました」


「なるほどな」


 しゃがみ込むと壁を触る。何気なく触れていると、場所によって質感が違うことに気付く。


「何だ? こっちは普通にザラザラしてんのに、この辺だけ妙にツルツルしてるな」


「はい。それが今回の不自然な点でございます」


「今回の?」


「前回は申し忘れてしまったのですが、実は此度の連続不審死事件におきまして必ず一つ不自然なところが残されているのです。この事件におきましては、被害者のもたれかかっていた部分だけ摩擦が少なくなっているということが挙げられます」


「……そいつは妙だな」


 そんな大事なことを言い忘れるなよ、と修太郎は思う。これは結構な手がかりだ。被害者がもたれかかっていたという壁は石灰を中心にしたと思われる一般的なもので、指で触れる分にはザラついているのが分かる。

 これをわざわざ被害者の寄りかかった場所だけ摩擦を減らしたのはなぜなのか。これは明らかに突破口になりそうな手がかりだ。



 当然この手がかりを警察も見ているはずだ。カスミの言葉からして他の現場にもこれと同様の手がかりは残されているだろうに、警察は未だ犯人を捕まえられていないのだろうか?

 修太郎は疑問に思ったが、それよりも先に聞くべきことを聞くことにする。


「なぁ、カスミ。他の現場にも不自然なところが残されてるんだよな?」


「はい」


「よかったら、分かる範囲で全て教えてくれねえか?」


「分かりました。確か、一番最初が……」


「そんなもの知る必要ありませんよ」


 カスミが今までの事件を思い返しながら話そうとしていたところで邪魔が入る。修太郎は内心舌打ちしながら、横へと顔を向ける。そこにはスーツを着た二人の男がいた。

 一人は年配の男性で髪は坊主頭にしており、白の半袖シャツに灰色のネクタイを着用している。横幅が広く、額には無数のしわが刻まれており、いかにもベテランの刑事といった風貌だ。

 もう一人はかなり若かった。二十代後半から三十代前半くらいだろう。青いスーツジャケットに青いネクタイを締め、黒髪をオールバックでまとめ、あまり生気のない切れ長の茶色の瞳を持っている。顔立ち自体は整っており、しっかりとおしゃれをすれば女性から持てそうなイケメンだ。



 年配の刑事は年若い刑事を引き連れ、ゆっくりとこちらに近付いてくる。


「困りますな~。勝手に現場に入ってこられては」


 年配の刑事の挑発的な口調にカスミは顔をしかめながら答える。


「勝手ではありません。しっかりと許可はいただきました」


「はっ。さすがはアレフス家。警察上層部ともパイプがお太いようですなぁ」


「何が言いたいんですか?」


「ああ。これは失礼。お怒りになられてしまいましたかな?」


 ニヤニヤと年配の刑事は笑いながらそんなことを言う。ひとしきり笑うと、今度は修太郎の方を向く。


「初めまして。カザシ警察署特務課所属、一級捜査官の狩野(かのう)惣一郎(そういちろう)と申します」


「櫛山修太郎です」


 軽く頭を下げて自己紹介をすると年配の刑事――狩野は顎をさすりながら、うんうんと頷く。


「ふむ。礼儀正しくて結構。ひょっとしたら、カスミ姫の新たな婚約者ですかな?」


「彼は私の恩人です」


「ほう。それはそれは……。アレフスの姫を助けたとあれば、さぞやその恩恵を享受されているのでしょうなぁ……」


 終始徹底して挑発的な言動を繰り返す狩野に修太郎はわずかに眉をひそめる。それを見逃す狩野ではなかった。長い刑事としてのキャリアが修太郎に何かがあると思わせたようだ。

 さらに追撃を仕掛けようとした狩野にさすがに見ていられなくなったのか、もう一人の年若い刑事が口を挟む。


「狩野さん。そこまでにしておいたらいかがです? さすがに、見知らぬ少年にいきなり吹っかけるのは大人げないですよ」


 苦笑しながら言う年若い刑事に狩野は振り返るとジロリと鋭い眼光で睨みつける。


「馬鹿野郎。それくらいしねえとこの事件は解決できやしねえよ。せっかくの手がかりになりそうな人物を見つけたんだ。ここはイケイケだ」


「にしたって、限度ってものがあるでしょう。アレフスのご息女も側についているんですよ」


 年若い刑事は狩野を窘めると、修太郎たちの方へと体を向ける。


「……すみません。狩野さんは熱心なんですが、いささかやりすぎるところがありまして。申し遅れました、私は木更津(きさらづ)(つよし)と申します。階級は二級捜査官です」


 狩野と違い、木更津はしっかりと頭を下げて名乗る。この差は一体何なんだと修太郎は一瞬思うが、元の世界でもこんなものだったなとすぐに自分を納得させる。


「もう前置きはいりません。何のご用ですか?」


 そこでカスミが口を開く。彼女にしては珍しく苛立っているようだ。というより、彼女がイラついているところを見るのは初めてだ。その矛先は明らかに狩野に向いている。狩野はその視線を受けて、何がおかしいのかニマニマ笑っている。


「こいつは重ね重ね失礼。アレフス家の姫ともなればお忙しいのでしょう。ならば、余計な時間を取らせるわけにはいきませんな」


 いちいち嫌味を言わないとしゃべれないのかこいつ、と修太郎は内心で毒づく。そんな心境を知ってか知らずか、狩野はいきなり本題を切り出す。


「さっさとこの現場から出ていっていただけませんかな? いつまでも、最有力の容疑者に現場にいさせるわけにはいかんのです。ただでさえ少ない証拠を消されかねませんからね。それにいくら上が認めていようとも、その上も魔物に侵されていない保証などありませんからな」


 客観的に見れば正論だが主観的に見ればゴミクズ野郎だな、と修太郎は思う。確かに狩野の言っていることは間違っていない。現場の状況からして魔力を扱える人間が犯人の可能性が高い。そして、そうなれば最有力候補の容疑者はこの街一番の名家であるアレフス家だ。そこの人間に許可を取ったとはいえ、人払いをされた上で現場に立ち入られて気分がいいはずもない。それは理解できる。

 だが、それでもさすがに初対面の人間にまで牙をむくような馬鹿を理解してやれるほど修太郎は大人ではなかった。アレフスの人間が連れてきた人間に興味を持つのは分かるが、何の付き合いもない人間から無理矢理情報を引き出そうとするその根性は気に入らない。それが刑事の仕事だと分かっていても、どこかこの男は信用できない。

 結論として、狩野の思考には理解できるが狩野そのものには一切理解する価値がない。それが修太郎の考えだ。それにこの十数分で充分すぎるほどの情報を得られた。


(まあいい。ある程度手がかりは得た。ここは退くのが吉だな)


 今は狩野たちと関わりたくない修太郎はさっさと帰ろうとカスミに提案しようとする。


「とりあえず、我々が言いたいのはそれだけです。我々も忙しいのでね。これにて失礼」


 狩野はそれだけ言うと立ち去ってしまう。木更津もこちらに一礼をすると狩野の後に続いて去っていく。二人の姿が見えなくなったところで


「――何だ? あいつ……」


「お気になさらないでください。彼には私もあまりいい印象を抱いていませんから」


 カスミは忌々しげにそう吐き捨てる。言葉遣いこそ丁寧だが、その表情には明確な嫌悪感が浮かんでいた。どうやら、彼女と狩野の間に何か因縁のようなものがあるようだ。


「聞かないのですか? 彼と私のこと」


「いや。聞いても仕方がねえだろ。人様の事情に首を突っ込むのはできればしたくねえからな。せいぜい今回の事件と何か関係があるのならお前さんの言いたいときに教えてくれればいいって程度だ」


「そう言っていただけると助かります」


 事件のことを聞き出しておいて、どの口が言うんだと修太郎は思ったがカスミは納得してくれたようだ。それならそれで修太郎としてもありがたかった。

 少なくとも修太郎は二人の因縁じみた関係に関わる気はなかった。それが今回の事件と何か関係があるとは思わなかったからだ。それに彼女の顔つきからして普通ではない。どう考えても尋常ではない様子を見ると、根掘り聞きたいとは思わない。好奇心は猫を殺す、ということわざもある。


「それよりも行こうぜ。釘を刺されちまったし、これ以上ここにいるのはまずいだろう」


「そうですね。別にあのような男の指図に従う必要はありませんが、あなたがいいのであれば帰りましょう」


 どうやら、相当恨んでいるようだ。うかつに聞いてやぶ蛇をつつかなくてよかったと修太郎は心から思った。


「ですが、よろしいのですか? まだ手がかりは……」


「確かにそれらしい痕跡は見つからなかったけど、ここに来たことで一つ仮説を立てられたからそれでいいんだよ。とりあえずはそいつの検証だ」


「まさか、もう犯人の目星が……!?」


「まあな。断定はしきれないけどある程度は絞れた」


「何と……! それは一体……!?」


「警察官だよ」


「警察官?」


「そうだ」


 修太郎は頷きながらも現状ではこれが一番最有力だろうと思う。

 この事件はいくらなんでもおかしすぎるのだ。一昔前ならいざしらず、ある程度技術が進歩した現代においてこれだけ殺人を起こしておいて捕まらないなどということがあるのか、と。もちろん、こちらの世界が向こうに比べて捜査手法の進歩が遅れている可能性もあるが、それにしたって腑に落ちない。

 そう考えたとき、修太郎はいくつかの理由を思い浮かべた。そして、思いついたのは三つ。一つ目が単純に犯人が有能すぎるから。二つ目が逆に警察が無能すぎるから。そして、三つ目が警察内部に犯人がいて、捜査情報を元に逃げおおせているからだ。

 前二つならどうしようもない。それこそ、次に事件が起きてその現場をたまたま押さえるくらいしかやりようがないだろう。犯人が何かよほど大きなポカをしでかせば話は別だが。

 だが、最後の一つは違う。どのみち、手がかりはないのだ。やってみる価値はある。どうせ、警察を相手にするのは慣れてしまっているのだ。今さら怖じ気づくことはない。



 だが、それにはもう少し情報がいる。ある程度目星がついているとはいえ、警察を調べるには相応の準備が必要だ。ましてや、ここは勝手を知らない異世界だ。うかつには動けない。そう考えているとカスミがこちらを見ていることに気付く。


「どうした?」


「いえ。その……。どうして、警察内部に犯人がいるとお考えになったのかな、と思いまして」


「別に大したものじゃない。消去法だよ。……なぁ、今回の連続不審死事件で何人死んでるんだっけか?」


「えっと。確か、この件で十六人目です」


「そう。どう考えても十六人を殺すなんて普通のやり方じゃ無理だろ? だから、アレフスが疑われてるんだろうが、連中は連中が警察であるがゆえにもう一つの可能性を意図的に除外しちまってるんだよ」


「それが警察官による犯行というわけですか……」


「そういうことだ。警察なら上手くやれば捜査情報を元に逃げられるからな。まぁ、とんでもない凄腕の犯罪者がやってるって可能性もあるが、それならお手上げだからな。ひとまず、何とかできそうな方を調べようってだけだ」


 もっとも、警察を調べるのも一筋縄ではいかないけどな、と心の中で付け加える。だが、これがもっとも可能性が高いのも事実だ。

 人が罪を犯せば大なり小なり何かしらの証拠を残してしまう。それは避けられない。

 にもかかわらず、これだけ痕跡が少ないのはどのようにすれば痕跡を残さずにすむのか、もっと言えばどのようにすれば致命的な証拠を残さずに遂行することができるのか熟知しているからではないだろうか。警察ならばそういったことに関してプロだ。捜査の過程で培った知識と経験を悪用すればほとんど証拠を残さずに犯罪をすることも不可能ではない。もっとも、それは凄腕の犯罪者にも言えることではあるが。



 いずれにしても相当厄介なことになるのは間違いない。しかし、これを解ければ自分にとって大きな利益になることも間違いない。

 功名心に逸ることだけは避けなくてはならないが、それだけだ。



 とりあえず、二人は現場から離れることにした。次にやるべきことはもうすでに決まっている。修太郎はそれを実現させるべく頭の中で策を立てはじめた。

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