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一人目ー第五章 3話 従兄弟との遭遇、人型との遭遇

 突然現れた貞男に驚きながらも修太郎は小さく笑う。そして、軽い調子で貞男に問う。


「こいつぁ驚いたな。どうやって、ここまで来たんだ? 貞男」


「何、簡単なことだ。天音様の手引きでこっちに来たんだよ」


「あの怪物ババアか」


 忌々しげに吐き捨てる修太郎のあんまりな言葉に貞男は苦笑する。しかし、修太郎の暴言を咎めることはない。彼が怪物にして村の支配者――藤原(ふじわら)天音(あまね)を嫌っているのは分かりきっていることだからだ。ぶっちゃけ、修太郎に警察やマスコミ、宗教への嫌悪感を植え付けた張本人である。もっと言うなら、天音は修太郎の父、修司を嵌めた連中の主格だ。正確に言えば光磨に頼まれた形だが、いずれにしても父の仇敵であることに変わりはない。



 今でこそ、天音に気に入られていることを甘んじてはいるが当初は彼女に対してかなり反発していた。とはいえ、彼女に逆らえばどうなるか理解できる程度には修太郎も聡かったので、徐々に自分に言い聞かせていくことで何とか今の状態に落ち着いた。

 もちろん、天音に忠誠など微塵も誓っていない。天音に対して好意など欠片も持ち合わせていない。天音の傍にいることをよしとしているのはそうすることが仇を討つ近道だと判断したからだ。確かに天音はとてつもない怪物だが懐で情報を探れば、何かしらの弱みを握れるかもしれない。もちろん、極めてリスクは高いが子供なりにどうすれば天音を打ち負かせるかを考えての行動だった。



 思えば彼女に接近してからだった気がする。リスクの高い選択肢を好むようになってしまったのは。


(……何を考えてるんだ。こんなものは、今、考えるべきではない。それよりも貞男のことだ)


 修太郎は貞男のことを思い出し、顔を上げる。そして、申し訳なさそうに眉を下げて、口を開く。


「悪い。ちょっと、ボーッとしてた。何か言ってたか?」


「ああ。心配するな。お前が考え事に耽って反応しなくなるのは、わりとよくあることだからな」


「そうか……」


 十年前に父が嵌められ、聞くに堪えない偽情報しか報道していなかったニュースが流れたときに声をかけてくれた一つ年下の少年だ。

 あの場面では効果があったとは言いがたいが、それでも修太郎よりは遥かに優しい人間であることに疑いの余地はない。



 貞男は小さく笑いながらも、言葉を続ける。


「俺たちは増援ってことで送られてきたんだ」


「お前はともかく、何であの遺伝子上の母親まで送られてきたんだ?」


「おばさんは頭脳担当だよ。人間性はともかく、あの人の才は本物だからね」


「そうかい。……で、こっちに来たのは、お前とお袋だけか?」


 修太郎の問いに貞男は首を横に振って否定する。


「いや、俺とおばさん以外にキリさんと……渋谷(しぶや)さんもこっちに来てる」


「げっ。キリさんだけじゃなくて、あのジジイも来てるのかよ」


 修太郎はあからさまに嫌そうな顔になる。渋谷は天女村の中でも強硬派の筆頭と呼ぶべき人物だ。天音が支配する現状に不満を持っている修太郎がいい印象を持っているはずがなかった。


「村の体面ってやつだ。そもそも、向こうの二人が本命であって俺やおばさんはあくまでバックアップ兼囮として来ただけだからね」


「キリさんはともかく、あのジジイが戦力になるとは思えねえんだが」


「今はともかく若い頃は結構鳴らしてたらしいからな。その実績を見込まれてのことらしい」


「はっ。そいつが正しい選択ならいいけどな」


 毒づく修太郎に苦笑いをすることしかできない。そもそも、貞男たちが異世界に来たのはクラスメイトへの救援のためではない。それが分かりきっているからこそ、修太郎は邪魔者が増えたことに苛立っているのだ。


「まぁ、どうでもいい。邪魔するようなら殺す。それでいいだろ?」


「心情的には承服しかねるが、まぁ、そうなるな。キリさんはともかく渋谷さんはな……。おそらく、お前を殺すべく動くだろうからな……。正当防衛という形になるかもしれないな」


「だろうな。曲がりなりにも俺はあのクソババアに気に入られてるってのに、やたらと突っかかってきやがるからな。まぁ、気に食わねえのはお互い様だけどよ」


 修太郎は愚痴りながらも、話の途中で鋭い視線を貞男の後ろに向けていた。それに気付いていた貞男も小さく頷くと、ゆっくりと振り返る。そこには緑色の髪を持つ一人の男性が立っていた。


「ったく、急に殺気ぶつけてきやがって……。何者だ?」


「………………」


「答える気なしかよ」


 修太郎は呆れた顔でため息をつきつつも内心確信していた。目の前の男が人型の魔物であると。人間に限りなく近い姿形を取る人型と人間を見分けるのは困難を極めるが、そんなことをしなくても容易に判別できる。目の前の男は明らかに今までの敵とは格が違う。木更津やアスタルですら比にならないだろう。それだけの力を持てるとしたら、特典により極限にまで強化されたクラスメイトでもない限りは人型以外にありえないはずだ。



 修太郎と貞男は男を注視する。男はその視線を受けながらも、ゆっくりと口を開く。


「我が名は坂入(さかいり)空悟(くうご)。此度、貴様らを殺すために来た。我が罪を滅ぼす。それこそが私の罪滅ぼしだ」


「何言ってんだ? てめえ」


 何の前触れもなく紡がれた人型――坂入の言葉に修太郎は理解ができないといった顔になる。だが、坂入は構わずに続ける。


「そのためにここで倒れてもらうぞ。我が父よ」


「ちっ。聞いてねえ。仕方ねえ。やるか、貞男」


「ああ」


 修太郎と貞男は構える。そこで修太郎は貞男が戦っているところを初めて見ることに気付く。だが、そんなことは、今、考えるべきではないとすぐに切り捨てる。

 目の前の坂入という魔物は明らかに今までの連中とは桁が違う。この特典があろうとも、一歩間違えれば、即死するかもしれない。

 一応、特典で相手の命を奪っても時間制限が適用されないことは確認できているとはいえ、特典の発動にはそこそこ時間がかかる。決して、長いわけではないがその隙を突く術がないわけではない。



 そう。たとえば……。


「こんな風に……な……っ!」


 凄まじい速さで接近し、放たれた坂入の拳を左手で受けた修太郎は受け止めた反動を利用して、投げ飛ばす。坂入は瞬時に着地するが、その隙を逆に突く形で修太郎は蹴りを坂入の腹に叩き込もうとする。それは間一髪で坂入の左腕に防がれるが相応の距離を取らせることには成功する。しかし、この程度の距離は坂入には無意味だろう。



 そこで坂入の周囲に突然無数の黒い棒のようなものが展開される。地上数メートルほどの地点で浮かび上がるそれは間違いなく坂入を狙っていた。


「終わりだ……!」


 勝利宣言を口にしたのは貞男だ。貞男が振り上げた右腕を振り下ろした瞬間、一斉に黒い棒が坂入へと襲いかかる。

 坂入は防ぐ素振りも、避ける素振りも見せない。そのまま攻撃が命中し、勝負ありかと修太郎が考えた次の瞬間、アスファルトの地面から無数の(ツタ)が伸びてくる。それらは瞬く間に黒い棒を弾き飛ばしてしまう。



 二人は目を大きく見開く。だが、驚きで体が硬直している貞男と違い、修太郎はすぐさま冷静さを取り戻す。


「……植物使いか」


 周囲で蠢く蔦を見て瞬時に判断する。植物使い。なかなか厄介な相手だ。田舎というほどではないが、ここは街からそこそこ離れている。周囲には武器になりそうな植物が数多く生えている。つまり、ここは敵のテリトリーというわけだ。時間をかければ、手こずるのは必至だろう。


「まともにやりゃあ、かなり面倒そうだが、悪いな……。勝負ありだ」


「ぐふっ!」


 突如、坂入は吐血する。何が起きたのか理解できずに坂入は倒れながらも修太郎を見る。貞男も同じ心境のようで身構えながらも、修太郎の方に視線を向けている。


「別にお前らが知る必要はねえ。てめえはもう死んでる。お前らが知るべき情報はそれだけだ」


「ち……っ!」


 坂入は何かを言おうとしようとしていたようだが、言葉が口から出ることなく絶命する。


「……はぁ……。(わり)い、貞男。この短時間であまりに絡まれまくったおかげでさすがに疲れた。俺はもう行くわ。……それとも、案内くらいしてほしいか?」


「いや、大丈夫だ。一応、こっちに留まる準備はしてある」


「そうか。なら、気を付けて戻れよ」


「ああ」


 貞男が頷いたのを確認すると修太郎はゆったりとした足取りで旅館へと戻る。



 全く、湯上がりの散歩のつもりだったが踏んだり蹴ったりだった。前回の谷崎啓也との接見の後もそうだった。気晴らしに散歩に出ると、どうもこういう変なのに絡まれる。しかも、今回は人型を含めれば四人も絡んできたことになる。人数的には前回の方が多かったが今回ほどは疲れなかった。純粋に疲れる相手が少なかったからだろう。

 今回は本当に災難だったと内心独りごちながら、旅館へ戻るべく十字路を曲がると正面からカスミが歩いてくる。カスミは修太郎の姿を見つけると、駆け寄ってくる。


「ここにいたんですね。修太郎」


「カスミか……」


「どうした? そろそろ戻ろうと思ってたんだが……。何か急ぎの用か?」


「はい。報せるならできるだけ早い方がいいと思いまして。今後に関わる重大なことですから」


「……仰々しいな。それほど重要な用件なら旅館で話した方がいいんじゃないか?」


 修太郎は周囲を見渡しながら言う。人気はない。実際、修太郎とカスミ以外にこの周辺に人はいない。とはいえ、ここは往来だ。いつ、誰が来たって何らおかしくはない。

 しかし、カスミは構わずに、用件をできるだけ手短に言う。


「単刀直入に申し上げます。先ほどは言えなかった魔王の倒し方をお教えしましょう」


 何の前触れもなく告げられた言葉に修太郎は目を見開いた。

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