一人目ー第五章 1話 のんびりと入りゆく……
お久しぶりです。他の執筆作にかまけてしまったばかりに更新が滞ってしまい、すみませんでした
昨晩はカスミに集落を潰したこととセーザツにグレノンへのアポを頼んだことだけを告げ、風呂に入って、さっさと寝てしまった。真人グループ三人との連戦による疲労が溜まっていたせいだ。さすがにクラスでも随一の不良グループを一度に相手取るのは特典ありでもキツかった。竜王戦でもその時は大して感じなかったが実はかなりの体力を使ってしまっており、とうとう限界が来てしまった。
そして、翌日。次の日の昼過ぎにグレノンと会えるようセッティングしたとの連絡を受けた修太郎はカスミたちと共にコンフリクト地区へと来ていた。
コンフリクト地区も表面だけを見ればいい場所だった。境の街に近い場所にいるので何とも言えないが、他の三地区よりも、のどかで静かな場所のように見受けられた。この地区にあるシュード家の本邸でグレノンと会うことになっている。カスミやシャイナはグレノンと会うことに何か思うところがあるようだったが、とくに何も言ってこなかったのが幸いだった。
今はコンフリクト地区で予約した旅館にいる。今日は移動と骨休めに当てることにした。そのため、修太郎は彼なりに息を抜いていた。
「ふーん。じゃあ、こいつは本当に肉体と魔力に高い効能を持ってんだな」
「ええ。それは疑いようのない事実です」
「まぁ、確かに見てるだけでも体によさそうな気はするよなぁ」
修太郎とカスミはのんびりと会話していた。その会話に剣呑な雰囲気など欠片もない。まぁ、この場所で真剣になるのも無理な話だろうが。
もう日が暮れて数時間ほど経っており、空は真っ暗。ゆえに周囲はさまざまな色の光でライトアップされており、情緒に疎い修太郎から見てもなかなか見事な景色だった。
場が場なだけに完全に気が抜けていたのであろう。修太郎はそれまで余裕がなくて聞けなかったことをカスミに問うてみることにした。
「そういや、一つ聞いていいか?」
「何でしょう?」
「俺の調べたところじゃ、アレフスと谷崎はともかく他の二つは排他的な姿勢を見せてるんだろ? なのに、何で何事もなくアデワデやコンフリクトに来れてるんだ?」
これはアデワデ地区に来たときから思っていたことだった。友好関係を結んでいるということになっている谷崎が牛耳る船楼地区へ入るのが容易なのは分かる。だが、アデワデ地区とコンフリクト地区は違う。他三家に敵対姿勢を見せていると聞いていたキューゲンペグとシュードがアレフスの息女であるカスミを自らの土地に何もせずにやすやすと入れるとは思えなかった。
「……本気で仰っているのですか?」
しかし、随分と頓狂なことを聞いてしまったらしく、修太郎の問いにカスミはジト目になる。
修太郎が本気で分かっていないというのを察したのか、カスミは小さくため息をつき、ポツリと呟く。
「あなたのおかげです」
「俺の?」
か細い声だったがきちんと聞き取れたらしく修太郎は怪訝そうに眉を寄せながらも言葉を返す。カスミは修太郎の目を見ると言葉を続ける。
「正確にはあなたの名ですね。人型や谷崎啓也を倒した実績は他の地区にも轟いています。ですから、キューゲンペグもシュードもあなたと敵対しようとは思っていません。むしろ、あなたの力を利用するべく便宜を図っているくらいです。実際、セーザツ・キューゲンペグもあなたに目障りな存在である集落を潰すよう依頼していましたし」
「ああ。そういうことか」
そこまで言われれば、さすがに理解できる。下手に手を出して無意味な損害を被るくらいならば、その力を利用して甘い汁をすすった方が得策だということだろう。その考え方は見事なまでに為政者のそれだ。修太郎の嫌いなタイプではあるが、だからといってそれに何か思うことはない。
これでまた一つ疑問が解決された。この調子でもう一つの疑問も解決してもらいたいものである。
修太郎は勢いのままに先ほどから聞きたかった疑問を口にする。
「んで? どうして、こうなったんだ?」
修太郎は周囲を見渡しながら問う。彼の目に入ってくるのはカスミとシャイナ、マヤとサヤ、そして、満月とセレナと一緒に入浴しているという光景だった。
どうして、こうなったのか。それを説明するならば短い言葉で事足りる。カスミたちに連れられ、問答無用で入浴を共にすることになった。ただ、それだけだ。
黙認されていたとはいえ、キューゲンペグの依頼を受けて単独で危険な任務を行ったことに物言いたいことがあったらしい。まぁ、それを言うなら今まではどうなのだという話なのだが、そういう問題ではないと怒られてしまった。
結局セレナを除く五人に小言を言われ、そのまま流れで混浴することになってしまった。さすがの修太郎も美少女六人に迫られてはどうすることもできなかった。さらに途中で合流したセレナが面白そうだという理由で修太郎たちと行動を共にすることを提案し、それを他の五人が快諾した時点でもう何も言う気もなくなってしまった。
一応セレナは修太郎に危険な任務を依頼したキューゲンペグの人間なのだが、彼女たちは何とも思っていないのだろうか……。
「はぁ……」
思わず、ため息がこぼれる。それを耳ざとく聞きつけたカスミが心配そうな顔で修太郎の方を見てくる。
「どうしたんです? ため息なんかついて……」
「いや……。ふと魔王のことを思い出してな」
「ああ……」
適当な誤魔化しではあるが、それでカスミは得心が言ったらしく、小さい声を上げる。初めて訪れた境の街でヴェレ姉妹をめぐる騒動に巻き込まれた際、修太郎は魔王と対峙している。カスミは一度目の対決しか知らないが、その時は修太郎は魔王に手も足も出なかった。
温泉で気が抜けたことでその時の記憶を思い返していたのだろうと判断したカスミは左手の人差し指を顎に当てながら口を開く。
「……確かに魔王は人智を超えた力を有した怪物。並大抵の手段では打倒は不可能でしょう。ですが……」
そこでカスミは一拍置く。強い意志が込められた瞳を修太郎に向ける。
「一つだけあります。魔王を打倒せしめる力が……」
「何だと?」
修太郎の眦がぴくりと動く。魔王を打倒する力。それは目下必要な力だ。あまりにも不可解なことが起こりすぎている現状では、最低でも魔王を打ち倒せるだけの力がなくては明日の日の出を見れるかどうかすら分からない。修太郎は現状を打開する意味も兼ねて、その力を問い質すことにする。
「聞かせてくれ。それは……」
「さっきからカスミばかりズルいよ。僕とも少しは話そ? 修太郎」
「のわっ!」
そこでセレナが背中に抱きついてくる。不意打ちだったので思わず変な声が出てしまった。バスタオルを体に巻いているとはいえ、その下は何も身につけていないのだ。そこそこダイレクトに感触が伝わってくる。
しかし、修太郎はそういったものに反応することはない。この程度ならば母親の友人だという変態ショタコンおばさんのおかげで慣れている。何なら、これ以上のこともされた。だから、何も思うことはない。ただ……。
「離れやがれ! この馬鹿女!」
「あうっ!」
修太郎は遠慮なくセレナの頭をはたく。もちろん身体能力強化は解いているし、加減もしている。
ただせっかく突破口になりそうな情報を聞けそうだったのに、それを邪魔された怒りはある。私的制裁も兼ねて修太郎はセレナに軽い反撃をした。
セレナははたかれた頭をさすりながら、涙目で苦言を呈する。
「ひどいなぁ。女の子の頭をそんな勢いよくはたかなくてもいいのに……」
「突然後ろから覆い被さってくる奴のセリフじゃねえな」
修太郎は小さくため息をつく。浴槽の縁に両腕を乗せ、そのままふんぞり返るように背中を縁に預ける。相変わらずの晴天を見上げ、修太郎は笑う。
「まあいい。今日のところは休むと決めたんだ。肩の凝る話は後回しにして、お前らと雑談に興じるのも悪くはねえか」
「そうだね。それじゃあ、まずは僕と話そうよ」
「構わねえが何の話をするんだ。ぶっちゃけ、俺はてめえのことなんざ何も知らねえぞ」
「そうだな。なら、まずは僕のことを軽く話そうか」
修太郎とセレナが話し込みはじめると満月やヴェレ姉妹もやってくる。カスミも笑顔で修太郎たちの輪に入っていく。シャイナは隅っこで一人入浴を堪能していた。
よく晴れた日に全員で仲良く入浴する。至って平穏な一幕だ。とてもではないが、もうすぐ終わりが近付いているとは思えなかった……。




