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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第四章 陰の蠢き
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一人目ー第四章 14話 集落潰しが終わり……

 集落を潰した修太郎はその足でキューゲンペグの屋敷へと来ていた。門を叩けば使用人に案内され、すぐにセーザツに会うことができた。

 上等な椅子に座って執務机に頬杖をついて迎え入れたセーザツに修太郎は開口一番結果を報告した。


「依頼は果たした。これで文句ねえだろ」


「もちろん。君には感謝してもしきれないよ。おかげであの愚物どもを一掃できたんだから」


 セーザツはにこやかな顔で毒を吐く。どうやら、相当あの集落を嫌っているようだ。まぁ、分かりきっていたことだが。

 そして、この口ぶりからして集落を潰したことも分かっていたようだ。修太郎がここに来た時点で集落潰しが成ったと確信したのか、それとも密偵でも放って事前に情報を得ていたのか。まぁ、普通に後者だろうが。



 いずれにしても依頼は成功だ。それ以上もそれ以下もない。修太郎は無言でセーザツを見る。それにセーザツは苦笑しつつも応える。


「それじゃあ、約束通り報酬を渡そう。さぁ、君は何を望む?」


 セーザツの言葉に嘘偽りはない。彼は修太郎の望むものを本当に叶えようとしている。そう確信した修太郎は淡々とその望みを口にする。


「シュード家の当主への繋ぎと魔王及びハカリに関する情報。それが俺の望みだ」


 修太郎の言葉にセーザツはわずかに眉を動かす。だが、すぐに人のいい笑みを浮かべる。


「へぇ、一応理由を聞いてもいいかな?」


「簡単だ。それが現状を打破する手段になるかもしれねえ。それだけのことだ」


 何の現状を、とは聞かない。そんなものはセーザツには関係ないことだし、彼には微塵も興味のないことだ。ただ魔王やハカリに関連する情報となると多少考えなくてはならない。

 しかし、同時にそこまで深刻に考える必要がないのも事実だった。彼はユキヒコのようにそこまでこの世界にこだわっているわけではない。人が抑えられるものなど限られている。抑え続けていられる時間も限られている。なるようにしかならない。それは人が生きていく上で逃れようのない摂理だ。



 ゆえにセーザツは修太郎の返答を聞いて一つ頷き、了承の意を口にする。


「そっか。OK、問題ないよ。ならば、その二つを叶えるとしよう。魔王たちに関する情報は後で分かってる限りを教えるとして、シュードの当主――グレノン・シュードとはいつ接見したい?」


「そうだな。遅すぎるのはまずいが、あまり早すぎてもアレだからな。できれば、明後日の昼過ぎにしてくれるとありがたい」


「了解。それじゃあ、その辺が空いてないか聞いてみるよ。もし、空いてなかったら別の時間にしてもらうことになるけどいいかな?」


「構わねえよ」


「OK。なら、シュード家の当主との都合がつき次第、君に教えるよ。その時に魔王やハカリについての情報も渡すよ」


「分かった」


 修太郎は立ち上がる。セーザツもそれに合わせて席を立つ。


「お疲れ様。本当に助かったよ」


「ああ」


 修太郎は短く答え、執務室を去った。セーザツはそれをキョトンとした顔で見送った。



 屋敷を出て、畔道を歩く修太郎はどこかイラついていた。なぜイラついているのか。その原因は大方想像がついている。

 つい先ほどの真人との戦い。その決着が気に食わないのだ。修太郎は卑劣な手を使って真人に勝利した。その事実が彼を苛立たせている。

 もちろん、どんな形であろうとも勝利は勝利だ。勝ち方にこだわる必要などない。勝ち方にこだわって敗れれば本末転倒だ。そんなことは分かっている。だが、それでも抑えられないのだ。この行き場のない怒りを。



 もう少しで街に入るといったところで一人の中年男に遭遇する。その男はネメノグ・ブレナントス。セーザツに側近として紹介された男だった。ブレナントスは修太郎の姿を見つけると恭しく頭を下げる。


「此度の集落潰し、ご苦労様でした。おかげで我々キューゲンペグも……」


「うるせえよ」


 修太郎はブレナントスの腹を何のためらいもなく殴る。完全無防備だったブレナントスの腹には大きな穴が空き、周囲に大量の血が撒き散らされる。

 ブレナントスは何が起きたか理解できていないという表情でその場に倒れ伏す。


「悪いがちょうどむしゃくしゃしててな。まぁ、運が悪かったと思って諦めてくれ」


 ブレナントスが聞けたのはそこまでだった。修太郎は凄絶な笑みを浮かべて、彼の前を去っていく。ブレナントスはその背を睨みつけながら、消え入りそうな声で……それでいて力強い声で言う。


「この……快楽殺人者が……!」


 呻くように紡がれる言葉に修太郎は失笑する。どうやら、この男は修太郎が快楽殺人鬼だと決めつけているようだ。まったく、何とも傲慢なことか。

 修太郎は何も見えていない傲慢な中年男に事実を教えてやるべく、口を開く。


「馬鹿らしい。てめえの命に快楽を感じさせるほどの価値なんざねえよ。ウジ虫が」


「な……! がふっ!」


 嘲笑する修太郎にブレナントスは大きく目を見開く。何かを言おうとするが声にならない。どちらにせよ、興味もない。修太郎はとうに見抜いていたのだ。この男の救いようのない邪悪さに。



 命の価値は平等ではない。救いようのないクズの命など害虫のそれに等しい。それを彼は最後まで悟ることができなかった。

 まぁ、命に重さなど欠片もないのだが。生きることが大切などと言っている人間はとんだ道化(ピエロ)だ。そして、ブレナントスのような自分の命を奪うことは非人道的だと信じている人間など道化(ピエロ)にすらなれない。



 そして、修太郎からすればそんなものははてしなくどうでもよかった。彼は異世界に来るまで奪ったことがなかったというだけで命の軽さなど現実世界で十分に知っていた。人の命に価値も意味も微塵もないのだと知ってしまっていた。



 だからこそ、何も思わない。修太郎はとうにブレナントスへの興味を失っていた。遺体を放置し、ひたすら我が道を突き進んでいく。



 街に入ると何の気なしに修太郎は回り道をする。といっても、いつもより一本早く道を曲がっただけだが。たった一本曲がった程度では風景は変わらない。こういうときは一本違えばがらりと雰囲気が変わると相場が決まっているが、あてが外れたようだ。まぁ、どちらでも構いはしないのだが。



 なんて思っていると、目の前に変化が現れる。修太郎は自分を澄んだ瞳で見てくるその人物の姿を認めると立ち止まり、静かにその人物の瞳を見つめ返す。


「やぁ」


「……セレナ・キューゲンペグ……」


「ああ。セレナでいいよ。フルネームは長くて言いにくいでしょ。うちの家名。無駄に長いから」


 両手を広げておどけてみせるセレナに修太郎は小さくため息をつく。彼女が自分を待ち伏せていたのは明らかだ。いつもと違う道を歩いてきた修太郎を待ち伏せることができた手段には興味がないが、待ち伏せをしてまで自分に話しかけてきた用件には興味があった。

 何せ、修太郎としても彼女は無視できない存在だ。初めて会ったときに感じた既視感。推測を確信に変えるためには彼女との会話は必要不可欠だ。


「で、一体何の用だよ?」


「おや? たまたま遭遇して話しかけただけだとは思わないのかな?」


「たまたま? 待ち伏せの間違いだろ。どう見たって俺に用があるってツラでこっち見てたんだからよ」


「おいおい。それは言いがかりってもんだよ。別に僕は待ち伏せをした覚えはないんだけどねぇ」


「あれを待ち伏せと言わないのなら、何を待ち伏せと言うんだろうな」


「まぁ、それもそうか」


 セレナはクスクスと笑いながら答える。そのどこか無邪気な笑みは過去に会った子供を連想させた。修太郎は話の流れも考えず、思っていたことを無意識に口にする。


「……どこかで会ったか?」


 突拍子もない修太郎の問いにセレナは笑う。それは何に対しての笑いなのか、修太郎には判断がつかなかった。


「さてね。少なくとも僕は覚えがないよ」


「そうか」


 はぐらかされた。いや、本当に彼女ではないのかもしれない。どちらにしても、十年も前の話だ。目の前の少女があの子供がどうかなんて分からないし、それ以前にありえない。何せ、もし十年前にセレナと会っていたのだとしたら彼女はあの時点でこの世界と元の世界を自由に移動できたことになるのだから。

 そもそも十年前の大晦日に共に花火をした子供を見つけ出したところでどうしようもない。そこまで固執すべき話題でもないと判断し、それ以上問い詰めることはしなかった。


「ま、君を待ってたのは事実だけど、本当に用はないよ。ただ何となく君と話したくなったってだけだから」


「そうかよ。なら、俺はもう行くぜ。集落潰しで怪物三人を相手取ったから疲れてんだよ」


「それはそれは。呼び止めて申し訳なかったね。なら、僕はここで去るとしよう。ではね」


 セレナは修太郎の横を通り抜け、キューゲンペグの屋敷の方向へと向かっていった。修太郎はその後ろ姿を振り返ることもなく、悠々と旅館に戻っていった。







 ○○○○○


 未明。善継はクラスメイトを人気のない山の中に呼び出していた。『その人物』は平素と変わらない様子で姿を見せる。善継は『その人物』を見て、視線を鋭くする。

『その人物』はそれに気付きながらも普段通りに挨拶をしてくる。善継はそれに答えず、いきなり核心に迫る。


「長話をするつもりはない。単刀直入に聞こう。最近頻発しているクラスメイト殺し。犯人はお前か?」


『その人物』は一瞬虚をつかれた表情になるが、すぐに笑って否定する。だが、善継はその言葉に耳を傾けることなく言葉を紡ぐ。


「やっぱり、ここ最近のクラスメイト殺しはお前がやってたんだな」


 善継は『その人物』を睨みつける。『その人物』は戸惑った表情を見せながらも再度否定するが、善継はその言葉を遮る形で自分の考えを口にする。


「予想はついてた。お前はあまりに得体が知れなさすぎる。最初に喜々野伶香が行方不明になった時点でお前の犯行を疑ってたよ」


『その人物』は答えない。善継は構わず続ける。彼の耳には何も入っていなかった。おそらく、どんな反論も彼は聞き流すだろう。ならば、あえて聞き役に徹した方が面倒ではないというのが『その人物』の考えだ。


「言うまでもないことだが、免たち三人が惨殺された事件もお前の仕業だな?」


 問いかける言葉だが善継は答えなど待っていない。善継は話を終わらせるべく、最後の言葉を口にする。


「お前は危険だ。だから、ここで……死ね」


 刹那、善継の周囲の物体が作り出す影が蠢き、まるで生物のように地上へと這い出る。それらの影は『その人物』を覆うように動き、やがてまとまっていき、『その人物』を取り囲む形で影の筒のようなものになる。影の筒は間髪入れずに『その人物』を包み込む。影は一瞬で収束し、『その人物』を圧殺する。

 あまりに突発的かつ一瞬のことで目撃者がいたとしても何が起きたか理解できないだろう。しかし、善継にとってはこれが現状取れる最善策だったのだ。



 実際、その考えは間違っていなかった。『その人物』を放置するのが危険なのは事実だ。そして、影で『その人物』を文字通り潰したことで善継は勝利を確信した。

 そうして、後ろを振り返った瞬間視界に入ってきたのはどこからか取り出した日本刀を振り上げている『その人物』の姿だった。



 善継は驚愕に目を見開き、振り下ろされる一太刀を反射的にかわそうとする。しかし、間に合わず左肩から右腰まで浅くない切り傷を刻まれてしまう。

 致命傷を負った善継はその場に倒れる。『その人物』は善継を冷めた目で見下ろしている。


「ばか……な……!」


 譫言(うわごと)のように口からそんな言葉が漏れる。理解できなかった。善継の不意打ちは完璧に決まっていた。にもかかわらず、なぜ目の前のクラスメイトは無傷で立っていられるのか。

 そして、間の悪いことにそこで念のために呼んでおいた保険(・・)が来てしまう。



 合瀬郷。自身のグループのメンバーにして腕の立つ実力者。『その人物』との対峙のために応援を頼んだ少年が木陰から姿を見せる。


「善継!」


 郷が慌てた表情で近付いてくる。自分が倒れているのを見て動転していると一瞬で理解した善継はとっさに来るなと叫ぼうとしたが声が出なかった。『その人物』はニヤリと笑って、その場から姿を消すと一瞬で郷の側まで移動する。そして、そのまま郷の首を切り裂く。


「何で……?」


 郷は『その人物』の顔を見て呆然と呟く。その直後、首から大量の血が噴き出す。切断するほどではないにしても、郷の命を奪える程度には深い傷を負わされ、郷は背中の木にもたれかかる形でゆっくりと座り込む。



 全てが一瞬の出来事だった。致命傷を負った二人はゆっくりと意識を手放していき、やがて完全に動かなくなる。『その人物』はそれに見向きもせずに虚空を見つめる。


「――――――」


『その人物』は何事かを呟く。そして、善継の方を見てニヤリと笑った。

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