一人目ー第四章 12話 決戦へと
正午。陰で動いている者は他にもいた。その人物がいるのは神を祀る場所。端的に言えば白を基調にしたいかにも教会といった建物だ。
ステンドグラスが随所に鏤められた懺悔室の中心で祈りを捧げているのはネメノグ・ブレナントスだ。彼はセーザツの側近として活動する傍ら『ブレナントス・ワームド』という宗教の教祖も務めている。
両手を組み、天を仰ぐように祈っていたブレナントスは小さく息を吐くと、閉じていた瞼を開く。どうやら、祈りを終えたようで悠然とした所作で近くの椅子に座る。
「ふむ。まさか、ここまでとは思っていませんでしたね。期待以上です」
ブレナントスは顎に手をやって考え込む。口ぶりに反して、その表情は厳しい。少しの間、顎に右手をやって考え込む素振りを見せる。
「ですが、ここまで来ると、少々危険ですね。念のため準備をしておいた方がいいかもしれません」
ブレナントスは淡々と言うと懺悔室から出ていった。
○○○○○
竜王を退けた修太郎は集落へと向かっていた。竜王戦で受けたダメージも大したものではなかったのでこのまま休憩を挟まずに最速で片を付ける腹づもりだ。
集落までの獣道を歩いていると不意に正面に一つの影が降り立つ。修太郎は立ち止まり、怪訝そうにその影を見やる。
それは人だった。フードを被っていてはっきりと顔が見えない。だが、少なくとも見知った人物でハイことは確かだった。
「何だぁ? てめえは」
修太郎の問いにフードの人物は答えない。だが、短刀のようなものを向けてくるということは少なくとも敵であることは間違いないだろう。
黒いフードを被った怪しい人物。だが、この男はハカリではなさそうだ。なぜなら、この人物は仮面を被っていない。研からの情報が正しければ、ハカリは仮面を被っているはずだ。
「てめえが誰かなんて聞いても益体なんてねえか。仕方ねえ。てめえはここで終わらせてやるよ」
修太郎は拳をゴキゴキと鳴らして臨戦態勢を取る。フードを被った人物も短刀を構え――一瞬で修太郎の懐まで接近する。
「!」
修太郎は目を見開き、驚愕する。フードを被った人物はその隙をついて、短刀を修太郎の心臓へと突き刺してくる。不測の事態に対処しきれず、修太郎はその攻撃にまるで反応できていなかった。
短刀は修太郎の胸に突き立てられると同時に折れる。次の瞬間には修太郎の拳がフードを被った人物の顔面を捉え、フードごと頭蓋を粉々に砕く。
返り血を浴びながら、修太郎は無様にくずおれるフードを被った人物を見下ろす。
「確かに一瞬驚いたがネタが割れりゃ大したことねえ。幻術なんてつまんねえもん使ってんなよ」
修太郎は特典で返り血を消して、さっさと先に行ってしまう。本当はあまり特典に頼るべきではないのだろうが、確定しているわけではない。ならば、ここは確かめる意味でも使うべきだろう。どうせ、修太郎の立てた仮説が間違っていたところでこの程度では何の問題にもならない。
道なりに歩いていけばすぐに集落は見えてくる。無駄に張り巡らされたセキュリティを特典で無効化した修太郎は獣道を抜け、そのまま集落の入口に繋がる畔道を歩いていく。
道幅は意外と広い。車道に例えるならば二車線分くらいはあるだろう。そのど真ん中に二つの人影が仁王立ちしていた。どちらも見覚えのある顔だ。片方は大柄で金髪のロングヘアーに飴を咥えたいかにも不良といった雰囲気の少女。もう片方は茶髪に青い瞳を持つクラスでも随一の巨漢である少年。どちらも修太郎を鋭い眼光で睨みつけていた。
修太郎は二人を見て立ち止まる。そして、困ったように笑うと小さく息を吐く。
「鹿島に神代か。本丸の前にまずはてめえらが相手ってわけだ」
修太郎はニヤリと笑う。この二人は真人の腰巾着にして真人と共に数多くの修羅場を潜り抜けてきた精鋭。その力は光一グループとは比べものにならない。
鹿島姫百合と神代セムロ。侮って勝てる相手ではない。もっとも、この特典がなければの話だが。
「アタシたち二人を相手に余裕の態度とはね。その自信はどこから来てるのかしらね? 闇天の一員という自負からか、特典によるものか」
「どっちでもいい。どのみち、こいつはここで終わりだ」
セムロは右手をゴキゴキと鳴らす。そして、右手を広げたかと思えばその手のひらに剣を出現させる。
「行くぞ」
それだけ言うとセムロは斬りかかってくる。単純な袈裟斬り。修太郎は身を反らして避ける。それを読んでいたのか、すぐに下段の追撃が来るが修太郎は飛んでかわす。
空中で身動きが取れなくなったところで姫百合が殴りかかってくる。修太郎は左腕を顔の側面に盾にするように上げて、防御態勢を取る。姫百合の拳が修太郎の左腕に当たった瞬間、修太郎は激痛と浮遊感に襲われる。
姫百合の攻撃を受けきれずに吹き飛ばされたのだ。それを即座に理解した修太郎は体勢を立て直して着地する。
「なるほど。やっぱ、油断ならねえな」
強烈な一撃を食らってなお修太郎は不敵に笑う。それに姫百合が眉をひそめる。セムロはその青い瞳をわずかに細め、探るように修太郎を見る。
今の攻防で大体だが二人の特典に見当がついた。姫百合に関しては身体能力の強化でほぼ確定だろう。それも修太郎が普段特典で使用しているものとは比べものにならないレベルだ。でなければ、いくらこちらの世界に来たことである程度身体能力が強化されているとしても、体勢が不安定な空中であれだけのパンチ力は出せまい。
そして、セムロの方は断定はできないが、おそらくは武器を作成する能力だ。武器の作成と聞けば研を連想してしまうが、この男も刃物を用いた喧嘩に長じている。刃物系の武器を作成する特典が発言していてもおかしくはない。
どちらにしても厄介な能力であることは間違いない。この二人に勝利するつもりならば特典の使用は必要不可欠だ。だが、ここで安易に使うのは少しためらわれた。
修太郎の特典は強力だが、その分数多くの弱点がある。自分を強化する設定に対して制限があること、修太郎が対象を認識していなければ使えないこと、対象の指定が二つに限定されていること、時間制限があること。そして、ある程度意識をしないと使えないということだ。
もちろん、とっさの判断で使えるように訓練はしている。だが、今、自分が使っている身体能力強化よりも上質なものを使ってくる姫百合と武器を作成することができるセムロの二人を同時に相手しながら、特典を使用するのはなかなか厳しかった。
(となると……ここは先手必勝だな)
修太郎は特典で自身の身体能力を十数倍にまで引き上げると身を屈め、飛び出す。今まで体感したことないほどの速度が出た。これなら、誰にも反応されない気がした。この超絶的な速度を以て狙うはセムロだ。得体の知れない力を使うセムロさえ潰してしまえば、ある程度能力のネタが割れている姫百合一人くらいは問題なく倒せる。
その心算を実現させるべく、修太郎はセムロの腹に拳を叩き込む。あまりの速さに姫百合は驚愕し、まるで反応できてない。セムロも同様に防御態勢すら取ることなく、修太郎の拳をモロに受ける。これでセムロは倒せた……と思った。
「ふむ……。凄まじい破壊力。やはり、侮れないな」
「な……!」
だが、倒せなかった。完璧に決まっているにもかかわらずセムロは平然としている。よく見ると、拳の当たった部分の服は破れているがその向こうにあるセムロの肉体には痣一つついていない。
その事実に呆然としていると上からセムロの声が響いてくる。
「だが、悪いな。この程度じゃ、俺は倒せない」
セムロはいつの間にか振り上げていた刀を修太郎の脳天めがけて振り下ろしてくる。修太郎はそれを間一髪かわして距離を取る。
修太郎はセムロを攻撃した右手の痺れを感じながら、問う。
「何だ? その特典は……」
いくらなんでも硬すぎる。過去最高に強化した身体能力を以てしても倒せなかったことも驚愕に値するが、何よりも攻撃に耐えたばかりか、修太郎にわずかでもダメージを与えたことこそ驚くべき事実だ。
身体能力の強化とは単純に膂力や脚力などといったものだけを強化するわけではない。頑強さも向上するのだ。つまり、今の修太郎の肉体の耐久力は常人の何十倍も高いはずなのだ。その修太郎の拳を痺れさせるほどの硬さなど、どう考えても尋常ではない。
「何。お前が考えているほど特殊な力じゃない。俺の特典は鉄を操る。ただそれだけのものだよ」
「鉄……?」
それでは、先ほどの防御は自身の肉体を鋼鉄と化す――あるいは肌に擬態化させた鉄を纏うことで防いだというのか。それも尋常ではない耐久性を誇る鉄で。
だが、筋は通る。先ほどの剣も鉄でできていた。鉄を操れるのならば鉄製の剣を作ることも可能だろう。しかし、そうなると厄介だ。鉄による防御。これを攻略するのは骨だ。千五百度以上の火力で攻撃すればその防御ごと打ち破ることもできるだろうか。
「気に入らないね。さっきからセムロばかり見てさ。アタシなんか怖くも何ともないってことかい?」
そこで姫百合が殴りかかってくる。その攻撃は直線的だったので実験も兼ねて修太郎は腕で防御する。先刻の攻撃ならば今の身体能力で充分に防げるはずだったが、向こうも加減していたらしい。防ぎきれずに少しだけ吹き飛ばされてしまう。予想はできていたので、修太郎は焦ることなく着地し、姫百合の追撃をかわす。そこでセムロが二つの刀で斬りかかってくる。どうやら、先の攻防でもう一本刀を作成したようだ。
セムロの二刀流による連撃を修太郎は危なげなくかわしていく。確かに鉄を操る特典は脅威だが彼自身の身体能力が上がるわけではない。今の状態ならば二刀流相手でも余裕で対応できる。
修太郎は振り下ろされるセムロの刀を蹴飛ばすと、そのまま無手になった左手を掴んで投げ飛ばす。同時に自身の側頭部に狙いを定めて放たれた姫百合の蹴りを身を屈めてかわし、腕を掴んで姫百合の体を半回転させるとカウンターの右ストレートを姫百合の腹に叩き込んでセムロと同じ方向に吹き飛ばす。
両者には綺麗に着地されたがある程度距離を取ることはできた。これで仕切り直しをすることができる。
そこで修太郎は嘲笑を浮かべ、二人を見下しきった目で見る。
「やれやれ。本当みっともねえよなぁ。二人がかりで俺を襲ったりしてよぉ。てめえらにゃ、プライドってもんがねえのか?」
修太郎の挑発に姫百合は食ってかかろうとするがセムロがそれを手で制する。
「くだらん。戦いにプライドも流儀もないだろう。そんなものに固執して何の意味がある?」
セムロはそこで一拍置く。一つ息を吐いて、言葉を続ける。
「俺は真人のやってることの方が正しいと思っている。だから、俺たちはお前をここで潰す」
「そうか。まぁ、少なくとも間違っちゃいねえとは思うぜ。俺は」
そう。間違ってなどいない。人は主観でしか生きられない。自分と他人の主観は違う。相手が正しいと思っているのであれば、少なくとも間違ってはいないのだろう。
何しろ、迫害や大量虐殺ですら正義となる世の中だ。たった一人の思い込みが間違っているというのであれば、世の中全てが間違っている理屈になる。もし、そうなら正しいという言葉自体が破綻していることになってしまう。まぁ、正義と正しいは全く別の言葉ではあるけれど。
だから、修太郎は否定はしなかった。かといって、肯定するつもりもなかったが。
分かりきっていることだ。人の主観と主観はぶつかり合う。だからこそ、争いは生まれるのだ。ならば、この期に及んでプライドなどというつまらないものを持ち出す意味などない。そういう観点で言えば今回は修太郎の失態だ。
それが大勢に影響するかと言われれば否だが。
そこでセムロが左手に巨大な戦斧を出現させる。そして、右手に持っていた刀をこちらに投げてくる。
修太郎は右に一歩ずれることでそれを回避する。そこに姫百合が殴りかかってくる。だが、修太郎は防御態勢を取ろうとしない。
「確かにてめえの拳は凄えよ。けど、悪ぃな。もう飽きたわ」
修太郎は左手で攻撃をいなすと貫手を姫百合の喉に突き刺す。攻撃直後で無防備な姫百合の喉に攻撃はあっさりと決まり、そのまま首を貫通する。
「かっ……!」
姫百合は大量の血を吐く。修太郎は瞬時に右手を姫百合の喉から抜いて、背後から戦斧を振り上げていたセムロの方を向く。姫百合が殺害されたことに愕然とした表情を見せつつもセムロは戦斧を振り下ろす。修太郎はそれに対抗するべく拳を戦斧へと放つ。普通に考えれば拳で斧に対抗できるはずがないのだが、動揺していたためかあっさりと修太郎が押し勝つ。
セムロは動転しつつも、素早い判断で斧を手放し、距離を取る。追撃すべく修太郎はそれを追う。そのままセムロの顔面に左のスマッシュを叩き込もうとするがセムロは後ろに飛んでかわす。そして、両手に拳銃を発現させたかと思えば凄まじい速さで連射しはじめる。
「マジか……!」
修太郎は横に飛んで回避するが、その後を追うようにセムロの放つ弾丸が迫ってくる。
これはなかなかどうして厄介だった。連射速度だけでなく、弾丸そのものの速度も凄まじく速い上に着弾した場所の抉れ具合を見た分では一発一発の破壊力も極めて高い。
いくら特典で強化した肉体でも数十発も食らえば死ぬだろう。ならば、もっと身体能力を強化すべきなのだが、この弾雨の中でそんな隙はとてもではないが見当たらない。
修太郎にできることは四肢を駆使して、弾丸をかわし、捌くことだけだった。だが、それも徐々にキツくなってくる。弾丸を弾く両手には朱い線がいくつも刻まれている。弾丸の威力に肉体が耐えきれていない。
両手が真っ赤に染まり、修太郎が激痛に顔をしかめたとき、セムロは動いた。
「姫百合の仇だ!」
セムロはそう言って銃を捨て、一瞬で背中からレイピアを取り出したかと思えば、そのまま修太郎の胸に突き出してくる。事前に仕込んでいたのか、それとも銃撃の間に作成したのかは分からないが、まともに食らえば身体能力を強化していても防げないくらいの切れ味があるのは明白だった。しかし、体勢を崩している修太郎では回避はおろか、防御態勢すら取ることができず、そのまま心臓を貫かれるかと思われた。
実際、あと数メートルほどまで接近した時点でセムロは勝利を確信していた。けれど、それが結果的には命取りになった。
「なーんてな」
修太郎はニヤリと笑い、懐から小型の筒状の物を取り出してセムロに投げつける。セムロがそれに動きを止めた瞬間、筒状の物は目がくらむほどの光を発しながら、爆音を鳴り響かせる。
龍との戦いで特典の綻びによって予想外の事態に見舞われた修太郎は、それらに備えて対策せざるを得なかった。だが、ただ対策しただけでは同じ結果を招く危険がある。それゆえにさまざまな趣向を凝らしておいたのだ。
これは特典で作成した手製のスタングレネードだ。修太郎の特典は時間制限があるが、そのかわり同じ対象に同じ効果を何度でも設定することができる。重ねがけも可能だ。それを利用して、ほぼ毎日有用な武器を特典で作ることで時間制限という弱点を克服したのだ。
もっとも、情報は未だに更新されていないので現時点では仮説にすぎないのだが。
セムロは至近距離でスタングレネードの閃光と爆音をモロに受け、左腕で目を覆い、怯む。その隙を逃す修太郎ではない。一瞬で距離を詰めると、修太郎の胸に拳を叩き込む。もちろん、ただのパンチではない。それでは鋼鉄の防御に防がれる可能性がある。今のは特典を用いた特殊な攻撃だ。これでセムロの内臓に直接ダメージを与える。
胸にあるもっとも重要な内臓は心臓だ。それを先の一撃で破壊した。いくらセムロが強かろうが、これで死なないはずがない。実際、修太郎は血反吐を吐いてその場に倒れた。しばらくの間痙攣するが、やがてピクリとも動かなくなる。
「これで終わりだな」
そう呟いて一息ついた、次の瞬間――修太郎は右頬に強い衝撃を感じ、吹き飛ばされる。
「な……に……?」
修太郎は呆然と右頬をさする。何が起きたかなど言うまでもない。殴られたのだ。心臓を破壊されて死んだはずの神代セムロに。
セムロは口から大量の血を流しながらも凄まじく鋭い眼光で修太郎を睨めつけている。そのあまりの気迫に修太郎の背に冷や汗が流れる。
「おいおい。冗談だろ……? 心臓ぶっ壊されて、まだ生きてんのかよ」
修太郎は言いながら立ち上がる。だが、足がふらついている。先ほどの一撃によるダメージが思っていた以上に大きい。
だが、今はそんなことに構っている暇はない。それよりも目の前の敵だ。心臓を破壊されてなお立ち上がるこの怪物をどう打ち倒すか。それを考えることの方がはるかに重要だ。
二人は構える。修太郎は左手を顔の前に右手をだらりと下げるという慣れた構え。セムロは右半身に左手を肩の辺りまで上げた構え。どっちも完全に本気モードだった。そして、両者が同時に殴りかかろうと足に力を入れたところで、急にセムロの動きが止まる。それに反応して、修太郎も動きを止める。
セムロはそのまま地面に倒れる。どうやら、先刻の攻撃は最後の足掻きだったようだ。致命傷を負ってなお、あれほどの攻撃を放ってみせたセムロに修太郎は思わず尊敬の念を覚えた。
けれど、それもすぐに消えた。今はそんなものを感じている余裕はない。一刻も早く、このダメージを回復させなければ真人との戦いに支障が出る。
修太郎はすぐに特典でダメージを回復し、その場を離れる。しかし、やはり不安があるのは否めない。確かに真人の腰巾着を務めるだけあって、姫百合もセムロも強かった。それでも、どうにか二人は倒したが先ほども言及したように懸念事項がある。修太郎の予想通りならば問題ないはずだが、その推論は事実と断定するにはあまりに脆い。様子を見るより他にないだろう。
「やれやれ。先が思いやられる……」
そこで修太郎は立ち止まる。天を仰ぎ、どこまでも澄み渡る青空を見つめる。空を見て、修太郎は自嘲するように笑う。
「いや、今さらか」
修太郎はそう言って大きく息を吐いた。そして、歩きはじめようとしたところで足を止める。彼の視線の先には今回の最大の障害と呼べる存在が立っていた。
「……ほぅ。こいつぁ驚いたな。様子を見に来てみれば、すでにセムロも姫百合も倒されているとはよ」
「戸北……」
修太郎は小さな声で呟く。目の前に立つのは茶髪を刈り上げた大柄かつ屈強な肉体を持つイケメン。その気になれば女をいくらでもたらし込める風貌だが、その威圧する雰囲気は周囲の人間を萎縮させること間違いなしだろう。
この男こそが戸北真人。おそらく単純な喧嘩の腕ならばクラス最強といっても過言ではない男。いつかは戦うと踏んでいたが、まさかこんな早い段階で遭遇するとは思っていなかった。交戦するとしたら集落の奥まで辿りついてからだと踏んでいただけに読みが外れたとも言える。
「仕方ねえ……。悪いが、てめえにはここで潰れてもらうぜ。こいつらをここまで引っ張ってきた以上、俺は二人の仇を討たなきゃならねえんでな」
しかし、こうなってしまった以上戦わざるを得ない。真人はやる気満々だ。修太郎はこの場で決着をつけるべく、構えを取った。




