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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第四章 陰の蠢き
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一人目ー第四章 11話 四大名家当主、集結!

 某所。とある三人とその従者と思われる人物が数名、そこに集まっていた。カーテンで完全に外界とシャットアウトしているためか室内は昼間にもかかわらず薄暗い。

 中心の三人の表情はそれぞれ対照的だった。悠然としている者や薄ら笑いを浮かべている者がいる中、一人だけ渋い顔をしている者がいた。ユキヒコ・アレフスだ。



 この地に集まった三名はそれぞれが四大名家の当主だ。修太郎に殺害された谷崎啓也を除く三人の当主が、今、この場に集結している。今から、彼らは会合を行うのだ。このことが意味することはこの国にあるあらゆる事象よりも重かった。この会合での決定は絶対だ。この国の全てがこの会合で決まっていると言っても過言ではない。

 もっとも、そんな大それたことがこの会議で行われた試しなどないが。そのためかユキヒコを除いた二人はかなり余裕のある表情だった。



 ちなみに各当主たちの顔は暖簾(のれん)で隠されている。だから、ユキヒコには二人の表情は見れない。もちろん、着席するまでは隠されていないので彼らの表情など容易に見当がつくけれど。しかし、ユキヒコが苦々しげな顔をしているのは二人の表情だけが理由ではない。まぁ、欠片も関係していないと言えば嘘になるが。


「さぁ、集まったな。形式上ではあるが会合を始めるぞ」


「はいはい。相変わらず固いなぁ、ユキヒコの旦那は。もう少し気楽に行こうよ」


「お前が気楽すぎるせいで私は頭が痛いんだがな」


 ユキヒコは盛大にため息をつく。その様子を見てセーザツはおかしそうに笑う。セーザツ・キューゲンペグ。若くしてキューゲンペグ家を継いだ当主ではあるがユキヒコはどうも彼が好きにはなれなかった。彼は当主を務めるにはあまりに器が足らなすぎる。



 だが、ユキヒコが気に食わない人物はもう一人いる。それはユキヒコの左斜め前に座るもう一人の四大名家当主のことだ。暖簾で顔こそ見えないが、彼女がどのような表情をしているかなど容易に想像がつく。

 暖簾の向こうで上品の正座をしているのは青いロングヘアに紺碧の瞳を持つ美女。彼女こそコンフリクト地区を牛耳るシュード家の当主、グレノン・シュードだ。


「キューゲンペグ様の軽口は放っておいて、本日の議題は何ですか?」


「わー。放っておかれちゃったよ。まぁ、そこがまたたまらないんだけどね」


「そうだな。まずは谷崎の当主殿の死亡の件についてだ」


「あらら。とうとうアレフス殿にまで無視(シカト)されちった……」


 セーザツは暖簾の向こうで舌を出しながら苦笑する。だが、すぐに愉快そうな笑みへと変えて口を開く。


「にしても、まさか、谷崎殿がやられるとはねぇ……」


「私はいずれこうなると思っていましたわ。あの男は四大名家の当主にしておくにはあまりに単純すぎる」


 淡々と話すグレノンにセーザツは同意するかのように頷く。


「ま、四大名家の当主なんて重責を十全にこなせる人間の方が少ないでしょ。それにあの人も結構長い間やってたって話だし、あの人も本望なんじゃないの?」


「そんなことはどうでもいい。これはただの確認事項だ。奴の遺志などどうでもいい」


「おいおい。随分と冷たいなぁ。仮にも数十年来の付き合いなんでしょ?」


 セーザツの言葉にユキヒコは答えない。無言で腕を組むユキヒコにセーザツは笑みを引っ込めて、怪訝そうな顔になる。

 彼の反応があまりに淡白すぎるのが気にかかる。考えるまでもなく、セーザツにはその理由が頭に思い浮かんでいた。


「何かやけにあっさりしてるけど……。ねぇ……まさか、谷崎殿殺しにあんたが関与してるとか言い出さないよね?」


 トーンを下げて核心をついてくるセーザツの問いにユキヒコは鼻で笑う。


「ふん。そんなものは些末な問題だ」


「いや。全然些末じゃない……」


 セーザツは呆れた表情で言う。別に他家の当主を謀殺することなど何ら珍しいことではない。友好関係を謳っていようが誰も彼もがその腹の内は真っ黒だ。誰が誰を裏切ってもおかしくない。



 問題なのは四大名家の当主が四大名家の当主をあからさまに殺した場合だ。もちろん、過去にそういう事例がなかったわけではないがさすがに外聞が悪すぎる。セーザツとしては好都合と言えば好都合だが今のアレフスと谷崎の関係を考えるとどう転ぶか分からない。何せ、キューゲンペグにも彼らをあまり笑えない爆弾があるのだから。

 まぁ、それもあともう少しで消えてなくなる予定ではあるが。



 そこでユキヒコはおもむろに背もたれに体重をかける。両手を腹の前で組み、大きく息を吐いて、一言。


「お前たちは一体何を企んでいる?」


 ユキヒコはセーザツとグレノンに鋭い視線を向ける。それにグレノンは凜とした目で見返し、セーザツは呆れたといった表情で肩をすくめる。


「いやですわ、アレフス様。私は計謀などめぐらせておりません」


「僕もシュード殿と同じで何も企んじゃいないさ。藪から棒に何だい? アレフス殿」


 セーザツは腕を組んで、胡散臭い笑みを向ける。それにユキヒコは小さく息を吐き、手元に置かれた水の入ったグラスを煽る。


「ふぅ……。別に藪から棒というわけではない。お前たちは以前からおかしい動きを見せていた。だが、その程度ならばこちらも何も言わなかった。だが、最近のお前の動きは目に余る。お前の目的は何だ? セーザツ・キューゲンペグ」


 鋭い眼光で睨みすえてくるユキヒコにセーザツは笑う。足を組んで、肘掛けに頬杖をつき、その口元をさらに大きく歪める。


「そこまで言うんなら、一応こっちも返しておこうかな。あんたは一体何を企んでるんだ、ってさ」


「どういう意味だ?」


「そのままの意味だよ。というより、正直あんたも人のことは言えないと思うけどね。聞いた話だと、件の連続不審死事件が起こったときに例の少年に相当な便宜を図ったらしいじゃない。あんただって、相当怪しいよ。ま、名家の当主なんてそんなもんだけどさ」


「さすがに聞き捨てなりませんわ、キューゲンペグ様。私は生まれてこの方、奸計をめぐらせたことなどありません」


「うん、まあ、そうだねー。ごめんごめん」


 真顔で抗議してくるグレノンにセーザツは適当に答える。それにグレノンは不満げな表情をするが彼女が何かを言う前にユキヒコが口を開く。


「真面目に答える気はないということか」


「互いにね」


 暖簾越しに二人の視線が交錯する。数瞬にも満たない睨み合い。だが、四大名家の当主を務める者同士の睨み合いは部屋の空気を容易く凍らせる。

 須臾の間、二人の睨み合いは続いたが、これ以上は時間の無駄だと判断したユキヒコは眼力を緩め、大きく息を吐く。


「まあいい。これ以上は何も聞かないでおいてやる」


「そいつはどうも……。それにまだ話さないといけないことはあるんでしょ?」


「……この国に突如現れた子供たちのことだな」


 ユキヒコの言葉にセーザツは小さく頷く。グレノンも何も言わないが、眉をわずかに動かす。彼女も修太郎たちのことが気になっているようだ。


「その内の一人に仕事を依頼した僕が言えたことじゃないけどさぁ。もし、報告通り彼らが魔王を倒すために召喚された勇者たちだって言うんなら放置するのはまずいんじゃない?」


「同感ですが彼らは人型をすでに何体も倒しているのでしょう? 数も三十を超えていると聞きますし、処分(・・)するにしても容易なことではないと思いますが……」


 グレノンの言葉にユキヒコは腕を組んで考え込む仕草を見せる。彼とてそんなことは分かっている。いや、櫛山修太郎を間近で見ている分、他の二人よりも修太郎たちの厄介さを知っている。あの難解な連続不審死事件を数日で解決し、人型の魔物すら圧倒したその頭脳と技量は並大抵のものではない。

 けれど、修太郎が魔王を倒すつもりでいるのなら放置できないのも事実だった。


「いずれにしても魔王を始末しようというのであれば排除しなくてはならない。魔王と醜界(しゅうかい)の姫君。この二人が揃っているからこそ、この世界は存在していられるのだからな」


 ユキヒコは神妙な表情で言う。その言葉に二人もしばし黙り込む。何ともいえない沈黙が空間を支配する。その沈黙を破ったのはセーザツだった。


「……放置するのはまずいって言っといて何だけど、そこまで気にすることもないと思うけどね。櫛山修太郎。確かに彼は異次元の強さを持ってるけど、あの程度でどうこうできるほど魔王は弱くないでしょ。おまけに集団から離脱して単独で動いてるって話だし」


「万が一ということもある」


「ないと思うけど?」


「ふん……。お前は修太郎くんをあの程度と言っていたが、大した力を持ち得ていないと踏んでいる男に長い間お前たちを(わずら)わせてきた最大の障壁を破壊させようとしているのか?」


「それとこれとは話が別でしょ。魔王の力は次元が違うとかいうレベルじゃない。それはあんたもよく知ってるはずだ」


 セーザツの言葉にユキヒコは一瞬黙る。だが、すぐに小さく笑うと抑揚のない声で呻くように呟く。


「魔王がどれほど強かろうが気は抜けない。人型を何体も倒している以上、人の領分を遙かに超えた力を有していることは間違いないのだからな。とくに人型を二体も倒した修太郎くんは別格と見ていい」


 アスタル・ゼヴェイフォルン、木更津剛。いずれも相当な手練れだったはずだ。並の能力者はおろか手練れの能力者が数人がかりで襲っても勝てるかどうか。本来人型とはそれだけの力を有しているはずなのだ。

 そんな彼らをあっさりと破ってのけた修太郎。彼を警戒するのは四大名家の当主として当然のことだ。


「でも、そうは言っても現状は様子見しかないんじゃない? 何か仲間割れ起こしてるって話もあるしさ。確か連中の三分の一くらいはすでに死んでんじゃなかったっけ? 放っておけば自滅もありえるよ」


「そうだな。監視はつけるが、今のところは(けん)に徹するしかないか。後手に回るようで癪に障るがな」


「それはしょうがないよ。今はまだ時期尚早だ。余裕を持って動こう」


「ふん……」


 ユキヒコは気に入らないといった表情を見せる。だが、現状セーザツの提言以上の最善策はないと彼も考えているため何も言わない。


「展開が少々気に食わないがまあいいだろう。議論すべきことはもう話したな。それでは、今、この時を以て会合を終了としよう」


 ユキヒコの言葉を受けて、セーザツは大きく伸びをする。軽く左肩を鳴らし、ゆったりとした動きで立ち上がる。


「じゃあ、もう解散すればいいかな。僕も暇じゃないしね。お先に失礼させてもらうよ」


「私もこれにて失礼させていただきますわ」


 二人はそのまま従者を連れて部屋を出ていく。それをユキヒコは静かに見つめる。しかし、すぐに興味をなくしたようで視線を手元のグラスに向ける。


「すまんな、修太郎くん。君から受けた恩を仇で返すことになるかもしれんが、これもこの国のためだ。たとえ、どういう事態になろうとも許してくれ」


 ユキヒコは小さな声でそう呟き、補充された水を一気に煽った。 

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