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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第四章 陰の蠢き
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一人目ー第四章 2話 カスミとのお出かけ

 朝食を終えた修太郎は約束通りカスミと出かけるために準備を始める。といっても、外行き用の服に着替えて、依頼と称した数々の雑務をこなしたことでパンパンになるほど肥えたこちらの世界に持ち込んだ愛用の財布をポケットに突っ込むだけだ。大仰な準備を要するとしたらカスミの方だろう。



 けれど、一応鏡を見て自分の姿を確認しておく。さすがにあまりにも酷いコーディネートで外を出歩くつもりはない。修太郎は部屋の鏡を見て自身の服装を確認しておく。

 白の半袖ポロシャツに黒のデニムジーンズ。首にはなぜか今日出かけるときに身に着けてきてほしいと頼まれた銀のリングを紐に通して下げている。


「……まぁ、及第点は取れてるだろ」


 修太郎はあまり服装に頓着する方ではないが、それでもそこまで酷いセンスをしているわけではないはずだ。これなら笑われることもないだろう。



 そう判断し、修太郎は部屋から出て行く。そして、大部屋の方に行くとめかし込んだカスミが出迎えてくれた。


「早いな。これでもそこそこ急いだつもりだったんだが」


「はい。修太郎をお待たせするわけにはいきませんので、少しズルをさせていただきました」


「ズル?」


「少々魔力を使っただけです。それでは参りましょうか」


「そうだな」


 はぐらかされた感じがするが別に興味もなかったので修太郎は素直に頷く。


「それじゃあ、どこに向かおうか?」


「そうですね。今日は団光(だんこう)に向かってみましょうか。ちょっと服を見てみたいんです」


「分かった。そこでいいぜ」


 行ったことはないが見たことのある地名だった。確か公平の屋敷からIRに向かうまでの途中の看板らしきものにそのような名前を見た気がする。その時は満月の件でそれどころではなかったが、改めて行ってみるのも悪くはない。

 そして、二人は団光と呼ばれる場所へと向かった。






 ○○○○○


 街はなかなか賑わっていた。魔物に対する恐怖のようなものはあるが、それを誤魔化すための虚栄心は境の街ほどは感じられなかった。そして、何よりも街が近代的だった。少なくとも街並みだけを見れば、カザシ地区の中心街よりも発展しているように思える。いや、そんな次元ではない。



 イメージとしては渋谷のセンター街に近かった。中世ヨーロッパの街並みと遜色なかったカザシ地区の中心街とは大きく違う。IRでも思ったがアレフスより谷崎の方が文化の発展に力を注いでいるのだろうか。

 まぁ、建物だけで判断するのもよくはない。何せ、修太郎はカザシ地区も船楼地区も上辺(うわべ)だけしか知らない。その状態で判断するのは時期尚早というものだ。


「にしたって、凄い数の店だな。どこに入るんだ?」


「そうですね。あそこはいかがでしょうか?」


 カスミが指差したのは『the myuas』という看板が掲げられた洋服店だった。そこそこ大きな店で店頭のマネキンから男物も女物も置いてあることが分かる。

 特に異論もなかった修太郎は頷き、カスミと共にその店に向かう。途中、カスミは修太郎を見上げる。


「よろしければ修太郎の服もお選びしましょうか」


「そうだな。なら、頼もうか」


 カスミのセンスは決して悪くない。今日の装いはクリーム色のカーディガンに水色と白のチェックの膝丈ワンピース。そして、右肩には黒を基調にしたショルダーポーチ。頭にはひまわり帽を被っている。

 いわゆる清楚系というやつだ。ちなみに清楚な服を着る女はごまんといるが、心まで清楚な女などこの世に存在しないという俗説もあるらしいがそれはひとまず置いておく。

 とにかく彼女に任せっきりにしたとしてもひどい服を着させられることはないだろう。



 店内に入ると修太郎は広大な店内スペースとそれらを埋め尽くさんと並べられている売り物の服に圧倒される。


「すげぇ数の服だな」


「そうですか? この規模の洋品店ならば、これくらいは普通だと思いますが」


 彼女の言葉に間違いはない。確かにこの程度の数は置いてあって普通なのだろう。ただ修太郎はこういった店にはほとんど来たことがない。決して長いとはいえない人生の中でも片手で足りるほどだ。基本的に家で雇われた使用人に買わせたものか唯が持ってきたものを着ているために服屋に行く用事がない。遊びで街に行こうとは思わないというのもあるかもしれない。

 こちらの世界では地理の把握のために街によく繰り出したりもしたが、修太郎は都会には興味がない。都会は人が多すぎてうんざりする。平穏無事を好む修太郎にとって街は雑音が多すぎるのだ。


「最初は修太郎の服を見ましょうか」


「ん? ああ。俺は何でもいいぜ」


 あまり話を聞いていなかった修太郎は生返事を返してしまう。しかし、カスミは気にした様子を見せずに店の中を進んでいく。修太郎は頬をポリポリと掻いて、その後を追う。


「多すぎて、どれがどれだかって感じだな」


「……修太郎は自分で服を買ったりはしないんですか?」


「まあな。人に買ってきてもらったのを着てるからな。正直、こういうのはよく分からん。んで、どうしてそんなことを聞くんだ?」


「いえ。ただ何となくこういった場に慣れていないように感じまして」


 否定はできない。というより、カスミの方こそ場慣れしていることに驚きだ。彼女は四大名家の一つ、アレフス家の娘だ。わざわざ自分で足を運ばずとも使用人に言いつければいくらでも服が手に入りそうだが。

 何なら、専属のファッションデザイナーがいたって何らおかしくない。



 にもかかわらず、こういう場所で平然と行動できるということは自分で服を選んで買うのが好きなのだろうか。修太郎にはよく分からなかった。


「修太郎。こちらはいかがですか?」


「ん?」


 修太郎はカスミが手に取った服を見る。カスミが手に取ったのはネイビーブルーのシャツとオリーブドラブのベスト、そして、ベストと同じ色のカーゴパンツだった。色合いだけを見ればミリタリーファッションにも見えなくはない。シャツが少々浮いている気がするが、悪くはないだろう。


「おそらく、サイズはぴったりだと思うのですが」


「そうだな。少し試着してみるか」


 修太郎は一つ頷き、カスミから服を受け取る。そして、試着室を探す。すると、右前方の方に試着室の案内が書かれた看板があった。

 そこに向かって歩いていくと三十以上の試着室が並んでいた。修太郎はそれに呆れ顔でため息をつき、手近の空いている部屋に入る。すると、カスミが話しかけてくる。


「修太郎。すみませんが私は少し外しても構いませんか? すぐ戻りますから」


「ん? ああ。構わないが」


 修太郎の返事を聞くと、カスミはどこかへと立ち去る。修太郎はそれを不思議がりながらもカーテンを閉めて試着する。

 サイズが違っていないことを確認した修太郎は鏡で自分の姿を確認する。そこで外から声をかけられる。


「もういいですか?」


「ああ、大丈夫だ。てか、早かったな」


 修太郎が言いながらカーテンを開き、カスミの姿を見た瞬間固まった。カスミは満面の笑みを見ながら、両手に持った服を修太郎に見せる。


「実はこの二つで迷っていたのですが……修太郎はどちらの水着がいいですか?」


 カスミはそう言って二つの水着を修太郎の前に突き出す。一つは赤と白のストライプのビキニ。もう一つはオレンジを基調にし、露出を控えめにした水着だった。


「カスミ。お前、最初からその二つのどっちかにすると決めていたのか?」


「はい。以前にも来たことがあって、その時は時間がなくて断念したんですが……。そのおかげで修太郎に選んでもらうことができたので幸運でした。ああ、修太郎の服は私の見立て通り、かっこいいですよ」


 天使のような微笑みを向けてくるカスミに修太郎は思わずため息をついてしまう。正直、修太郎は流行には疎い。いや、それ以前にこのような選択を迫られるのは想定外だった。この点に関しては予想できたのにしなかった修太郎の失策だ。

 しかし、それほど悲観するほどでもない。どちらが彼女に似合うかよく考えて選べばいいだけの話だ。


「俺はそういうのはあまり分からないんだが……」


「構いません。思っていることを、そのまま口にしてください」


「なら、そっちの赤と白のビキニはどうだ?」


 修太郎はカスミが右手に持っているビキニを指差す。カスミはそれに考え込む仕草を取る。


「なるほど。こちらの方が修太郎の好みですか。分かりました。少し試着してみますね」


 そう言ってカスミは修太郎の右隣の試着室に入っていく。修太郎はそれを見送り、再びカーテンを閉めて元の服に着替える。

 カーテンを開けて外に出ると、ちょうどカスミも着替え終わったところらしくカーテンを開ける。


「どうですか?」


 カスミは左手を腰に当てて、その均整の取れた体を惜しみなく晒す。彼女の並外れた容貌も相まっていっそ神秘的と言っていいほど美しかった。

 後ろにはいつの間に来たのか数十人ほどの人がカスミの水着姿を見て歓声を上げていた。男は性的な目で見ている者が大半で女はカスミにうっとりと見とれている者が大半だった。


「似合ってると思うぞ。陳腐な感想で申し訳ねえけどな」


「そうですか。それはよかったです」


 カスミは心底嬉しそうな笑みで言ってくる。それに修太郎は思わずドキッとしてしまった。ちなみに後ろの連中も似たようなものだったがカスミの目に入っていなかった。彼女が見ているのは修太郎一人だ。


「それでは修太郎の望み通りこちらにしましょう。これで六日後も安心です」


「ん? 六日後?」


「あぁ、そういえばこれは内緒でしたか。うっかりしてました」


 カスミは人差し指を唇に当てながらそんなことを言う。どうやら、今日はかなり機嫌がいいようだ。そして、カーテンを閉めると元の服に着替え、オレンジ色の水着を戻すために一度席を外す。



 結局修太郎はミリタリー風の服を買い、カスミはストライプのビキニを買った。その袋を修太郎は持ち、店を出る。道すがら修太郎はカスミにとあることを聞く。


「そういえばシャイナはどうした?」


「若い二人に任せると言って部屋で休んでいますが」


 一瞬眉をひそめてしまった修太郎は悪くないだろう。シャイナは身の回りの世話だけでなく、カスミの護衛も兼ねていたはずだ。その彼女がカスミの外出に同行しないとはどういうつもりなのか。修太郎がいれば大丈夫と判断したなどという理由ではあるまい。


(気を利かせたのか? 俺とこいつを二人っきりにするために?)


 修太郎に思いついた理由はそれしかなかった。そこで修太郎はふと露天風呂で混浴したときのことを思い出した。


『どうか、カスミ様を救ってください』


 そんなことをシャイナが言っていたことを記憶している。あの時は正直何のことか分からなかったし、今もよく分かっていないが、それに関係していることだけは何となく理解できる。



 そこで修太郎は喉の渇きを覚える。さりげなく周囲を見ると、すぐ側に自販機があった。


「少し喉が渇いたな。悪いがそこの自販機で何か買ってきてもいいか? 何なら、お前の分も買ってくるが……」


「いえ。私は持参した水筒があるのでいいです。そこのベンチに座っていますね」


「了解」


 修太郎は自販機に向かう。カスミはその側にある自販機に腰かける。適当な炭酸飲料を購入し、キャップを開けて飲んでいると不意に声をかけられる。


「よぅ。元気そうだな。修太郎」


 声のした方を見るとそこには髪を茶色に染めて坊主頭にした長身で筋骨隆々の少年が立っていた。その後ろには二人の少女が連れ従っている。修太郎は少年を見上げながら口を開く。


「久我路か」


 修太郎の言葉に少年――久我路は喉をくつくつと振るわせながら笑う。


「おいおい。随分他人行儀だな。いつも、路面でいいと言っているだろう?」


「生憎と『闇天(やみてん)』の五大戦力の一人に気安い口が利けるほど俺の面の皮は厚くないんでね」


「なるほど。それなら無理強いはできないな」


 何とも傲慢な物言いだ。しかし、この少年の立場を考えればそれも当然のことだろう。彼は村の――否、世界の闇の全てを知り尽くした存在だ。

 久我路(くがろ)(めん)。それがこの少年の名であり、光一や真人、善継同様クラス内でグループを作り上げている人物の一人だ。といっても、本人はクラスカーストなどに興味はないようで、わりと好き勝手やっているけれど。そもそも、彼のグループの人間も村内での彼の部下だ。


「ふん。あまりにも会わないもんで、気になってはいたんだけどよ。まさか、お前まで他の連中から離れたのか」


「ああ。そういえば、お前は真っ先に離れたから知らないのか。俺と善継たち、それと研は先にアデワデ地区に向かわせてもらったんだ」


「何でまた?」


「まぁ、俺にもいろいろあるのさ。善継の場合は安城と行動を共にしたくなかったってのもあるんだろうけどな」


 それを聞いて修太郎は合点がいった。光一と善継が対立しているというのは有名な話だ。善継が光一に対抗心を燃やしているだけだと言う者もいるが、実際は光一も善継を目の敵にしている節がある。


「そういえば、そちらの嬢さんとは初めてか。ならば、名乗っておくべきだな。姓は久我路、名は免。親しい者からは路面と呼ばれている。以後お見知りおきを。そして、後ろの二人が……」


綿貫(わたぬき)陽葵(ひなた)


井上(いのうえ)数理(すうり)です」


 免が後ろを見ると、後ろに控えていた二人の少女がそれぞれ名を名乗る。陽葵は名だけ名乗ると素知らぬ顔で腕を組むが、数理は丁寧なお辞儀をしている。二人の性格の違いがよく現れている。といっても、陽葵も決して無愛想というわけではないのだが、今は機嫌があまりよくないらしい。


「初めまして。カスミ・アレフスです」


 彼らの自己紹介を受けて、カスミも名乗り返す。人のいい笑みを浮かべながらお辞儀をするカスミに陽葵はわずかに眉根を寄せる。しかし、すぐに先刻までの無表情に戻る。



 その間、さりげなくカスミを観察していた免はあることに気付く。


「おっと、俺としたことが気付かなかったな。お二人でデートに興じていたのかな? ならば、早々に去るのが礼儀か。では、これにて失礼させてもらおう」


「ん? ああ」


 刹那、修太郎は首をかしげるがすぐに彼の言いたいことを理解する。カスミの肩から力が抜けたことを察したからだ。陽葵はまだまだ不機嫌のままだが、まぁ、それは向こうの問題だ。修太郎の関知するところではない。



 三人は背を見せて去っていく。カスミはほっと息を吐いて口を開く。


「不思議な方々でしたね」


 カスミは免の後姿を見つめて言う。修太郎は苦笑しながら答える。


「まぁ、あいつは他の連中とは少々毛色が違うからな。……今さらかもしれねえが、気を付けておいた方がいいぜ。俺も人のことは言えねえが、あいつも大概終わってるからよ」


 久我路免。少々堅いところはあるものの気さくな男なのだが実際は正馬に匹敵するレベルの危険人物だ。というより、クラスでまともと呼べる人物ははっきり言っていない。これは修太郎の主観だが客観的に見ても大差ないだろう。だからこそ、クラス転移などという常識外れの事態に巻き込まれても対応できるのかもしれないが、修太郎としてはこんな連中を召喚してしまったキサラに遅ればせながら同情してしまう。まぁ、彼女のその後の言動を(かんが)みればそれも薄れてしまうけれど。


「ま、いつまでも気にしてても仕方ねえ。今日は買い物に行くと決めたんだ。次、行こうぜ」


「はい」


 カスミは屈託のない笑みで答える。二人は歩きはじめ、次なる目的地へと向かっていく。



 結局、一日中カスミの買い物に付き合うことになったが、修太郎としては充実した一日を送れたと思っている。そして、二人が帰ってきたのは夜の七時を少し過ぎた頃だった。

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