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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第三章 イラつかせる独善と偽善
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一人目ー第三章 13話 啓也潰しを始めよう

 修太郎は一度深く深呼吸した。このまま頭に血が上っている状態で動いていてもロクなことにならない。感情任せに動いてもよかったのだが、修太郎はあえて落ち着くことで香奈から話を聞いてみることにした。


「それで、どういうつもりだ? 影浦」


 香奈が妨害したせいで正馬には逃げられてしまった。正馬は光一を殺害した実行犯だ。その事実はおそらく修太郎の請け負っている依頼に関わってくるだろう。そんな重要人物をみすみす逃がしてしまった。それを看過できるほど修太郎の気は長くはない。


「お前と正馬の関係は知っている。だが、俺とあいつの戦いを止めるっていうのはいささか度が過ぎてるんじゃねえのか?」


 修太郎の詰問に香奈は肩を震わせる。だが、大きく息を吐くと修太郎の方を見て言う。


「勝手に戦いを中断させちゃったことは謝るよ。ごめんなさい。でもね、私も二人が戦うのは避けられないとは思っているけど、こんな状況(シチュエーション)であの人を終わらせることだけは耐えられなかったの」


「こんなシチュエーションだと?」


 修太郎は眉をひそめる。こいつは一体何を言っているのか。戦いにシチュエーションもへったくれもあるのだろうか。

 怪訝そうな表情になっている修太郎に対し、香奈は不思議と落ち着いた表情を見せる。香奈は言葉を紡ぐために静かに息を吸う。


「私も殺さずに彼を止めることは不可能だと思う。でも、せめてあんな物のついでのような状況じゃなくて、彼をしっかりと見た上で――一騎打ちで坂戸くんを……兄さんを殺してほしいの」


 香奈は感情を押し殺した声でそう懇願した。それは嘘偽りない本心からのものだった。それを感じた修太郎はしばらくの間香奈を見る。香奈も視線をそらすことなく修太郎を見返す。やがて、修太郎は諦めたようにため息をつく。


「分かったよ。お前の望み通りにしてやる」


 修太郎の返答に香奈は顔をぱぁっと明るくさせる。それに修太郎はもう一度息を吐く。


「ただし、興がそがれちまったからな。今日はもうあいつに手を出すつもりはねえ。まずは仕事の方から終わらせる」


「仕事……」


「そうだ。じゃ、俺はもう行くぜ。俺も暇じゃねえんでな」


 修太郎は右手を上げて、その場から離れる。後ろから声をかけられることはなかった。



 とりあえず、この後のことをどうするかだ。光一を殺した時点で啓也への挑発としては充分だろう。しかし、自分は光一を追い詰めただけで、あくまで殺したのは正馬だ。ならば、啓也の矛先が正馬に向いてしまう可能性は十二分に考えられた。となれば、その隙をつくのが一番だろう。というより、それ以外にやりようがない。

 まぁ、光一を追い込んだという理由で修太郎も目をつけられていてもおかしくはないが、それはそれで当初の予定通りなので何も問題はない。今、やるべきことは啓也を潰して満月を助けることだ。そのために必要なことは言うまでもなく啓也の下に行くことだ。



 そうなると、このまま啓也の方へと向かうのが最善手だろう。あくまで、依頼は満月を啓也の魔の手から救うことだ。ならば、早々にその依頼を達成してしまっても問題ないはずだ。その上で正馬を潰す。それが一番だろう。



 そう考えた修太郎は特典を使い、瞬間移動で谷崎家の本宅まで移動した。門の中に一瞬で入り込んだ形だが修太郎はそこで異変に気付く。


「ん……? 妙だな。人気(ひとけ)がねえ」


 修太郎は訝しげに眉根を寄せる。今、修太郎は突然現れた不審者であるはずだ。なのに、その対処をしようと向かってくるはずの人間が一切いない。

 修太郎は庭の茂みに隠れて屋敷の内部を調べることにする。ざっと見た感じ、人はいるようだが、ほとんどが戦闘慣れしていないのが一目で分かるレベルの素人だ。腕利きらしい人間は一切見当たらない。


「どういうこった……?」


 修太郎の疑問はもっともだ。いくらなんでも不用心すぎる。ここは四大名家の一つ、谷崎家の総本山のはず。ならば、非常時の対処能力は他と一線を画しているはずだ。少なくとも、修太郎が現れた時点で侵入者を察知してもおかしくないはず。というより、こんな派手な侵入方法で気付かれないはずがないのだ。


「まさかなぁ……?」


 修太郎は門の方を振り向く。だが、何も変化はない。侵入したら発動するタイプの罠でも仕掛けられているのではないかと思ったのだが、そういうわけではないらしい。そうなると、残された答えは一つ。


「ちっ。面倒くせえ……」


 修太郎はそう吐き捨てて屋敷から抜け出す。そして、特典で身体能力を再び強化し、凄まじい速度で移動する。向かうのは公平の屋敷だ。

 修太郎の予想が正しければ、その道中が勝負だ。相手も修太郎が瞬間移動するとは思っていないはず。そして、幸いにも光一戦もその後もほとんど時間を使っていない。ならば、まだ間に合う可能性はある。


「間に合ってくれよ」


 修太郎は祈ること自体が無意味だと分かっていながら、そう呟いた。






 ○○○○○


 今回の一件。谷崎啓也は奸計(かんけい)をめぐらせていた。実力が未知数の修太郎が公平の屋敷からいなくなる隙を狙って襲撃を仕掛けようとしたのだ。

 キサラと啓也は懇意にしている間柄だと聞く。そして、キサラは修太郎の最近の動向を知っていた。ならば、キサラから啓也に修太郎が人型を二匹も撃破したという情報が流れていてもおかしくはない。



 つくづく修太郎は自分の対応の遅さを恨む。いや、啓也の動き出しが早すぎるのだ。光一が死んでから十分も経っていない。にもかかわらず、満月を攫いに行ったということは、最初から光一の力などあてにしていなかったということになる。


「まぁ、んなもん何の意味もねえんだけどな」


「あ、あぁ……」


 修太郎は目の前で無様に尻もちをつく一人の男を見下ろす。この無様な姿を晒している中年男こそが昨日会った谷崎啓也だ。


「俺を甘く見すぎたな。この程度で俺を出し抜いたつもりか?」


 修太郎は殺した襲撃部隊と思われる者たちから適当な武器を奪い、それを啓也の首に突きつける。墨よりも黒い棍棒。重量感も申し分ない。修太郎の知り合いの作るそれには及ばないが、それでも啓也を殺すには贅沢すぎる逸品だった。



 ただ怯えているわりには命乞いを一切してこないのが少し気になるが、恐怖で何も言えなくなってしまっているのだろうと修太郎は判断した。


「ふん。てめえの命を終わらせるにゃ、いささか上物だが……。まあいいか」


 修太郎は棍棒を啓也の脳天めがけて振り下ろす。棍棒が啓也の頭蓋を砕くべく彼の髪に触れた瞬間、背中から衝撃が与えられる。


「あん?」


 修太郎が武器を下ろす腕を止め、何が起きたのか把握するために後ろを振り向こうとした瞬間、彼の顔面に強烈な蹴りが飛んでくる。修太郎はとっさに空いた左腕でそれを受け止め、後ろに数歩下がって距離を取る。


「何だぁ? てめえは……」


 修太郎は急に乱入してきて、自分の邪魔をした男を剣呑な目つきで見る。赤い装束を身に纏った男はそれにわずかな冷や汗をかきながらも答える。


「谷崎直属能力軍副軍団長・上神(かずわ)(ばん)


「能力軍……だと?」


 聞いたことのない名だった。軍ということは大方、谷崎家の私設軍といったところか。


「それにしても、話には聞いていたが、やはり見聞きするのと実際にお目にかかるのではわけが違うな。決して侮っていたわけではないが、まさかここまでとはな。貴様は紛うことなき怪物だ。先ほどの連撃、手を抜いたつもりはないんだが……」


「手加減無しであれか。副軍団長だのご大層な肩書きを持ってるわりには大したことないんだな。それとも、能力軍とやらはあの程度でその地位にまで出世できてしまう程度の地力しかないのか?」


「やれやれ、言ってくれるな。常人ならば最初の一撃で腹に大穴が空くはずなんだがな。その一撃を食らっても平然としていて、おまけにその後の蹴りに対してあれだけの反応を見せるとは。噂などあてにはならんものだな」


 上神は肩をすくめる。修太郎はそんな彼を冷めた目で見ていた。



 上神は強者ではない。にもかかわらず、強い自分の邪魔をした。ならば、相応の罰を受けさせなくてはなるまい。



 修太郎は左手をゴキリと鳴らし、上神に攻撃を仕掛けようとする。特典の対象変更は使っていない。ならば、身体能力強化の効果はまだ残っている。この力があれば、この男を瞬殺し、返す刃で啓也を殺すことなど造作もない。

 そう考えた修太郎が動こうとしたとき、上神は左手に丸い物質を出現させる。袖の裏から取り出したようだが、なかなかの早業だ。それは認める。だが、そんなものは修太郎にとって何の脅威でもない。それを使って何かをさせる前に倒せばいいだけの話だ。

 上神に接近するべく脚に力を込めた瞬間、修太郎は左から新手の刺客が近付いてきていることに気付く。修太郎は脚から力を抜き、短刀で修太郎の脇腹を刺そうとしている刺客の右腕を弾くと、そのまま拳一発で刺客の腹に大穴を空けて撃破する。


「かっ……!」


「二度も同じ手を食うか」


 新たな刺客を瞬時に殺害することには成功したが、それは結果的に手遅れだった。上神は玉を地面に叩きつける。


「……煙玉か」


 視界を奪う。確かに奇襲手段としては悪くない。だが、それは普通の人間が相手ならばの話だ。修太郎には関係ない。

 修太郎は特典を用いて、自身の視力を飛躍的に向上させる。そして、周囲を警戒しながら見渡す。しかし、上神や啓也の姿は見当たらなかった。


「……仕掛けてこない。それどころか、姿もない。なるほど、あの煙玉は逃げるために使ったのか」


 そうなると、先ほどの刺客は逃げるために放たれた囮ということになる。なかなかに非人道的な采配をしてくるものだ。


「まぁ、俺も人のことは言えねえか。そんなことよりも……」


 修太郎が、今、考えるべきは先ほどの能力軍と名乗った者のことだ。四大名家は国を牛耳る大物。私設軍のようなものを持っていたとしても何らおかしくはない。そうでなくては魔物に対処できない。それを失念していた。彼らを後発隊として配備していたから命乞いのようなものをしてくることがなかったのか。

 それを差し引いても啓也自ら出張った理由は分からないが、大方自分の手で満月を連れ去りたかったといったところだろう。



 いずれにしても味方の命を犠牲にして策を成功させるその手腕は認めるに値するものなのだろう。それは否定しない。


「だが、それがどうした? ほんの少しだけ死ぬのが遅くなっただけだぜ」


 しかし、修太郎の余裕が消えることはなかった。確かに出し抜かれたのは事実だが、その程度で修太郎の優位が揺らぐことはない。


「あいつらを逃がしたのは癪だが、それよりもあっちを調べる方が先だな」


 それどころか、修太郎は冷静さを失うことすらなかった。客観的に考えることができれば即座に思い至る可能性にも修太郎はすぐに辿りついていた。


「とりあえず、さっさと行くか」


 修太郎はそう言って公平の屋敷へと向かった。



 特典を使って大急ぎで向かったが、予想通り、屋敷のどこにも満月の姿はなかった。中では多くの使用人たちが眠らされており、公平も探したが彼の姿も見当たらなかった。


「満月はともかく、伊丹さんまで連れ去られたのか?」


 修太郎は思わず訝しげな表情になってしまう。満月は分かる。彼女は啓也がつけ狙っていたらしいから、連れ去るのは当たり前だ。だが、公平を連れ去る理由はない。

 考えられるのは二つ。一つ目は自分たちに逆らった見せしめを行うために連れ去られた可能性。そして、もう一つは……。


「どっちかは知らねえが、さっさと谷崎啓也のいる場所に向かった方がよさそうだな」


 とはいえ、谷崎家の屋敷にはいないだろう。さすがにそこまであからさまな場所を隠し場所に使うほど敵の脳みそは空っぽではない。本家の屋敷に直接連行するなど、ここに満月がいると大々的に言っているようなものだ。まず間違いなく谷崎の名に泥を塗ることになる。そんなことをするほど啓也は愚かではないはずだ。あくまで本家の屋敷は最終手段として残しておくのが定石だ。

 だが、これはあくまで秘密裏(・・・)目標(ターゲット)を攫ったときの話だ。そうでない場合はこの限りではない。というより、私設軍をあそこまで堂々と使っている時点で面子や体面を守るも何もあったものではないだろう。


「やれやれ。めんどくせえったら、ありゃしねえ。何で興味もねえことを考えねえといけねえんだ。かったりぃ」


 修太郎は(まつりごと)には欠片も関心がない。そんなものをいつまでも考えていたところで時間を無駄にしているとしか思えなかった。そもそも修太郎にとって、そんなことはどうでもよかった。



 満月を連れ去られた。上神からは攻撃を食らった。それでもなお修太郎は動じることはなかった。その根底にあるのは、どんな状況になろうとも容易に切り抜けられるという絶対的な自信だった。


「まあいいか。せっかくここまでして俺を楽しませようとしてくれてるんだ。なら、こっちも相応に楽しんでやらなきゃ、失礼ってもんだよなぁ?」


 修太郎は凄絶な笑みを浮かべて特典を発動させる。狙うは筧満月の救出と谷崎啓也の首。そして、目的を邪魔する者たちはストレス発散も兼ねて適当に蹂躙(虐殺)することにしよう。

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