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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第三章 イラつかせる独善と偽善
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一人目ー第三章 8話 続々と再会するクラスメイトたち

 ゴミ掃除を終えた修太郎はそこそこ人通りのある歓楽街のようなところに来ていた。初めて来た場所のために勝手はよく分からなかったが、どこも大差はないだろうと踏んで修太郎は人混みに身を委ね、歓楽街を見て回る。



 けれど、妙に人が多い。船楼地区の中でもかなり大きな街なのかもしれないが、それにしたって限度がある。そこそこ耐性があるとはいえ、あまり人混みが好きではない修太郎は適当なところで離脱することにする。

 街から少し離れるとそこそこ大きな屋根に木製の椅子が並べられた休憩所のようなところがあった。修太郎は少しだけ休んでいこうかと考えた。この世界は街並みが古風のわりには衛生面は現実世界と遜色ない程度に配慮されている。休憩所に入っても何らかの病原菌をもらう危険は低いだろう。仮に何らかの病気にかかったとしても特典でどうとでもできる。そう思い、休憩所に近付くとすでに先客がいた。その人物たちは修太郎の知る者たちだった。


「影浦と重藤か」


「櫛山くん」


 修太郎の言葉にウェーブのかかった黒髪を持つ気弱そうな少女が答える。その隣にいる茶髪のショートヘアを持つやや気の強そうな少女もこちらをジッと見てくる。



 この二人は共に異世界に転移させられた修太郎のクラスメイトだ。気弱そうな少女が影浦(かげうら)香奈(かな)でその隣にいる茶髪の気の強そうな少女が重藤(しげふじ)真梨奈(まりな)だ。


「早々に私たちから抜けた裏切り者が何の用?」


 真梨奈が鋭い目つきで尋ねてくる。修太郎はそれに肩をすくめる。


「ひでぇ言い草だなぁ。ま、否定はしねえけどよ。俺は単に休みに来ただけだよ。そこでてめえらと会った。そんだけだ」


 修太郎はそう言って真梨奈たちから離れた場所に座る。真梨奈はムッとした表情になって香奈を連れて向かい側の椅子に移動してくる。

修太郎は鼻で小さく息を吐いて真梨奈を見る。


「今度はこっちから聞き返すぜ。何か用か?」


 香奈はともかく真梨奈とはそこまで親しくないために気を遣って離れたのだが、向こうから近付いてくるとあっては話は別だ。


「櫛山。あんた、この十日間何してたの?」


「あ? 知ってんじゃねーのか? 創がキサラの奴から俺に関する情報を聞かされたって言ってたんだがな」


「聞いたわよ。あんたが人型を二体も討ったって。けど、触りだけ聞いただけだからあんたの口から直に聞いておきたいのよ」


「直にっつわれてもな。別にそんな大したもんじゃねーぞ。向こうから喧嘩売られたから二匹とも討伐した。それ以上のことは何もない」


 修太郎は肩をすくめて言う。本当に大したことは何一つしていない。それどころか、最初に遭遇した連続不審死事件の一件では人型であり事件の犯人でもあった木更津を逃がしてしまっている。その後のヴェレ姉妹の一件とて魔王に二度も出し抜かれ逃がしている。いずれも失態以外の何物でもない。誰が己の失態を好き好んで話したがるものか。ましてや、創と違ってそんなに親しくもない相手に。


「そんなこと言わないで、少しくらい話しなさいよ」


「いいだろ、別に。俺のことなんざ、お前にゃ微塵も関係ねー話だ」


 真梨奈が食い下がってくるが修太郎は素っ気ない態度を取って煙に巻く。

 これ以上この場にいても、かえって疲れそうなので修太郎はお暇することにする。元々将頼の関係で面識がある程度の相手だ。込み入った話をする理由もない。


「悪いな。俺はそろそろ行くわ。じゃあな」


「ま、待って。櫛山くん」


「ん?」


 そこで香奈に話しかけられて、修太郎は生返事を返してしまう。そういえば、香奈がいることを完全に失念していた。自分の無礼を棚に上げるつもりはないし、真梨奈の方に意識が向いていたのは事実だが、それにしても――。


「あ、あの。櫛山くん?」


「あ? あぁ、悪い悪い。ちょっとボーッとしちまった。そんで、何だ?」


「あ。いや、大したことじゃないんだけど……一人で大丈夫?」


「あー。それ朸にも聞かれたな。けど、大丈夫としか言いようがねえな。一人は慣れっこなもんでね」


「そう……」


 香奈は寂しげな瞳で顔を俯かせる。それに真梨奈が何かを言ってくるが聞く気などなかった。修太郎が香奈に対してやったことはただ一つ。


「そう心配すんな。無事に勝る有事はない。それが俺の生き方ってだけで、お前はお前の生き方をすりゃいい。中学の時にそう言ったはずだろ?」


「あ……」


 修太郎は香奈の頭を優しく撫でた。香奈は顔を赤らめながらもその手を受け入れる。修太郎は一通り彼女の頭を撫でると、ポンポンと軽く叩いて、その場を去る。

 再び後ろから真梨奈の声が聞こえてきたような気がするが気のせいだ。何か文句を言われていたとしても修太郎の知ったことではない。一つだけ言いたいことがあるとすれば、少しくらい休ませてくれということだけだった。



 だから、その後のことは何一つ知りもしなかった。



 真梨奈は修太郎が立ち去った方向を見ている香奈の方に向いて話しかける。


「よかったの?」


「うん。今はこれだけで充分」


 香奈は修太郎の手が置かれていた場所に自分の右手を重ね合わせ、顔を赤らめながら小さく頷く。そんな彼女に真梨奈は大仰にため息をつく。


「無欲ねぇ。あーあ。私はこの想いを成し遂げることができるのかしらね」


「真梨奈ちゃんなら、きっとうまくいくよ!」


 香奈が両手で握り拳を作って言う。そんな香奈に真梨奈はうんざりとしたような表情を向ける。


「あんた、そういう無責任なところあるわよね」


「え!? ご、ごめん……」


「いいわよ。こんな素直な子に意地悪な言い方したアタシも悪かったわ」


「うぅ……」


 香奈は顔を真っ赤にして俯いてしまう。真梨奈は香奈の頭を慈しむような顔で修太郎のように優しく撫でた。



 修太郎は先ほどよりは比較的人通りの少ない通りを歩いていた。適当に街を見ながら修太郎はあることを思い出す。それは修太郎のクラスメイトは今はこの地にいるということだ。

 だとすると、適当に歩いていたらまた他のクラスメイトに会うことになるかもしれない。しかし、だからといって土地勘がない状態ではどうしようもないし、それがきっかけで光一に引き合わせられたら、それはそれでラッキーだ。昨日までとは違う。今の修太郎には光一をおちょくるための玩具がある。もっとも、それもどれほど効果があるかは分からないが。

 それでもあの独善者ならば、この挑発に乗るだろう。光一は普段は明るく、それでいて思慮深い人間に見えるが、その実単純な男だ。ならば、きっと修太郎の思惑通りに動くだろう。



 そう思ってると食事処の軒先で団子と緑茶を嗜んでいる二人の少年を見つける。緑色に染めた髪をツーブロックにした軽薄そうな印象を受ける少年と肩までの長さの黒髪を持つ切れ長の目の美人。こちらは少年とは違って冷たい印象を受ける。香奈たち同様どちらも見知った顔だった。つまり、クラスメイトだ。

 緑色の髪の少年が唐住(からすみ)(まこと)で黒髪の長身の少女が山岸(やまぎし)地夜(ちよ)である。



 真逆の印象を与える二人だったが、実は彼らは幼馴染みらしい。しかし、二人が一緒にいるところをあまり見たことがない。ごくたまに話しているところを見るがその程度だ。だから、修太郎には二人が共に茶をしている光景が新鮮に見えた。



 けれど、それだけだ。別に修太郎は二人と親しいわけではない。そもそも、どちらも修太郎同様クラスでは目立つ方ではなく、真に至っては派手な見た目をしているわりに修太郎以上に目立たない存在だ。そのことに親近感を覚えることもない。

 修太郎は二人を横目にチラリとだけ見て、さっさと先に行ってしまう。真と地夜も修太郎のことには気付いていたが挨拶もせずに立ち去った彼を見咎めようとはしなかった。それどころか、真はどこかホッとした表情で口を開く。


「話しかけずにスルーしてくれたか。俺たちに気を遣ったのか?」


「さあな」


 地夜は最後に残ったみたらし団子を頬張りながら答える。真もみたらし団子を完食し、お茶を飲んで一服したところで再び口を開く。


「しかし、人型二匹を倒したってのは驚いたよなぁ。案外あいつも心の中にとんでもないものを秘めてるかもな。櫛山」


「関係ない。私はこの世界を救うべく動くだけだ」


 真の言葉を地夜は切って捨てる。真は取り付く島もない地夜に苦笑する。どうやら、真はその見た目のわりには温厚な性分のように見受けられる。



 それに対し、地夜は無表情のまま茶を飲み干すとお代だけ置いて立ち上がる。


「いずれにしても、私とお前はもう無関係だ。今回はたまたま飲食を共にしただけで本来ならば関わり合うべきではない。その方が互いのためだということくらい分かっているだろう?」


「ああ」


 真は暗い表情になって俯く。地夜はそんな彼に見向きもせずにそのまま立ち去ってしまう。後には膝にやった両手を強く握りしめ、やりきれない表情で虚空を見つめる真だけが残った。



 とりあえず、これでクラスのおよそ三分の二と再会したことになるはずだ。残りは善継グループと真人グループ、(めん)グループの三つとなぜかこの前姿を見なかった竜王と時山の二人。そして、どんな状況でも我関せずを貫くあの自由人といったところぐらいか。他のクラスメイトはともかく、真人は修太郎同様クラスとは別行動を取っているのでどこにいるのかは分からない。まぁ、別に会いたいわけではないので分からなくても構わないのだが。



 修太郎は小さく伸びをしながら、旅館に向かう道を歩いていた。これ以上土地勘のない場所をフラフラしていても疲れるだけだと身にしみて理解したからだ。

 そして、その道中で再びクラスメイトと遭遇することになる。修太郎は首の後ろを右手で掻きながら、小さくため息をつく。


「やれやれ。今度はお前か。創」


「おう。一昨日ぶりだな、修太郎。つーか、やけにやつれてねえか? お前」


「いろいろと面倒な連中に出くわしたんだよ」


 修太郎はうんざりした表情で肩を落とす。創はその表情と開口一番に放った修太郎の言葉であらかた理解したのか苦笑する。


「まぁ、そう気落ちすんなよ。お前だってあいつとの邂逅を避けられないことくらい分かってんだろ?」


「……多分お前の考えてる奴とは違うぞ。少なくとも今日は光一とは会っていない」


「今日はってことは昨日までのどっかであいつと再会したのか?」


「まあな。けど、この疲れの原因は奴じゃねえ」


 修太郎がはっきりと断言したことで創は興味深そうな表情になる。光一以外で一体誰がここまで修太郎にストレスを与えられるのか気になっているのだろうか。別に創のことを嫌っているわけではないので話してもいいが、四大名家を目の敵にしている頭のおかしいおっさんと会ったなんて話をしてもいいものだろうか?

 聞いていて気分のいい話でもないだろうし、修太郎としてはこの話をするのは少し気が引ける。


「まぁ、話したくねえってんなら話さなくていい。これは雑談なんだから、もちっと肩の力を抜けよ。そうすれば、いくらか気も楽になんだろ?」


「そうだな……」


 修太郎は創の言葉に全面的に同意する。光一や木口がおかしかっただけで、本来は会話とはそこまで疲れるものではない。現に真梨奈との会話でもうんざりはしても、疲れはしなかった。あの二人の頭が手遅れなレベルで終わってしまってるだけの話なのだ。



 まぁ、交渉や社交場での会話は疲れるかもしれないが、彼らとの会話はそんな大げさなものではない。考察する必要など本来ない。

 だから、修太郎も無駄なことをやめて会話に興じることにする。


「それで雑談って何するんだよ?」


「別に何でもだろ。近況報告でもこの辺の店の情報とかでも何でもいい」


「そう言われてもな。別にこの辺の地理に明るいわけでもねえし、近況報告だって一昨日やったろ」


「じゃあ、別の話をすりゃいい。たとえば、先生がお前を心配しているとかな」


「そうかよ」


 修太郎は思わずを遠い目をする。別にどうでもいいと思っているわけでもない。かといって、心配をかけてしまったことに後ろめたさを覚えているわけでもない。ほんの少しだけ悪いことをしてしまったなと思っているというのが本音だ。



 波田(はた)成美(なるみ)。転移した修太郎のクラスの担任教師だ。教師歴が全くない状態で修太郎たちのクラスの担任を任された才媛であり、去年配属された新人でありながら、彼女を慕う生徒は数多く存在している。修太郎とて決して彼女に悪感情を抱いているわけではない。



 だが、それだけだ。何も思わないわけではないが、修太郎の中では優先度は低い。そもそもこんな世界に来てしまった時点で心配もへったくれもない。人の心配をしている暇があるなら、まずは自分の心配をしろというのが修太郎の本心だった。

 だから、修太郎は小さく息を吐いて言う。


「何にしても、俺には関係ねえ話だ。あんな女、興味もねえよ」


「……まぁ、お前がいいって言うんなら、俺は何も言わねえけどよ。あとは現実世界での話ぐらいか?」


 その言葉に修太郎の顔色が変わる。創はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。修太郎は目を細めて、創を見る。


「正直、俺としては不安で不安でしょうがねえんだよ。こんな訳の分からねえ場所に十日近くも飛ばされて、ばあさんが怒ってねえかってさ」


 肩をすくめる創に修太郎は鼻で笑う。


「何を寝ぼけたこと言ってんだ。その心配はむしろ他の連中がやるべきもんだろ? 少なくとも、あのババアがてめえを罰するとは思えねえよ」


「そうか。なら、お前は不安なのか?」


 創の問いかけに今度は修太郎が不敵な笑みを浮かべて答える。


「まさか。俺もてめえや唯と同じでババアに気に入られてるんでな。大して心配はしてねえよ」


 修太郎の言葉に創は小さく笑う。別に馬鹿にしているわけではない。ただ彼は本当に心配などしていないのだろうと思っているだけの話だ。

 彼はそういう男だ。だからこそ、この未知の世界で平気で単独行動を取れるのだろう。そういった意味では創は修太郎のことが少し羨ましかった。



 くだらない感情だ。そんなものを持つことに意味などない。創は小さく息を吐くことで自分の感情をコントロールしていく。

 修太郎はそんな彼を黙って見ている。創はしばらくの間何も答えなかった。しかし、不意に口を開く。


「まぁ、せいぜい楽しんどけよ。この世の全ての表裏ってやつを……」


「何だそりゃ? 一体どういう意味だ?」


 創がどこか寂しげに呟いた言葉の意味が分からずに修太郎は問うが、創は答えることなくその場から立ち去る。

 修太郎は制止の声をかけるが、創は聞く耳を持たず、そのまま行ってしまう。修太郎は左手で頭を掻きながらも、その背を追うことはしなかった。


「……あいつもたまによく分からないことを口にするよな」


 だからこそ、あの怪物に気に入られたのかもしれないが。まぁ、それはそれで難儀な話だよなと修太郎は独りごちる。



 どのみち、深く考えることに意味などない。それよりも、そろそろ昼飯時だ。カスミたちには昼食までには戻ると言ってあるので、もう戻らないと時間に間に合わなくなってしまう。

 明白に時間が決まっているわけではないが正午までには戻っておきたい。そうでないと、体型のわりに食欲旺盛なカスミとシャイナに怒られてしまう。



 修太郎は若干急ぎ足で旅館へと急いだ。


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