一人目ー第三章 7話 会合と勧誘
修太郎はガバッとベッドから跳ね起きた。全身凄い汗だ。夏であることを差し置いても、いつもならここまで汗をかかない。やはり、あの夢の影響だろう。そうなると、昨晩は相当うなされていた可能性が高い。
修太郎は憂鬱になりそうな思考回路を一旦切ってベッドから這い出る。嫌な夢を見た後は適当に外をぶらつくに限る。
こういうときに限って雨が降っているということがままあるが幸い外は晴れていた。というより、こちらの世界で雨が降ったところを一度も見ていない気がする。
非日常に身を浸し続けてきたので感覚が狂っているが、確かこっちに来て今日で十日目になるはずだ。そして、日付は現実世界と異世界で違いはない。つまり、今日は七月十二日。梅雨が明けたとしても、初夏なら一度くらい雨が降ってもよさそうな気はするが、たまたま晴れ続けているのだろうか。
まぁ、そこまで深く考えることでもない。現実世界でも地球温暖化の影響で天候が不規則になっている。それがこちらにも当てはまっているのだとしたら、多少天気が不自然でも不思議はない。まぁ、この世界でどれだけの二酸化炭素が排出されているのかは知らないが。
修太郎はそんなとりとめのないことを考えながら寝間着を脱いで側にあったタオルで汗を拭い、青いTシャツと黒のズボンに着替える。そして、部屋の外に出て散歩に行こうと廊下を歩いている途中で後ろから声をかけられる。
「どこかへお出かけですか? 昨日はだいぶうなされていたようですが……」
声の主はカスミだ。修太郎は体をカスミの方に向けて返答する。
「ああ。ちょっと寝つけなくてな。気晴らしにちょっと外をぶらつこうと思っただけだ。心配かけてすまねえ」
「いえ、あなたが大丈夫だと仰るのであればいいのですが……」
カスミは心配そうな顔のまま修太郎を見つめる。修太郎はばつの悪そうな顔で視線をそらす。言えるわけがない。思い出したくない忌々しい過去を夢として見ていたなど。
だから、修太郎は何も答えなかった。そのかわり――。
「心配なら一緒に行くか?」
「え?」
前置きもなく、いきなり言われた言葉が理解できずにカスミは気の抜けた声を出してしまう。修太郎はそんな彼女に真顔のまま補足をする。
「いや、要はうなされてた俺が一人で出歩くのが不安なんだろ? なら、お前もついてきたらどうかと思っただけだ。まぁ、俺の勘違いだって言うんなら聞かなかったことにしてくれるとありがたいんだけどよ」
「いえ。お言葉に甘えさせていただきます。それにあなたが早朝どこを歩いているのか興味もありますし」
「そんな大したもんでもねえんだけどな……」
「それでも興味があるんです。私は着替えてきますから少々お待ちください」
「おう」
カスミは一礼すると部屋の方へと戻っていく。その途中で一人の少女とすれ違う。少女はカスミに道を譲り、カスミは会釈をしながらその横を小走りで抜けていく。
修太郎は頭を掻きながらもチラリとカスミがすれ違った少女を見る。その少女はマヤだった。マヤは右手で口を隠した状態で欠伸をしながら修太郎の方に近付いてくる。
「よう。案外早起きなんだな。マヤ」
「別に。たまたま目が覚めただけ」
「そうか。俺ら今から散歩に行こうと思ってるんだが、お前も来るか?」
「やめとく。まだもうちょっとだけ寝たい」
「そうか」
修太郎はそこで黙り込む。マヤは彼の言いたいことを察したのか目を細めて言う。
「あんたの考えている通り、あんたがうなされてていきなり飛び起きた挙句にフラフラとどこかへ行こうとしていたから気になって後を追っただけ。カスミさんと同じよ」
「なるほど。つまり、お前にも心配をかけちまってたってことか」
「まさか。私はただあんたがいなくなると困るだけよ」
「そうかい」
修太郎はからかうように軽く笑う。マヤはそれにムッとした表情を浮かべるが、何も言わず、唇を尖らせるだけに留めた。
二人で雑談をしているとカスミがやってくる。水色のワンピースにふんわりとしたひまわり帽を被っている装いだ。近場を散歩するにしてはいささか気合いが入りすぎている気もするが修太郎は特に何も言わなかった。
「準備ができたんなら、行こうぜ」
「はい」
カスミは一言返事をすると修太郎の側まで寄ってくる。修太郎はそれを一瞥してからマヤの方を見る。
「じゃあ、行ってくるぞ。マヤ」
「……」
修太郎の言葉にマヤは答えない。頬を少しだけ赤らめてそっぽを向いている。修太郎は頬をポリポリと掻いてマヤに背を向けると、カスミを連れて外に出る。カスミはその後ろ姿を横目で少しの間だけ見つめると、そのまま部屋へと戻っていった。
まだ明け方に近い時間だというのに外はすでにかなり暑かった。彼らが、今、いるのは街の外れにある畔道のようなところで人気はまるでなく、あちこちから虫の鳴き声が聞こえてくる。修太郎は右手で顔を扇ぎながらカスミの方を見る。
「結構今さらになるが、この辺とカザシ地区の人間って名前がだいぶ違うよな」
「そうですね。隣接しているとはいえ、四大名家によってそれぞれ特色は違いますからね。言語は全地区共通ですが、いずれもが全く同じ文化や習慣を持つということはないと思います。ですが、この船楼地区は四つの地区の中でもだいぶ異色なので余計に違って見えるのかもしれません」
確かに地名だけを見ても、他の三地区は西洋風の名を冠しているのに対し、この船楼地区だけいささか日本的な名だ。
そして、修太郎はそこで一つ気になったことを疑問として口にする。
「嫌なことを思い出させるようだが、そういえば狩野たちの名乗ってた名前もこの辺にありそうなやつだよな。あいつらも、ひょっとしたらこの船楼地区に縁があるのか?」
修太郎の問いにカスミは一切表情を動かすことなく答える。
「狩野とその部下の三人はこの地区の出身です。アレフス家と谷崎家は友好関係にありますからね。向こうの出身の者をこちらの地区の警察官として何人か採用しています。それが彼らです。そして、信頼の証として連続不審死事件という重要な事件が発生したときに彼らが動員されたのです。その結果があの有様でしたが……」
その言葉を聞いて狩野が自分たちの所属が特務課だと言っていたことを思い出す。あまりにカザシ地区の人々と名前がかけ離れていて違和感を感じていたが、応援として駆り出されていたのかと納得する。
まぁ、助っ人として呼ばれたにもかかわらず、無実の者たちに疑惑を吹っかけた挙句に応援として呼ばれた者たちの中に犯人がいたなどという無様どころではない失態をしでかしたところを見ると、いっそ谷崎がアレフスの力を削ぐためにわざと彼らを送り込んだのではないかと思ってしまうが。
突拍子もない仮定だが何となく当たっているような気がする。もっとも、当たっていようが外れていようがどちらでも構わないけれど。
「……あの……」
「ん? どうした?」
声をかけられ、修太郎はカスミの方を見る。すると、彼女はどこか申し訳なさそうな表情でこちらを見上げていた。
「申し訳ありませんが、今日の午前中、私に付き合っていただけませんか?」
「それは構わないが、また面倒ごとか?」
「はい。実は谷崎家の当主と会合を行う予定なのですが、その際にあなたを連れてきてほしいと向こうに申しつけられておりまして……。もちろん、向こうも可能であればと言っておられるので、あなたが嫌なのであれば強要はしません」
「ふむ……」
修太郎は顎に手をやって考える。あえて断る理由もない。それに谷崎の当主といえば、確かキサラと繋がりがあるという話だった。
今さらキサラに興味もないし、その件に関してすんなり聞き出せるとも思えないが、面識くらいは作っておいた方がいいか。
仮にも四大名家の当主の一人だ。もし、アレフス家のようにある程度良好な関係を作ることができれば何かの役に立つかもしれない。まぁ、そんな上手くいくとは思えないが。
いずれにしても、会って損はないだろう。修太郎はそう結論づけて快諾することにする。
「いいぜ。その谷崎の当主とやらに会おう」
「よろしいのですか?」
「構わねえよ。それにどうせやることもねえしな」
本当はやることはあるが、別に急ぎでもない。こっちに来たときに立てた目標も宙ぶらりんになっていることもあって考える時間がほしかった。そういうときは流れに身を委ねるのが一番だ。考えずに動くことで思考する。矛盾した行動を取ることで解決策を模索する。今はそれしかない。
――などとそれっぽいことを言ってみたところで、そうやって問題を後回しにしていくのが人間の悲しいところなのだろう。けれど、修太郎自身人間である以上、今のところはそれに抗うつもりはなかった。
そして、その選択が修太郎に後悔を与えるのかどうか。そんなことは彼に分かるはずもなかった。
○○○○○
午前十時。修太郎はカスミに連れられてシャイナと共に船楼地区の南部にある谷崎家の屋敷を訪れていた。ここで会合を行うのである。ちなみに朸は邪魔するのは悪いからと道中で別れたのだが、それは割愛する。
修太郎は屋敷の門を通り、中に入った瞬間に目に入った屋敷の大きさに思わず嘆息する。門のところで出会った自分たちを先導している使用人と思われる女性に聞こえないようにヒソヒソ声でカスミに話しかける。
「ある程度は予想してたが、やっぱ滅茶苦茶でかいよなぁ……。これマジで本邸じゃねえのか?」
「はい。我が家と比べれば、その小ささがよく分かるでしょう? ここは谷崎家の別邸のようなものです」
「別邸ねぇ……」
修太郎はそういうものなのかと現実逃避をしてしまう。確かに大きさは先日まで世話になっていたアレフス家には遠く及ばないが和風の豪邸として十分すぎるほどの大きさと格を目の前の建物は持っていた。
庭は枯山水を初めとしたさまざまな模様が描かれた石庭に剪定された植物たち。そして、門から玄関まで敷かれた石畳も立派なものだ。そこらの武家屋敷など霞むほど手入れがされたこの家を別邸扱いできるとはさすがは国の四分の一を牛耳っているだけのことはある。
玄関の扉を開けて中に入ったところで修太郎は自分たちを待ち構えるかのように立つ一人の壮年の男性に気付く。
男性は修太郎たちを見て無表情で深々と頭を下げる。
「お待ちしておりました」
「お久しぶりです。前田さん」
カスミもお辞儀し返す。それに合わせて修太郎はシャイナと同時に頭を下げる。さすがにこの程度の礼儀くらいは持ち合わせている。
「旦那様がお待ちです。どうぞ、こちらへ」
前田という男性はそう言って三足のスリッパを玄関の縁に並べる。修太郎は二人と共に靴を脱いでスリッパを履き、先導の役割を引き継いだ前田の案内で廊下を歩く。
しかし、この男はあまりにも機械的だ。いや、それ以前に生気を感じない。声にも抑揚や力がないし、顔色は死人のように真っ白だ。比喩抜きで亡霊のように見える。使用人として訓練されているだけでこうなるものだろうか?
多少は気になったが気にしても詮無きことだ。他人の事情に首を突っ込む気などさらさらない。それよりもこの屋敷は別邸とのことだが、この屋敷もなかなかに広い。数多くの障子が並んでおり、相当な数の部屋があるようだ。その中の一つの前で前田は止まり、姿勢を正して部屋を向くと、再び一礼する。
「旦那様。カスミ様たちをお連れしました」
『入ってもらってちょうだい』
「はっ」
渋い低声系の声が返ってくるが、修太郎はその口調にわずかに違和感を覚える。前田は障子をゆっくりと開けると、手で修太郎たちに中に入るよう促す。カスミとシャイナが先に入り、修太郎はその後を追う形で入室する。中に入ると、肩に届く程度の長さの黒髪を左側に流し、口ひげを生やした中年の男性が正座して待っていた。
修太郎たちが男性の前に横並びの形で正座をすると、男性は嬉しそうに口元を綻ばせる。
「よく来たわね。カスミ、シャイナ。会いたかったわ」
「お久しぶりです。啓也殿。長らく顔をお見せすることができず、申し訳ありませんでした。父からも此度訪れることができなかった無礼をお許しいただきたいとの言伝を預かっております」
「そんなのいいわよ。私とあなたたちの間じゃない。それを言うなら正月からご無沙汰してたこっちにも非があるわ。あなたが謝ることじゃない」
「恐れ入ります」
修太郎は当主――谷崎啓也の言葉を聞いて違和感を完全に確信に変える。この男はいわゆるオネエだ。この時点ではまだ何とも言えないが、比較的常識人だったユキヒコと比べるとこの男は相当な変わり者の可能性がある。
それならそれでこちらも相応に言葉には気を付ける必要がある。もっとも、発言が許されればの話だが。
「そっちの子が櫛山修太郎くん?」
そう考えてたら、思っていたよりも早く発言の機会が回ってきた。興味津々といった様子でこちらを見てくる啓也に頭を下げて応対する。
「あ、はい。初めまして。櫛山です。以後、お見知りおきを」
「うんうん。礼儀正しくていい子ねぇ。ちょっと、気に入っちゃったかも……」
啓也はペロリと舌舐めずりをして修太郎を獰猛な目つきで見る。それに修太郎の顔色がわずかに悪くなる。
(やべえ。こいつ、もしかしてそっちの気が?)
ある程度予想できていたとはいえ、今の返しは失策だったかもしれない。しかし、そんなことを言っていたら発言なんかできないし、ここは割り切っていくしかない。
まだ特典に関する確認が不十分である以上、ここで不要な騒ぎを起こすことは避けなくてはならない。
「ふふっ。そう身構えなくても、取って食おうとなんて思っていないから安心しなさい。今日は軽く話をするだけだし、楽にしていていいわよ」
「分かりました」
修太郎は小さく息を吐き、姿勢を正す。啓也はそんな彼を見て、微笑ましいものを見るような目をする。修太郎はそれに鳥肌が立つが、表情に出さないように務めた。
結局、啓也の言う通り大した話をすることなくその場から解放された。見くびっていたつもりはなかったが、想像以上に疲労がキツかった。主に精神的な意味で。
修太郎は気晴らしを兼ねて散歩するとカスミたちに告げ、彼女たちと別れた。この周辺の土地勘はないがとにかく出歩きたい気分だったので適当に説き伏せて単独行動を取っている。そして、この選択を修太郎はすぐに後悔することになる。
それはカスミたちと別れて、一つ目の曲がり角を曲がったときのことだった。
「すみません……」
「あん?」
修太郎は背後からいきなり声をかけられたことで、不機嫌そうな声を出してしまう。別に足音を消していたわけではないので、そこに人がいることは分かっていたが話しかけてくるとは思ってなかった。
先ほどの啓也との接見で疲れていたこともあり、道を聞かれるようならこの辺りのことは知らないと事実だけを告げて立ち去ろうと思って振り返る。
そこには、茶色のスーツを着た白髪交じりの中年男性が立っていた。今日はよく中年男性と話す日だと思いながらも修太郎は口を開く。その結果面倒なことになるとも知らずに……。
「何すか?」
修太郎が問うと男性は懐から名刺のようなモノを取り出し、修太郎に差し出してくる。
「私は『解放集団』の幹部をやってる木口仙三って者です。実は大事な話がありましてね……」
その時点で修太郎は話を聞く気が失せた。完全に怪しげな宗教か何かの勧誘だ。こんな面倒なものに付き合う理由などない。
修太郎は当初の予定通り適当に理由をつけて、さっさと離れることにする。
「すんません。急いでるんで、そういうのは別の人間にしてやってください。それでは失礼」
修太郎は木口から背を向けてその場を離れようとするが、その腕を木口は掴んでくる。
「何すか?」
「あなたでないとダメなんです」
「あ?」
意味の分からないことを言われた修太郎は思わず木口を睨みつける。木口はそれに怯える様子を見せながらも話を続ける。
「あなたは先ほど谷崎家から不機嫌そうな顔で出てきた。そして、無理矢理連れていったとみられるカスミ・アレフスと早々に別れ、こちらに歩いてきた。つまり、あなたは四大名家に不満があるということですよね? なら……」
「何言ってんだ、てめえ。人間の言葉でしゃべれよ」
修太郎はトーンを下げて言い放つ。同時に掴まれていた腕を振り払う。すると、木口は訳が分からないといった表情で修太郎を見てくる。修太郎としてはお前の方が訳が分からんわ、と言いたい気持ちを抑え、さっさとその場から立ち去ることにする。その背に木口は懲りずに話しかけてくる。
「待ってください! 我々は四大名家がこの国を支配している現状を憂えているのです! この現状を変えたいのです!」
その言葉を聞いた修太郎はため息をついて渋々振り返る。放置してもしつこく食い下がるだけだと判断しただけなのだが、何を勘違いしたのか木口の表情に喜色が浮かぶ。そして、先ほどよりも弾んだ声で続ける。
「ほんの少数の人間が多くの人々を虐げ、利益を貪る。この現状がはたして最善と言えるのでしょうか! そんなはずはありません! だからこそ、我々は革命を以て四大名家を打倒し、この状況を変え、人々を救うことこそを至上の目的としているのです!」
聞くに堪えない。あまりに救いようがなさすぎる。もっとも、人など誰しもこうなのかもしれないが。
「ですから、あなたの力を……!」
「うるせえなぁ。とっととくたばれよ。生ゴミが」
「あぺっ!」
修太郎が言い終えると同時に木口は血反吐を吐き、白目を剥いてその場に倒れる。修太郎はゴミを見るような目で木口の体が崩れ落ちるのを見届け、背を向ける。そして、聞こえないことを承知の上で背中越しに言う。
「てめえの言ってることは薄っぺらいにもほどがあるんだよ。虐げられている大人数のためにごく少数で甘い汁を吸っている連中を打ち倒す? その後はどうするよ。結局、てめえらごく少数がその大人数とやらをまた虐げるんだろうが」
それが人の支配体制の全てだ。民主主義だの何だのと御託を並べたところでほんの一握りの人間が大多数の人間を支配し、搾取するという仕組みだけは変わることはない。そうでなければ、人が人を統べることなどできはしないからだ。それ以外の仕組みでは人の世が成り立たないことはいつぞやの共産主義が証明している。
政治しかり、宗教しかり。いずれにしても王や教祖といった頂点に立つ人間が配下の人間から奪い取ることで成り立つ。そして、その利権に群がるクズどもが頂点に立つ人物に媚びることで、さらに配下の人間は利益をむしり取られていく。それらが積み重なって一つの国の統治体制が整う。そして、その実現のために政治家と宗教家が手を結ぶ。政教分離など上っ面だけの戯言にすぎない。それが修太郎の政治に対する考えだった。
「アホらしい。政治も宗教もロクでもねえクズどもがやる酔狂な遊びに過ぎねえだろうが」
偏見に満ちた言葉だったが修太郎にとっては真理だった。仮に違っていたとしても、どうでもいい。
そんなことよりもストレス発散のために散歩に出たはずなのに、すぐにそれ以上のストレスを溜め込む羽目になるとは思っていなかった。これは大誤算だ。これくらいならば、カスミと一緒に旅館に戻って風呂の一つも入った方がまだマシだっただろうか。
どっちにしても過ぎたことだ。今さらどうしようもない。この後、いろいろなところを見て回って、このストレスもまとめて発散していけばいい。そう考えた修太郎は背後に打ち捨てられた木口の亡骸に見向きもせずに、のんびりと歩きはじめた。




