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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第一章 僥倖の連続殺人
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一人目ー第一章 3話 異世界の街並み

 闘技場を出ると、ところどころにロウソクの灯りがつけられただけの暗い廊下に出る。ただ直線で一本道だったため、さほど苦労することなく潜り抜けることができた。そして、廊下を出ると修太郎はこの世界の街並みを見ることになる。


「これは……」


 予想はしていたが、ここまで予想通りだと逆に気が引ける。修太郎の目の前に広がっていたのはまるで中世ヨーロッパのような風景だった。

 修太郎は決して歴史や建築に詳しくはないが、それでも磨きに磨き抜かれた技術を結集して作り上げられたものであることは分かった。それによく見てみると街を歩いている人々の服装はかなり現代的なものが多く見られた。下手に偏見を持って動くと痛い目を見るのは確かだ。


(にしても、戸北たちの姿はもう見えないな。いや、逆から出たんだからこの辺りにはいないってだけの話かもしれないが)


 修太郎は軽く辺りを見渡して真人たちの姿がないことを確認する。だが、それが分かったところで何も変わらない。真人たちがいたところで共に行動するなど絶対にありえないからだ。


「さて、何となく飛び出してきたが、ここからどうするかな……」


 現代的な装いが一般的なおかげでブレザーを着ていても好奇の視線に晒されることはない。それはありがたいと同時に面倒でもあった。うまい具合にこの世界に馴染めているということは、きっかけを掴みにくいということでもあるのだ。


「そう都合よく何か事件が起きるはずもねえよなぁ……」


 修太郎はため息をつく。正直街の様子を見る限り、付け入る隙が全くないわけではない。やりようによっては、どうとでもなりそうだが、いずれにしても何かしらのきっかけが欲しかった。

 だが、そうそう上手く事が運ぶわけがないと諦め、とりあえず街へと繰り出そうと考えたところで修太郎の耳に突破口になりそうな声が入ってくる。


「うわあぁぁ! 魔物だぁ!!」


「あん?」


 修太郎が呟くと同時に男の叫び声が聞こえてくる。そちらの方を見ると巨大な黒い蛇のような生き物が街の建物の一つに巻き付いていた。


「あれが魔物か?」


 口に出すまでもない疑問だった。住民が必死の形相で魔物だと叫んでいるのだ。その時点で魔物以外にありえない。


「また随分と都合のいい展開だが……まあいいか」


 修太郎はその蛇型の魔物を殺すべく、右手に血管を浮き上がらせる。だが、魔物は修太郎に見向きもせずに建物を破壊しながら飛び上がると、天高く飛んでいく。


「どこに行く気だ?」


 明らかに何らかの目的を持って動いているのは確かだ。でなければ、これだけ獲物がいるこの場所をスルーしてどこかに行くことなどない。だが、何を狙っているのかまでは分からなかった。

 とにかく修太郎は魔物を追うことにする。転移した際に得た特典の影響で彼の身体能力は飛躍的に向上している。建物の壁を足場にして飛び回ることなど造作もなかった。その脚力を用いて魔物を追っていく。



 人や物に気をつけながら五分ほど追いかけると魔物の動きに変化が見られた。一瞬高度を急激に上昇させたかと思うと、一直線に真下に突撃していく。その真下には修太郎と同じか少し下くらいの少女が座り込んでいた。

 少女の瞳には涙が浮かんでおり、魔物が自分を狙っていると気付いて目を閉じる。修太郎は慌てて速度を上げる。そして、右腕に電流のようなものを放出させると魔物の頭にあたる部分を一刀両断する。


「え?」


 何が起きたか分からずに少女はポカンとした表情になる。修太郎は少女にひとまず怪我がないことを視認すると、できるだけ人のいい笑みを浮かべながら近付いていく。


「ふ~。危ない危ない。大丈夫か?」


「あなたは?」


 先ほどの恐怖が残っているのだろう。声に震えがある。それを感じ取った修太郎はその緊張をほぐしてやるために笑みを浮かべたまま、いつもよりも柔らかい声で言う。


「俺は修太郎。通りすがりの人間だよ。そういう君は?」


「私はカスミ・アレフスです。助けてくれて、ありがとうございます」


「どういたしまして」


 答えながら、修太郎は密かに目の前の少女を品定めする。胸元にピンクのリボンをあしらった膝上五センチほどの丈の黄色いワンピースから覗く白い太もも。セミロングの髪は薄ピンクで、目は森を思わせる緑色。申し分なしの美少女だった。



 修太郎の中にこの少女をハーレム要員に入れたいという欲望が湧き出る。しかし、あまりに露骨すぎてはいくら命を助けたとはいえ惚れさせるのはまず不可能だ。そう考えた修太郎はカスミを落ち着かせる意味も兼ねて会話をすることにした。幸い周囲に人気はないので邪魔が入ることもないだろう。



 早速行動に移そうとする修太郎だが、その前にカスミが口を開く。


「あの……。さっきの力は一体何なんですか?」


「ん? ああ、何、ちょっとしたものだよ」


 適当にお茶を濁す。修太郎の力は彼が生まれ持ったものではない。力とは努力したにせよ、努力していないにせよ天から与えられるものというのが修太郎の持論であるため特典のことを明かすことを恥ずかしいとは思っていないが、不必要に話すと面倒なことになると判断したからだ。

 そもそも転移自体が日常ではありえないことなのだということを忘れてはいけない。初対面の相手にペラペラ話していいものではない。胡乱げな目で見られるならまだいい方で、そんなものが比にならないくらいの面倒ごとに巻き込まれてしまってはたまったものではない。



 修太郎に話す気がないと見たカスミは不満そうに頬を膨らませる。


「ちょっとしたもので、あれは倒せないと思いますけど」


「まぁ、ちょっと訳ありってやつでね。そういうことにしておいてくれよ」


 笑って誤魔化しながら修太郎はカスミをさりげなく観察する。彼は魔物がこちらの世界でどの程度の強さだと認識されているか知らない。だが、それでも先ほどの状況は明らかに命の危機に晒されていた。ならば、普通はしばらくの間放心しているなり、混乱するなりしていてもおかしくはないはず。いや、むしろそちらの方が自然だ。



 ところが目の前の少女はどうだ? ついさっきまで命の危機に瀕していて恐怖に震えていたというのに、もう修太郎の力の出所を知ろうとする冷静さを取り戻している。



 これが意味するところとは――。


(……いや、よそう。片っ端から疑ってかかってたらキリがねえ)


 ここは未知の世界。そこに一人身を投じた以上、誰かの助けは必要不可欠だ。それを得るために修太郎はきっかけを探していた。彼自身の思惑はどうあれ、これは助けを得られるチャンスだ。それにカスミの不自然さはキサラに比べれば全然大したことのないものだ。

 人は誰しも不自然な部分がある。それを何も知ろうとせずに拒絶していては人と付き合うことなどできはしない。



 そもそも修太郎はあまり頭を使うのは得意ではない。だからといって思考停止するつもりもないが、結論を急ぐつもりもなかった。そんな彼が他のクラスメイトから早々に離反したのはキサラが怪しかった以上に彼らと行動を共にしたくなかったからという理由が多分に含まれている。特典(チート)があると分かった時点でチーレムを何としてもやりたくなったというのも理由の一つだ。

 それだけの理由でと思うかもしれないが嫌なものは嫌なのだ。今後のことを考えれば愚の骨頂と言われるかもしれないが、修太郎にはそれが正しい意見だとは思えなかった。彼は結果を重視するタイプの人間だ。結果さえ出せれば、どれほど成功率の低い方法だろうともやらない理由を修太郎は思いつかなかった。それ以前に安全に動くことで得た安定した結果など彼には興味がない。せっかくの待ち望んだありえない展開だ。思うがままに動いてみたいという気持ちも大いにあったのもまた事実だ。客観的に見れば目も当てられない悪手かもしれないが、反省も後悔もしていない。

 それに勝算がないわけではない。キサラといい、彼女といい、民衆たちといい、この世界の住人は日本語を話している。文化面には大いに不安があるが、意思疎通ができるのならばやりようはある。



 何はともあれ、きっかけはできたものの、この後どうするか思考していると相手の方からその打開策を提案してくれる。


「あの……。修太郎……さん?」


「修太郎で構わねえよ。どうしたんだ?」


「その……。助けてくれたお礼がしたいので、よかったら家に来ませんか?」


(来た!)


 その申し出に修太郎はしめたと思う。だが、そんなことはおくびにも出さずにむしろ遠慮しがちな表情を作って答える。


「いや……。さすがにそれは悪いだろ」


「そんなことはありません! あなたが来てくれなければ、私は今ごろ涅槃へと迷い込んでいたでしょう!」


「涅槃って……」


 素直にあの世と言えばいいのでは、などと思ってしまう。同時にこの世界には仏教徒がいる可能性もあるという至極どうでもいいことにも気がついた。だから何だと自問自答してしまうが。


「いずれにしても、あなたは私の命の恩人です。その恩は一生かかっても返しきれないとは思いますが、できるだけのことはさせてください」


「分かった。じゃあ、お邪魔させてもらおう」


 いささか展開ができすぎているように感じるが、ひとまずここは言葉に甘えることにした。何でもかんでも疑ってかかっては話にならない。別に美少女の誘いだから乗ったわけではないとか、あわよくば居候させてもらおうなどという下心があるわけではない、などと修太郎は内心で言い訳する。



 当然、カスミはそれに気付くことはない。


「それでは参りましょうか」


 見た目相応の無邪気な笑みでカスミは修太郎の手を引いていく。修太郎はそれに少々強引だなと思いながらも抗うことなく素直にその手に引かれていった。


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