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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第三章 イラつかせる独善と偽善
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一人目ー第三章 5話 謎の少年

 修太郎はその場で固まって動けなかった。自分と瓜二つの人間が突然現れれば仕方のないことだろう。

 少年は修太郎の目から見てもそっくりだった。顔立ちや体型、髪型、ありとあらゆるパーツが修太郎そのものだった。決して派手な顔をしているわけではないと自覚している修太郎でも自分と同じだと思えるくらい、少年と修太郎の同一性は高かった。ドッペルゲンガーや沼男(スワンプマン)が発生したと言われても信じられるほどだ。

 もっとも、目の前の少年の持つ記憶や知識が修太郎のそれと全く同じなのかどうかまでは現状分かりかねるが。



 一つだけ言えるのはこの少年があまりにも得体の知れない存在であるということだけだ。この少年がいつからいたのかは分からないが、もし、先ほどの喜々野を拷問している光景を見てもなお平然としているのであれば、この少年もまともではない。そうでなくとも、後始末は一切していないので、今のこの場は凄惨な光景として人の目に焼きつけることだろう。そんな場面を見ても顔色一つ変えず、声も一切出さずに佇む少年は明らかに異様だ。

 しかも、それだけではない。それだけならば、現場を見られたとして口封じすれば済む話だ。特典で一切人が入れないようにしたにもかかわらず、この少年がどうやってこの現場に足を踏み入れたのか疑問は残るが無理に知りたいことでもない。それよりもこの現場を見られたまま放置して、誰かにこのことを話されることで面倒ごとに巻き込まれる方がよほど厄介だ。そして、それは目の前の少年とて分かっているはずだ。

 問題なのは明らかに見たと相手にバレれば危険なものを見たにもかかわらず、感情を一切出さずにその場から逃げ出そうともしない、その異常さだ。これは明らかに死体を見た恐怖で動けないなどというものではない。おまけにその何も感じられない瞳からは何やら不気味なものを感じる。

 予感に頼るまでもなく修太郎は目の前の少年を警戒する。それどころか、わずかばかりの恐怖すら抱いていた。


「……お前は、一体誰だ?」


 修太郎が口にできたのはそこまでだった。この謎の人物が一体何者なのか。それは修太郎でなくても聞きたいことだ。

 修太郎は警戒心を最大限まで引き上げて、目の前の少年を睨みつける。少年はその瞳をじっと見返す。


「……」


 しかし、少年は修太郎の問いに答えない。最初から一貫して感情の読めない目で修太郎を見つめ続けている。


「聞こえなかったのか? お前は誰だって聞いてんだよ」


「……」


 修太郎は二度も尋ねてもなお何の反応も示さない少年に苛立ちを覚える。もう先ほどまでの高揚感は完全に消えた。少年が未だに動きを見せないことに違和感を覚えながらも、少年に対してほんのわずかだけ抱いた恐怖は徐々に消えていき、苛立ちだけが残った修太郎は少年との距離を大胆に詰めていく。


「おい。何とか言ったら……」


 問い詰めようとした修太郎の足が止まる。少年は修太郎をじっと見据え、ただ一言。


「シューゴ」


「あ?」


 少年はたった一言口にした。それは少年の名だろうか。修太郎は盛大に舌打ちをしながらも少年の言葉の意味を問い質すべく、一歩距離を詰める。


「それがてめえの名か?」


「……」


 少年はその問いに答えることなく修太郎に背を向ける。何の躊躇もなく背中を見せる少年に、相手の様子を見るに留めていた修太郎はさすがに動いた。


「待てよ、逃げられるとでも思ってんのか?」


 修太郎は適当に石を拾うとそれを隙だらけの少年の背中に投げつける。石は少年の背中をたやすく貫通する。

 修太郎は唇をわずかに歪める。だが、すぐにその目が驚愕で見開かれる。


「嘘だろ……」


 修太郎は思わずそう呟いていた。なぜなら、心臓を間違いなく貫通していたにもかかわらず、少年は平然と歩いていたからだ。そればかりか、ある程度修太郎と距離が離れたところで少年の姿がかき消える。

 修太郎は慌てて少年の消えた場所まで走るが、そこには何の痕跡も残されていなかった。大急ぎで何らかの仕掛けが残されていないかその周辺を調べてみたが、それらしいものは一切なかった。特典で調べても少年が消えたように見せかけるために使ったと思われる仕掛けどころか、少年が(・・・)この場にいた(・・・・・・)という痕跡(・・・・・)すら全く(・・・・)なかった。(・・・・・)まるで、少年など最初からここにはいなかったのではないかと思いたくなるほどだ。


「やれやれ。こりゃまた随分と変な奴が現れたもんだ」


 修太郎は肩をすくめる。しかし、気の抜けた仕草や声色とは裏腹にその表情は真剣そのものだった。少年の消えた場所を睨みながら、修太郎は思考する。



 先ほどの少年は一体何者なのか。



 少年が現れてから二度口にした疑問だ。あの少年は他人の空似にしてはあまりにも修太郎と酷似しすぎていた。となると彼は修太郎の血縁だろうか?

 荒唐無稽な仮説ではあるが、その可能性が一番高いだろうと修太郎は踏んでいた。



 父親が間違いをしでかしたというのは考えにくい。ゼロとは言わないが、自他共に認める仕事人間だ。彼に女にかまけている余裕はないだろう。

 しかし、母親は別だ。あの母と呼ぶことすら虫唾が走る淫乱女ならば、種違いの兄弟の一人や二人作っていてもおかしくはない。


「けど、それだと何でこの世界にいるんだって話になってくるか」


 修太郎がもっとも引っかかっている点はそこだ。ここは異世界。本来、修太郎たち現実世界の人間が関わることのない場所だ。

 修太郎たちはキサラの手によって、問答無用でこちらの世界に連れてこられてしまったが、普通ならば現実世界の人間がここに来る手段はない。そうなると、考えられる可能性は一つだ。


(ハカリの野郎の仕業か)


 修太郎はハカリが何らかの目的のためにあの少年をこちらに呼び寄せたのだろうと考えた。未だに会ったことのない人物ではあるが、これまでの経緯を鑑みれば相当な愉快犯であることは想像に難くない。

 隠密行動に不向きだという木更津に通り魔的な大量殺人をやらせ、瀬戸巧という少年を新たにこの異世界に召喚することさえしている。アスタルがヴェレ姉妹に求婚したことだって、ハカリによるものの可能性が高い。この一連の所業に何らかの目的を一切見出せない。三つ全てが別々の目的のために行われたものだったとしても、正直遊んでいるとしか思えなかった。



 そもそも、朸から聞いたハカリの情報は本当に正しいのだろうか。もし、本当にハカリが魔王の側近だというのであれば、魔王を討つために召喚されたという修太郎たちクラスに何らかの攻撃を仕掛けてきてもいいはずなのだ。少なくとも、人型の一匹や二匹をクラス潰しに送り込んできてもおかしくはないはず。

 いや、確かにクラスの方には人型を刺客として送り込んだのだろう。だが、修太郎の方にはそれらしい手を一切仕掛けてこない。わざわざ、クラスから離反し、一人で動くことを決めた修太郎など脅威ではないと考えているのだろうか。そう考えるのが一番分かりやすいが、仮にそうだったとしても一人で人型を二匹も殺している時点で多少は警戒してもいいのではないだろうか。けれど、今のところ修太郎に何かを仕掛けてくる気配はない。獣型を倒すのですら四大名家の当主の一人が驚くほどのことなのに、そのさらに上の力量を持つ人型を二匹も殺されても何もしてこないのはどういうつもりなのか。

 魔王のことを考えるのであれば、修太郎を潰すべく魔物の大軍勢の一つや二つ差し向けてもいいはずだ。



 これらの観点から見てもハカリが魔王のために動いているとは思えなかった。動いていたとしたら、修太郎がこれまで体験した出来事に説明がつかない。とくに瀬戸に関しては何のためにこちらに呼んだのか全く分からなかった。いくらなんでも、あの力では何の足しにもならない。確かに魔王も相当アレではあるが、それにしたって理解不能にもほどがある。

 単純に未だに修太郎が見くびられているだけならばいいが、それ以外の理由であれば面倒ごとは必須だ。というより、それ以前に彼は一体どこからハカリに関する情報を入手したのか。その情報源に心当たりがないとは言わないが、そうだとすると情報が虚偽である可能性が出てくる。いずれにしても……。


「あれをさっさと処理しねえと、別の意味で面倒になるな」


 修太郎は少し離れた場所で壁に寄りかかっている喜々野の亡骸を見て独りごちる。死体の処理などやったことはないが、滅茶苦茶厄介なことだけは分かっている。しかし、放置してもメリットなどないし、何よりこれには利用価値がある。ならば、早急に住ませるのが一番だろう。



 修太郎は喜々野の遺体にゆっくりと近づき、そして、思い通りの展開に持っていくために処理と下準備を始めた。それは見紛うことなく利己主義のために道徳も倫理もかなぐり捨てた人でなしの行動だった。完全に自分のことしか考えてなかったせいで、修太郎は自分を見ていた不気味な影にも気付けなかった。



 そして、その報いとも言うべきなのか。その日の夜、修太郎はこれ以上なく忌々しい夢を見ることになる。

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