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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第三章 イラつかせる独善と偽善
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一人目ー第三章 1話 船楼地区到着

 結論から言うと、マヤたちも旅に同行することにカスミもシャイナも反対はしなかった。それどころか、カスミは二人を大歓迎していた。やはり、彼女も二人をこの街に置いていくことには反対だったようだ。朸は自分には選択権がないという理由で一切拒否しなかった。

 誰も反対者がいないということで二人はめでたく修太郎たちとともに旅することになった。



 そして、二日ほど寄り道をしたが、修太郎は何とか船楼地区の地へ踏み入れた。カザシ地区からこの地区に入るときは聞かされていた通り、あっさりと入ることができた。

 しかし、彼の足取りはどこか重い。というのも、道中で朸から耳打ちで気の重くなるような情報を聞かされたからだ。


『戸北くんたちとお前以外のクラスメイトは、今、船楼地区にいるよ』


 どうやら、修太郎たちがいなくなった後、他のクラスメイトは船楼地区に移動していたらしい。つまり、カザシ地区にいつまでもいてはまずいという修太郎の推理は完全な的外れだったというわけだ。四日前に正馬と将頼、それにキサラと会ったのは彼らがたまたまカザシ地区に足を運んでいただけのようだ。

 クラスメイトの大半はこの船楼地区にいる。あの安城光一もだ。



 そう思うと気が重くなるのも無理からぬことだ。朸は完全な善意から言ったのだろう。朸は当然のことながら修太郎が光一を嫌っているのを知っている。だから、心の準備ができるように先に教えてくれたのだ。

 何も知らないまま出くわすよりは、あらかじめ知っていた方がいいのも事実だ。その点には感謝している。



 だが、それでも気分が沈むのは避けられない。いっそのこと、この地区に滞在するのは今日一日だけにするのはダメだろうかと思ってしまうくらいには修太郎は鬱屈としている。



 しかし、何となくこの地区に滞在するのは長くなりそうな気がした。修太郎の予感がこの地区に来てから一段ときつくなっているのだ。

 まぁ、異世界転移などという意味不明な事態に巻き込まれた集団の大半がこの地区に集まっているのだから、何が起きてもおかしくはないのだろうが、ここまでされてしまうと、もう全てがどうでもよくなってくる。


「それでは、人数が増えたので今夜泊まる予定の宿泊施設と交渉してきます。そう時間はかからないと思いますが、よろしければ観光を楽しんできてください」


「あ、僕の分はいいよ。ここまで来ちゃえば、僕にあてがわれた寝処があるから」


「そう言わずに。もちろん、ご迷惑でしたら……」


「いやいや。そんなことはないよ。ただ悪いなーって思っただけ」


 遠慮がちに眉を下げているカスミの言葉を遮る形で朸は言う。


「それならば、お気になさらず。今宵泊まる場所もこの近辺ではもっとも上等な旅館ですのでご安心ください」


「そっか」


 朸は何も言えず乾いた笑いを浮かべるだけだった。カスミはつくづく押しが強いよなと修太郎はしみじみ思う。


「ま、そういうことなら悪いけどお世話になるよ。それと修太郎。ぶらっと出歩くつもりなら一緒に行かない? 僕がいろいろと案内するよ(光一たちと会わないようにしてあげるから)」


「案内なら私が……」


「いや。カスミには悪いが、朸に頼む」


 カスミが道案内を申し出てくるが修太郎は迷わず朸を指名する。こればかりは譲れない。朸が最後に自分にだけ聞こえるように小声で言った内容は修太郎にとって必須条件だった。


「そうですか」


 カスミはしゅんとする。それに罪悪感を覚えるが、光一といきなり邂逅するのだけはご免だった。会うにしても、せめて明日以降にしてほしい。



 そういう気遣いができる朸の方がいいのは明らかだ。カスミが気遣いができないと言っているのではなく、朸はカスミと違い、ある程度知っている。その違いが修太郎にとっては結構大きかった。


「それでは、私はこれにて失礼します。修太郎様と朸様は観光されるということですが、カスミ様たちはいかがなさいますか?」


「私はシャイナさんとご一緒するわ。サヤは?」


「私は修太郎さんたちがいいなら、そっちについていきたい」


「私もです」


 シャイナの問いかけにマヤ、サヤ、カスミがそれぞれ答える。修太郎はそれに右手を顎にやって考える仕草を取る。


「俺は構わねえけど……」


 修太郎が朸の方に視線を向けると、朸は小さく笑って頷く。


「僕もいいよ。一緒に行こ」


「分かりました。道中お気をつけて。それから、修太郎様。カスミ様をよろしくお願いします」


「分かっている」


 修太郎は右手を上げてシャイナに背を向ける。そして、そのまま街へと悠然と歩いていく。朸はその後ろ姿をしばし見送り、やがて、ハッとした表情になって慌てて彼を追う。その後にカスミとサヤも小走りで彼らの下へと走る。シャイナとマヤはその姿に不安を覚えながらも、三人とは逆方向に歩きはじめる。



 朸は修太郎に追いつくと、その肩を掴む。


「ちょっと! 修太郎! 適当に歩くなよ!」


「ああ。悪い。つい、うっかり」


 修太郎は頭を掻きながら朸の方に振り向く。朸はため息をつき、ジト目を修太郎に向ける。


「もう。そんなんじゃ、今すぐにでも会っちゃうかもよ?」


「そいつは勘弁」


 冗談めかして言っているが、その声色は本気だった。普段と剥離した様子を見せる修太郎にカスミとサヤは顔を見合わせる。

 カスミは二人が気になっていることを代表して修太郎に聞く。


「誰か知り合いがいるのですか?」


「ああ、いるよ。それも死んでも会いたくねえ奴が……」


 修太郎が忌々しげに吐き捨てる様子を見て、二人は何かを察したのかそれ以上聞いてくることはなかった。

 それに感謝しつつも修太郎は朸にどこに向かうか尋ねることにする。


「そんで、どこに行く? 俺はここのことを全く知らねえんだけど」


 カザシ地区に限りなく近いとはいえ、ここは未知の領域だ。街並み事態は境の街よりは都会的で闘技場周辺の街よりは田舎といえる感じか。ごく一般的な街にしか見えないが、どこに他のクラスメイトがいるか分からない以上うかつには動けない。



 いや、強いて言うなら、あと一人。会っても問題ない人間がいるにはいる。

 というより、それ以前にクラスメイトに会うことが問題なわけではない。嫌っているのは安城光一と坂戸正馬の二人ぐらいであり、心底会いたくないと思っているのは安城光一だけなのだ。



 ただクラスの中では彼は中心人物であり、他のクラスメイトと会えば必然的に彼と邂逅する可能性が高くなってしまう。横にいる朸も光一とは良好な関係を築いているのだ。彼は修太郎に気を遣ってくれているが、他の連中は分からない。

 場合によっては引きずってでも彼に会わせようとするかもしれない。あの吐き気を催す究極の独善者に。



 思い出したことでこみ上げてくる怒りを抑えている修太郎はひたすら朸の後を追うことしかできなかった。そして、彼は突然立ち止まる。それに合わせて修太郎も止まり、正面を見る。


「ん? これは……」


「そう。ここにもあるのさ。一応、ここも境の街だから」


 修太郎の眼前にあったのは午前中までいた境の街にあったのと全く同じ古ぼけた宮殿だった。姿形もそっくりで、まるで双子のようだった。



 修太郎は既視感を覚えながらも、朸に尋ねる。


「前から思っていたんだが、この宮殿って一体何なんだ? 俺はそこまで詳しくないが、何かしら重要な役割はあるんだろ?」


「象徴ですよ」


 修太郎の問いに答えたのは朸ではなくカスミだった。修太郎がカスミの方に視線を向けると、カスミは説明をする。


「この世界に国は一つしかないのはご存じですよね。そして、その国を四つの地区に分けて我々四大名家が統治しているのが今のこの世界の姿です。ですが、当然ながら我々四大名家は表向きはともかく、決して良好な関係を築けていないというのが実情です。ゆえにそれぞれの地区の境界近くの街は常に戦争の危機に晒されてしまう。そこで建てられたのが、この宮殿です」


「なるほど。宮殿を建てることで友好関係を強調する、ないし守りの象徴として崇めさせるという狙いがある訳か」


「ご名答」


 修太郎は思っていた以上にしょうもない理由にため息をつく。象徴などくだらない。そんなもので安堵できるとは正気の沙汰とは思えなかった。



 だからといって、そのことにとくに口出しする気のない修太郎は小さくため息をつく。


「ここのことは大体分かった。それで? 次はどこに行くんだ?」


「んー。それ聞かれるとちょっと困るかな」


「は?」


 修太郎は訝しげな表情で朸を見る。朸は気まずそうに頬をポリポリと掻く。


「やー。ここも実は午前中までいたところと同様、そんな大きな街じゃなくてさ。見ておくべきところっていうのがそんなにないんだ。せいぜい、必需品を買う場所とか見るくらいかな。あと特筆すべき点があるとすれば……」


 朸がそこで左の方に視線を移す。修太郎たちもつられて、そちらの方に視線をやる。すると、何もないはずの場所から突然三匹の生型と二匹の獣型の魔物が出現した。


「こういうのがやたらと出やすいってことくらいかな」


「なるほど」


 修太郎はカスミとサヤを後ろに下げ、拳を構える。朸も腰を落として魔物たちを睨みつける。黒色のカバの姿をした魔物が大きな唸り声を上げると同時に修太郎たちは五匹に襲いかかった。

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