一人目ー第二章 4話 双子登場
恵比寿龍率いる荒くれ者たちとの私闘はあったものの、それ以外にはとくに何もなかった。
一仕事を終えた修太郎はカスミたちに料亭のような場所に案内されていた。そこは街の中心部にそびえ立つ大きな和風屋敷で店の中はとてつもなく広く、店の人間に案内されたのは修太郎がアレフス家にあてがわれた部屋の倍はありそうな和風の部屋だった。三方向は襖に囲まれ、残りの一方向は縁側に続いており、その向こうには立派な庭が広がっていた。行ったことはないが、現実世界の高級料亭に近いのだろうと修太郎は分析する。
上座に案内され、若干戸惑いながらも修太郎は上座に座る。カスミとシャイナはそのすぐそばの席に着席する。何があるのかと無駄に大きな机に置かれたお品書きを手に取ると、突然カスミが切り出してくる。
「あなたは一体何者なのですか?」
「いきなりだな」
直球にもほどがあるカスミの問いに修太郎はメニューから視線を上げて呆れた表情を浮かべる。カスミは修太郎から視線を外さないまま話を続ける。
「……前々から気になっていたんです。あなたはあまりに謎に包まれすぎている。実は密かに調査させていただいたのですが、何も出てきませんでした。出自も経歴も能力も何もかもがです」
「内緒でとんでもないことするの、本当に親子で似てるよなぁ……」
不審死事件で木更津の犯行を暴いたときのことを思い出す。あの時もユキヒコは修太郎に何も告げずに彼に尾行をつけさせていた。尾行に調査と明らかに相手を疑ってかかる行動を取っているアレフス親子に常人ならばブチ切れてもおかしくはないが、残念ながら彼は常人ではない。だから、密かに自分のことを調査していたと聞かされても苦笑するに留めていた。
「先ほど、朸さんとの会話であなたはあそこを飛び出したと仰っていた。それにキサラという名前。それは、ひょっとして……」
「悪いがその問いに答えてやる気はない」
カスミが何を考えているのかは分からなかったが、それでも異世界転移について話す気はなかった。朸と再会したことで、いろいろと口走ったのは失敗だったが取り返せないほどではない。
いずれにしても、修太郎にとっては問題でも何でもない。
明確に拒絶を示されたカスミはそれ以上追及することをしなかった。諦めたようにため息をつくと、悲しげに目を伏せる。
「そうですか。では、いずれ話していただける時をお待ちしております」
「ああ。そうしてくれ」
何とかはぐらかすことに成功した修太郎は改めてお品書きを見る。だが、そこに載っているのはいわゆるコース料理ばかりで単品の料理のようなものは存在しなかった。
しかも、おそろしいことにお品書きに値段が書かれていない。現実世界とは貨幣が違うため何とも言えないが、それでも相当高額な料金を請求されるのは間違いなかった。
なので、できるだけ一番安そうなものはどれかと顎に手をやって思考するが、その仕草を見たカスミに微笑みかけられる。
「あぁ、別に遠慮なさらずとも構いませんよ。前日の時点ですでに予約しておりますから、ここのお代は我々持ちです。心置きなく、最高の料理をご堪能下さい」
「いや。ああ、そうか」
正直楽しめる気がしなかったが、せっかくのご厚意を無駄にするわけにはいかない。タダより高いものはないと言うが、ここは腹をくくるしかなさそうだった。
間違ってもこの場で席を立つのだけはありえない。いくらなんでも失礼すぎる。
そんな彼の葛藤をよそにカスミたちは勝手に最高級のコース料理を頼んでしまう。修太郎は一瞬止めようとしたが間に合わず、結局そのまま注文されてしまった。
そのまま、その話題に触れずに無言で料理を待っていると、五分ほどで前菜にあたる料理が運ばれてくる。
それはイカとタコをふんだんに使った塩辛のような料理だった。居酒屋ではあるまいし、当然、ただの塩辛なわけがない。出された料理をじっと見ていると、カスミとシャイナが食事に手をつけることなく、こちらを見ていることに気付く。一瞬訝しがるが、修太郎が食べるのを待っているのだろうと判断する。修太郎は一つ息を吐くと側に立てられていた割り箸を手にとって割り、料理を一口つまんで口に運ぶ。
「いかがですか?」
カスミが首をかしげて聞いてくる。修太郎は一度咀嚼を止め、何を言うか考える。だが、すぐに目を伏せると口の中のものを飲み込み、感想を口にする。
「……美味いな」
「それは何よりです」
本当はもっと気が利いたことが言えればよかったのだろうが、残念ながら修太郎の持つ料理に関する語彙は多くない。下手に知ったかぶるより、単純に表現した方がいいと判断した。
その判断が正解だったのかどうかは分からないが、カスミは満足そうに頷いているので多分間違っていないのだろう。
「では、我々もいただきましょう」
カスミとシャイナも両手を合わせて、いただきますと言うと、食事を口につける。それを見た修太郎は続けて塩辛を口に運ぶ。
それからすぐにさまざまな料理が運ばれてくる。魚料理、肉料理、メイン料理などが運ばれ、最終的にデザートで〆となった。どれもこれも逸品と呼ぶにふさわしく、そこそこ舌が肥えている修太郎を唸らせるには十分すぎた。
まぁ、高級料亭の料理がまずかったらそれはそれでまずいのだろうが。
完食した修太郎が抱いた感想は量が結構多かったなの一言に尽きた。もちろん、美味だった。塩味、酸味、甘味、苦味、辛味、旨味、渋味とありとあらゆる味を網羅したそのコース料理は確かに絶品だった。それは否定しない。
しかし、それにしても量が多すぎる。前菜やサラダにあたる料理は普通の量だったのだが、魚料理のあたりから徐々におかしくなっていった。どう見ても二人前以上あるであろう料理を平気で出してきたのだ。食べ盛りの年頃である修太郎だが、決して大食いとは言えない彼にとってはかなり苦痛に近かった。
これを平気で食しているカスミとシャイナを見て、密かに度肝を抜かれてしまったのは内緒だ。体型からは考えられないほど二人は大食いらしい。二人の食べっぷりはなかなか見事なものだったが、だからといって修太郎の食欲が刺激されるかと言われれば、否だ。
ぶっちゃけ言って終盤は苦行そのものだったが、比較的少なめ――一般的に見れば普通の量だった――であっさりとした味付けのデザートを食べたことで何とか人心地つくことができた。
「胃は満たされましたか?」
「腹一杯になったか、でいいだろ。何だよ? 胃が満たされるって。ちなみに満腹になったかという意味なら見ての通りだ」
修太郎は自分の腹をポンポンと叩く。カスミはそれを見て頷くと口を開く。
「あの。食後で申し訳ないのですが、実は会わせたい方がいらっしゃるのです」
「会わせたい方?」
「はい。正確には方々です」
「方々?」
修太郎は眉をひそめる。カスミはシャイナの方に目配せする。それを受けて、シャイナは修太郎に目を合わせる。
「実はすぐそこまで来ていただいております。この部屋の中に招き入れても構いませんか?」
「構わねえが……」
「どうぞ、お入りください」
シャイナが言うと、修太郎の正面の襖が開かれる。向こう側には二人の少女が地面に座って、手をつき、頭を垂れていた。頭を上げると、修太郎はわずかに目を細める。
(双子か?)
二人の顔は瓜二つだった。入れ替わりをされれば、二人のことを知らない人間はたやすく引っかかるだろう。それくらいには二人はそっくりだった。
肩まで届く青い髪。その左側頭部には二人でデザインの違う髪飾りがある。見た目はかなり幼かったが、年頃は自分と同じか少し下くらいだろうと修太郎は見る。可愛らしい容姿も背格好も全く同じで、違いがあるとすれば一方がプラチナの瞳をしているのに対し、もう片方が金色の瞳をしているといったところだろう。だが、その程度はカラーコンタクトなどでどうとでも同じにできる。それ以外は全く同じ人物が二人いるようにしか見えなかった。
瓜二つの美少女二人が目の前にいるという光景は人によっては歓喜するものだろう。
だが、この二人が一体どうしたというのか。真意を掴めない修太郎は怪訝そうな表情でカスミたちの方を見る。
「実はこの二人こそが我々がここで立ち止まる理由なのです」
「? どういうことだよ?」
まるで理解ができなかった。修太郎の困惑をよそにカスミは話を続ける。
「彼女たちはこの街で……いえ、この国中で迫害されています」
「何?」
修太郎は少女たちを見る。彼女たちが身に纏っているのは白を基調にした極めて上等な着物だ。それに加えて髪飾りもそこらの既製品と比べるのが失礼なくらいに立派なものだ。そういったものに造詣の深くない修太郎でもかなりの高級品であることが分かる。
そんなものを身につけることのできる彼女たちが迫害されているとは一体どういうことなのか。
「疑問はごもっともです。迫害されているのであれば、このような立派な装いをできるはずがない。ですが、彼女たちが迫害されているというのはれっきとした事実なのです。それをどうにかするために、あなたの力をお貸し願いたいのです」
正直どうでもよかった。修太郎にとっては解決しようがしまいがどうでもいい話だ。アレフス家にかけられていた疑惑を払い、事件を解決したのはあくまで今後のため。双子の迫害をどうにかしたところで、何かしらの利益を得られるとは思えなかった。
とはいえ、とくに断る理由もない。どうせ、修太郎に目的らしい目的もないのだ。ならば、無駄に興じてみるのも悪くはない。
そこまで考えた修太郎はひとまず話を聞いてみることにした。
「とりあえず、説明をしてもらおうか」
「……随分と無礼な方なのですね。カスミ様からはもう少し礼をわきまえた方だとお聞きしていたのですが」
「あ?」
話を聞こうとしたところで不意に双子の一人が口を開く。その言葉は明らかに喧嘩を売っているものだった。修太郎は目を細めて、発言をした少女に言う。
「何だよ、双子の片割れ。何か言いたいことがあんのか?」
「片割れではありません。マヤ・ヴェレです。こっちはサヤ・ヴェレ。あなたとは比べものにならないほど高貴な人間です」
「おう。そうか。そんで、高貴な人間さんよぉ。何が言いてえんだ?」
ついつい喧嘩腰になってしまうのは無理もないことだろう。確かに修太郎の態度はふてぶてしいものだったが、仮にも助けを求めている人間の態度ではない。いや、カスミが言っているだけで彼女自身は助けを求めていないのかもしれないが。
「ちょ、ちょっと、マヤ。やめなよ」
「口を慎みなさい、マヤ。あなたの方こそ礼儀というものを知らないのですか?」
見るに堪えなくなったのかもう一人の双子の少女とカスミがマヤを咎める。だが、マヤは謝罪する気配を一切見せない。修太郎は呆れた目をマヤに向ける。
「別にこっちはてめえらがどうなろうが構わねえんだぜ。そもそも、自力で何とかできねえ時点でてめえに礼儀がどうこう言う資格はねえだろ。つーか、むしろブーメランだぜ?」
「まるで我々と同じ苦難を自力だけで抜けてきたという口ぶりですね」
「ああ。その通りだ。んで、それがどうしたよ?」
寸分の迷いもなくあっさりと言い切る修太郎にマヤは顔をしかめる。彼の言葉は明らかに嘘ではない。自分たちが苦しんでいる状況を本当に潜り抜けた彼に何かしら思うところがあるのだろう。
けれど、それがどうしたというのか。分かりきっている自分のことなどどうでもいい。今は目の前の相手のことだ。
「なぁ、てめえは一体何がしてえんだ? お前一人でどうこうできるって言うんなら、俺は何もする気はねえぞ。俺だって初対面の相手にそこまで言われて力を貸してやりたいなんて思うほど狂っちゃいねえんでな」
「それは何よりです。でしたら、我々には関わらないでください」
「マヤ!」
サヤが叫ぶがマヤは知らん顔だ。引っ込みがつかなくなってしまっているのかもしれない。どちらにしろ、修太郎の彼女に対する心証は最悪以外の何物でもなかったが。
「姉の非礼は私が謝ります。申し訳ありません。ですが、もう我々ではどうしようもないところまで来てしまっているんです」
「サヤ」
「マヤは黙って。無礼を働いておいて図々しいのは承知の上でお願いします。私たちを助けてください」
サヤは深々と頭を下げる。マヤはそんな彼女に非難するような目を向ける。
「サヤ、何をしてるの? こんな奴に頭を下げる必要なんてない。他人の力なんか借りなくても、私たちだけで……」
「はっ。負け犬の遠吠えってのは虚しいもんだなぁ」
「……何ですって?」
あまりにも目に余る態度にさすがに耐えられなくなったサヤがマヤをひっぱたこうとしたときだった。心底侮蔑しきった発言がその部屋に響き渡る。
発言をした張本人はマヤを見下しながら、話を続ける。
「聞こえなかったのか? なら、もう一度言ってやる。負け犬の遠吠えってのは虚しいもんだっつったんだよ」
「負け犬……ですって?」
「そうだろ? 自分の力量も把握しきれず、現実も見れない馬鹿。てめえを負け犬と呼ばずに何と呼ぶよ?」
修太郎にはニヤつきながらも、こちらを睨みつけてくる目の前の少女を見る。修太郎からしてみれば滑稽極まりない話だった。なぜ、彼女たちが迫害されているのかは分からなかったが、マヤという少女の態度からおおよその予想はつく。
彼女たちの家は格式高く、おそらく何かしらの重要な役割を担ってきたのだろう。そして、その役割とは決して歓迎されるものではない。修太郎は二人の様子からそう推察した。
まぁ、推察に関しては見当外れかもしれないが問題ない。だからこそ、修太郎はあえて強気に行くことにした。
「そら、負け犬。話だけでも聞いてやるから、言ってみろよ」
我ながら大人げないクズだな、と思いつつ修太郎は不敵な笑みを浮かべて、マヤを見た。
修太郎の言葉を受けてもマヤは憮然としたままだった。サヤはそんな彼女を呆れた目で見ながらも事情を説明しはじめる。
「驚かないで聞いてください。私たちは魔王に仕える眷属を生業としている一族なんです」
「ほぅ」
修太郎はうっすらと目を細めながら、机に出されていたお茶をすする。その様子に逆にサヤの方が驚いた様子を見せる。
「驚かないのですか?」
「この程度じゃあな。まぁ、その発言で迫害されてる理由はあらかた見当がつくってもんだが」
微塵も驚かなかったと言えば嘘にはなるが、そう大仰に驚くようなことでもない。人間が人々に迫害される理由など、その人間が何かしでかしていない限り、大抵がその人間たちに害なすとされている迷信に基づくものだ。そうなると、魔物かこの土地に伝来している悪神のようなものが関わっているとしか考えられない。まぁ、人種が関わっている可能性もあるが、少なくともこの街の人間と双子にそう違いがあるとも思えない。そうなると、必然的に宗教上の理由か魔物関係に絞られてくる。
「ええ、おそらくご推察の通りです。我々は正確に言えば魔王を世襲しているとある名門に仕えているのですが、この世界に害なす魔物の長というのは見聞もいいものではありません」
「だろうな」
それは修太郎も納得できることだ。かなり気になる単語が彼女の口から出てきたが、それは流しておく。いや、本当は流すべきではないのだろうが流しておかなくては話が進まない。
「んで、そいつがきっかけでお前らは迫害されてるっていうのか?」
「否定はしませんが、それだけではありません。実は他にも理由があるのです」
「他にもねぇ」
「ええ。それが原因で今まで何とか持ちこたえられていたものが破綻しはじめたと言っても過言ではありません」
「んで、そいつは一体何だ?」
茶を二度すすりながら続きを促す。
「この街に巣くっている人型の魔物です」
修太郎はわずかに眉をひそめる。正直、魔王の眷属というだけで迫害されるには充分だろう。というより、理由としてはそれ以上ないはずだ。なのに、その配下が何をどうしたらさらに迫害させることができるというのか。
そこまで考えて、すぐに自分の考えを切り捨てる。人の思考は不条理だ。自分自身ですら完全に理解することなどできはしない。どんな些細な理由でも平気で人を攻撃し、どんな些細な理由でも平気で人を守る。人とはそういう生き物なのだ。
ならば、どんな理由であろうともおかしくない。余計な先入観は捨てるべきだ。
「その人型が一体何をしたんだ?」
「我々を娶ると仰っているのです」
「……何だそりゃ?」
修太郎は理解できないといった表情をする。二人を同時に娶るということはこの世界では重婚を認めているのだろうが、それにしたって人と魔物が結婚するというのはどういうわけなのか。というより、そもそもそれ以前に結婚することができるのだろうか。
頭の中でグルグルとさまざまな情報が回るが、今は最後まで話を聞くことの方が大切だと判断し、視線で続きを促す。
「ですが、言うまでもなく人と魔物の契りなど前代未聞です。市井の人々からはやはり我々は魔物側の人間だと言われ、そして、我々への暴言、暴行がより一層ひどくなりました」
そういうわりには二人は無傷だな、という言葉は飲み込む。二人の体の周囲には特殊な魔力のようなものが流れているのが見える。これでは魔力も扱えない凡人である愚民たちでは傷一つつけられないだろう。
そして、思っていた通り、しょうもない理由だった。この街の人々の短慮さに呆れるべきか、無能っぷりを笑うべきかは分からなかったが、人々の低脳さだけはよく分かった。
だけど、それだけだ。この問題を解決するために何をすればいいのか、修太郎には分からなかった。
「それでその魔物を殺せば問題は解決するのか?」
「……はい。それはそうなんですが……。やはり、人型の魔物を殺すのは容易ではありません」
「そうなのか」
あまり考えたことはなかったが、木更津を逃した身で言っても説得力はない。とはいえ、相性次第ではあるが修太郎に与えられた特典があれば負けるとは思えなかった。
「それに加えて、この問題を解決するのはそう容易な話ではないのです」
そこで長い間沈黙を守っていたカスミが口を開く。そんな彼女をマヤは横目で睨みつける。カスミはその視線に何か思うところがあるのか逡巡する素振りを見せるが、意を決した表情で話を続ける。
「というのも、実はその人型には各地から攫った子供たちを監禁している疑惑があるのです」
「ガキを攫って監禁だぁ?」
修太郎が素っ頓狂な声を上げると、なぜかシャイナの顔色がわずかに悪くなる。修太郎はその様子を一瞥することで認識してはいたが、目線をカスミに戻し、先を促す。
「事実です。実際、彼のアジトと目されている場所に複数の幼い子供たちがいることが分かっています。付け加えるならば、子供たちは男女いずれもが確認されています」
「はっ。ショタコンとロリコンを併発した変態野郎ってことか」
修太郎は呆れた声を上げながら、チラリと双子の方を見る。その意図に容易に見当がついたマヤは鋭い眼光で修太郎を睨みつける。
「なぜ、こっちを見るのです?」
「さあな」
修太郎は笑ってはぐらかすがそれを肯定と受け取ったマヤの機嫌は降下していく。そんな彼女をよそに修太郎は思考を始める。人型は木更津しか知らないが、どうやら、そういうまともではない者もいるようだ。まぁ、そういう類いのモノはそういうのが常ではあるが。
「まあいい。急ぐ用事もないしな。いいぜ、やってやるよ」
「別に私は助けてほしい、などと言っていませんけど」
「マヤ! いい加減に……!」
「別にお前を助ける気なんざ微塵もねえよ。あくまで、俺が救うのはお前の妹の方だ。救われたいと口にしていないお前を救うつもりはねえ」
「……」
「お前は妹だけが救われる光景を指をくわえて見てりゃいい」
しばし、二人は睨み合う。やがて、マヤは諦めたように息を吐き、肩をすくめる。
「なるほど、それならいいでしょう。ですが、本当にできるとお思いで?」
「当たり前だ。まぁ、せいぜい黙って見てろ。俺が証明してやるよ。迫害の無意味さとそれをやる人間の愚かさってやつをよ」
修太郎はそう言って両手の指をゴキゴキと鳴らした。その顔には不敵な笑みが浮かんでいた。




