一人目ー第二章 3話 数だけ
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三匹の魔物を殺した修太郎はふと周囲を見る。そこには修太郎たちに視線を向けながらも、先ほど同様に活気に満ちた姿を見せる人々がいた。
「はっ! 虚勢を張るわりには大した精神力だな」
修太郎は心底侮蔑している目を人々に向ける。空元気などを見せて何の意味がある。虚構の繁栄を見せて何の利益がある。修太郎にはまるで理解できなかった。
だが、同様に彼のことを理解できなかった愚か者も少なからずいたようで、修太郎は彼らの存在を認識すると不敵に笑う。
「何だぁ? てめえら」
修太郎の前に立ったのは二十人ほどの大柄な男たちだった。彼らを見て、人々はさりげなく距離を取っている。
修太郎はそんな彼らを横目に見つつ、喧嘩腰でこちらを睨んでくる男たちを睨む。明らかなごろつきだ。シャイナもカスミの前に立って、彼女の身を守るべく身構えている。
そこまで警戒する相手でもないだろうと修太郎が思っていると、男たちの中心に立つ坊主頭の男が口を開く。
「おい、兄ちゃん。魔物を殺してくれたのはありがてえがよぉ、ここは俺たちの縄張りだ。俺たちに断りもなく魔物を殺されちゃ、俺たちの面子が立たねえんだよ」
「ほぉ。その口ぶりじゃ、あんたらにもあの三匹を殺せたって聞こえるが?」
「当たり前だろ? 何せ、オレらはここいらで一番の腕っぷしを持つ自警団だぜ?」
「はっ。コロンブスの卵って知らねえのか? ああ、悪い。お前らみたいな脳みそのない馬鹿どもに難しい言葉なんざ言ったって分かるわけねえよな。俺の配慮不足だ。すまなかった」
「んだと?」
あの程度の挑発にあっさりと乗る。何とも血気盛んなことだ。いや、単純に頭が足りていないのかもしれないが。
この有様で自警団ということはあるまい。おそらく、この街にはびこる汚点の一部だろうとあたりをつけた修太郎は彼らを見下す態度を隠しもせずに対峙する。
そんな彼のあからさまな対応に血の気の多い荒くれ者どもは苛立ちを露わにする。主格であろう坊主頭の男はすぐ後ろの二人に目配せする。二人の男は頷くと突然修太郎の方に走ってくる。彼らは修太郎の横を通り過ぎて、カスミたちを人質に取ろうとするが……。
「させるかよ、馬鹿が」
だが、二人の男は修太郎の斜め後ろで二人は何かに躓き無様に転倒する。修太郎はそんな彼らをゴミでも見るような目で見ている。
「「ぐっ!」」
二人は呻き声を上げて気絶してしまう。荒くれ者どもはそれをギョッとした様子で見ている。どうやら、彼らは本気であの見えすいた行動でカスミたちを人質に取れると思っていたようだ。
あまりの浅薄さに修太郎はため息を隠せない。心底呆れた表情で修太郎は言う。
「ミエミエなんだよ。いくら、脳みそがなくたってよぉ、もうちょい頭使えや。自警団っつーんなら、それなりの修羅場くらい潜ってきてんだろ?」
修太郎は戸北真人に比べれば荒事の経験はまるで足りないが、それでも決してそういう場に立ち会ったことがないわけではない。
そして、そういう連中は大抵が狡猾で卑劣だ。たまにこういう考えなしの馬鹿がいるが、こんな連中は何の脅威にもならない。おそらく彼らはその大柄な肉体と大きな声を生かした暴行や恫喝でこの街に居座ってるだけの小物だ。そんなものにいつまでも時間を割いている自分に怒りすら覚えてしまう。
だからか、修太郎は見下したような目から狩りを行う者のそれに変えると男たちを睨みつける。
「くだらねえ。さっさとまとめて来いや。てめえらごときに使ってやってる一分一秒がもったいねえんだよ」
「てめえぇぇぇぇぇぇ!!! おい、やっちまえ!!」
紋切り型の言葉にもはや修太郎は呆れることすら止めた。彼の中にあるのは、『排除』の二文字だけだ。
男たちは一斉に修太郎に襲いかかってくるが、修太郎は冷めた目でそれを見ると右手で頭を掻く。そして、無知な彼らを嘲笑うかのように言い放つ。
「くだらねえ。どれだけ数が多かろうが究極の個に勝てるわけがねえだろうが」
今の修太郎の身体能力は最初の魔物の一件で劇的に増加している。多少数が多い程度でどうにかできるレベルではない。
この世界に来たばかりの頃は慣れない土地にさすがの彼も緊張したのか控え気味だったところがあるが、吹っ切れた今となっては関係のない話だ。彼は何のためらいもなく力を振るう。
もっとも、身体能力を強化せずとも彼らを伸すくらいならばできただろうが。
修太郎は力を使うと、人とは思えないほどの速さで動きはじめる。人智を越えた速さに男たちは対応することすらできない。隙だらけな体勢の彼らに修太郎は何のためらいもなく拳を振るう。
「ぐはっ!」
「ぎゃっ!」
「ごほっ!」
修太郎は主格の男以外を瞬時に床に沈める。主格を最後に残したのは彼に自分以外の全てを倒された絶望を味わわせた上で倒すという悪趣味な気まぐれから来るものだ。
修太郎は右腕を振りかぶると常人にはまるで反応できないほどの速さで拳を振るう。その攻撃が坊主頭の男の頬に当たる寸前で、坊主頭の男は右腕でガードする。
「!」
止められるとは思っていなかった修太郎は拳を振り切った体勢で固まってしまう。隙だらけな体勢だったが攻撃を止めた坊主頭の男は反撃することなく、修太郎から距離を取る。
「……すげえな。一撃でここまで俺の腕を痺れさせるかよ……」
坊主頭の男は頬をひきつらせているが、修太郎はそんなものは目に入っていなかった。
殺す価値などないと判断し、半殺し程度ですませるために加減したのは確かだったが、それでも坊主頭の男に対しては一番強く攻撃をしたはずだ。その攻撃速度もそれまでのパンチよりも速い。だが、この男は驚異的な反応速度で修太郎の一撃を受け止め、さらに腕が痺れる程度に留めている。
最初は小馬鹿にしていたが、どうやら主格の坊主頭の男だけは他とはモノが違うようだ。侮っていては返り討ちに遭う危険もある。そう判断した修太郎は臨戦態勢を取る。
坊主頭の男がいかなる動きをしても対応できるように目を凝らすが、彼は修太郎の予想と反した動きを取る。
「……今日はここで退いといてやるよ」
「はぁ?」
突然の言葉に修太郎は思わず気の抜けた声を上げてしまう。坊主頭の男は両手を上げながら話を続ける。
「ここまでされちゃ黙ってるわけにはいかねえ…… と言いたいところだが、仕掛けたのはこっちだからな。さすがにこの状況でお前に勝てると思うほど俺は馬鹿じゃねえ。これまでの無礼は詫びる。許してくれ」
「そんな薄っぺらい言い分と謝罪を信じるとでも?」
先ほどまでは軽んじていたが、今は違う。この男を他の単細胞と同じように考えてはいけないと断じた修太郎は警戒心を露わにしながら男の言葉を切り捨てる。
「俺の名は恵比寿龍。今のところは助っ人としてこっちに出張ってきてるが、本来はアデワデ地区の小さな集落を根城にしてる。いわばよそ者だ。別にこいつらがやられたところで、その仇を討ってやる義理なんざねえんだよ」
「……そうか」
恵比寿の姓にわずかに眉を動かすがとくに何も言うことなく龍の話を聞き流す。彼の話が本当ならばおそらく龍が敵討ちのために修太郎に再び仕掛けてくることはないだろう。
「いいだろう。今回のところは見逃してやる。だが、その代わり次にこっちに牙をむいてきたら分かってんだろうな?」
修太郎は保険を仕込んだ上で念押しする。龍の言葉を信じる気はないが、彼を見逃さない理由もない。これ以上くだらない時間を取られるのも億劫だ。それなら、ここは素直に手を引いてやった方がいいだろう。
「ああ。分かってるよ」
龍は修太郎の言葉に頷き、そして、彼に背を向けるとそのまま去っていく。修太郎はその背を少しの間だけ見つめると、興味をなくしたかのようにカスミたちの方へと顔を向ける。
「じゃあ、今度こそ行こうぜ」
もうこれ以上ここにいる意味はない。修太郎の言いたいことが分かったのかカスミたちは無言で頷き、その場を速やかに立ち去った。




