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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第二章 選択の意義
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一人目ー第二章 1話 新天地へ

 翌朝。修太郎は持ち込んだ数少ない荷物だけで外に出ようと考えていたが、ユキヒコとカスミの助言により彼らに用意してもらった物をいくつか持っていくことにした。

 そのおかげでもらった服を着て旅に出れるようになったので結果的には正解だった。制服であちこち動き回るのはさすがに嫌だったし、クラスメイトたちに見つかる確率が極めて高くなってしまう。あまり彼らと関わり合いたくなかった修太郎としてはそれはごめんだった。



 カスミとシャイナを横に連れ従えた修太郎は門前まで見送りに来たユキヒコと顔を向き合わせる。


「どうも、世話になりました」


「礼を言うのはこちらの方だ。君のおかげで我々は大いに助けられた。しばしの別れだが、この恩は必ず返すつもりだ。本当に感謝している。君の旅に私は何もできないかもしれないが、君の武運を祈っているよ」


「ありがとうございます」


 修太郎は頭を下げる。数秒ほどお辞儀をした後、修太郎は頭を上げる。


「それじゃ、行ってきます」


「ああ。カスミを頼んだよ」


「分かりました」


 修太郎はもう一度頭を下げると彼に背を向け、門前に用意された馬車のようなものに乗り込む。まずシャイナが乗り込み、次はカスミ、そして、最後に修太郎が乗り込む。カスミをシャイナと修太郎が挟む形になった。騎手が彼ら三人を載ったことを確認すると鞭で馬を叩き、馬車を出す。こうして、修太郎はカスミたちとともに屋敷を去っていった。



 本当ならば徒歩で船楼地区へと向かう予定だったのだが、それは直前で取りやめとなった。理由としてカスミがそこまで歩くほどの体力がないということが挙げられた。アレフス家の屋敷から船楼地区との境界までの距離はおよそ二十キロほど。修太郎とシャイナはその程度ならば問題なく踏破できるくらいの体力は持っているが、カスミには無理だ。彼女がついていくと固持している以上、必然的に体力を消耗しない馬車を移動手段として用いざるを得なかった。



 それに加えて境界を通過するときの問題もある。アレフス家と谷崎家は少なくとも表面上は友好関係ということになっているため境界には形だけの警備が置かれている程度で通る分には徒歩でも何の問題もないのだが、他の二地区はそうはいかない。国を四分割し、それぞれの地を事実上統治している通称四大名家の仲は決してよいものではない。現にシュードやキューゲンペグは他三家を徹底的に排他しようとする本意を隠そうともしない。過去にはアレフスや谷崎も加わった上で大規模な戦争を幾度となく起こしているほどだ。とはいえ、近年ではそこまで派手な動きを見せることはなかったらしいが、数年くらい前からその排他的な動きは急激に強くなりはじめたそうだ。

 そのため、彼らの牛耳る地区に入ろうと思うとそれ相応の準備が必要となる。


「にしたって、アレフス所有の馬車で行けば普通に逆効果だと思うんだがな」


「何かおっしゃいましたか?」


「いいや、何も」


 自身のぼやきを耳ざとく聞きつけたカスミに対し適当に誤魔化(ごまか)す。身も蓋もない言い方をすれば自身の特典でどうとでもなるのだから気にする必要などない。そう考えられる程度には修太郎は吹っ切れていた。



 多少目立つ移動手段だろうがもはや関係ない。邪魔する者は遠慮なく討つのみ。今さら真っ当な倫理観を掲げたところで何の意味もない。

 光一と同じくらい気に食わない人間からの受け売りだが、なぜか修太郎はすんなりとその言葉を受け入れることができた。そうできてしまうくらいには彼もまともではないということなのだろう。



 それでいい。たとえ、生理的に受け付けられないほど忌み嫌う相手の言葉であろうと糧にするハングリーさが時には必要だ。もっとも直に対峙したときに自分がどう動くかまでは読めなかったけれど。



 修太郎はそんなことを考えながら、ふと気になったことを口にする。


「そういや、どれだけ時間がかかるんだっけか?」


「順調に行けば一日ほどで船楼地区の一番近い街に到着するはずです」


「そうかい」


 普通に歩いた方が早いのではないかという言葉は飲み込んだ。覚えている範囲ではここから船楼地区の最寄り街は直線距離で三十数キロだ。さすがに数時間で着くのは無理だがそれでも一日よりは速く着くことができるはずだ。

 正直この馬車の速度は速くはないが、それでも徒歩より遅いわけではない。これで一日は遅く見積もりすぎではないか。大きく回り道でもする気なのか、それとも他に何か事情があるのか。



 普通に考えれば前者だ。最短距離を通る道は馬車で通るには厳しいためにやや大回りをせざるを得ないなどの理由が一番無難なところだろう。地図である程度道を覚えてきたとはいえ、修太郎は現地を見ているわけではない。急傾斜の道だったり、極端に狭い道だった場合馬車での通行は困難だ。



 そう考えるのが常識的なはずなのだが、なぜか修太郎は後者の予感がしていた。アレフス家と谷崎家の関係は比較的良好である。そう書かれていたが、はたして本当にそうなのだろうかと。



 ――そんなはずがない。



 それが修太郎が出した結論だった。この世界は修太郎のいた世界と違い、一つの星に一つの国しかない。島国などというものはなく、当然北極や南極などといったものもない。この星には一つの大陸しか存在していないのだ。

 それを四つに分け、それぞれを牛耳る四つの名家。一部とはいえ、それらの仲が良好などということがあるだろうか? 答えは否だ。



 確かに表面上は友好国や同盟国を装うことはできるかもしれない。書籍を読んだ限り、名家同士の表立った喧嘩はここ数十年ほど起こっていないらしいし、それならば外交や貿易などの観点から条約の一つや二つを結ぶのは定石だろう。

 それに船楼地区の人間だと思われていた修太郎を後に極秘で尾行をつけたりしていたとはいえ、あっさりと受け入れていたところを見るに、アレフスと谷崎が正面切って対立しているということはないと見ていいだろう。



 だが、真の意味で友好関係を結べるかと言われれば、それは不可能だ。そう考えればカザシ地区と船楼地区の境界線に大した警備を置いていないというのはおかしいというのはすぐに分かる。適当に理由をつけて、しっかりとした警備を互いに敷くべきだ。

 それをしない理由。修太郎に思いついたのは一つだけだった。


「俺はまた変な迷惑をかけちまったのか」


「そんなことはありません。むしろ、迷惑をかけるのはこちらの方です」


「やはり、そうか」


 修太郎は諦めたようにため息をつく。せっかく一つ面倒ごとを解決したと思ったが、どうやら、再び次の面倒ごとがやってくるようだ。

 だが、何も悲観する必要はない。もう彼に特典(ちから)を振るうことへのためらいはない。手の内を晒したところでどうこうできる力でもない。仮にこの特典(ちから)の弱点に気付いたところで、それに対する対策はすでに思いついている。



 何も焦る必要はない。いや、元より焦ってなどいない。ただ為すがままに流れに身を委ねるだけだ。


「まぁ、それならそれでいい。女性と旅する者は急いではならないということわざもあるしな」


「初耳ですが……」


「そうなのか。そいつは意外だな。まぁ、どっちでも構わねえけどよ」


 先ほど修太郎が口にしたのはイタリアのことわざだ。耳に挟んだだけなので朧気だが、確か男と女では歩幅や体力が違うのでゆっくり歩いていけという意味だったはずだ。高校で教師が冗談めいて話していたのを何となく覚えている。



 馬車で旅しているので歩幅も体力もないとは思うが、急ぐことに意味がないのは確かだ。下手に急いだところで、それで何かが変わるかと言われれば、答えることはできない。せいぜい船楼地区への到着時刻が早まるだけだ。

 それならのんびり行った方がいい。旅とはそういうものだ。道中でトラブル(・・・・)があったとしても、それを楽しむくらいの気持ちでいればいい。



 修太郎は馬車に装備されている無駄に豪華な椅子の背もたれに体重を預ける。そして、大きく息を吐くとカスミが控えめな声で話しかけてくる。


「あの、修太郎……」


「ん?」


「実は少し寄りたいところがあるのですが、構わないでしょうか?」


 どこか申し訳なさそうに言ってくるカスミに修太郎は思わず苦笑いをする。別にそう隠す必要もないだろうに、この短期間で面倒ごとに巻き込むことに罪悪感でも覚えているのだろうか。

 とりあえず、その緊張をほぐそうと修太郎は微笑を浮かべながら答える。


「構わねえよ。どうせ、急ぐ旅じゃねえんだ。どこへなりとでも行ってくれていいぜ」


「ありがとうございます」


 カスミは軽く頭を下げているが、修太郎は見逃さなかった。カスミの向こう側に座るシャイナが小さくガッツポーズをしているところを。



 どうやら、修太郎の読みは当たっていたようだ。カスミとシャイナは明らかに何か面倒ごとを修太郎に押しつけようとしている。

 いや、それでは聞こえが悪い。ここは修太郎を頼りにしていると言った方がいいだろう。どのみち、修太郎も何も言う気はない。見目麗しい女性に対しては紳士的になってしまうのが彼の美徳であり欠点でもあるからだ。



 それを自覚しながらも彼は一切改める気はない。これがいつか致命的な隙になると理解していながらも直す気はない。



 それどころか、一瞬だけ浮かんだその戒めはすぐに頭の中から消え失せ、これから起こるであろう事態(トラブル)に胸を躍らせていた。


「さて、何が来るかな」


 修太郎は誰にも聞こえないような小声で、それでいてこれ以上なく弾んだ声でそう呟いた。


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