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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第一章 僥倖の連続殺人
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一人目ー第一章 14話 事件解決

 連続不審死事件を闘技場にて終結させた修太郎とカスミはその足でユキヒコの下に向かっていた。屋敷に入り、ユキヒコの部屋をノックすると、中から不機嫌そうな声が返ってくる。


『入りなさい』


 明らかに怒りを抑えている声に修太郎とカスミは顔を見合わせる。何で起こっているのか、少なくとも修太郎には皆目見当もつかなかったが、待たせるわけにもいかないととりあえず中に入ることにする。


「失礼します、お父様」


「失礼します」


 扉を開けて、二人とも一礼しながら中に入ると、ユキヒコが眉を寄せ、むすっとした表情で二人を迎え入れる。


「こんな顔で出迎えてすまないね。君に怒っているわけじゃないんだ、修太郎くん。むしろ、感謝している。事件を解決してくれてありがとう。このような表情で感謝の言葉を述べる無礼を許してほしい」


「はぁ。それは構いませんが、一体何でそんなに怒ってるんです?」


「それは……。カスミ?」


「は、はい!」


 突然名前を呼ばれたカスミはびくつく。明らかにユキヒコは彼女に対して怒っている。なぜ怒っているか。そう考えたとき、ようやくカスミはユキヒコが怒っている理由が分かった。


「あれほど、私に任せておとなしくしていなさいと言ったはずだったな。なのに、どうしてお前は狩野や不審死事件の犯人である木更津剛と対峙しているんだい?」


「は?」


 修太郎にとっては寝耳に水だった。いや、そう言われていることが予想できなかったというわけではない。そして、それに対してカスミが反発し、単身狩野と対峙していたというのも予想できた。

 修太郎が驚いたのはそこではない。驚くべきなのは、まだ何も報告していないにもかかわらず、ユキヒコがこの事件の真犯人が木更津だと知っていたことだ。


「そ、それは……」


 だが、カスミはそれに気付かずに必死に言い訳をしようとしている。修太郎は助け船も兼ねて、疑問に思ったことを尋ねることにする。


「すんません……。なんで、事件の犯人が木更津剛だって知ってるんですか?」


「あ、そ、そうです。私は狩野惣一郎が犯人の可能性が高いと申し上げたのに、なぜ木更津剛が犯人なのだとご存じなのですか? お答えください! お父様!」


 修太郎の問いかけにカスミは水を得た魚のように同調する。ユキヒコは大きく息を吐くとその問いに答える。


「それはね。面目ないとは思ったんだが、修太郎くん。君に尾行をつけさせたんだ」


「俺に尾行を?」


「ああ。もちろん、褒められたことでないのは重々承知していたんだが、昨日の君との会話を経て、君の行動を追っていくのが事件を解決する一番の早道だと思ってね。昨日の晩からそういうのが得意な者に君の後をつけさせていたんだ。すまなかった。君を疑ってたわけではないんだ」


「いや、それは分かってますけど。にしても、随分と思いきったことしましたね。正直俺を追うよりも警察内部から情報を得た方が確実だと思うんですけど」


「意地の悪い質問だな。君も分かっているだろう? カザシ地区管轄の刑事ではこの事件は解決できなかったと言うことを」


 修太郎はその問いに沈黙という名の肯定で答える。狩野たちは決して無能というわけではないのだろうが、少なくとも今回の事件は彼らが解決できるものではなかった。当たり前だ。何せ、犯人は彼らの中にいたのだから。


「まぁ、どちらでもいい。それよりも木更津の自白が入っているというビデオと録音機を見せてくれないか? それがあれば、説得(・・)も極めて楽になる」


「何もかもお見通しですか。随分と優秀な尾行者をお持ちのようで」


 修太郎は皮肉を口にしながら、懐からビデオと録音機を取り出す。それを見て、カスミは焦った表情を見せるが、それは杞憂だった。カスミがもっとも気にしている場面はこれらの機器には記録されていないからだ。



 カスミにとって幸いだったのは狩野との戦いが録画録音されていなかったことだ。修太郎は闘技場に来た際に木更津がカスミに近付いていると見るや、カメラと録音機を大急ぎで仕掛け、即座に話しかけたので最初の方が記録されていなかったのだ。修太郎が来たのとほぼ同時に記録を始めたので当然と言えば当然だが。


「これが俺の記録した証拠です。完全に決定的な証拠とは呼べないかもしれませんが、手がかり一つ掴めず、アレフスに疑いを向けることでしか、やる気も出せない無能どもを黙らせるには事足りるんじゃないっすかね」


「辛辣だが真理だな。だが、無理矢理自白させられたとゴリ押しされれば、多少面倒なことになるかもしれん」


「心にもないこと言わないでくださいよ。そんなもの本当ならどうとでもできるはずでしょう? つーか、それ以前に連中はアレフス家に固執しすぎてここまで手こずった挙句に寵愛(・・)までも(・・・)失っちまった(・・・・・・)んすから」


「どういう意味だい?」


「おっと。沈黙は金、雄弁は銀と言いましたか。少々多弁すぎました。失礼」


 ユキヒコは修太郎の言葉の真意を問うがはぐらかされる。だが、無断で尾行をつけた負い目からそれ以上の追及はできず、ユキヒコは引き下がる。


「とりあえず、これで事件解決ってことでいいんですよね」


「ああ。本当に助かったよ」


「いやいや。差し出がましい真似をしてすみませんでした」


「とんでもない。むしろ、こちらが何か礼をするべきだ」


(来た!!)


 ユキヒコの言葉に修太郎は内心舌舐めずりする。これを狙って、今回の事件をわざわざ解決したのだ。打算ありきでどうしようもない動機だが、これが修太郎なりの処世術だった。


「君のおかげでアレフス家への濡れ衣は晴れた。その礼がしたい。何がいい? 私にできることならば、何でもしよう」


「気を遣ってもらわなくてもいいんですけど……。そうですね……」


 修太郎は少しだけ考え込むフリをする。間を置いて、修太郎はあらかじめ決めておいた答えを口にする。


「なら、差し支えない時でいいんで、いつでも俺をここに泊めてくれませんか?」


「? どういうことかな? 別にこちらとしては、いつまでもいてくれて構わないんだが……」


「いや、ここに長い間世話になるのもちょっと申し訳ないですからね。見聞を広めるのも兼ねて旅に出たいんです。でも、そうは言っても毎日野宿ってのもアレなんで、この近くに戻ってきたときにたまに泊めてくれたら嬉しいってだけの話です」


「え? 修太郎は外に出るのですか?」


「ああ。今まで黙ってたのは悪いとは思ってたんだが、実はこの家に世話になるときから決めてたことなんだ」


 彼の立場を鑑みれば当然のことだ。修太郎は転移者だ。元々この世界の人間ではない。本来違う世界の住人である彼がこの世界に来たのは魔王討伐を目論んだキサラの手によるものだ。修太郎は彼女と光一の二人と行動を共にしたくなくて闘技場を飛び出した。

 要は彼は追われる立場にいる人間ということだ。この数日でアレフス家がこのカザシ地区屈指の名家だということは分かったが、いつまでも同じ場所に留まっているわけにはいかない。木更津によって黒幕の存在がいる可能性が出てきたことによって、その緊急性は増した。



 そうでなくとも、彼はキサラから見れば自分の管理下から逃げた逃亡者だ。彼女はどんな手を使ってでも修太郎を連れ戻そうとしてくるだろう。闘技場での彼女の言動にそれが如実に表れていた。ならば、闘技場からほど近いこの家に身を寄せるのはあまりに危険すぎる。

 修太郎が意地を張っているだけならばまだしも、キサラは間違いなく危険な女だ。何があろうとも彼女の側に甘んじるわけにはいかなかった。



 だが、無闇に逃げ回っていても危険なのは事実だ。後ろ盾もなく、行くあてもないままフラフラしていたのではあっという間に捕まるか、それとも野垂れ死ぬかの二択しかなくなってしまう。特典を使ってあちこちを渡り歩くという選択肢もあるにはあるが、考えなしに使っていてはあっという間に破滅してしまうだろう。修太郎の特典は強力だが無敵というわけではない。だからこそ、修太郎はアレフスの後ろ盾と拠点となる場所がほしくて、危険を冒してまで今回の事件を解決したのだ。


「そうですか……」


「それは残念だな。いつ出発するつもりなんだい?」


「そうですね。まぁ、どこ行くかっていうのをまだ決めてないんで、数日くらい調べてから行こうと思ってます。何分(なにぶん)、学がないせいで、どこに何があるのか今ひとつよく分かってないもんで。それまではこれまでと同様お世話になろうと思ってるんすけど」


「それはもちろん構わないが」


 とはいえ、そう長くはいられないだろう。カザシ地区は比較的広い街だが、それでも長くて三日。それがタイムリミットだ。

 何せ、修太郎は昨日闘技場でキサラと会っている。今までも行方を追われてはいたのだろうが、あの時点で彼女にまだ修太郎がカザシ地区にいるという判断材料を与えてしまった。ならば、この地区を中心に捜索を行う可能性は十二分に考えられる。そうなれば、遅かれ早かれいずれ見つかるだろう。あまりのんびりとはしていられない。


「そういうわけなんで、俺が望むのはそれでいいです。いや、むしろそれがいいんです」


「分かった。君が旅をしたいというのならばこちらも可能な限り支援しよう。必要なものがあれば何でも言ってくれ。さすがに君を野宿させてしまうのは気が引ける」


「いや、別に野宿自体は慣れてるんで平気なんですけど……。そうっすね、お言葉に甘えさせてもらいます」


「ああ。何でも言ってくれ」


 こうして二人の間で話はまとまった。だが、修太郎はカスミが先ほどから一言もしゃべっていないことに気付く。


「? どうしたんだ? カスミ」


「いえ……。その……」


 カスミはもじもじとしながら、修太郎の方をチラチラと見る。ユキヒコはそんな彼女に微笑ましい視線を向けながらも、ややトーンを下げて言う。


「カスミ。言いたいことは分るが、その前に説教だ。しばらく、この部屋に残っていなさい」


「うぅっ……。はーい」


 叱咤から逃れられたと思っていたのは甘かったらしい。カスミは力なく返事を返す。修太郎はそれに苦笑しながら、一言断って部屋を出る。



 廊下に出てユキヒコの部屋からある程度離れた場所まで歩いていくと、修太郎は大きく大きく息を吐く。


「どこのどいつか知らねえが、お前の思惑通りにいくと思うなよ」


 修太郎は強い敵意を込めた目で、まだ姿すら分からない敵を睨みつけるように虚空を見た。

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