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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第一章 僥倖の連続殺人
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一人目ー第一章 13話 対峙

「初めから疑問には思ってたんだよ。どうして、今回の連続不審死事件の犯人は全ての事件に何かしらの不自然な痕跡を残すのかってな」


 修太郎はカスミと狩野からはあえて意識を外して、木更津のみに視線を向けて話しはじめる。それは今回の事件の彼なりの推理だった。


「不自然な点を残すってのは、あえて証拠を残すってことだ。どれだけ足がつかねえように細心の注意を払ったところで大量殺人をしている身でそんなものを残すってのはあまりにリスクが高すぎる。捜査の攪乱のためか、あるいは愉快犯の可能性も考えたんだが、どこか腑に落ちない」


 修太郎は木更津の顔色を窺うがとくに変化は見られない。修太郎は話を続けていくことにする。


「そこで別の方向から考えたんだ。現場に不自然さを残すのは、自分から選んでやったことではなく、そうせざるを得ない何かがあったからじゃないかってな」


「残さざるを得ない何か?」


「何だ? それは……」


 修太郎の言葉にカスミと狩野が首をかしげる。その時点でカスミはともかく狩野はこの件に関わっていない可能性が出てきたと修太郎は考える。


「一番最初の事件でつまらないポカして、決定的な証拠を残しちまったんだよ」


「決定的な証拠?」


「皮膚だよ」


 修太郎の言葉に木更津はわずかに眉を動かす。ようやく返ってきた反応に修太郎は薄ら笑いを浮かべながら続ける。


「確かこの連続不審死事件の最初の犠牲者は喫茶店を経営している老婆だったな。成人してる男が殺すつもりなら、普通なら何の問題もなく殺せるはずだが、最初の殺人ってことであんたも焦ってたんだろうな。老婆に直接腕を引っかかれるか何かしたんだ。左手でね」


「待て。なぜ、そこまで断定しきれる?」


 狩野の当然の疑問に修太郎は呆れた表情を浮かべる。


「それが一番ありえるからだよ。件の老婦人――ユタル・ノーメユラだったか? 彼女の左腕が切り取られた状態で発見されてただろ。その後も数人ほど体の一部を持ってかれてたおかげで違和感は持たれなかったようだが、冷静に考えればおかしい。あえて残した不自然な点以外に証拠らしい証拠も残さず、魔力を用いて内臓を弱らせるという手口を用いてまで痕跡を残さないことに腐心してた犯人が、なぜそんなことをする必要がある? 体の一部を持って帰りたいと思っている犯人なら、事件の途中でそれをやめたのは不自然だ。となると、どう考えても何か理由があって体の一部を持って帰ったと考えるのが無難だろ? そうなると、必然的に体を持っていかれた連中の内、一番最初の犠牲者の体に何かしらの証拠が残ってると見るのが自然じゃねえか?」


「……」


 木更津は微動だにせずに修太郎を見る。修太郎は一瞬だけ目を閉じ、続ける。


「最初に会ったときからおかしいとは思ってたんだよ。今は七月の初めで、うんざりするほどにクソ暑い。なのに、俺は今までてめえが半袖でいたところを一度も見たことがない」


 思い返せば、木更津が着ているのはいつも長袖の青いスーツジャケットだった。刑事は夏でも長袖なのかとも思ったが、そうなると半袖のシャツで動いていた狩野の行動の意味が分からない。狩野の命令でそうしていた可能性もあったが、同じく彼の部下である恵比寿が半袖で動いていた時点でその線も消えた。そうなると、なぜ木更津はずっと長袖で活動していたのか。思いつく限りでは一つしかなかった。


「その理由も最初のユタル・ノーメユラの事件の資料と照らし合わせていけば何となく見当がついたよ。あんたのどっちかの腕にユタル・ノーメユラに付けられた傷跡がついてるかもしれねえってな」


「お見事です」


 ようやく開いた木更津の口から放たれたのは降参の意に近い言葉だった。木更津はスーツジャケットの右腕の袖をめくり上げる。そこには五本の爪で引っかかれた傷跡があった。


「やはり、この時期に長袖は不自然でしたか。ノーメユラ先生を殺した直後に気付いたのはいいのですが、いい対処法が思いつきませんでしてね。思った通り、私に闇夜に隠れし殺人鬼の役は荷が重すぎたようです」


 木更津はため息がちに言い放つ。それは紛れもない敗北宣言だった。彼に抗弁の意思は見られない。この時点でこの事件の犯人が彼であることが確定した。


「本当なのか……?」


「はい?」


 木更津が声のした方を振り向くと呆然とした表情の狩野と警戒心をむき出しにしているカスミがいた。

 狩野は消え入りそうな声で言う。


「本当にお前が……?」


「そうです。此度の連続不審死事件の真犯人はこの木更津剛です」


 木更津が丁寧にお辞儀をすると、狩野の顔から血の気が消え失せる。それは、そうだろう。これまでずっとアレフス家の誰かが犯人だと決めつけていたのに、実際は他でもない自分の直近の部下が真犯人だったというのだから。面子もへったくれもない。それ以前に彼自身の立場すら危うくなるだろう。



 しかし、そんなことはくだらないことだ。それよりも修太郎には気になることがあった。


「動機は一体何なんだ? あんた、昨日言ってたじゃねえか。恵比寿を止められなかったことを後悔してるって。少なくとも、アレは嘘だったんだろ?」


「いいえ。あの発言は紛れもない私の本心です。彼を止められなかったばかりに私は彼を手にかけざるを得なかった」


「どういうことだ?」


「これ以上の問答は無意味でしょう。ここで死ぬあなた方には何の関係もない話だ」


 木更津は全身から膨大な魔力を放出する。そのあまりの禍々しさに修太郎は思わず身構える。


「申し訳ありませんが、まずはあなたから始末させていただきますよ。櫛山さん」


「! 修太郎!」


 木更津は左手を修太郎に向けてくる。カスミが慌てて叫ぶが時すでに遅し。木更津は修太郎めがけて魔力を放つ。魔力は修太郎に直撃し、木更津は仕留めたと思った。


「なるほどな。これが今まであんたが事件を起こしてた力ってわけか。だが、直接喰らったことであんたの力のネタも割れた。あんたは振動を作り出して、内蔵や四肢にダメージを与えて弱らせて殺してたんだ。その痕跡を残さないほど微弱な振動を操れるのは厄介にもほどがあるけどな」


 しかし、修太郎はまるで堪えていない。それどころか、木更津の力を分析する余裕すら見せている。生気のまるでなかった木更津の瞳に驚愕の色が浮かぶ。


「そんな馬鹿な……」


「驚くのも無理ねえがこれは現実だぜ。悪いがそれじゃ、俺は殺せねえ」


「くっ! ならば、こちらはどうです!」


 木更津は左手をカスミの方に向ける。どうやら、今度はカスミを攻撃するつもりのようだ。カスミは身構えるが、修太郎は微動だにしない。

 木更津はそれを不自然に思いながらもカスミに魔力を放とうとする。しかし、彼の左手から魔力が放出されることはなかった。


「無駄だ。もう、天はあんたに味方しちゃいねえ」


「何だと?」


「あんたが知る必要はねえさ。ここで死ぬあんたにゃ、何の関係もねえ話だ」


 さっきの意趣返しを兼ねて言う。木更津は舌打ちをし、修太郎に殴りかかるが、修太郎は難なく左手一本で受け止める。


「なっ!」


「今度は拳に振動を纏わせての攻撃か。これもまともにもらったら肉塊になってたかもな」


 修太郎は隙だらけの木更津の腹に蹴りを叩き込む。木更津は地面に何度かバウンドし、そして、壁に激突する。


「馬鹿な……。何なんだ!? その力は!!?」


「さあな。俺にも分からねえ。まぁ、強いて言うなら『神の祝福』って奴なんじゃねえの? 俺は神も仏も信じたことはねえけどよ」


 修太郎は両手の拳をポキポキと鳴らしながら壁にもたれかかっている木更津に近付いていく。木更津は何かに気付いたような顔になると、素早く立ち上がる。修太郎は再び襲ってくるかと考えたが、木更津の取った行動は全く違うものだった。


「思い出しました。あなたはあの方の仰っていた救世主のお一人でしたね。気付かなかったとはいえ、大変失礼なことをしました。申し訳ありません」


 木更津は深々と頭を下げる。想定外の行動に修太郎の動きが止まる。


「狩野を殺せなかったのはこちらの手落ちですが、これだけやれば充分でしょう。私はこれで失礼させていただきます」


「いや、待て。あの方ってのは……」


「少なくとも、あなたが思い浮かべている人物とは違うとだけ申し上げておきます。それでは、失礼します」


 木更津はそれだけ言うと、凄まじい跳躍力で飛び上がり、そのまま闘技場を空から出ていく。とても人間とは思えない身体能力だった。

 しかし、そんなことは修太郎にはどうでもよかった。それよりも先刻の彼の発言だ。



 木更津は修太郎たちを救世主と呼ぶ人物について話していた。そう言われて修太郎が真っ先に思い浮かんだのはキサラだ。当然だ。彼女こそ、修太郎たちをこちらの世界に召喚した張本人なのだから。

 だが、木更津はキサラではないと言っていた。修太郎たちのことを知っているのなら、召喚関連で真っ先に思い浮かぶのがキサラだということは分かっているはず。それをあえて否定したということは……。



 ――黒幕がいる。それは間違いなかった。



 それをなぜあのタイミングで匂わせたのかまでは分からなかったが警戒しておく必要はあるだろう。修太郎には嫌な予感があっても、それを甘く見て先送りにした結果手遅れになってしまうという欠点がある。この事件の最中にもその兆候はあった。ならば、先手を打つとまではいかないまでも、手遅れにならない程度の手は打っておくべきだ。

 だが、その前に――。


「おい、貴様ら!」


 この産業廃棄物を何とかしなくてはならなかった。修太郎は冷めた目を狩野に向けながら、すぐ側に落ちているカスミの所持していた銃を拾う。

 狩野は修太郎の行動に何も違和感を覚えることもなく、唾を吐きながらまくし立ててくる。


「よくもこの俺を虚仮にしてくれたな! 覚えていろ! 今回は引き下がってやるが、今に貴様諸共アレフスを破滅させてやる!」


 狩野は目を血走らせながらそんなことを言ってくる。彼の憎悪の標的には修太郎も入っているようだ。彼がいなければ下手をすれば命を奪われていたのかもしれないのに、そんな相手を恨むとは修太郎は呆れを通り越して、感銘すら覚えた。

 この男はどこまでも自分本位なのだ。自分のプライドが傷つけられれば、たとえその相手が命の恩人であろうと何のためらいもなく噛みつく。そういう救いようのない男なのだ。あの温和なカスミが珍しく敵意をむき出しにしていた理由が修太郎はようやく分かった。


「おい! 聞いているのか! 俺を甘く見るなよ! この狩野――」


「ぎゃあぎゃあうるせえよ」


 修太郎は狩野が喋っている途中で手に持っていた銃を何のためらいもなく発砲する。それはなおもくだらない戯言をほざいている狩野の脳天にあっさりと命中する。狩野は聞くに堪えない呻き声を漏らしながら、力なく崩れ落ちる。修太郎はその様子を真顔で見ていた。



 何ともあっけない。殺人などこんなものか。



 狩野の死について修太郎が咎められることはない。まず間違いなく木更津の仕業と警察は見る。自分の罪が発覚することはない。

 まぁ、やり口が違うから多少不自然に思われるかもしれないがその程度だ。何も恐れることはない。何せ、修太郎の違法行為に関してはユキヒコにすでに保証されているのだから。



 狩野の亡骸を真顔で見つめていた修太郎は思わず笑ってしまった。命の無意味さと自分の矮小さに。

 だが、どれだけ笑おうとも、何も変わることはなかった。生きる価値もないクズが何匹死のうが人の心には何も影響を及ぼさない。害虫が一匹死んだだけ。その程度にしか、修太郎には感じることができなかった。まぁ、この世界でなら、それはいいことなのだろうが。



 だが、修太郎自身は問題なくともよくよく考えれば別の問題があることに遅ればせながら気付いた。


「っと。悪いな、カスミ。目の前でぶっ殺しちまって。大丈夫か?」


「問題ありません。むしろ、あの男を殺してくれてありがとうございます」


 修太郎の疑問にカスミは笑顔で即答する。どうやら、殺されても喜ばれてしまうくらいのことを狩野はしでかしたようだ。ここまで来ると何をやらかしたのか知りたくなってくるが、修太郎はあえて聞かなかった。


「そいつは何よりだ。どんなに憎んでたとしても、殺されればあんまいい気分はしねえだろうと思ってたからな」


 修太郎は客席上部をチラリと見る。万が一戦闘になっても巻き込まれないであろう場所に高画質の望遠タイプのカメラと高精度の録音機を仕込んでおいたのだ。これは木更津が闘技場に向かうと聞いて、急遽アレフス家に戻って調達したものだ。まさか、自分の部屋にこのようなものがあるとは思わなかったが、ひょっとしたらユキヒコが捜査の役に立つかと部屋に置いておいてくれたものなのかもしれない。まぁ、いずれにしても役に立ったのだから問題はない。木更津が犯人だという証拠はひとまずこれで充分だろう。



 修太郎が狩野を殺したシーンも記録されているだろうが、その辺は消せばいいだけの話だ。何も臆することはない。


「じゃあ、帰るか。事件は解決した。もうこれ以上いても仕方ねえだろう」


「はい」


 修太郎の言葉にカスミは頷き、二人は闘技場から立ち去っていく。まだまだ謎は残っているが、これでひとまず一段落はついた。

 狩野が関与していた可能性は限りなく低い。もし、関与しているのならば狩野を殺せなくて残念だなどとは言わないだろう。それに狩野のあの驚いていた表情はどう見ても演技ではない。あれは素で木更津が犯人であることに驚いていた。

 つまり、狩野以外の誰かが木更津に命じて今回の事件を引き起こした。そうとしか考えられない。まぁ、狩野が関与していた可能性も完全には否定しきれないが、当の本人が死んだ以上もう関係ない。それよりも黒幕の方だ。



 それが誰なのかは現時点では分からない。分かっているのは、修太郎たちをこちらの世界に引き入れたのがその人物である可能性が高いということだけだ。

 いずれにしても、面倒なことになることだけは確かだ。転移(これ)は少なくとも魔王を倒したくらいで終わるようなちゃちなものではない。最初こそ胸を躍らせたものだが、今となってはうんざりして仕方がない。

 だからといって、現実世界に戻りたいとも思わないけれど。


「はぁ……」


 修太郎はカスミに気付かれないように小さくため息をついた。

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