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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第一章 僥倖の連続殺人
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一人目ー第一章 11話 二つの再会

 修太郎は街の中をぶらつきながら、犯人を探していた。だが、相手は警察官だ。夜はともかく昼間はわりと不規則に動いているので見つけるのが難しい。カスミから得た情報にも必ずここにいるというものはなかった。もっとも、刑事はそういう仕事なので仕方がないと諦めている。場合によっては夜とて事件に駆り出される仕事だ。そこは割り切っていくしかない。



 今の修太郎の格好は白のシャツに黒のジーンズ。そして、青の野球帽というシンプルな装いだ。可能な限りバレないように変装はしたが、あまり不自然すぎると尾行がバレてしまうのでこれが修太郎にとっての限界だった。結果として、現実世界で(いつも)着ているものと大して変わらない格好になってしまった。

 結果として、極めて軽い変装になってしまった。これまで標的に会ったときの自分の格好を思い返せば気休め程度のものだ。とくに普段の彼を知っている者からすれば一発で分かってしまう。


「お。修太郎じゃないか!?」


「ん?」


 修太郎は思わず反応し、振り返ってしまう。そして、その相手を見た瞬間に後悔した。


「げ。正馬(しょうま)将頼(しょうらい)……」


「随分なご挨拶だな。これでも俺はお前を心配してたんだぞ。なぁ、将頼」


「ふん。俺はお前がどこぞで野垂れ死んでるとばかり思ってたよ」


 修太郎に話しかけているのは白を基調にした軍服らしきものの上に灰色のマントを纏った二人の少年。修太郎のクラスメイトの坂戸(さかど)正馬(しょうま)液太(えきた)将頼(しょうらい)だ。修太郎と二人は腐れ縁であり、この二人は修太郎と違って光一ともかなり仲がいい。とはいっても、光一のグループには入っていないが。


「まぁ、何はともあれ元気そうでよかったよ。友人として俺はお前が心配だったんだ」


「はっ。何が友人だ。正義狂いが。俺はてめえとダチになった記憶なんざねえ」


「おいおい。相変わらず辛辣だな。言っとくが、心配してたのは本当なんだぜ。でもま、杞憂だったか。お前、なんだかんだでこういうところで生き抜くの得意だもんな」


「そうだな。おかげでそんなダサい服着させられなくて大助かりだよ」


 修太郎はさっさと会話を切り上げたくて適当に返す。この現場を見られれば、下手をすれば標的に自分が修太郎であることが気付かれるかもしれない。いや、まず間違いなく気付かれるだろう。修太郎の変装はどちらかと言えば人混みに紛れるためのものだ。修太郎本人だとバレないようにするためのものではない。



 本当ならば完全な別人に化けられれば完璧だったのだが、そんな技術を修太郎は持ち合わせていない。ないものねだりをしても仕方がない。

 いずれにしても、ここで会話を長引かせることにメリットはない。修太郎はさっさと引き上げることにした。


「ま、俺もいろいろと忙しいんでね。他のクラスの連中に会ったら俺は元気にやってたとだけ言っといてくれ」


「あ、待てよ! 修太郎!」


 呼び止める声も無視して修太郎は人混みに紛れていく。これでそうやすやすとは見つからないはずだ。あの闘技場に置いてきたクラスメイトが気にならないと言えば嘘になるが、正直今は構っている暇はなかった。今は一刻も早く犯人を見つけ出さなくては。


「ん?」


 そこで修太郎の思考が止まる。そういえば、今、思い返してみれば三日前に闘技場を飛び出して以来、一度もその周辺に足を運んでいない。先ほどみたいにクラスメイトに会うのが(わずら)わしかったという理由があるにしろ、あの闘技場は事件の起こっているこのカザシ地区にある。ならば行ってみる価値はある。


「あまり気が進まないが、背に腹はかえられねえか」


 闘技場に犯人がいないという保証などどこにもないのだ。万が一クラスメイトに会ったら、先ほどのように適当にあしらってやればいい。光一やそのグループの人間がうるさいかもしれないが、無視しておけばいい。修太郎はひとまず闘技場に向かってみることにした。



 三日ぶりの闘技場に修太郎は来ていた。ここに来るにあたって修太郎は相応の覚悟をしていた。クラスメイトに遭遇し、しつこくつきまとわれた挙句に犯人に見つかるという最悪のシナリオを。

 だが、修太郎としてはそれはそれで構わなかった。その時はクラスメイトごと巻き込んで犯人と適当に会話してやればいいだけの話だ。向こうも修太郎が怪しんでいるとは夢にも思っていないはず。なら、多少いい加減でも話をつなげていけば誤魔化せる。そのついでに新たに何か情報を引き出せれば、さらに御の字だ。



 いささか楽観的すぎる気もするが、慎重になりすぎたところでいいことはない。今までは堅実に事を運んできたが、ここはあえて大胆に動くことにする。そちらの方が修太郎の性に合っている。



 そう考えていたのだが、廊下を歩いていてもクラスメイトたちに会うことはなかった。もちろん、自分に無関心なクラスメイトは無視するとは思っていたが、そうではなく誰一人として姿を見つけることすらできなかったのだ。

 その方が好都合とはいえ、修太郎はわずかに眉をひそめる。だが、クラスメイトたちはキサラによって別のどこかに拠点を移していると考えれば、多少無理はあるがここに誰一人いなくても不思議はないと結論づけた。

 事実、キサラは使いの者に皆を泊める部屋に案内させると言っていた。なら、今さらこんな場所には戻ってこないだろう。



 そう高をくくっていたが、やはり甘かったようだ。修太郎は想定していた以上に最悪な相手と再会することになってしまった。


「おや、あなたは……」


「三日ぶりっすね」


 修太郎の目に鮮やかな金髪が映る。その肢体にはノースリーブにやや短めの丈の水色のワンピースを纏わせ、顔の方を見れば極めて整った目鼻立ちをしている。見紛うことなく、修太郎たちクラスメイトをこの世界に召喚したキサラ・シュヴァーレンだった。


「数人の方々がどこかへ行ってしまったと光一様からお聞きして以来、心配で胸が苦しゅうございましたが、壮健そうで何よりです」


「いやぁ、このような綺麗な方に心配されるなんて冥利に尽きますよ。にしても、よく俺が分かりましたね。俺、あんたとは一言も会話したことないはずなんすけど」


 今回この世界に転移してきた人数は三十二人。内訳は修太郎たちのクラスの生徒三十一人とその担任一人だ。

 一クラス三十一人は多くもなく少なくもなく、ごく平均的な数字に思えるだろうが、今はそんなことはどうでもいい。問題なのはほとんど目立たず、一言も発さなかった修太郎の顔をキサラが覚えていたことだ。



 普通に考えて、三十二人は一度に会うにはかなり多い人数だ。当然、その全てを短い時間で覚えるなどよほどの天才でない限り不可能だろう。目の前の女がそういった類いの天才ならばまだ分かる。

 だが、もしそれ以外の理由で修太郎を知っていたとしたらその理由は何か。



 光一たちが修太郎の特徴について話したのか。だが、修太郎は自分で言うのもなんだが、そう特徴のある外見をしているとは思っていない。ましてや召喚時に着ていた服装とはまるで違うのだ。すぐに彼だと理解するのは容易ではないだろう。

 しかし、目の前の女は修太郎を見ると瞬時に彼だと判断した。少なくとも修太郎がクラスの一員だと分かった。修太郎にはこれが少々異様に映った。



 となると、考えられる可能性は一つだった。だが、仮にそうだとしたら狙いは何なのか。少なくとも、初対面の時に見せたあの笑みから判断するにロクなことではないだろうとは思うが。


「どうかされましたか?」


 キサラが首をかしげて尋ねてくる。どうやら、物思いに耽りすぎていたようだ。修太郎は首を掻きながら、笑って誤魔化すことにする。


「あ、いや……。アハハ。こんな美人さんに覚えられてたのが嬉しくて、つい浮かれちまったんですよ」


「お上手ですが、連続で仰っては効果も半減ですよ。どうやら、聞いておられなかったようなのでもう一度申し上げますが、召喚する以上私も全霊を賭けています。ゆえに、私の召喚に応じてくれた方々の顔をその場で覚えるなど、私にとっては義務でしかないのです。なぜなら、あなた方には感謝の気持ちしかないのですから」


 まるで女神のように優しい笑みを浮かべて言うキサラに修太郎は笑いながら言葉を返す。


「そうだったんすか。いや、さすがっすよ。キサラさんは召喚者の(かがみ)っすね」


 自分でも何言っているのか分からなかったが、少なくともキサラの言葉が明らかな嘘であることは理解できた。もし、本当に修太郎たちに感謝しているのならば、あんな視線は向けない。確実に裏がある。そして、裏があるということは修太郎が先ほど思い浮かんだ仮説が当たっている確率が高いということでもある。



 だが、どっちにしても彼女と関わって得することなど何もない。先刻の正馬たち同様さっさと会話を切り上げてしまうことにする。


「あ、そうだ。俺、ちょっといろいろごたついてまして。すみませんが、これで失礼します」


「お待ちください」


 キサラは立ち去ろうとする修太郎の手を掴む。修太郎は思わず舌打ちしてしまいそうになるが、堪えて困ったような笑みを浮かべる。


「えっと? 何すか?」


「何すか、ではないでしょう。召喚した以上、あなたは私の僕です。私のために働いてもらわなくては困ります」


(思ったよりあっさり出てきたな、本性)


 修太郎は内心呆れた表情を浮かべながら、キサラを見下ろす。キサラは最初に会ったときに見た、あの汚物を見るような目で修太郎を見上げていた。

 修太郎はおもむろにため息をつくと、はっきりと拒絶の意思を込めて言い放つ。


「すんませんが、そういうのに付き合ってられるほど暇じゃないんで」


 修太郎はキサラの手を振り払って立ち去る。これ以上修太郎にキサラに構う気はなかった。


「待ちなさい! どこに……! きゃっ!」


 キサラは修太郎を追おうとするが突然何もない場所で転び、尻もちをついてしまう。その際、振り返った修太郎の目にキサラのスカートの中が目に入る。

 性格は悪いが、その類い稀な美貌は本物だ。そして、何の対策も施されていない彼女の秘密の花園を見れたのは修太郎にとっては先ほどまで彼女に絡まれていたのを我慢したことに対する褒美のように思えた。

 修太郎は突然のことで足も閉じずに曝け出されたモノをひとしきり堪能した後、速やかに立ち去る。キサラはその後ろ姿を呆然と見つめることしかできなかった。


「あれがあの方(・・・)の仰っていた櫛山修太郎の特典……。確かに何としても手に入れたくなってしまいますね」


 キサラは不敵に笑うと、スカートを押さえ、ゆっくりと立ち上がる。その瞳には確かに強い意思が込められていた。もっとも、それが善悪どちらの意味を孕んでいるかなど分かりきっているのかもしれないが。


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