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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第一章 僥倖の連続殺人
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一人目ー第一章 10話 能力者

 一夜明け、修太郎はベッドに寝転がって考え込んでいた。


(犯人の目星はついた。おそらく、奴が犯人で間違いないだろう。だが、証拠がない)


 修太郎は頭を抱えて悩んでいた。犯人の目星がついたのはいいが、物的証拠を得られていない。というより、そもそも今回の事件は残された痕跡があまりにも少なすぎるのだ。

 唯一物証になりそうだったものも、間違いなく犯人が処分しているだろう。状況証拠くらいは残っているかもしれないが、それは決定打とは言えない。いや、物証となりそうなものはまだあるにはある。だが、何の用意もなくそれを指摘したところで誤魔化されてしまえばアウトだ。完全な手詰まりだった。


「こうなったら、奴を監視して、次に起こす事件現場を押さえるより他にないか」


「何が他にないのです?」


「!」


 修太郎が勢いよく起き上がると、そこには驚いた顔のカスミがいた。


「ど、どうされたんですか? 急に起き上がって……」


「あ、いや。すまん。驚いただけだ。いつからそこにいたんだ」


「今ですけど……。ノックしたのですが反応がなくて……。無礼とは思いましたが、中に入らせていただいたんです」


「そうか。悪いな。考え事してて気付かなかった」


 どうやら、カスミが来ていたことにも気付けないほどに考えに耽っていたらしい。一瞬キョトンとしていたが、修太郎の様子を見て何かを感じたのか、カスミはハッとした表情になる。


「もしかして、犯人が分かったんですか?」


「まぁ、そうだな。今度は候補じゃなくて、本当にな」


「どなたなんですか!?」


 身を乗り出して顔を近付けてくるカスミに修太郎は思わず引いてしまう。


「お、落ち着け。分かったっつっても、まだそいつが犯人だという決め手がないんだよ」


「ご安心ください。その方が犯人だという確証を持っておられるのであれば、我がアレフス家の力で何としても有罪にしてみせます」


「それはダメだろ。そんなことしたって、アレフスへの疑いは完全には払拭できねえ。確固たる証拠を奴に突きつけなくちゃ意味がねえんだよ」


「そうですか……」


「つっても、それに難航してるんだけどな。現状、物証を入手するのは困難だし」


 修太郎の言葉にカスミは考え込む。修太郎はそんな彼女を尻目に言葉を続ける。


「とにかく今のところこっちがやれることとすれば、そいつを見張って事件を起こそうとしたところあるいは事件を起こしたところを現行犯で押さえるより他にやりようがねえんだ。さっき喋ってたのはそういうことだよ」


「……分かりました。さっそく監視の者を手配させましょう。それで犯人というのはどなたなんです?」


「それを教える前に一つだけ聞きたいことがある」


「何でしょう?」


「魔力を扱える人間についてだ」


「え?」


 カスミは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。それはそうだろう。最初の邂逅の際に魔物をあっさり倒しておいて、こんなことを聞かれるなど思いもよらないはずだ。修太郎も変な疑いを持たれないように、今まで聞かずにいたが、今はそんなことを言っている場合ではない。これはこの事件を解決するためには必要不可欠な問いだ。


「実を言うとな。俺は魔力についてよく知らないんだ」


 事実だ。魔力がどういうものなのかは知っている。特典で得られた情報から判断するにRPGとかでいうMPみたいなものだろうと修太郎は解釈している。しかし、それくらいしか分かっていない。


「え。でも、最初にお会いしたとき獣型の魔物を……」


「そうだ。だが、あれはたまたま(・・・・)あいつを一撃で殺せただけで、力の使い方なんてまるで分かってやしないんだ」


 普段ならば別に問題ない。修太郎が与えられた特典は魔力の扱いなどを重要視しているものではないからだ。だが、この事件は違う。この事件は魔力によって行われている。犯人が分かったのはいいが、どのようにして事件を起こしているのか――つまり、トリックが分かっていない状態で対峙するのはあまりに危険すぎる。彼に与えられた特典がいかに強力でも扱い方を間違えれば一瞬でやられてしまいかねない。だからこそ、犯人がどのような手口で殺人を起こしているのか、それを知っておきたかった。


「まぁ、俺はいわゆる突然変異体みたいなものなんだ。自分でもよく分からないうちに力を振るってた。これまではそれでも充分だったが、この事件に限って言えば話が違う。だから、犯人の手口や能力を知る意味でも魔力を扱える人間について知っておきたいんだ」


 かなり無理がある上に詮索を避けられない言葉運びだったが、どうしようもない。とりあえず、魔力について聞き出せればそれでいい。後のことはまた後で考えることにする。


「分かりました。そういうことであれば、お話ししましょう」


 あえて、カスミは何も言わずに魔力について話しはじめる。気を遣ってくれたのだろうか? だとしたら、修太郎にとってはありがたい。



 そんな考えを知ってか知らずかカスミは話を続けていく。


「まず魔力とは我々人間が生まれたときから持っているものです。実はこれは誰しもが生まれたときから持っているのですが、扱える者とそうでない者がおり、扱える者を魔力を持つ者――総じて、能力者(のうりょくしゃ)と呼んでいます」


「能力者ねぇ……。てっきり、魔法使いとか魔術師とか呼ばれてるもんだと思ってたんだが」


「そのあたりの由来は私には分からないのでなんともいえません。ですが、とりあえずそう呼ばれているとだけ覚えておいてください。そして、あれだけの力を見せている以上ご存じでしょうが魔力はさまざまな力を扱うことを可能としています。炎を出したり、身体能力を強化したり、相手の魔力を奪ったりとその可能性は無限であり、今回の事件は魔力を使って内臓を急激に衰弱させることで起こされているものだというのが我々と警察の共通認識です」


「なるほど。そして、それはかなり難しい技術だ。だから、街一番の名家であるアレフス家が疑われてるってわけか」


「ご明察です。魔力で相手に干渉するほどの技術を持つ者など我がアレフス家にしか……」


 そこでカスミの言葉が止まる。左手を唇にやって、何やら深刻そうな表情になる。


「まさか……」


「どうかしたのか?」


「い、いえ! 何でもありません! それよりも、急用を思い出したので話の途中で申し訳ありませんが、ここで失礼させていただきます!」


 カスミは軽くお辞儀をすると、かなり慌てた様子で走り去っていく。礼儀正しい彼女にしては珍しく出ていった扉を開けっ放しにしている。何かがあったと見るのが自然だ。


「どうしたんだ? あいつ……」


 修太郎は訝しげにカスミの去っていった開けっ放しの扉を見つめる。先ほどの彼女の様子はただ事ではない。何かとんでもないことに気付いて慌てる。そんな感じだ。彼女は一体何に気付いたのか。

 一番無難なのは事件か犯人について何か気付いたことがあるというものだが、それにしては腑に落ちないところがある。彼女は一体なぜあんなに慌てているのか。


「まさかなぁ……」


 修太郎の中で嫌な想像が頭に浮かぶ。もし、それが当たっているとしたらかなりヤバいことになる。いや、十中八九当たっているだろう。だが、それに関して相手に直接何かできることはない。


「……とにかく、奴を張るか。見張るだけなら、特典を使えば俺一人ででも充分やれるだろ」


 修太郎はそう呟くと扉を閉めて着替え、そして、犯人を見張るべく街へと出て行った。






 ○○○○○


 修太郎の部屋から出たカスミが急ぎ足で向かったのはユキヒコの部屋だった。部屋の前で若干乱れた息を整えると、力強く戸をノックする。


「お父様。ご在室ですか?」


『入っていいぞ、カスミ』


 中からユキヒコの返事が聞こえてくる。カスミは一言断ると戸を開け、中に入って一礼する。

 立派な椅子に腰かけて事務作業を行っていたユキヒコは手に持っていた書類を机に置くとカスミの方に顔を向ける。


「どうした? この時間にここに来るなんて珍しいな」


「はい。実はお耳に入れておきたいことがありまして」


「何だ?」


「実は彼が我々への復讐のために直接動く可能性が出てきました」


「……どういうことだ?」


 カスミの言葉にユキヒコの表情が変わる。カスミはユキヒコにそう思うに至った経緯を話しはじめる。


「……というわけなんです。今にして思えば気付くのが遅すぎたと思うんですが……」


「いや、それは私も同じだ。疑惑を払拭するのに腐心してあの男が関与している可能性にすら目を向けることができなかった。まぁ、それも奴の思惑なのかもしれないが」


「確かに彼は相当狡猾ですからね。我々に疑惑を向けて、そちらに手一杯にさせることが狙いだったのかもしれません」


「そういう意味では修太郎くんには感謝しかないな。彼がいなければ、今ごろ我々はわけも分からずに同胞あるいは私たちの命そのものを失っていただろう」


 ユキヒコは背もたれに体重を預け、腕を組む。その表情は複雑そうだった。


「いかがいたしますか?」


「もちろん、黙ってやられるわけにはいかない。そうと分かればこちらも手を打たせてもらう」


「私も……」


「お前はダメだ。今回はおとなしくしているんだ」


「ですが……」


 カスミは納得がいかないという表情でユキヒコを見る。彼女と彼の因縁を知っているユキヒコは瞑目し言う。


「確かにお前と奴の関係は知っている。お前は何としても奴を自らの手で罰したいのだろう。その気持ちは分かる」


「………………」


「だが、分かってくれ。どういう形であれ、お前は私の大事な娘なんだ。お前に何かがあれば、私は妻に顔向けできない」


「それは……」


 カスミは口ごもる。彼の妻のことを口に出されてはカスミはそれ以上何も言えない。



 アンナ・アレフス。カスミの実母で今はアレフス家の一室に閉じこもってしまっている女の名前だ。ユキヒコとアンナは深く愛し合っていたが、ある事件によりアンナはずっとふさぎ込んでしまっている。カスミももうずっと彼女の顔を見ていない。



 カスミは悲しげな表情になる。ユキヒコはそんな彼女に小さく笑いかける。


「まぁ、そう心配するな。どれほどの代償を払うことになろうとも、私が必ずあの男に報いを受けさせる。だから、お前も父親を信じてくれないか?」


「……分かりました」


 カスミは渋々引き下がる。だが、ユキヒコは彼女が完全に納得したわけではないことを理解していた。だが、それ以上言及することなく、しょんぼりとした足取りで去っていくカスミの背中を見送り、ユキヒコは標的を追い詰めるための筋書(すじが)きを立てはじめた。


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