私にとっての虚無
左目が、痛い。
眼球を押さえつけられているかのような、不快な痛みだ。
「またか」
舌打ちをして、あと数滴しかない目薬の蓋を開ける。
苦い雫が左の眼球に染み渡るのを感じて、痛みが少しずつ引いていく。
深く息をついて、右目を手で覆う。
そこは真っ白な世界だった。殆どの機能を失った瞳に感じ取れるのは、眩しく光る太陽と無機質な光の明滅を繰り返す照明だけ。
手を退けると、いつもと同じ鮮やかな世界。
他の人たちが見えてるものと遜色ない、美しい世界。
「行かなきゃ」
どこに向かえばいいのかも分からず、背後に忍び寄る虚無から逃げるように、また歩き出す。
その先に生きている意味があることを信じて。