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女子高生と生徒会長選

 ガラガラガラッ!
 突然の扉を開ける音と、現れた学年主任の姿にビクついて、凪は思わずパソコン部の椅子から立ち上がった。
「あたし、なにもしてません! ほら髪は黒です!」両手で両側から髪を引っ張った。「変なサイトも見てません! ネトゲしてました! 課金もしてないです!」
「いや、おまえに用はない」
 すごい怯えぶりだなと思いながら学年主任は入室した。
「千葉、これ許可出たから。必要事項書いて提出な」
 学年主任は紙をぺらりと掲げた。
「千葉って誰」と凪。
「私だよ」と繭。「私の苗字忘れるなよ馬鹿」
「や、他のみんな知らないと思って」凪は言った。「普段『メガネ』で通ってるし」
「おまえだけだメガネって呼ぶのは」繭は紙を受け取った。「んー、『生徒会長選挙、立候補者記入票』……え……?」
「生徒会長になるんだろ?」学年主任は言った。
「あ、えーと……」確かにヤンキー相手にそう言ったことを思い出して、しかもそれを学年主任にも聞かれていたことも思い出して、繭は焦った。
「一年なのに生徒会長なっていいんだ」部長が言った。
「だめな学校もありそうだが、うちはまったく問題なし」
 学年主任は言って、内心でほくそ笑んだ。面倒そうな生徒に面倒な仕事をさせておけば、生徒と仕事両方の面倒が片付いて一石二鳥。俺って頭いいな、と思った。
「あれ?」凪が言った。「それならあたしも『生徒会長なるわ〜』ってあのとき言ったけど」
「「おまえがなれるわけないだろ」」と学年主任と繭が同時に言った。
「なんで! なれるって! 髪も黒だし!」凪は「ちょっと貸して」と言って繭のメガネをかけた。
 メガネ顔になった凪は、「ほらな!」と言った。
「なにがほらなだよ。バカでアホなのが表情でわかるから猿がスーツ着てるみたく見えるんだよ」繭はメガネを取り返してボロクソに言った。
「しかし生徒会長かー」部長が言った。
 繭はしばし唸ってから言った。「まぁ立候補しても選ばれなければ……」
「「いや、選ばれると思う」」
 その場にいたほぼ全員が声を揃えた。
「多分、他の立候補者は出ない可能性が高い。今の会長も候補者ゼロで成り行きでなっちゃった人だし」部長が言った。「この学校、不良が超面倒くさいんだよ。生徒会長ってなると、そいつらと立場上対立することになる。生徒会が風紀取り締まりも兼ねてるから」
「あ、風紀委員って存在しないんだ」と繭。
 凪が「やっぱし、思いつきで適当言ってたのな、繭」と言った。
 学年主任の方を見て部長が言った。「先生たちも不良に本気で注意しないしねぇ」
「だって俺が学生の頃ああだったしな」学年主任は言った。「つーか注意はしてるぜ? 本当に非行の芽になることはしっかり言ってるぜ? どうでもいい細かい風紀違反については生徒会に任せてるから大体は俺の仕事じゃねーし。それで何か問題が起きて責められるのはどうせ俺だから、どうやったって文句ないだろ?」
「言ってることがなんか不良だ」と繭。
「でもこれで本当に問題起きてないから誰も何も言えないんだよね」と部長が言った。
「――――えっ!?」
 突然、凪が大声を上げた。
「待って待って待って、風紀取り締まりが生徒会に任されてる? それって、生徒会が校則自体変えたりもできるってこと?」
「言い方やり方次第だけど、無茶なことじゃなければ通るかもな」と学年主任。「夏場にスカート丈を短くしたり、ネクタイ不要にしたりとか、理由がしっかりしていればいけるんじゃないか」
「茶髪可、とかいける?」凪は髪を摘んで言った。
「んー」と学年主任は唸る。「やり方言い方次第……」
 なにやら不穏な流れを周囲は感じ取っていたが、案の定、凪は立ち上がって言った。
「あはは。あたしやっぱり生徒会長になるわ〜」

 この高校の生徒会長選挙は、五月に行われる。翌年の五月までが任期となるため、現三年生の立候補は不可。部長が言った理由により立候補者は少なく、繭と凪の他には一名のみだった。
「まさか繭と戦うことになるとはね」部室の回転チェアでくるくる回りながら凪が言った。
「立候補やめようと思ってたけど、凪が当選したら間違いなくひどいことになるからやっぱり私がなるわ」繭は言ったが、凪はそれを一笑に付した。繭のイライラゲージが地味に上昇した。
「で、一年、神林ひかる」凪は候補者名簿の三人目の候補を見て言った。「どういう子だろう」
「神林は学年トップのガリ勉だよ」繭が言った。「来るかなと思ってたけど、やっぱり来たか」
「頭も切れるし超優秀な奴だわ。やっぱおまえら立候補、辞退しろ」このところいつもパソコン部部室にいる学年主任が言った。
「無理です。校則変えるっていう目的があるんで」と凪。
「どうでもよかったけど、やめろって言われたら逆にやりたくなる」と繭。
 学年主任は、こいつら性格クソだなと思った。それを見ていたパソコン部員たちは、学年主任を含めた三人ともクソだなと思った。
「神林は何部なの?」と凪が言った。
「部活には入ってない」と繭。「っていうか、普通、生徒会長やるんだから入らない」
「なら、今は下校中かぁ」
 と凪が言うと、繭が、
「いや、どこかの教室で選挙広報資料作ってるんじゃないの。もう活動始めていいんだよ。私たちのんびりしてるけど」
「ていうかさっきこの部室に来た」部長が言った。「古いノーパソ借りてったよ。自分の教室で作業するって」
「まじか。超ニアミス」凪は立ち上がった。
「え、行くんだ」と繭が言った。
「交渉してくる。あたしが生徒会長になるのを邪魔するなって」凪は部室を飛び出していった。
「アホか」と言いながら繭も後を追った。
「……なんであいつ、あんなにバカなんだ?」学年主任が言った。
「…………うーん」と部長。
「現実だ」
 それまで黙って作業していた赤貝が静かに口を開いた。
「俺は、パソコンの中に自分の世界を作る。画用紙や原稿用紙に世界を作る奴らもいる。だが、あいつは現実を画用紙だと思っている……」
 赤貝がそこで黙ったので、部長は周りに問いかけた。「つまり……?」
「つまり、バカなんだろ」
 学年主任が言った。
 赤貝は黙って作業に戻っていた。

「神林ィ!」
 バアンと扉を開けて凪は教室に入った。中でパソコンに向かっていた三つ編みの女子が、ちらりと一瞥した。
 凪はつかつかと彼女の前まで歩いていき、机に手をついて言った。
「なんで生徒会長になりたいの」
 神林はじっと凪を睨んだ。
「何故って、私は人の上に立つ人間だからよ」神林は言った。「力のある者が平凡に生きるのは罪よ。なりたい、なりたくないではなく、私が生徒会長にならないのは無責任なことなの」
「…………」
 うわぁ、あたしより変な奴だ、と凪は思った。
 にやりと笑って神林は言った。
「あなた、若草凪ね。三年のボスヤンキーを潰したっていう。先を越されたわね。これが選挙で不利に働くのなら、私が潰し直そうかしら」
 凪は若干身を引いて、頭痛がする眉間のあたりを指で押さえた。凪がこのような反応をするのは非常に珍しいことである。
「えーと、すごい意気込みですね……。将来は総理大臣にでもなるんですかね」
 やっとのことで凪は言った。
「どうかしらね。総理大臣でも国連事務総長でも、私にできることを試すだけよ」神林は言った。
「ダ……」
 凪はダメージを受けたかのように仰け反ったと思いきや、
「ダウトーーーーーッ!!」指差して叫んだ。「そんなビッグな奴がこのような平凡な高校に来るわけない! 将来何になるにも学歴は必須だよ! 大口叩くのはせいぜい県立高に受かってからにしなさいっ!!」
「ああ」神林は言った。「ここが家から一番近いのよ。早く帰って家事炊事、就学前の弟や妹の世話をしたくて、ここを選んだの。通学時間が短いぶん、早朝の新聞配達もできるし。あまり言いたくないけど、うちは貧乏なのよ。大丈夫、学力は全国統一テストで一位だから、これをキープすれば東大でもどこでも向こうからやってくるわ」
「ホンモノだった!!」
 凪はおもいきり仰け反って、後ろの机に頭を衝突させた。
「凪、おまえじゃそいつにはかなわないよ」繭が廊下から顔を出した。「ヘレンケラーでも勝てないかもしれない。偉人力が七桁超えてる」
「千葉繭か」神林は言った。「あなたとはいい勝負になりそうね。お互い、ベストを尽くしましょう」
「勝てる気がしないけど、頑張るよ」繭は苦笑いした。
「……あたしは眼中にないんかい」机から這い上がるようにして凪は言った。
「だって、あなたじゃ票が取れないもの。ヤンキーを潰したのは評価するけど。選挙や、生徒会長というものをわかっているとは思えない」神林は言った。「どうして、能力のある者に任せないのかしら」
 凪は言った。「任せます……任せますよ。神林さんでも繭でも。あたしの代わりに校則を変えてくれるなら……」
「…………」神林は軽くこめかみを押さえて、難しい顔をした。「ちなみにどんな校則かきいてもいいかしら」
「茶髪の許可」
「却下」
 凪が言うと同時に神林は即答した。
「髪を染めるなんて高校生らしくない。『らしさ』はとても大事よ。生徒が従う従わないの問題ではない、学校側として一定の規則を掲げることは必要だわ。それになぜ茶髪だけ許可なのか理解できない。染める行為は茶でも金でも赤でも脱色の工程はあるけど同じようなものよ。無意味に規則を緩くするのは双方にとって有害ということもあるのよ。私の考えは以上だけど、一応あなたがそれを求める理由も聞くわ。なぜ茶髪の許可が必要なの」
 神林はそう言って凪を指差した。凪は非常に苦しい顔をした。
「ぐ……反論を封じてから反論を求めるなんて卑怯だ……」
「時間が惜しいのよ。私は帰って家のことをするから」神林はノートパソコンを畳んで立ち上がった。信じがたいことだが、凪たちと会話をする間も彼女のキーを叩く手は休まらず、選挙用広報資料が今出来上がったのだ。「生徒会活動も放課後三十分以内で、それも殆ど行う必要のないようにシステム化するわ。当然、無駄な議題の元になる生徒の風紀違反は厳罰をもって取り締まる。そうね、全裸より恥ずかしい格好で校庭を走るとか……。若草凪、なにをそんなに茶髪にこだわるかは知らないけれど、私が会長になったらせいぜい気をつけなさい」
 バアアン!! 唐突に凪が机を叩いた。神林はビクつきこそしなかったが、大きく目を見開いた。
「今決定した。おまえを絶対に負かす」凪は言った。「そしておまえのしているその三つ編みを禁止する。取り締まられる側の気持ちを味わわせてやる」
「いや、神林は三つ編み禁止されても痛くも痒くもないだろ……」と繭が言ったが、神林は頬をヒクつかせて凪と睨み合った。
「上等よ。髪染め、ミニスカ、ルーズソックスなんでもきやがれ、そのときはギャルになってやるわ。あなたが勝つことができるならね……!」
「…………」
 繭はくるりと後ろを向いてつぶやいた。
「バカとバカが出会うと事故が起こるって本当だな……」

 選挙活動期間は一週間。翌日、全校中に神林の広報ポスターが貼り出された。威厳のある本人の画像と公約が数点書かれたものだ。
「けっこう美少女だよな」ポスターの前で繭が言った。
「いいや、あたしのほうがかわいい」凪が言った。
「敵には美少女好きもセーブされるんだな……」繭は言った。
 そして、休み時間などを利用して神林は全クラスをまわっての直接演説を行った。凪と繭のクラスにも来たが、演説の堅実さと親しみやすい笑顔のギャップが絶妙で、演説内容云々ではなく無意識に好感を持たせる絶大なオーラがあった。それは、モデルという職種の人間がある程度後天的に身につけるものであり、芸能人の力の優劣を決めるものであり、偉人には絶対必須の素養であった。さらに彼女の主張は常に合理性に満ちていたので、それは演説としてこれ以上ない完璧なものだった。
「こりゃ勝てない」その日の昼休みに繭が言った。「あれだけできる奴をわざわざ邪魔する意味もわからないし。多少規則は厳しくなるだろうけど、不良がいなくなるから絶対過ごしやすい学校になるよ。ってか、たかが高校の生徒会長にしとくのがもったいない」
「ぐうう……」菓子パンを食らいながら凪はうなった。
「おまえもわからないわ。何に突き動かされてそうまで頑張るのか」と繭。
「意地、プライド……」凪は言った。
 そのとき、静寂を保っていた校内スピーカーがブツリとノイズを上げ、放送を始めた。
『これより、生徒会長選、校内世論調査、一日目の経過を発表します』
「なんだなんだ」と凪。他の生徒もざわついた。
『これは先日、本校に登録されている各生徒の個人携帯アドレスに送らせていただいたお知らせに基づくものです。なお、候補者三名には送っておりません。各生徒は、現在考えている投票先を放送部の集計システムに送信、それにより日ごとリアルタイムでの世論調査を行います』スピーカーは続けた。女子の声である。『世論調査そのものが世論を動かすことも、ないわけではありませんと、参加を促す旨を書かせていただいたところ、今回、殆ど全生徒の集計ができました。ありがとうございます』
「凝ってるな〜」繭が言った。「候補者ゼロならこういうのもできなかったろうし、張り切ってるのかな、放送部」
『それでは、集計結果の発表を行います』スピーカーは言った。『全校生徒五四五名中、無効票が三、未集計が五、無記名または未選択が一五、残り五二二票が有効票となり候補者票として集計されました。まずは候補者ナンバー一番、千葉繭、五票』
 となりのクラスから笑い声が聞こえた。
「五票も入るんかい。誰だ入れたの」と繭が言った。
『候補者ナンバー二番、若草凪、一一二票』
「うえっ? なんで?」凪は思わず立ち上がった。
「そのなんでは、何なんで?」繭が言った。「多いなんで? 少ないなんで?」
「多いっしょ! あたしまだなんにもしてないって!」
 凪は騒いだが、クラス中からおめでとうの声が上がったので急にペコペコしだした。
「もしかして、あれかな。みんなが入れてくれたの?」照れ顔で凪はきいた。
 するとクラスメイトは口々に、
「いや、神林にいれた」
「私も神林」
「おまえには天地ひっくり返っても入れない」
「なんなんだよ!」と凪は言った。
『候補者ナンバー三番、神林ひかる、四〇五票。広報で先手を打った神林さんが二人を大きく突き放す状況です。――以上で経過発表を終わります。明日以降の校内世論調査、そして投票本番も、全校生徒の参加を宜しくお願いします』
 放送が終わった。
「不良票かな」繭が言った。「ヤンキーのボスが言った、私たちに手を出すなっていうアレが効いてるのかも。そして、私よりも、茶髪にしてた凪の方が不良寄りだと思われてるとか」
「……それだ」ぽつりと凪は言った。「勝てるかもしれない……」
「え?」繭は何を言い出すのかと凪を見て、ギョッとした。
 その顔には冗談のかけらもなく、不敵に笑っていた。
 凪は言った。
「不良を味方につければ、勝てる……」

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