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女子高生と美少女

 春――はじまりの季節。児童養護施設で育った二人の少女は、高校入学を機に安部屋を借りて二人暮しをはじめる。
「自由をてにいれた」
 ベランダからの景色を見て、若草凪は言った。
 千葉繭がその後ろで携帯をいじっている。二人ともその辺りにいるなんの変哲もない女子で、しかし顔面レベルはSから始まる五段階評価でAプラス。神に愛されし美少女だ。凪は一目で活発とわかる顔立ちで、ショートの髪を茶色に染めている。繭の方は逆に大人しい印象な上に眼鏡だった。
「凪、髪色、校則違反だと思う」
 携帯から顔を上げずに繭が言った。
「地毛だし」と凪。
「昨日まで真っ黒だったじゃん。昨日染めてたじゃん、お風呂で」
「なんか軽ーい印象になるでしょ。しかもこの前美容院ですいてもらったの。でも『軽くしてください』って言わなきゃ駄目だよ。間違っても『薄くしてください』って、薄くなりかけの美容師さんに言ったら駄目だよ」
「どうでもいいよ」
 繭はテーブルに移動して携帯をその上に置き、両手で文字打ちを始めた。ノッてきたときの姿勢である。スマホに変えてからはこの必殺両手打ちができるので、作業効率が格段に上がっていた。
「覗いたら殺す」
 凪が見ようとする前に、繭は釘を刺した。
「見えないよめっちゃ画面フィルター貼ってあるじゃん。こんな濃いの初めて見たよ」
 凪は降参ポーズをした。
「いやあしかし」と続けて凪は言った。「引っ越しは学校始まる前の日でぜんぜんよかったよね〜。うちら荷物少ないし。あと五日なにするよ」
「暇人乙。私はコレで忙しい」
 携帯をパソコンのように操る繭が言った。
「ノルマはクリアできてるんでしょー。じゃあいいじゃん、外あそびにいこうぜ」
「凪、一円でも稼いでから言って。この収入がなくなったら、私たち施設に逆戻りだよ」
「じゃあいいわ。あたしだけ遊んでくる」
 凪はパパッと支度をして、もう靴を履いて玄関を出る体勢になった。
「金……無駄に使うなよ」
 繭が眼鏡越しに睨んだ。
「無駄には使わないよ、無駄には。いってきまーす」
 凪は玄関から飛び出して行ったが、すぐに繭も異常な速さで支度を済ませてついてきた。
「あんたの無駄の基準は信用ならない」繭は言った。「いいわもう。歩きながらでも携帯打てるし」
「歩きスマホ、ダメ」凪がロボットのような無機質さで言った。
「……。くそっ」繭は携帯をしまった。
 二人は街にくりだした。
「言ったっけ繭、あたし……」凪は言った。「美少女が好きなんだよ」
 繭は言った。「部屋のアイドルのポスター、なんとかしてくれる?」
「アイドルは芸術なんだよ。あの、昔のヴィーナスとかの彫刻と同じだよ」
「自分でも見とけ」
「自分、見飽きた」
「私でも見とけ」
「え……おたく、自分かわいいとおもとるん……?」
 凪は衝撃のあまり固まって、しかも方言で言った。繭は凪の尻に強烈な蹴りを入れた。
「あぎゃっ」凪は涙目で尻をおさえながらも、何かを見つけて指差した。「あっ、美少女発見、美少女発見」
 コンビニのレジに立つバイトの子だった。
「ここの店は毎週チェックしてたけど、あんな子いなかったなー。コンビニは入れ替わり激しいからな」と凪。
 こいつ、毎週こんなことしてるのか……と繭は思った。
 二人はしばらく突っ立っていた。
「で、どうするの」と繭。
「見てるだけ。美少女は鑑賞するものだから」と凪。
「話しかければいいじゃん。おっさんがやるなら怪しいけど、凪がやるのは法的には問題ないよ」
「だから美少女は鑑賞するものだって。お友達になるものじゃないの」
「喉かわいた。お茶買ってきて」と繭は凪のぶん込みで小銭を渡した。
「人使いの荒いメガネだなー」
 凪は店内に入っていったが、ペットのお茶を二本持ってレジに行くと、途端に挙動不審になった。ちらちらと隙を伺うようにバイトの美少女を盗み見ては、お釣りを受け取るときに手を添えられると完全に固まった。
 ぎこちなく店から出た凪に、繭は言った。
「童貞」
「処女ですっ!」
 凪は顔を真っ赤にして叫んだ。
「凪が私には興味ないみたいでよかった」繭は言った。「夜とか童貞の勢いで襲われそう」
「ちがうよ、襲ったりする類いの『好き』じゃないんだよ。ファンみたいなもんなの。美少女ファン」と凪。
「あの子にキスしようって言われたら?」
「する」
 繭は本気の汚らわしそうな顔で、凪から二メートル離れた。
「アッ、そういう偏見はいけないだぞ。今世の中はジェンダーフリーなんだぞ繭」
「ならあそこを歩いてる自分の性に正直そうな脂ぎったオッサンと今日から一緒に暮らしてみろ」
 繭がそう言うと、凪は数秒ううむ……とうなってから、「まいりました」と言った。
「でもね、あたしはきれいなものが好きなだけなんだよ。芸術的な美が好きなの。美少女同士のキスとかきれいと思わない?」
 繭はそう言われてしばし黙っていたが、
「あ、イケメン」
 とCDショップの店員を指差した。十人中十人がイケメンと呼ぶようなイケメンだった。
「あー、うん」
 凪は、そっけない反応のお手本のような反応をした。
「千円やるからサカナクション買ってきて」と繭。
「鮮魚店で買わなくていいの?」と言いながら凪は店に入っていった。
 凪は普通にイケメン店員に商品を探してもらって、支払いをすると、お釣りを手添えで渡されたが、その手を便器を触った後のように気にしながら店を出てきた。
 繭は顔を片手で覆ってうなだれていた。
「どうしたの?」と凪。
「マジで男に興味ないんだな……」繭は言った。「いいわ。私がお風呂と寝るとき気をつければいいだけだ……」
 凪は目をぱちくりさせていたが、急に笑いだした。
「だから繭とか自分と同じで見慣れてて興味ないってば〜。裸も何回も見たことあるじゃん」
「だからって今の一連の行動見せられて安心できると思うか!? その裸も、今思い返せば妙にじっくり見てたよな!? 確かに施設でも一緒に寝たりお風呂に入ったりしてたけど、ふたりきりじゃなかった、ふたりきりじゃ……」
 そこで繭はハッと息をのんだ。
「そういうことだったのか。『自由をてにいれた』って」
「……おーい」
 と凪は精神が遠くにいってしまった繭を呼んだ。
「ていうか繭だってまだ男子に興味ないんじゃない? 中学でそんな感じだったじゃん。今度は繭が行ってみてよ」
 と、凪は繭をCDショップに行かせた。
 繭は、凪から言われた商品をイケメン店員に探してもらった。店員は奥の仕切られたコーナーに入っていき、繭は取ってきたDVDの支払いを終えた。店員は終始挙動不審だった。
 帰ってきた繭は言った。
「なんか、お釣りが汗でベタベタなんだけど」
「うん、どう見ても中高生に成人向け売っちゃうくらいだから相当慌ててたね」
「この『ソーセージ戦争』ってどんな映画? パッケージ全部黒塗りで内容わからないけど」
「ソーセージで戦争する話」
「成人向けってことはグロいの?」
「人による」
「グロいの無理だなー」と繭。
 こいつ中途半端にウブいな、と凪は思った。
「ともかく」と凪。「繭だってイケメンで動じないじゃん」
「私はなんだって動じないよ」
「ちゃんと男が好きなんだろうなー?」
「好きだよ。そうしょっちゅう恋をするような脳じゃないだけ」
「……ええと彼氏いたことは?」
 凪は妙に落ち着いた繭の様子に、急に不安になってきいた。ないよね?……そんな気配はなかったし……いやでも……と心中ザワザワしながら。
「これまではなし」と繭。
 凪はパアッと明るくなった。
「なあんだ、童貞じゃん」
「処女です。でも凪との違いは、通常女子は男子を好きになるってことを知っていて、自分がそれに沿うだろうと予感してること。凪みたく何考えてるかよくわからないままに逆走してないこと」
「ちがうって。とにかく純粋に美少女が好きなだけなんだよー」
 凪はそう言いながらも素早く視線を走らせ、道行く人たちの顔をサーチングしている。繭は「目の動きこわっ」と言った。
「本屋」立ち止まって凪が言った。「美少女は属性も大事だ。書店バイトをするような大人しい美少女が見たい。メガネをかけているような」
「ん?」と繭がメガネを指で上げた。
「ちがうちがう、オタク根暗女ではなくて、落ち着いていて賢い美少女」
「好かれたら困るけど、そこまで下げられるのもイラつくなぁ」
 二人は書店に入った。男店員ばかりでアテが外れたかと思ったとき、店の奥から小柄で黒髪の美少女が出てきた。「いらっしゃいませー」どこか現実を達観したような面持ちで彼女が声を発したとき、凪の目がきらりと光った。
「レベル高い」
「さっきのコンビニバイトとどう違うの」
 繭はまったく不可解というようにきいた。
「オーラが違う。美少女は、顔の元々の造形がよければいいってもんじゃない。人生とどう向き合うかという姿勢が、真の美しさを作る」
「結局、顔より中身ってこと?」
「いいや、非美少女で人間的魅力を備えているのは確かにすばらしい。けどあたしはそこに、さらに、自分が美少女だという運命と向き合った、奇跡のような痕跡がほしい……。あの子にはそれがある。自分の容姿で散々得をして、逆に苦労もして、理解した。私は私のままで生きていくんだ、これが私だ、という気負いも過信もない自然体の生き方……!」
「めんどくさ」
 そう言って繭は美少女の方に向かっていき、声をかけた。
「あそこにいる茶髪のやつが、あなたと仲良くなりたいらしいよ」
「鑑賞したいだけっつってんだろクソメガネ」
 凪がものすごい勢いで跳んできて、繭の首筋にクロスチョップを打ち込んだ。
「お騒がせしました。失礼します」気絶した繭の腕を肩にかけて、そそくさと凪は言った。
 その目の前に、メモが差し出された。電話番号が走り書きされていた。
「来る者拒まず」
 黒髪の美少女は言った。

「流石はS級美少女。超然としてたなー」
 部屋に戻って、メモを眺めながら凪はつぶやいた。
「なにS級って」と繭。
「神に愛されし美少女、というか神そのもののことだよ。見てよ、今のこのあたし。全然興奮してないでしょ。神の威光にうたれて、神妙になっちゃったわけよ」
 と凪は言った。
「どうでもいいけど、なんか財布のお金足りない」
「そりゃ買い物したし」
 凪はテーブルに並べたCDやDVDを指差した。それらを奇妙そうに指でつまみ上げながら、「なんでこんなの買ったんだっけ……?」と繭は言った。こいつ、金の管理能力はゼロだな、と凪は思った。
「買ったからには観ようか」と繭。
「えっ、ちょっと待って。未開封なら返品できるよ。そのつもりで買わせたんだし」
 凪が止めようとしたが、繭はビニール包装を破った。
「内容が気になる。あらすじとか画像が少しでも載ってれば気は済んだんだけど、こうも黒塗りだとね……」
 繭は言って、ディスクをプレイヤーにセットした。この相方の隠れた衝動性を見た凪は、この先、財布を握るのは自分でなくてはまずいと思った。
「あー……ってか、再生しちゃうの……? あの、言っとくけど、あたし観ろとは言ってないからね。繭が自分から観るんだからね」
 そう言って凪はそろそろと部屋を出た。
 そして風呂でシャワーを浴びながら考えた。そろそろ「ギョエエ」とかいう叫びと共に、DVDプレイヤーを放り投げる音が聞こえてくる頃か。それとも、「ハマった。次は『愛棒』シリーズを観よう」とか言い出すか。
 結果は、そのどちらでもなかった。
「凪がやたら勿体ぶるから何かと思ったけど、こういうやつか」
 繭は、知ってる知ってる、みたいなノリだった。テレビ画面には、モロにその場面が流れていた。凪の方が少し気分が悪くなった。
「凪ってこういうの好きだったんだね」
 と言われて凪は全力否定しようとしたが、その繭の口調に違和感を感じて口をつぐんだ。
「凪には絶対言うまいと思ってたけど、そういうことならいいかな」
 と繭は携帯の画面を見せた。
 それはサイトに載せた小説で、その内容は今まさにテレビで再生されているのと同類のものだった。収入が得られるタイプの広告と閲覧数の多さから、凪はこれが自分たちの飯の種であると悟った。
「え……えと、繭は好きなの? 書くぐらいだから好きだよね……」
 凪は恐る恐るきいた。
「好き? かどうかはわからないけど、こういうジャンルがあるって知らないで自然に思いついたものだから、なんていうか、自分自身、かな」繭は言った。「でも凪が理解あってよかったよ。こんなの絶対人には言えないもん。あ、でも、凪は女同士がいいんだったよね」
 凪は否定しようとしたが、またも繭の親しげな口調のために、それがためらわれた。
 繭は言った。
「じゃあ私も、そっちの方、勉強しようかな……」
 凪はそれから数日、同居人の挙動に怯えて過ごすこととなった。
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