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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死神少女が婚約破棄されました

連載にしたくてできなかった不完全燃焼作品。

時間が空けば連載にする、かも。


 


「アルファード国軍総統レイス・イグナートが嫡子アメデオは、カレン・ローライトとの婚約を今この場で破棄したことを宣言する!!」


 北方特有の淡い金の髪にアイスブルーの双眸。

 年頃の娘達には憧れを込めて、軍に所属する男達からは皮肉を込めて【国軍の王子様】と呼ばれる麗しい美貌に嫌悪感と怒りを添えて、アメデオ・イグナート少佐は父によく似た美声を張り上げた。


「このような公の場で婚約破棄をされたというのに、相変わらずのその無表情……父の命令だからと仕方なく婚約を結んでやったというのに、これまで一度たりとも表情を動かしたことがないだろう。全くもって気味が悪い。このような不気味な娘との婚姻など御免こうむる!」

「………………」

「そもそも貴様、この国軍に入るのに保護者のコネを使ったそうだな!?そうでなければ10になったばかりの子供が軍に入れるはずもない。実力はあるのだと聞いたが、それもどこまで本当やら。おい貴様、どんな手を使った?まさかと思うが、そんな人形のような顔で居並ぶ上官達を誑かしたわけでもあるまい!」


 俺なら御免だ、無反応では抱く気も失せる。


 この晴れがましい祝勝会の場において、そんな下世話な言葉を浴びせる総統子息の言葉に、それでも少女の表情は全くピクリとも動かない。

 代わりに、その場に参列していた軍人達が眉をひそめ、そのパートナーたる淑女達が「まぁはしたない」と扇で顔を隠し、警備にあたっている下位の士官達は困惑したように顔を見合わせている。



 この場は、これまで長い間諍いが続いていた北の島国との戦争に勝利した、その祝賀のための夜会である。

 祝辞を述べたこの国の皇帝陛下、そしてその護衛である近衛や政を取り仕切る宰相、そして軍の総統を務めるレイス・イグナートがこの戦争の後始末について話し合うべく、既に退出していたのが裏目に出た。

 まさか、この場の仕切りを任せた総統の子息が、こんな阿呆なことをやらかしているとは、誰が想像できただろうか。いや、できない。


 アメデオは優秀だった。

 総統の息子というマイナスのアドバンテージをものともせず、めきめきと実力をつけて若くして佐官の地位まで上り詰めたのだから。

 少々血気盛んな部分もあるにはあったが、考えが足りない部分はいつも誰かが的確にサポートしてくれたお陰で、これまでその地位を脅かされることもなくやってこられたのだ。


 故に彼は思い上がっていた。

 自分一人の力でここまで上り詰められた、自分は軍にはなくてはならない存在だ、こんな自分は当然敬われなければならない、と。


 故に、彼は気に入らなかった。

 父に婚約を命じられ、渋々()()()()付き合いを持っていた相手が、決して自分を敬おうとしなかったことが。

 いつも、何を言っても無表情。戯れに手を出そうとすればすかさず避けられる。

 男盛りで人気も高い、軍の内部で行われているという【抱かれたい男ランキング】でも毎度上位に入っているという自分が、たかだか下位の士官ごときにいいようにあしらわれるということが。


 だから彼は、他の女に手を出した。

 婚約者とは真逆の、肉付きも良く愛想も良い、肉感的な色気漂う美女を昼夜問わず側に侍らせ、見せつけるように愛で、愛を囁いてやっても……婚約者は表情ひとつ変えない。


 ならばもういい、もうお飾りはいらない。

 このたびの戦争に勝ったことで、父は上機嫌だ。

 功績を立てた者にはなんでも報奨をと、皇帝もそう口にしていた。

 それなら婚約破棄を申し立て、可愛い妾を妻として娶ってやろう。


 そして彼は、この場において彼を止め得る上官達が退出したのを見計らって、婚約破棄劇の幕を上げた。


「もう一度言う。カレン・ローライト、貴様との婚約はこの時をもって破棄とする。俺との婚約がなくなれば、貴様の軍内部での後ろ盾もなくなるということだな。どうせ貴様は、どこぞとも知れぬ生まれの忌み子……戦場で拾われた化物だ。どこへなりとも消え失せろ!」


 アメデオの最後通牒が、シンと静まり返った会場内に響き渡る。

 カレンと名指しされた黒髪の少女は、アメデオの嫌った無表情をとうとう変えることなく何度かその琥珀色の瞳を瞬かせ、それでも目の前の男が引かぬとわかったのか、カツンと踵を鳴らして上官への敬礼の姿勢をとった。


「Yes,Sir. カレン・ローライト、確かに婚約破棄を承りました」




 ふわりと、やや大きめの軍服の裾を翻しながら、華奢な少女は外に続く長い廊下を足早に歩いていく。

 その後に慌てたように続くのは、がっちりとした体格ながら少々気の弱そうな顔つきの少年と、それと似通った顔立ちながらこちらは意志の強そうな顔つきの少年。

 二人は、少女につけられた部下……という名の、幼馴染である。


「ね、ねぇカレン!ちょっと、勝手に帰っちゃうのはまずいんじゃない?だってカレンは祝勝会の」

「上官であるあの方が出て行けと仰ったんですよ、テオ」

「そりゃそうだけど……でも」

「いいじゃん、オレは賛成だぜ?やっとあの色ボケやろーから開放されんだろ、いいことじゃねーか。あいつ、カレンがいる前であんなことやこんなこと……っ。オレが何度殺してやろうと思ったことか!」


 アメデオが執務室に女を連れ込むのは、ほぼ日常茶飯事だった。

 彼の部下として傍に控えていたカレンに聞こえるような声で、時にはその目の前で繰り広げられた痴態に、カレンよりもその幼馴染である彼らが憤った。

 心優しいテオバルトはカレンが可哀想だと嘆き、正義感の強いユーリウスは拳を握りしめて怒りをやり過ごす日々。

 それもこれも、彼らの大事な少女が『何も感じません』と無関心を貫いてくれていたからだ。


 婚約など、させたくはなかった。

 だけど、戦場で拾われた少女を誰かに利用されないためには、この国のお偉方の庇護を受けるしかできなかったから。

 アメデオが当初の評判通りの有能な男なら、腹は立つがカレンを任せてもいいかなと思っていたのに。

 なのに、彼は裏切った。

 何度も何度も、侮辱した。

 許さない、許せるものか、殺してやる ──── !!


 いつの間にか廊下は途切れ、外へ続く重厚な扉は開け放たれている。

 カレンは外へ一歩踏み出し、そしてようやく幼馴染二人を振り返った。


 闇の中で、琥珀色の瞳だけがまるで自ら光を放っているかのように輝いて見える。


「行きましょう、テオ、ユーリ。此処から先は…………自由です」

「うん!ユーリも、行こう!」

「ああ、勿論だテオ。こんな腐った国、こちらから捨ててやる!」


 軍服のまま会場から駆け出した三人は、軍の施設に戻って軽く荷物を纏めるとそのまま関所へと向かい、そして ───── いずこかへ去って行った。




 今から5年前、アルファード帝国は戦争の真っ只中にいた。

 その頃まだ小国の集まりに過ぎなかった帝国内は分裂の危機に瀕し、その隙を他国につかれて攻め込まれてしまったのだ。

 立ち上げて間もない国軍の兵士達は連日連夜の戦いに疲れ果て、国民達は攻め込む異国の兵士から逃げ惑い、略奪され、陵辱され、搾取され、国全体が病んでいった。


 その頃、軍内部において少佐の役職を得たばかりの男は、ある日信じられない噂を耳にした。


「戦場に子供がいた?……そんなのこのご時世だ、ありえない話じゃないだろう」


 兵達は疲弊し、戦線離脱する者も増えているという。

 そんな中戦う術を持たない子供でさえも戦場に駆り出される、という話はさほど珍しいわけではないのだと、男はそう切って捨てようとしたのだが。


「いいえ、いいえ少佐殿!その子供は我が軍の制服を着て、自ら敵を殺して回っているようなのです!」

「…………報告に来た者は、精神を病んでしまったのだな」

「小官もそう思いました。ですが、生き残った一般人の目撃証言もあるのです」

「まさか。ありえない」


 国軍に子供はいない、いるとすれば訓練兵だが彼らとて『子供』と呼ばれる年齢はギリギリ過ぎている。

 遠目にもおかしいとわかるほどに小さな子供が、自ら敵を殺して回っている……そんなクレイジーな噂が真実であるわけがない。あってはいけない。


 わかったと彼は部下を宥め、その噂を確かめるべく目撃情報の多かった廃村に向かった。

 そこはとうの昔に放棄された場所であり、村人は全て敵兵によって惨殺され尽くしている。

 誰もいない、いたとしても敵兵であろうその場に、小さな影があった。


 体格からして10歳……否、それよりもっと幼いだろう子供が、身の丈以上ある大鎌をまるでバットを振るかのように軽々とフルスイングし、目の前で怯えている敵国の軍服を来た男の上に振り下ろす。

 飛び散る膨大な血液と、あらぬ方向へ飛んでいく生首。

 膝立ちの姿勢のまま動かない首を失った体には見向きもせず、ずるりと長い裾を引きずって子供が彼に視線を向けた。


 琥珀色の大きな瞳が、無感情に男を映す。

 数多の血に塗れたのだろう、本来薄い青であるはずの軍服がどす黒く染まっていて……その肩に担いだ大鎌と相まって、まるで【死神】のようだと男はぼんやりとそう思った。


 バクバクと早鐘を打つ鼓動を感じながら、彼は跪く。

 斬られるかもしれない、殺されるかもしれない、逃げろと本能はそう叫ぶのに、何故だか彼は微笑みを浮かべて手を差し伸べていた。


「やあ、はじめまして。小さな【死神】さん。私と一緒に来る気はないかな?」



 名も知らない……少女自身覚えていないと告げたことで、暫定的に『カレン』と名付けられた彼女を、男は引き取った。

 どこの誰だかわからない、どうしてあの戦場にいたのか、あの大鎌はどこで手に入れたのか、それすらわからない、ただ襲ってくる者を生存本能に任せて殺し続けたという恐ろしい子供。

 処分してしまえとの声が多かった中で、男だけは彼女を見捨てなかった。

 推定10歳という年齢の少女を当初彼は養女に迎えようとしたのだが、男がまだ独身であること、何より少女自身がそれを望まなかったことで、結局は保護者として後見するだけにとどまった。


『私はね、カレン。あの凄惨な戦争の中で出会った君を、奇跡だと思ったんだ。何人もの兵士が心を病んでいった、使い潰されていった、そんな中で生きようと必死だった君はまさに私の希望だったんだよ』


 ノエル・マセラティと名乗った男は、そう言って少女を優しく抱きしめた。



 ノエルとの暮らしは、少女にとって驚きと戸惑いの連続だった。

 家事は全てノエルがやってくれる、少女が出来るのは少々朝寝坊なノエルを起こすことと、留守の間に部屋を掃除することくらい。

 戦争がきっかけで昇進した彼はその頃既に中佐の地位にあり、毎日忙しく働いているというのに必ず定時には家に帰ってくる。

 用事がある時はその後で出かけるのだが……彼女は幼いながらも知っていた、ノエルが複数の女性とお付き合いをしているのだということを。

 そういう男性のことを『女たらし』と呼ぶのだということを。


 それでも構わなかった。カレンが唯一だと、彼はそう本気で言ってくれるから。

 家族の枠であるのだとしても、誰かに唯一だと言ってもらえるのは初めてのことで、それがすごく嬉しかったから。


 カレンは夜に時々うなされる。

 あの戦争の時に体験したことが夢となり、彼女を苦しめ続けている。

 そんな夜は、どうして気づいたのか必ずノエルが側にいてくれて、自責の念で自分自身を引っ掻こうとする彼女の腕を、そっと自分に回させて受け止めてくれていた。

 眠るまでの間、抱きしめ続けてくれていた。

 時折額やつむじにキスを落とされながら抱きしめられて、ようやく落ち着いた彼女が眠りにつくのが、明け方だったということすらある。


 仕事に差し支えるからそばに居てくれなくていい、そう遠慮がちに告げた彼女に、ノエルは笑顔で首を横に振った。


『私にとって、カレン以上に大切なものなどないんだよ』





「ノエル…………どうして、ここに」

「バカだなぁ、カレンは。関所の兵士が連絡をくれたよ、君達が帝都を出ていったのだと。国を出るつもりらしいから、急いでください、とね」


 ちゅ、と濡れた目元に触れる程度のキスが落ちる。

 ノエルは15歳になったというのに相変わらず華奢で軽いカレンを膝に乗せ、背後からぎゅっと抱きしめて離さない。


「関所の兵士だけじゃない。あの時会場内にいた兵士数人からも、同様の連絡が入っているよ。全く、相変わらず君は…………無自覚に愛されて。困った子だ」

「ノエ、んっ……なんのことだか、わからな、っ」

「いいのだよ、わからなくて。だって、君の唯一は私……なのだからね?」


 今度は両頬に。

 食むようなねっとりとしたキスが落ちてきて、カレンは羞恥と快感に目を潤ませる。


 熱のこもった琥珀の瞳は、まるでとろりと甘い蜂蜜のような色へと。

 そういえば、琥珀から蜂蜜へと色を変える瞳は西国の王族に見られる特徴だったか、と喉の奥で笑いながらノエルは少女を抱く手に力を込める。


 少女が、例え西国の王族でも。決して手放しはしない、手放せるわけがないのだ。


(バカだバカだと思っていたが、予想以上のバカで嬉しい限りだな)


 大事なカレンを、ただ黙って婚約させる気など彼にはなかった。

 カレンを処分しない代わりに、軍に所属させて働かせる……他の兵士達に手出しをさせないよう、後ろ盾としての婚約を結ばせるのであって、いずれ時期が来れば解消させよう。

 その約束があったからこそ、彼はカレンを手放したのだ。


 なのにあのバカ息子は、どういう背景がある婚約なのか全く理解しようとせずに、あろうことか純粋なカレンの目の前で穢らわしい行為を見せつけ続けたという。

 挙句、その女が孕んだのをきっかけに大勢の前で婚約破棄を宣言してみせたというのだから、もう笑うしかない。

 これではもう、どう言い繕っても……例え総統であってもこの婚約破棄をひっくり返すことなどできはしない。


 結婚前に異性と肉体関係を結ぶのは黙認されているが、子供ができたとなればその相手との婚姻が前提となり、もしどちらかに決まった相手がいた場合は最悪泥沼の展開になりかねないのだ。

 もしどうしてもひっくり返すつもりなら、孕んだ相手を抹殺する方法しかないだろう。

 ……そして、ノエルのよく知る総統ならばそのくらいやりかねない……否、既に処分済みかもしれないが。


 それだけ、軍にとってカレンは手放し難い逸材だということだ。



「ノ、ノエル?一体、なにして」

「カレン、怪我はないかい?あの島国に出向いて、最前線で戦ったのだろう?さあ、私に見せてくれ」


 言うが早いか彼女を抱きしめていたその手が、軍服のボタンを外しはじめ、太ももをさわさわと撫で、ベルトのバックルにかかる。


「ない!怪我なんて、してないから。テオとユーリも一緒だったし、んぅっ、だか、だから、なにも、っ」

「妬けるな……いくら幼馴染だと言っても、彼らも男なのだから。まさか同じテントで寝泊まりしたなんてことは」

「それもないから!ちゃんと、女性兵士のテントで寝たから!」


 だからこんなところでやめて、と言う彼女は既に首まで真っ赤だ。


 ここは、西国との国境に近い辺境にある軍の支部。

 その執務室に有無を言わさず連れ込まれ、幼馴染達は軽いお説教の後に簡易宿泊所へと送り出されたというのに、彼女はその後ずっとこうして司令官である彼の膝の上。

 幸い人払いがされているため彼の部下はいないが、それでも日頃仕事しているはずの場所で服を脱がされかかっている、という事実は彼女の羞恥心を煽る。


 散々無表情だ、気味が悪いと称された彼女が、今は真っ赤になってこの親くらい年の離れた男にただただ翻弄され続けている。

 彼女が感情を出すのは、彼と幼馴染の前でだけ。

 あと一人特別仲のいい上官がいるが、は女性であるため嫉妬の対象外であるらしい。


「こんなところで、ねぇ…………」


 わかったよ、と彼にしては珍しく素直に手を緩めてくれる。

 慌てて服を着直す華奢な少女の慌てぶりをひとしきり楽しむと、彼は立ち上がった。

 え、と振り向いた少女が彼の意図に気づいたがもう遅い。


「こんなところでなければ構わない、ということだな。それじゃ、我が家に帰ろうか」

「え、え?だってお仕事は?」

「そんなもの ────── 私にとってカレン以上に大事なものなどないのだよ」


 微笑んだ彼は、軍の【抱かれたい男ランキング】で連続一位に輝いた挙句殿堂入りしたという、その色気たっぷりな魅惑の声でそう囁いた。




(バカだな、本当に。カレンがいなければ、戦争に勝つことすらできなかったというのに)


 カレンはまさに、救国の英雄。

 そんな彼女を不気味がる者もいるが、下位の者であればあるほど彼女の信奉者は多い。

 共に戦場に立てば、彼女がいかにして英雄と呼ばれるようになったのか、その実力差を見せつけられるからだ。

 だから彼らは、そんな彼女を引き止めて欲しいとノエルに縋った。

 彼女をあの栄えある場……よりにもよって彼女が最も戦功を立てたあの戦争の祝賀パーティの場で辱めた、アメデオ・イグナートを彼らは決して許しはしないだろう。

 一人ひとりは小さな力でも、集まればそれは数の暴力となる。


 近い将来、アメデオは軍内部で殺されるだろう。

 訓練と称して嬲られるか、何かの罪を押し付けられ裁かれるか、小競り合いの場に駆り出されて孤立させられるか。

 いずれにしても、これまでカレンという婚約者の存在によって守られてきた彼が、もう守られることはない。

 父親は既に見放している、こうなった彼を後見する者などいないに違いない。


 この婚約で後ろ盾を得ていたのはカレンではない、アメデオだったのだから。



 眠る少女の裸の肩に恭しく口付けて、彼は暗い笑みを浮かべる。

 彼女を手放す気など、毛頭ない。だからといって、軍内部でせっかく将官までのし上がった地位を捨てるつもりもない。

 囲ってしまおうか?いっそのこと孕ませてしまおうか?


「ああ、そうそう……()()()()、孕ませる前に婚姻……だったか」


 面倒だな、と艶のある黒髪をゆるりとかき上げ、彼はその鳶色の……今は燻る熱情故に()にとろける双眸を細めて愛しい唯一を見下ろし、


 難しいことは後でいいか、とその隣にごろりと横になって目を閉じた。




籠の鳥は、籠から飛び出したつもりで実はもっと大きな籠に囚われただけだった。

自由なんて、きっとない。



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