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ストレイ・キトゥンズ  作者: 機乃 遙
第六章 ”ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート”
58/61

 合唱部がドイツ語だとかいう何言ってるかわかんない曲を歌ってから、吹奏楽部が甲子園で聞いたことある曲を演奏して、それからダンス部がマイケル・ジャクソンを踊った。どれもこれも、アタシにとっては何も無いも同然の発表だった。アタシたちは、彼らの努力を知らないから、見ても何も思えない。部活の後輩とか顧問の先生とか、見に来てた親とかはすごい拍手してたけどね。

 それから第一軽音部アイツらの出番になって、アタシたちは舞台袖で待機した。

 アイツらは、いつもの調子だった。きれいに詰め襟を着て、めいっぱい練習したであろうビートルズの「ハロー・グッドバイ」を演奏する。それから「抱きしめたい」をやって、最後に「ヘイ・ジュード」。去年とほとんど一緒だったから、アタシは驚いた。どうやら馬場先生がいなくならないと、ここの軽音部はいつまでもこのままかも。

 そしてアイツらが舞台の左袖へはけていったとき、アタシたちに呼び声がかかった。

「現代大衆音楽研究部のみなさん、お願いします」

 って、文化祭実行委員が呼んだ。アタシたちはその声を聞いて、ステージに飛び出した。


 ステージって、もっときらめいているものだと思ってた。スポットライトが差し込んで、たくさんの観客がアタシたちを見つめて。そこに立った瞬間、アタシはようやく、本当の本当にCDの向こう側にいるロックスターたちと一緒になれると思ってた。

 でも、ちょっと違った。

 アンプとギターをつなげ、音を調整した時、アタシは失望していた。降り注ぐライトは、いつも校長のハゲ頭を輝かせているアレだし。客席はブルーシートの上にパイプ椅子。化粧した母親たちがまばらに座って、その奥では小学生たちがあぐらをかいて、アイスをチューチュー吸っている。さらに奥では同級生たちが追いかけっこをしていた。

 ――これがアタシの求めていたステージ?

 ――CDの向こう側?

 違うよね。

 でも、アタシにとっての最後のステージはここなんだ。ここしか、あり得ないんだ。

 アタシは泣きそうになった。でも必死に涙をこらえた。

 エレンがアタシにマイクを渡す。アタシは受け取らず、エレンに言った。

「やろう、いますぐ」

「……いいのですか?」

「うん、やろう。いいよね?」

 振り返ると、クリスがうなずいていた。そして真哉がドラムスティックを叩き合わせている。もうみんな腹は決まっていた。

 やることは一つ。去年のゲリラライブと変わらない。観客がいなかろうが、見てなかろうが関係ない。アタシたちは、アタシたちの好きなことがやりたいだけだ。

 ピックをおろす。

 弾きはじめたのは、もちろん「ヘルター・スケルター」じゃない。「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」だ。


 アタシがスメルズを弾き始めたとき、体育館のすみにいた馬場先生が驚いて、壇上に上がろうとした。でも、もう始まってしまったものを止められるはずがない。先生もその場で地団駄を踏むきり。アタシは、強引にスメルズを弾ききった。

 あの特徴的なリフが鳴り響いたとき、そっぽを向いていた生徒たちが一斉にこっちを振り向いたのをアタシは見逃さなかった。

 それからニューオーダーの「セレモニー」へ。もうアタシたちは止まれない。曲はクリスのベースから始まり、アタシのギターへ。エレンが歌い出し、徐々に観客はこちらを振り向いてきた。いけるって、アタシは思った。アタシたちのやりたかったことが、みんなを振り向かせている。それがうれしかった。

 もう止まれないし、誰にも止められるつもりはない。

 アタシたちは無愛想にもメンバーの紹介もバンド名すらも名乗らず、ただひたすら演奏を続けた。

 最後にジョイ・ディヴィジョンの「ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート」。エレンが練習したシンセサイザーを弾きながら歌った。エレン、初めは楽器も何も弾けなかったのに、いまではすっかりフロントマンになってる。アタシたちの前に出て、みんなを熱狂させてる。誰かと同じ存在になろうとしてた、あの彼女が。

 楽しかった。ただ自分のしたいことをやってるって、そのことが。


 三曲すべて弾き終えたとき、体育館は妙な静寂に包まれた。まるで卒業式のときみたいな、そんな雰囲気に。

 それはアタシにとって好都合だった。アタシは、このライブを最後にバンドと決別するつもりだったから。まさに卒業式なわけ。

 ストレイ・キトゥンズは、アタシにとって音楽と出会った象徴で、これ以上最高の仲間はもう現れないと思う。だから、アタシはこれで最後にしたい。だから、アタシは――

 ストラップを肩からはずし、アタシはレスポールのネックをつかんだ。そして、ステージの板張りの床に目線を落とした。

 やることは決まってた。

 ギターをぶっ壊す。

 もうこれ以上、アタシはギターを弾かないと思う。バンドをしようなんて、転校したら思いつかないと思う。だって、これ以上の仲間とは出会えないから。ぜったいどこかで心残りができるはずだから。

 だけどアタシの手は震えていた。震えて、レスポールを持ち上げることすらできなかった。床にめがけて叩きつけたかったのに、ふりかぶることすらできなかった。

 そのうち、異変に気づいた実行員がアナウンスした。

「あ、ありがとうございました! 現代大衆音楽研究部のみなさんでした!」

 次の盆踊りのボランティアがやってくる。実行委員が早く降りろと言ってきた。

 結局、アタシのギター折れなかった。

 アタシの幕引きは、そんな感じで中途半端に終わらされたのだ。


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