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ストレイ・キトゥンズ  作者: 機乃 遙
第五章 ”ビザール・ラヴ・トライアングル”
48/61

 劇場を出たころには、もうおなかペコペコ。それもそのはず。だってもう二時過ぎだったんだから。

「どっかで飯食ってこうぜ」

 そう言ったのはもちろん真哉。だって、アタシとコイツしかいないわけだし。まあ、アタシもおなか減ってたし、賛成したんだけど。でもなんかますますデートみたいになってきた。

 中学生のおこづかいで食べられるとこっていったら、そうそうないわけで。結局二人でファミレスに入った。店内はランチタイムを過ぎたからか、妙に静かだった。店内BGMのクラシックがうるさいぐらい。

 アタシたちは四人掛けの席に通されて、お互い面と向かって座った。

「なんにするよ」

 って、ミリタリージャケットを脱ぎながら真哉が言った。

「一番安いヤツ」

「じゃあこのドリアかな。……んだよ、おまえ節約してんのか?」

「今度、お小遣いでカポタスト買おうと思って」

「なんじゃそりゃ?」

「ギターの音を調整する、でっかい洗濯バサミみたいなやつ。買ったら見せるよ。で、アンタはなんにすんの?」

「オレは腹減ってるから、このハンバーグにするぜ」

「金持ちね」

「食えるときに食っおかねえと、あとあとで後悔するんだよ」

 ファミレスのハンバーグごときでどう後悔するってのよ。

 アタシはそう思ったけど、あながちコイツの言うことも間違って無かった。アタシのドリアは、なんか底の浅い皿に盛られた、ほんとおやつみたいなものだったからだ。一方で、真哉のハンバーグときたら、ジュージュー音はするし、肉汁が垂れてきてる。アタシはドリンクバーでやり過ごそうとしたけど、でも、カラダは正直。おなかがグゥって鳴った。

「だから後悔するって言っただろ」

「うっさい。ギターのためなら、アタシは我慢できるの」

 そう言って、アタシはコーラを一気に飲み干した。

「ったく、おまえはこういうとこはストイックだよな。第二軽音部の件といい、ゲリラライブの件といい。やるっつったら曲げねえっていうかさ。まあ、オレはおまえのそういうとこ好きだけどさ」

 ――ちょっと待て、アンタいまアタシのこと好きって言った?

 って、何を考えてんの。自意識過剰だって。アイツは、アタシのことをギタリスト、バンドマンとして好きだって言ってんでしょうが。

「そんな腹減ってんなら、オレのちょっと分けてやるよ。ほら、一切れ」

「いいって! いらない!」

「んだよ、せっかく人の善意を」

「うっさい。自分のは、自分でちゃんと食べなさいよ」

「あっそ」

 パクリ。

 真哉はこれ見よがしに最後の一切れをほおばった。

 アタシは顔を伏せながら、グラス片手に席を立った。建前は、コーラのおかわり。実際のとこは、顔が赤くなってるのを隠すため。だって……あれ食べたら、アイツと間接キスになっちゃうじゃん……。


 腹ごしらえをしたら、また商店街を通って駅に向かった。

 商店街っていっても、たいしたもんじゃない。もう完全にシャッター街だ。開いてるのは、さっき行ったファミレスと、レコード屋(でもここ、歌謡曲しか置いてない)と、それから靴屋と金物屋。お母さんが言うには、この裏手においしいケーキ屋さんがあるらしいんだけど、いまも営業中かはわからない。たぶん閉まってると思う。

 この通りは、ほんとに寂れてる。あるいて五分くらいはかかる通りなのに。開いてる店は数えるきり。日曜だって言うのに、死んだように静かだ。映画館も、午前中と様子は変わらない。受付におばあさんが座ってて、それだけ。客は見あたらない。

「今度さ、カート・コバーンの映画もやるらしいんだよ」

 映画館の横を通り過ぎたところで、真哉が口にした。

「なにそれ?」

「だから、ドキュメンタリー映画さ。カート・コバーンの自殺についてやるんだってさ。海外じゃもう公開が決まったつってたな。日本じゃいつやるかわからんけどさ。……なあ、今度はそれを見に行こうぜ。現代大衆音楽研究部の活動としてさ」

「そうね」

 アタシは短く答えたけど、内心かなり焦ってた。

 だってそれって、次のデートのお誘いってことでしょ? ……って、違うってば! アイツも言ってたじゃん。部活の一環だって。

 ……でも、ほら。男子って、意地張って、そういう好きとか嫌いとか、口にしないじゃん。なんか、へそ曲がりっていうか。正直じゃないって言うかさ。だから、素直に好きとか、デートに誘えないとか。好きなヤツほどイジワルするとかさ……。

 ――だぁーっ! 何考えてんだアタシは!

 ぶんぶんと頭を振って、アタシは余計な考えを振り払った。真哉が心配そうに見てたけど、アタシは無視して先に進んだ。顔が赤いの、見られたくないし。


 それからまた無言の電車旅。二十分電車に揺られてから、駅前で別れた。

「じゃ」

「うん」

 それだけ。たったそれだけ言葉を交わして、アタシたちはお互いに家路についた。駅前からだと、アイツんちとアタシんちは方向違うから、完全にバラバラだった。

 今日のアタシってば、完全に空回りしてたと思う。どうしたんだろう。アタシ、何考えてんだろう。アタシが好きなのは……音楽だよね。ギターのはずだよね。アタシが恋に落ちたって思った一瞬は、初めてニルヴァーナを聴いたとき。初めてギターを手にしたとき。初めてバンドで合わせたとき……あの瞬間のはず。

 アイツになんて、心がときめくはずないんだから。そりゃ、アイツのドラムは好きだし。アタシたちには欠かせない存在だけど。でもそれって……なんだろう。言葉にできないな。


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